TRAVEL あの町で。
手仕事を辿る旅。鳥取・鳥取〜倉吉で出合った17のスポット。中編June 30, 2026
暮らしの延長にある文化として、「民藝」が自然に息づく鳥取。かつてこの地で鳥取民藝の礎を築いた吉田璋也の本を旅の入り口に、修復専門家・河井菜摘さんの案内で鳥取市から岩美、倉吉へ。ゆったりと流れる時間に身を委ねながら、手仕事を辿る旅に出かけた。旅の途中で出合った17のスポットを写真とともに紹介。
土地の時間に身を委ね、あたたかな会話を楽しむ。
手仕事を巡る旅は、街だけでは終わらない。海へ、山へ、そして古い街並みへ。実際に歩いてみれば、土地の風景そのものが、ものづくりの背景として立ち上がってくる。鳥取といえば、まず思い浮かぶのは鳥取砂丘だろう。日本最大級の起伏を持つ広大な砂の風景。吉田璋也は暮らしのなかの美だけにとどまらず、社会デザインの一環として鳥取砂丘の景観保護にも力を注いでいたという。
「何度行っても素晴らしい場所。距離感がわからなくなるほど広くて、晴れの日も曇りの日も、雪の日も、風の強い日も、その時々で表情が違う。定番ではありますが、ほかでは体感できない景色です」
時間が許せば窯元にも足を運びたい。河井さんのおすすめは岩美町にある『クラフト館岩井窯』だ。鳥取県は大きく東部・中部・西部の3エリアに分けられるが、岩井窯があるのは鳥取市と同じ東部。山あいへ向かう道を走るうち景色は少しずつ静けさを増していく。
「陶芸家の山本教行さんは16歳で吉田璋也と出会い、その薫陶を受けた方。作品の魅力はもちろんですが、ここは単なる工房ではなく、美術館のような特別な空間なんです」
敷地内には山本さんが蒐集した5000点を超える工芸資料を、企画ごとに展示する「参考館」があり、喫茶室も併設されている。
「〝実際に器を使ってほしい〞という思いが込められていて、珈琲を飲みながら体感できます。ものを選ぶ目、そのセンスにも圧倒されますし、山に囲まれた場所にふいに窯場が現れるような佇まいもいい。向かう道中も、日本の原風景のようで、旅情があります」

岩美町から鳥取市へ戻り、電車で1時間ほど西に走ると、県中央部にある倉吉市に着く。室町時代に築かれた打吹(うつぶき)城を起源とし、江戸期には陣屋町として栄えた倉吉。赤瓦と白壁土蔵群が残る街は、いまもどこか時間の流れがゆるやかだ。重要伝統的建造物群保存地区に指定されたエリアでは、商家や蔵を改装した店が点在し、歩くだけでも楽しい。
「その中のひとつ、『COCOROSTORE』は、丁寧にセレクトされた山陰の手仕事がたくさん並ぶお店。近くにある『saon』は、ガラスを中心としたギャラリーのようなセレクトショップ。どちらも古い家屋を生かしていて、街並みに自然と馴染んでいます」
そして、河井さんが「倉吉に来たらぜひ」と教えてくれたのが『岩間眼鏡店』だ。
「人生が変わったと言ってもいいくらいの眼鏡を作ってもらいました。1時間ほどかけて独自の測定方法で目が緊張しない眼鏡を作ってくれるんです。本も読みやすくなります」
街を歩き、人と触れ合うなかで、河井さんが実感していることがある。それは鳥取の人の静かなあたたかさだ。どこか控えめで自分たちの土地の魅力を大きな声で語らない。けれど帰ってくるたび、その穏やかな時間の流れとともに「ほっとする」という河井さん。
「〝何もない〞ってよく言われるけれど、それがいいんです。ゆっくり人と話せる時間があるし、健やかなものづくりがずっと続いている。だからもし、気になる器や場所があれば、地元の方に尋ねてみることをおすすめします。ひと声かけるだけで、親切にいろいろ教えてくれる方が多いんです」
急がなくてもいい時間が流れているからこそ生まれる、会話の余白。使うほどに美しさが深まる民藝のように、鳥取の旅もまた、時間をかけるほどじんわりと輪郭を帯びてくる。本を片手に、人と話し、器に触れ、土地の時間に身を委ねる。そんな〝話しかける旅〞が、この土地にはよく似合う。

羽田空港から鳥取砂丘コナン空港まで約1時間15分。鳥取駅までレンタカーもしくはバスで約20分。鉄道の場合、東京駅から鳥取駅まで、東海道新幹線のぞみで約3時間、姫路駅で乗り換え特急スーパーはくとで約1時間30分。大阪駅から鳥取駅までは特急スーパーはくとで約2時間30分。鳥取駅から岩美駅まではJR山陰本線で約20分、倉吉駅までは特急で約30分、各駅停車で約1時間。市内から足を延ばすにはレンタカーがあると便利。

河井菜摘修復専門家
1984年、大阪生まれ。京都市立芸術大学、大学院にて漆工を学ぶ。2015年に独立し漆と金継ぎがメインの修復家に。陶磁器、漆器、竹製品、木製品など日常使いのうつわから古美術品まで修復を行う。現在、鳥取・京都・東京の三拠点生活を送る。
photo : Tetsuya Ito illustration : naohiga edit & text : Chizuru Atsuta










































































