真似をしたくなる、サンドイッチ

ナス好きよ、集まれ!パリの『175℃』で食べたい、とろっとろのナスサンド。September 08, 2026

サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No67となる今回は、本誌No154に登場した『175℃』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

川村明子さん直筆のサンドイッチのスケッチ。今回は野菜が主役です。川村明子 サンドイッチ
川村明子さん直筆のサンドイッチのスケッチ。今回は野菜が主役です。

ナス好きのあの子を思い出した話。

高校時代の友人に「メニューにナスの文字があったらもう頼むものは決まってる。ナスがあったら頼まずにはいられない」という人がいた。イタリアンを食べに行くことが多かったから、彼女と一緒だと、細い麺でもラザニアでもグラタンでも、ナスが入っている料理をひとつは注文した。その彼女のことを思い出した。ロースト料理の専門店『175℃』で。

ローストチキンが描かれた袋がなんともロティスリー。サンドイッチは右の袋に入れてくれる。
ローストチキンが描かれた袋がなんともロティスリー。サンドイッチは右の袋に入れてくれる。

フランスには、ロティスリー(rôtisserie)と呼ばれるロースト料理に特化した惣菜店がある。

通常、看板料理はローストチキンだ。フランスを旅行した経験があれば、丸鶏が何羽も刺さった長い鉄串がゆったりと回転するロースターを見かけたことのある人も少なくないだろう。鶏のほかにも、大きな塊の豚バラ肉やスペアリブなども売られていることが多く、総じて、肉の専門店という認識が一般的だ。

『175℃』は、ロティスリーながら、そんな常識を覆すように、野菜も主役の一つとして扱っている。店頭にはローストチキンの隣に、季節の野菜のローストが3種。これらは店内奥にある、野菜専用のオーブンで焼かれる。オーナーのバティストは言う。「ローストチキンの付け合わせといえばじゃがいも、というステレオタイプから抜け出したかった」。30年精肉店を経営した両親のもとで育った彼は、自分の店を出すにあたり、どんな味付けで、何度でローストするのが適しているか、あらゆる野菜で徹底的に試したそうだ。オープンして3か月、今ではベジタリアンの人も買い物に来るようになった。「これまでロティスリーには縁がないと思っていたけれど、ここには自分の食べたいものが売っていて、初めて(ロティスリーに)入ったと言われました」。

こんなふうにお肉と並んで、野菜のローストがショーケースに並ぶ。
『175℃』では、こんなふうにお肉と並んで、野菜のローストがショーケースに並ぶ。

ローストチキンとローストポークサンドに並び、野菜のローストを具にしたサンドイッチもレギュラーで用意している。6月まではキャベツで作られていたのだけれど、このキャベツは、ローストチキンと同じ味付けで24時間マリネしてからローストし、それを手でほぐして、サンドイッチの具としていた。私はこれを初めて買ったとき、包みを開いて、鶏肉が入っているのかと錯覚した。くしゅくしゅっとした白っぽい色の身が鶏の胸肉に見えたのだ。それがキャベツだった。よく火が通った肉厚なキャベツは、芯の部分も芯と感じないくらい柔らかく、とろける食感ですごく食べやすい。いくらでも食べられそうだった。ルッコラとハラペーニョをオリーブオイルとレモン汁で繋いだペーストが飽きのこない味に仕上げ、自分でも真似て作りたい!と思った。

こちらがキャベツのサンドイッチ。パルメザンチーズがたっぷりかけられていた。
こちらがキャベツのサンドイッチ。パルメザンチーズがたっぷりかけられていた。

夏が始まるとキャベツにとってかわり、ナスが登場した。

ナスは、ローストポークと同じマリネ液を合わせ24時間寝かせてからローストしている。キャベツのマリネ液はハチミツとマスタード、エルブ・ド・プロヴァンス(ミックスハーブ)だったのに対し、ナスはコチュジャンがベースだ。蜂蜜と醤油で伸ばした甘じょっぱいタレは、ローストポークに合うのはもちろん、ナスにもピッタリで、ご飯にも合いそうな親しみを感じる味付け。サンドイッチには、冷たい惣菜として作られているナスのピュレを加える。そう、ナスづくしのサンドイッチなのだ。ピュレは、皮を剥いたナスのグリルを潰したものに、赤玉ねぎのみじん切り、コリアンダー、ミントを加えて、オリーブオイルとレモンで和えたもの。ローストのほうはとろっとろ、ピュレはペタペタッとして、あの独特の質感と舌触りがバゲットに詰まっている。ナスが好きな人にはたまらないだろうなぁと思ったところで、件の友人を思い出したわけだ。

サンドイッチ 川村明子
マリネ中の茄子。これを翌日オーブンで1時間ほど焼く。 | マリネ中。これを翌日オーブンで1時間ほど焼く。
マリネ中。これを翌日オーブンで1時間ほど焼く。
オーブンから出てきた図。これをひと口大に切る。
オーブンから出てきた図。これをひと口大に切る。
これがナスサンドに加えられる、茄子のロースト | サンドイッチに加えられるロースト。
サンドイッチに加えられるロースト。
こちらがなすのピュレ。このまま食べても舌触りが気持ちよくおいしい。 | こちらがピュレ。このまま食べても舌触りが気持ちよくおいしい。
こちらがピュレ。このまま食べても舌触りが気持ちよくおいしい。

味付けに店オリジナルのブルドッグソースをたっぷりかける。

パリで食に携わっている人たちには、"ソース・ブルドッグ"はすでに市民権を得ている印象で、好きな人もとても多い。『175℃』では、りんごのコンポートに、生姜、シードル酢、醤油、赤玉ねぎで、ブルドッグソース風のものを作っており、りんごの果実味と甘酸っぱさに生姜が効いて爽やかな風味。考えてみたら、バゲットにはバターを塗るわけでもないし、このサンドイッチはベジタリアンなのはもちろん、ヴィーガンなのだな、と気づいた。サンドイッチの場合、ベジタリアンサンドだとしても大抵何かしらのタンパク質を加えようとチーズや卵を合わせてあることが多いから、これは珍しい。そしてたしかに、ロティスリーでヴィーガンにもチョイスがあるのは、極めて異例だと思った。

本誌でご紹介したローストポークサンド。なかなか迫力のある見た目だけれど、動物性脂肪が1種類(豚肉のみ。バターやチーズがない)だからか、食べたあとに、口の中に脂っ気が残っていなかった。 川村明子
本誌でご紹介したローストポークサンド。なかなか迫力のある見た目だけれど、動物性脂肪が1種類(豚肉のみ。バターやチーズがない)だからか、食べたあとに、口の中に脂っ気が残っていなかった。

と、野菜づくしの話をここまでして、最後に、ローストポークサンドもご紹介。前述の通り、ナスと同じ合わせ液で24時間マリネして、1時間半オーブンで焼く。豚肉は1.5cm幅程度の拍子木切りにして、千切りのキャベツと青ネギをお供にバゲットに挟む。キャベツもコチュジャンにごま油と米酢(に醤油も少々)のドレッシングで和えていて、香ばしいバゲットに挟まれながらも、惣菜パンと言いたくなる味。初めて食べた気がしなかった。豚バラ肉なのに、食べたあとにまったく脂っ気が口の中に残らず、食べ心地の良さを覚えて、そうか!チャーシューを千切りキャベツと一緒に挟んでサンドイッチにしてみよう!と思いついた。

『175℃』

125 Rue de Charonne 75011 ☎️01-43-71-92-22 11:30〜14:00 17:00〜20:00 土11:00〜20:00 日10:30〜14:00 月休 
125 Rue de Charonne 75011 ☎️01-43-71-92-22 11:30〜14:00 17:00〜20:00 土11:00〜20:00 日10:30〜14:00 月休 


文筆家 川村 明子

川村明子
パリ在住。本誌にて「パリのサンドイッチ調査隊」連載中。サンドイッチ探求はもはやライフワーク。著書に『パリのパン屋さん』(新潮社)、『日曜日は、プーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)などがある。Instagramは@mlleakiko。Podcast「今日のおいしい」も随時更新。朝ごはんブログ再開しました。

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