TRAVEL あの町で。
手仕事を辿る旅。鳥取・鳥取〜倉吉。前編June 30, 2026
暮らしの延長にある文化として、「民藝」が自然に息づく鳥取。かつてこの地で鳥取民藝の礎を築いた吉田璋也の本を旅の入り口に、修復専門家・河井菜摘さんの案内で鳥取市から岩美、倉吉へ。ゆったりと流れる時間に身を委ねながら、手仕事を辿る旅に出かけた。

暮らしに溶け込む手仕事と、小さな文化の循環。
鳥取における民藝は、観光のために後から「つくられた」ものではない。この土地で長く手仕事が続けられてきた歴史の延長にあり、日々の暮らしの「当たり前」として根づいている。そんな鳥取民藝の背景を知るきっかけになった一冊が、『吉田璋也と鳥取県の手仕事』(牧野出版)だったと話すのは、漆を使った修復を専門とする河井菜摘さん。今では絶版となった書籍だが、地域の暮らしのなかで自然に育まれてきた文化の息吹を感じられるという。吉田璋也(1898〜1972年)は鳥取県出身の医師であり、柳宗悦が提唱した民藝思想に共鳴し、鳥取の民藝運動の中心を担った人物。自身を「民藝のプロデューサー」と称し、多岐にわたる分野で地域の職人と向き合いながら、現代の暮らしに沿う日用品を指導、デザインした。日本で初めての民藝品専門店『鳥取たくみ工芸店』をはじめ、『鳥取民藝美術館』、『たくみ割烹店』をそれぞれ作った。3軒は隣接しており、いまも同じ場所で、その思想が受け継がれている。
「鳥取の手仕事の背景を知るには、やはり外せないスポット。〝用いるために造られた実用品の中にこそ真の美しさが表現される〞と語った吉田璋也の思想や、民藝とはどういうものか、より深く知ることができます」
現在、鳥取・京都・東京の三拠点で暮らす河井さん。各地を行き来するなかで鳥取では民藝がごく自然に暮らしのなかへ溶け込んでいることを実感する場面が多いという。
「修復の依頼では、祖父母が大切にしていた重箱や器、蔵に眠っていたご先祖さまの品など昔から家にあるものが多く、受け継がれてきたことがわかります。話していると、吉田璋也や河井寛次郎の名前が自然と出てくることも。『吉田先生に会ったよ』『近くで河井寛次郎が展覧会をしてて、そのときに買った器がまだ家にあるよ』と教えてくれる方もいます。民藝の巨匠がこの土地ではどこか身近な存在として語られるのも面白いんですよね」

47都道府県で最も人口が少ない鳥取県。人の少なさと街のコンパクトさは、人と人との距離を近づけ、暮らしと仕事の関係もゆるやかに重なる。店主同士が同級生だったり、名前を出せば誰かにつながったり。近しい関係性が、地域活動や店の営みを支える土壌にもなっている。そんな土地で、10年ほど前から少し新しい動きも生まれてきた。
「県中部の松崎というエリアに、ある日『たみ』というゲストハウスができたんです。最初は〝なぜこんな場所に〞と周囲も半信半疑だったのですが、県外から人が訪れるようになって周辺にカフェや書店もできた。もともと観光地ではなかったからこそ『そこに何かがあるらしい』という空気が鳥取に人を引き寄せたのかもしれません。その2号店が、鳥取市内の『ワイパブ&ホステル鳥取』です」
また、河井さんが『吉田璋也と鳥取県の手仕事』を見つけたのは、同じく市内の独立系書店『SHEEPSHEEPBOOKS』だった。
「新刊と古書が自然に交ざっていて、店主の髙木善祥さんが読んだ本には、気になるページに付箋が貼られていることも。鳥取の手仕事や写真集、山陰関連の本も充実しているので、まずはここで本を手に取ってから旅するのもいいかもしれません。気になる本があれば、髙木さんが解説してくれます」
鳥取市には、旧来の街並みのなかに、新しい場所が少しずつ増えている。店主と客の関係もフラットで、距離が近い。コンパクトな街だからこそ生まれる人とのつながりと、小さな文化の循環。その穏やかな連なりのなかに、この土地らしい豊かさが感じられる。

羽田空港から鳥取砂丘コナン空港まで約1時間15分。鳥取駅までレンタカーもしくはバスで約20分。鉄道の場合、東京駅から鳥取駅まで、東海道新幹線のぞみで約3時間、姫路駅で乗り換え特急スーパーはくとで約1時間30分。大阪駅から鳥取駅までは特急スーパーはくとで約2時間30分。鳥取駅から岩美駅まではJR山陰本線で約20分、倉吉駅までは特急で約30分、各駅停車で約1時間。市内から足を延ばすにはレンタカーがあると便利。

河井菜摘修復専門家
1984年、大阪生まれ。京都市立芸術大学、大学院にて漆工を学ぶ。2015年に独立し漆と金継ぎがメインの修復家に。陶磁器、漆器、竹製品、木製品など日常使いのうつわから古美術品まで修復を行う。現在、鳥取・京都・東京の三拠点生活を送る。
photo : Tetsuya Ito illustration : naohiga edit & text : Chizuru Atsuta







































