真似をしたくなる、サンドイッチ
ハーブたっぷり、ミントが香る! ファラフェルが絶品な、パリのロールサンド。August 14, 2026
サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No66となる今回は、本誌No153に登場した『シューイ』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

あぁーーー。写真を見返しただけでよだれが出てきた。
あの表面がぺたぺたとした生地と、甘酸っぱさを思い出して。
初めて訪れたのは土曜日だった。着いた時点ですごい行列で、隣のブーランジュリーの間口分だけ列を途切れさせ、その隣の店の前からまた列の続きがあった。私が並んで少ししてから店の人が来て、私の2組後ろに立ち「ここまでで終わり。この後ろの人たち、申し訳ない。ここまでは絶対にサンドイッチがあるけれど、その先は確かじゃないので、お昼はここまで。また別の日に来てください」と断っていた。結局並び始めてから40分たって注文。そこからさらに10分くらい待って受け取った。すごい人気だ。

家に着くや早速ロール状のサンドイッチの包みを開いた。まずは写真を撮ろうと、向きを整えるために生地を触ったら、ペタペタする。あれ?このペタペタの感じ、知ってる。一瞬考え、ピンときた。これは、「蒲焼さん太郎」だ。駄菓子の。あのぺたっとした感じにそっくりだ。
ますます、どんな味なのか興味が高まり、半分に切って、切り口の写真を撮ると、すぐにかじりついた。が、半分ほどを噛み潰したところで一瞬止まった。 酸っぱくて甘くて辛い。甘酸っぱさからすごく異国の匂いがして、なにこの味?とハテナが広がった。
さらに噛むと、それまでしなかった香りが飛び出してきて。
舌には触れずに直接鼻へ抜けた。シナモンか。シナモンな気がする!と一旦結論づけたもののどうも違う。でもこれ知っている。バラ?これ、ローズウォーターじゃない?いや、オレンジフラワーウォーター?
ひと口ひと口探ったが最後まで確信を持てなかった。ソースはパプリカが入っているのか、少しスモーキーでやんわりとした苦味があった。辛味は、そう、スパイシーチキンサンドを頼んでいたからだったのだ。しっかり辛かった。これは、是非とも取材したい。そして今度はスパイシーじゃないやつを食べたい。
今度はチキンサンドをオーダーした。

前回もオーダーを担っていたスタッフが、こちらのタイプがレバノンで最もクラシックでポピュラーなものと教えてくれた。改めて具を見ると、チキンとピクルスしか入っていない。それでも、1本を食べ切るまで、飽きを感じることはない。
営業時間中、店内の厨房で目にする鶏肉はすでに焼かれ、具として巻き込みやすいようにほぐされたものだ。下準備は前日から始まる。丸鶏を半分に切り、まずはひと晩、塩、レモン、生姜などでマリネする。続いて翌日、今度は、オールスパイスやシナモン、白胡椒、コリアンダーなど数種のスパイスで最低3時間マリネ。そうして、下味の染み込んだ鶏肉を営業前に店内のロースターで盛大に焼く。夜のサービスが始まる1時間前にお邪魔したら、焼きの真っ只中で、火が消えたのは17時20分だった(18時に開店)。その焼き立て熱々を一気に手でほぐし、ここで3ステップ目のマリネをする。使うのはレモン汁とスマック(酸味のある中東のスパイス。赤紫蘇のような味がする)だそう。
味付けの仕上げは注文が入ってからだ。パリ在住のレバノンの職人に特注している薄いガレット状のパンで具材を包んだら、グリルする。一気に異国へ旅立たせた匂いはこの段階に控えていた。焼いているロールサンドに刷毛でザクロの糖蜜を塗るのだ。焼き鳥にタレを塗るかの如く、サンドイッチに刷毛で蜜を塗る。言葉にすると、グリルドチキンのロールサンド。でもそこには単調にはなり得ない味わいの構築が潜んでいた。
いかんせん、焼いている匂いが食欲をそそるものだから、注文の大半はチキンが持っていくわけだが、サンドイッチにはもう一つ、ファラフェルもある。こんなにチキンサンドがおいしいのだ。ファラフェルだって気になるではないか。

食べてみたら、チキンサンドと対照的な印象を受けた。というのも、チキンサンドは、具の構築が見た目はシンプルで、内包された味に「なんだろう?」と引き込まれた。一方でファラフェルサンドは、味の構成要素がひとつ一つ立っている。齧ったそばからミントが香り、コリッとした歯応えを伴うひよこ豆の欠片を感じながらファラフェルを味わっていると、サクサクのかぶのピクルスの酸味が顔を出し、そこにねっとりとフムスが絡む、といった具合に。
胡麻クリームにレバノン風のきゅうりのピクルスとチャイブを加えて作るタルタルソースをたっぷりかけるのに、ソースの支配感はどこにもなくて、すべての具が同一線上に立って繋がっていく感じだった。ファラフェルサンドには、アグレッシブ(な味)だなぁと食べながら思うことが私は多いのだけれど、この店では、安心感を覚えた。ファラフェルが4つも入ってボリューム満点、食べ終えたときには満腹で、でも胃もたれする感じのしないファラフェルサンドは、帰り道に、「あー元気になった気がする。ありがとう!」と言いたくなるおいしさだった。
『Shwi』

文筆家 川村 明子






















































