菓子研究家 長田 佳子
August 18, 2022 食欲がないときの朝食にもいい「ボリジとプラムのデザートサラダ」 長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子 vol.29
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第29回は「ボリジとプラムのデザートサラダ」をお届けします。
This Month's Herbal Sweets
「ボリジとプラムのデザートサラダ」

プラムの優しい酸味がクセになる、軽やかなデザートサラダ。
暑い日が続くと「いま、何を食べたいか」という、心からの欲求に耳を澄ます余裕がなくなることがあるかもしれません。長時間火を使うメニューを避けるために、気がついたら同じようなメニューを作ってしまっていた、ということもありますよね。そんなときにぜひ、作ってもらいたいのが “真夏の果実”であるプラムとボリジを使ったデザートサラダです。
プラムの果肉には酸味があり、主にリンゴ酸、クエン酸など有機酸が疲労をリカバーするのにも良いと言われています。果肉をそのまま食べると、酸味が強く感じたり、味に飽きてしまったりして、食べる楽しさが半減することも。
簡単な調理を加えるだけで、新たな食感、風味に出合うことができます。
まずは、プラムの皮をむき、小鍋に並べ、バターをのせて20分を目安に火にかけるステップから。そして、灰汁を取りながらボリジを入れ、粗熱を取って冷蔵庫でしばらく冷やし、仕上げにハーブチーズ、ボリジときび砂糖をのせて。プラムの綺麗な黄色がよく映える器をイメージして盛り付けたら完成です。
バターで煮詰めてコクが出たプラム、ハーブチーズの軽やかな塩味、ボリジの花の甘さが溶け合ったふくよかな味わいは、とても上品。作り方は簡単ですが、レストランのメニューの一品をいただくような満足感があります。朝食、おやつ、そして、ワインのお供に。いろんなシーンにフィットする一皿になると思います。

地中海沿岸に自生するムラサキ科の一年草のハーブ。白や青色の星形の花が咲き、エディブルフラワーとして食べられます。主な成分は、カルシウム、カリウムなど。発汗作用と抗炎症作用に優れているので古くから熱を下げ、血液を浄化する薬草として利用されてきました。ハーブティーにして飲むと、すがすがしい香りを堪能できます。
レシピ 2〜3人分
・プラム(中)7個
・バター15g
・きび砂糖 10g
・チーズ(ハーブチーズを使用)
・ボリジの花 適量
How to cook

photo:Hiroko Matsubara edit & text:Seika Yajima
キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY 器:PETARI、田中直純ほか
July 17, 2022 暑さをクールダウンする「ステビアとスイカのソルベ」 長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子 vol.28
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第28回は「ステビアとスイカのソルベ」をお届けします。
This Month's Herbal Sweets
「ステビアとスイカのソルベ」

夏バテをサポートしてくれる、みずみずしいエナジースイーツ。
スイカの果肉のみずみずしい赤色。太陽の光をいっぱい浴びて熟した生命力に溢れた美しい色を眺めていると、メキシコの画家、フリーダ・カーロの作品が思い出されます。スイカの果肉部分に「Viva la Vida」(生命万歳)という文字を描き、人生に対する切なる想いを刻み込んだ、美しい魂のことを——。“夏を味わっている気分”になる風情溢れるスイカは、ある人にとっては、大切な記憶の中に生き続ける特別なフルーツなのかもしれません。
調理をせずそのまま食べるだけでも十分においしいですが、今年の夏は少しひねりを加えてさっぱりといただけるソルベにしてみましょう。今回、材料に使ったハーブは、甘味成分のあるステビア。カロリーがない天然の甘味料として使うことができるもので、スイカの甘さを増すことができます。ステビアが手に入らなければ、ローズマリーやバジルで代用してみるのもいいと思います。これらは、スイカそのものの味を引き立ててくれるでしょう。
作り方はとても簡単。まずはジンを火にかけてそこにステビアを入れるところから。香りと甘味成分をうつしたものをピューレにしたスイカに加えて、よく混ぜ、冷凍庫に保存を。程よく固まったら「ステビアとスイカのソルベ」の完成です。ステビアによって甘さが増したスイカにキレのあるジンの味わいが加わることで、スッキリとした飲み口を導いてくれます。
最近はクラフトジンの種類も豊富にあり、フルーツ、ハーブ、スパイス、花のアロマを使用して造られたものもあるので、自分好みのジンを探求するのも楽しい時間になるはず。
夏の暑さに疲れを感じたときにスイカのソルベでクールダウンしてみましょう。

キク科ステビア属多年草。夏から秋にかけては白い花が咲きます。甘味料として利用されているハーブで、特に葉に強い甘味があるのが特徴。この甘味成分ステビオサイドは、砂糖の200〜300倍あるといわれています。砂糖の代わりにダイエット食品、清涼飲料などに使用されることが多く見られます。生でも、ドライでも使用でき、ドライにした葉を軽く煮出すことでシロップとして使ってみても。
レシピ 1人分
・スイカ 正味 300g
・ステビアの葉 5g
・ジン 60ml
How to cook

photo:Hiroko Matsubara edit & text:Seika Yajima
キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY 器:小牧広平ほか
June 18, 2022 朝食やおやつに食べたい「セントジョーンズワートのドーナツ」 長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子 vol.27
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第27回は「セントジョーンズワートのドーナツ」をお届けします。
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「セントジョーンズワートのドーナツ」

大人も子どもも一緒に楽しめる、揚げパンのようなドーナツ。
丸くて、プクプクとした可愛いフォルム。ドーナツは、眺めているだけで心を和ませてくれる不思議な力を持っているおやつだ。大人も、子どもも一緒に食べられて、オーブンを使わないで作れるので、家庭でも作りやすい手軽さも嬉しいもの。
生地に使う材料は、牛乳、卵、中力粉、薄力粉、きび砂糖など簡単に手に入りやすいものばかり。生地作りにはちょっとしたコツが必要で、生地そのものにツヤが出るように、力を込めて捏ねることが大切。おいしいドーナツを作るために必要なステップ、と思って丁寧に仕上げましょう。
生地ができて成形できたら、鍋に油を入れて温めて。いい焼き色になるように揚げているときの香りは、気分を盛り上げてくれるものです。
ドーナツを揚げたあとは、鍋に水とセントジョーンズワートの葉を入れてフレーバーをうつして、シロップを作りましょう。粉糖と冷ましたシロップをかき混ぜて作った、セントジョーンズワートのフレーバーのグレーズをドーナツにつけたらできあがり(セントジョーンズワートが手に入らない場合は、レモンバーベナ、レモンバーム、ローズマリーなど爽やかな香りのハーブで代用しても)。
もちもちとしていて、食べ応えるがある揚げパンのようなドーナツとグレーズの天然のフレーバーが重なることで、より豊かな味わいを引き出すことができます。
グレーズに使ったセントジョーンズワートは、気分を明るくさせてくれる作用が期待できるハーブ。ドーナツのお供にフレッシュハーブティーにして飲めば、気分的な不調を和らげるサポートをしてくれて、心がほっと落ち着きそうです。

オトギリソウ科オトギリソウ属の多年草。古くからヨーロッパの伝統医学で使用されていたことで知られ、ヨーロッパではうつ症状や不眠の治療などにも用いられてきたハーブです。摂取することで、ストレスに対する作用が期待できる、脳内物質・セロトニンの濃度を高めることができるといわれていて、更年期や生理時の不調のサポートにもおすすめです。不安で落ち着かないときには、ホットティーにして飲んでみても。
レシピ 6〜7人分
ドーナツ生地
・中力粉150g
・薄力粉50g
・きび砂糖20g
・ドライイースト3g
・塩2g
・牛乳120ml
・卵1/2個
・こめ油(揚げる用の油) 適量
グレーズシロップ
・セントジョーンズの葉5g
・水100ml
・粉糖50g
How to cook

photo:Hiroko Matsubara edit & text:Seika Yajima
キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY 器:中本純也 ほか
May 21, 2022 口どけなめらかな「レモンバームのババロア」 長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子 vol.26
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第26回は「レモンバームのババロア」をお届けします。
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「レモンバームのババロア」

レモンのような爽やかな香りが、ババロアの甘さを引き締めてくれる。
ふとしたときに食べたくなるのが、ぷるんとした食感のババロア。弾力のある濃厚なミルクプリンのようお菓子は、卵、牛乳、砂糖、生クリームなど日常で慣れ親しんだ材料を使って作るからか、どこか懐かしさを覚えるミルキーでやさしい味わいです。
卵や牛乳、砂糖などをベースにしたソースにゼラチンと生クリームを加え、冷やし固めたデザートは、派手さはないけれど、大人にも子どもにも愛される日常に溶け込むお菓子のように思います。
「ババロア」という言葉は、フランス語で「バイエルンの」という意味を持ちます。そのルーツを辿ると、19世紀初めから20世紀のドイツ革命まで存在したドイツ南部の王国・バイエルン王国で腕をふるっていたフランス人シェフが、貴族たちのために考案したメニューだった、という逸話に出合います。
こうして人々に長く愛されてきたのは、素朴でありながらもどことなく優雅な気分に浸れる、独特のムードがお菓子に漂っているからなのかもしれません。
そんなシンプルなババロアの味わいを引き締めてくれるのが、レモンのような爽やかな香りを運んでくれるレモンバーム。葉っぱを噛み砕きながら一緒にいただくと軽やかな味わいに変化します。青々とした木々が生き生きと育つ新緑の季節は、このフレッシュな柑橘の香りがより一層五感に響いてくるように感じられます。
時には、好みでフルーツを加えたりして味のバリエーションを楽しんでみても。口どけなめらかなババロア作りに挑戦してみてはいかがでしょう。

シソ科のヨーロッパ原産の多年草。ギザギザとしたフォルムの葉を茂らせ、毎年夏には白い小さな花を咲かせます。古くは「レモンバームティーを飲めば長生きをし、記憶力が高まる」といわれていました。レモンバームの葉がレモンのような香りがするのは「シトラール」という成分によるもの。この成分には、抗菌作用や炎症を抑える作用、鎮痛作用などがあるといわれています。抗うつと強壮作用があるとされるため、不安や緊張感が続くときにお茶にして飲むのがおすすめです。
レシピ 2〜3人分
・牛乳200ml
・レモンバームの葉3g
・卵黄1/2個
・きび砂糖15g
・ゼラチン2.5g
・生クリーム80ml
・飾り用 レモンバームの葉 適量
How to cook

photo:Hiroko Matsubara edit & text:Seika Yajima
キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY 器(グラス):山野アンダーソン陽子
(小皿):中本純也、その他 フランスアンティーク
April 16, 2022 甘く、とろける「バナナのメープルバニラソテー」 長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子 vol.25
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第25回は「バナナのメープルバニラソテー」をお届けします。
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「バナナのメープルバニラソテー」

バニラとメープルシロップの甘い香りと、バナナの食感に心癒やされる。
小腹がすいたときにちょっとしたおやつとして食べたくなるバナナ。実はバナナの糖質は、体内への吸収がゆるやか。ビタミン、食物繊維が豊富で美容によく、さらにカリウムやマグネシウムが特に多く含まれていて高血圧対策にもよいとされているパワーフードです。それゆえに、常備しているという人も多いのではないでしょうか?
手を加えず、そのまま食べるだけでもおいしいけれど、慣れ親しんだその味に飽きてくる、ということもあると思います。そんなときには、ソテーにして味に変化をつけて楽しんでみましょう。
実際、バナナの生産量が多いインドではバナナを使ったお菓子が多く、メープルシロップやバターを使ってバナナをソテーするおやつが定番になっている家庭もあります。
バニラのさやの中にある黒い粒々のバニラビーンズをバナナに塗りつけて、独特の甘い香りを移しましょう。バニラはオーガニックで作られた良質なものを。バニラビーンズそのものがしっとりとしていて、少量使いでも香り豊かになります。
フライパンを熱したらメープルシロップを入れて、ソテーをしましょう(シロップがない場合は、きび砂糖でも)。味にコクをもたせるためにバターを加えて、最後に塩をふったら出来上がり。
5分もあれば作れるおやつなので、お菓子作りに慣れていない人でも、忙しい人でも、気軽に作れるはず。天然由来の甘味料であるメープルシロップの香りとコクは、ソテーしてとろりとした食感のバナナとよく合います。
ペアリングドリンクはミルクティーやチャイを。甘く、とろけるバナナのメープルバニラソテーの味わいをより一層、引き立ててくれると思います。

ラン科バニラ属の蔓性植物。原産地はメキシコ、中央アメリカといわれている。 バニラの名前の由来は、いんげん豆のさやのような15〜30㎝の細長い「小さなさや」の形にちなんで。未熟な果実を収穫し、発酵と乾燥を繰り返し行い、手間ひまをかけて熟成させることで独特の甘い香りが生まれる。調理にはさやの中の小さな黒色の種をかき出して使用を。種をかき出したあとのさや部分は、乾燥させて砂糖の保存容器の中に入れて香りづけに使ってみても。
レシピ 1人分
・バナナ1本
・バニラ1/8本
・メープルシロップ15ml
・無塩バター5g
・塩ひとつまみ
・カシューナッツ10g
How to cook

photo:Hiroko Matsubara edit & text:Seika Yajima
キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY 器:田中直純
March 26, 2022 生地の食感がクセになる「チャービルと文旦のクレープ」 長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子 vol.24
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第24回は「チャービルと文旦のクレープ」をお届けします。
This Month's Herbal Sweets
「チャービルと文旦のクレープ」

旬のフルーツやおかずになりそうな具材を巻いて、折りたたむ。
巻いたり、折ったり、さまざまな材料を包み込んでいただくフランス北西部のブルターニュ発祥のクレープ。生地が薄手で、ちょっと甘いものが食べたいときにおすすめしたい軽やかなお菓子です。
生地作りに必要な材料は薄力粉と塩ひとつまみときび砂糖。そして、オーツミルクと水のみ。このオーツミルクを使うことでもっちり、しっとりとした食感に導くことができます。バターも使わないので、比較的あっさりと食べられる味わいに。
そして、綺麗に焼くためにはちょっとしたコツが。鉄板が熱すぎると生地が分厚くなってしまうので、フライパンを一度熱した後に濡れ布巾に置いて熱を冷ましましょう。そうやって、ひと手間かけて丁寧に焼き上げることで、味そのものが応えてくれるはずです。このやり方は、ホットケーキを焼くときにも役立つ裏技なので、ぜひ身に付けて。
後は好きな具材を置いて包むだけ。旬のフルーツ、文旦は皮を剥く間、柑橘特有のいい香りに包まれて心も晴れやかに。ホイップクリームの上には文旦2房とチャービルをそっとのせて。文旦の皮を捨てずにグレーターでほんの少しすりおろして香りづけを。
生地にサンドしたふわりとした生クリーム、少しの苦味と甘さが立った文旦、爽やかな香りを纏ったチャービルの味の重なりに思わず笑みがこぼれてしまいます。生地の作り方を覚えたら、ぜひ、アレンジメニューに挑戦を。生地作りの材料から砂糖を抜き、おかず系の具材で作ってみても。例えば、サワークリームとベーコン、カレーを巻いてみるなど、取り合わせの妙を探るのも調理の楽しみになりますよ。

セリ科シャク属の一年草。ヨーロッパでは古代ローマ時代に食されるなど、長年親しまれてきたハーブです。甘く爽やかな香りが特徴で、フランス料理によく使われています。パセリよりもマイルドな味で「美食家のためのパセリ」と呼ばれることも。オムレツ、マリネ、パスタ、スープ、タルタルソースなどの香りづけにも好相性です。
レシピ 4人分
クレープ液
・薄力粉85g
・塩ひとつまみ
・きび砂糖10g
・オーツミルク(無糖)45ml
・水110ml
・生クリーム50ml
・きび砂糖2g
・文旦などの柑橘1個
・チャービル適量
[下準備]
生クリームときび砂糖2gを合わせホイップしておく。
文旦の皮を剥き、薄皮と種を取っておく。 ※文旦の皮を最後に削るので1枚取っておく。
How to cook

photo:Hiroko Matsubara edit & text:Seika Yajima
キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY 器:フランスアンティーク
February 20, 2022 おやつの定番にしたい「シナモンのブリュレ」 長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子 vol.23
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第23回は「シナモンのブリュレ」をお届けします。
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「シナモンのブリュレ」

カラメルをスプーンでザクザク割って食べる楽しいひとときを。
レストランやカフェのデザートの定番メニューになっていることが多いフランスの焼き菓子、クレームブリュレ。日本語にすると〝焦がしたクリーム〞。
お店によくある馴染みのあるデザートなので、今までにいろんなタイプのクレームブリュレに出合ってきた人も多いかもしれません。このお菓子は、日常にある材料で失敗がなく作れて、それでいて食べる楽しさが格別な一品です。作り方はとってもシンプル。だからこそ、一度レシピを覚えたら、好みの味を追求する面白さを秘めています。
まずは、牛乳、生クリームを鍋で温め、シナモンで香りづけを。全卵と黄卵ときび砂糖をよく混ぜたものに加えてカスタードソースを作り、耐熱容器に流し込みましょう(表面のカラメル作りにも砂糖を使うので、ここで使用する砂糖は、控えめにするのがおすすめ)。
あとは、オーブンで蒸して固めるだけでなめらかな質感のカスタードプリンが完成。シナモンを使うことで卵の生臭さが和らぎ、ほのかに甘い香りが漂います。
仕上げにカスタードプリンの上にきび砂糖をふりかけ、バーナーであぶって砂糖をキャラメリゼ。ふりかける量は、厚めにするときれいな仕上がりになるはず。バーナーを持っていない人は、大きめのスプーンの背を火であぶって砂糖にジュッと押し付けて。少し時間はかかるけれど、家にある道具だけで手軽に作れます。
パリパリとしたカラメルの表面をスプーンでザクザク割る行為は、なんだか楽しくて、クセになるもの。プリンのなめらかな口どけとカラメルの香ばしさの重なりはじんわりとした幸せを感じさせてくれるはず。ぜひ、さっぱりしたハーブティーとともに心を休めてください。

クスノキ科の常緑高木。若い枝を切り、樹皮を細長い形にはぎ取り、束にして発酵。表面のコルク質をはぎ取り乾燥させて細管状にしたものをシナモンスティックと呼ぶ。シナモンの歴史は古く、古代ローマ時代から利用され、体を温める作用や気持ちを落ち着かせる作用が期待できます。スパイシーな味と香りが特徴でハーブティー、コーヒー、紅茶とブレンドするのがおすすめ。
レシピ 7×12cmの型 2個分
・牛乳 280ml
・生クリーム 50ml
・全卵 1個
・卵黄 1個
・きび砂糖 30g
・シナモン1本
[デコレーション]
きび砂糖 適量
How to cook

photo:Hiroko Matsubara edit & text:Seika Yajima
ハーブ:まるふく農園 キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY
器:ヨーロッパアンティーク
January 22, 2022 バレンタインに作りたい「オレンジミントのアマンドショコラ」 長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子 vol.22
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第22回は「オレンジミントのアマンドショコラ」をお届けします。
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「オレンジミントのアマンドショコラ」

赤ワインの〝つまみ〞にもなる、さわやかな香りのアマンドショコラ。
家で過ごす時間が長くなる寒い季節は、気分を明るくさせてくれるような、ちょっとしたスイーツを日常の〝相棒〞にしてみると、暮らしが楽しくなる。気軽につまめて、一粒でも食べ応えのあるアマンドショコラは、仕事中のブレイクタイムやお酒を楽しむ時間に、心を和ませてくれるはず。これから控えているバレンタインのギフトにもぴったりなチョコレートスイーツです。
作り方は至ってシンプル。アーモンドは有機栽培で作られた生のものをチョイスして、キャラメリゼを。カリッと香ばしいアーモンドだけでも十分においしいけれど、さらに、カカオ含有量の多いビターなチョコレートを絡めてハーブで香りづけをするステップを加えることで、ぐっと味に広がりが生まれます。
基本的にはどんなハーブを使ってもOK。オレンジミントを使うと、噛んだ瞬間に本物のオレンジのような柑橘のさわやかな香りがふわりと立ち上がり、気分を高揚させてくれたり、緊張した心を和らげてくれたりします。
素材そのものの味の際立ちはそのままに、互いの味を引き立て合う、じんわりとしたおいしさが口の中に広がっていく瞬間は至福。ついつい、食べる手が止まらないなんてことも。ベストマッチなドリンクは軽めの赤ワイン。ワインを口に含んだときの香りや風味とのマリアージュをぜひ、楽しんでみてください。

シソ科ハッカ属のハーブで多年草。オレンジのような柑橘感のある香りが特徴。不安な気持ちを軽くして、心を落ち着かせるようなリフレッシュ効果が期待できます。清涼感が強い香りなので、コロンや入浴剤、ポプリに使われることも。生の葉を温かいお湯で抽出してオレンジミントティーにして飲むことで心を元気づける働きがあります。
右/ナツメグ
ニクズク科ニクズク属の熱帯性常緑樹。インドネシアのモルッカ諸島が原産。種子の中の仁と呼ばれる部分を乾燥させたもの。古代インドでは健康のために用いられていたという言い伝えも。甘い香りとマイルドなほろ苦さが特徴で、肉料理では匂い消しに、お菓子作りの風味づけとして重宝します。「ピネン」という成分が胃の消化をサポートし、胃の働きを促してくれる作用があります。
レシピ 2〜3人分
・アーモンド 40g
・チョコレート(カカオ含有量80%) 20g
・きび砂糖 15g
・水 小さじ1強
・ナツメグホール 適量
・オレンジミント 適量
・ココアパウダー 適宜
How to cook

photo:Hiroko Matsubara edit & text:Seika Yajima
ハーブ:まるふく農園 キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY
器:ヨーロッパアンティーク
December 18, 2021 クリスマスにぴったりの「レモンマートルといちじくのレアチーズケーキ」 長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子 vol.21
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第21回は「レモンマートルといちじくのレアチーズケーキ」をお届けします。
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「レモンマートルといちじくのレアチーズケーキ」

クリスマスタイムのデザートにもぴったりな、大人のレアチーズケーキ。
今年も残りわずか。一年の終わりには、頑張った自分のために、そして大切な人に「ありがとう」を伝えるために、ちょっとしたケーキを作ってみるのはいかがでしょう。ふだん、ケーキを作ったことがない人でも簡単に作れるのが、定番おやつのレアチーズケーキ。ワインを嗜む人の口に合うような味をイメージして、砂糖を使わずに作ったのが「レモンマートルといちじくのレアチーズケーキ」です。クリームチーズを使うことでまろやかでコクのある味に導くことができます。程よい酸味、口の中に優しく残る松の実といちじくの甘さ、そして、レモンマートルのレモンのような爽やかな香りに心くすぐられるはず(より香りを濃厚に感じたい方はレモンマートルを3枝くらい使ってみても)。もう少し甘さが欲しい人は、ハチミツをかけてみてもおいしくいただけます。
小さなラウンド型のフォルムが可愛らしいケーキは“大人のクリスマスナイト”を愉しみたい日にもぴったり。熟したいちじくの綺麗な赤が華やかな気分を盛り上げてくれます。BGMとして、聖歌隊の子どもたちが歌うクリスマスソングや第九といったスタンダードナンバー、今年のお気に入りソングをまとめたプレイリストを作ってみるのもいいかもしれません。ふだんやらないような、ちょっぴり演出めいた遊びも、このシーズンならではのお楽しみ。たまには思いっきりロマンチックな時間を過ごすことは、大人にこそ、必要です。ぜひ、このホリデーシーズンに心と体に優しいチーズケーキを味わってみてください。

レシピ ホール1個分
・生クリーム(40%以上)100ml
・フレッシュレモンマートルの葉 1枝程度
※香りを強めにつけたい方は3枝程度に。
・粉ゼラチン 3g
・ヨーグルト 100g
・クリームチーズ 40g
・松の実 適量
・いちじく 小2個
・粉チーズ 適量
[下準備]
いちじくの皮をむく。クリームチーズを常温に戻しやわらかくしておく。
松の実はフライパンで軽く炒っておく。
How to cook

photo:Hiroko Matsubara edit & text:Seika Yajima
ハーブ:まるふく農園 キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY
器:金森正起 、田中直純
Herbal Sweets / November 20, 2021 vol.20 カルダモンのチョコチップクッキー
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第20回は「カルダモンのチョコチップクッキー」をお届けします。
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「カルダモンのチョコチップクッキー」

スパイシーなカルダモンの香り漂う、ザクザク食感のチョコチップクッキー。
時々、定番のお菓子に手を伸ばしたくなることがある。例えば、チョコチップクッキーとか。子どもの頃から親しみのあるメーカーのものも“懐かしのおやつ”という風情で味わい深いものがあるけれど、ハーブを使って作ってみると、まるで魔法がかかったように上品で豊かな味わいになるから面白い。
カレーやチャイに使われるハーブとしてお馴染みのカルダモンは、クッキーの生地や甘さ控えめなチョコとの相性がとてもよく、ピリリとしたスパイシーな風味とエキゾチックな香りがクセになります。“スパイス好き”が愛する味わいになるので、甘いものがそれほど得意ではない人でも楽しめるクッキーが作れるはず。
実際、カルダモンは北欧ではお菓子作りによく使われているそう。寒い季節が長く、家の中にいる時間が長い北欧の人々は気分を盛り上げるためにカルダモンロールやカルダモン風味のクッキーなどを作り、おやつの時間を楽しむ文化が根付いています。
クッキーの生地には全粒粉と薄力粉の両方を使うのがおいしさのポイント。混ぜ合わせることで、ザクザクとした食べ応えのある口当たりと独特の香ばしい味を導くことができます。焼き上げるときのちょっとしたひと手間をかけることもお忘れなく。チョコレートを使うことでクッキーの底面が焦げやすくなるので、10分間のうちに裏返してうまく焼き上がるように生地の状態を見ながら作業を進めてみましょう。
焼いている間に音楽をかけながらお茶の用意を。晩秋に想いを馳せるべく、ビル・エヴァンスの『Portrait In Jazz』なんかもとてもおすすめ。お気に入りのマグにアールグレイを注ぎ、ひとときの安らぎの時間を楽しんで。

ショウガ科の多年草。南インド、マラバル地方が原産。カレーやインド料理に欠かせないことから“スパイスの女王”とも呼ばれ、爽やかでありながら高貴な香りが特徴。チャイのスパイスとして、また中近東ではコーヒーに混ぜて飲まれている。ホールのカルダモンは切り込みを入れたり、種を取り出して刻んで使ったりするとより効果的に香り付けをすることができる。スパイシーな風味は口臭予防にも。また、カルダモンの香りは心を落ち着かせ疲労感を和らげる作用が期待できる。
レシピ 10枚分
・製菓用チョコレート(カカオ含有量70%以上)40g
・無塩バター 60g
・卵 1/2個
・きび砂糖 30g
・ベーキングパウダー 1g
・カルダモンホール(中の種を出して刻む)5粒分
・全粒粉 30g
・薄力粉 40g
[下準備]
バターを常温に戻す。チョコレートを細かく刻む。
How to cook

photo:Hiroko Matsubara edit & text:Seika Yajima
ハーブ:まるふく農園 キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY
箱:イギリスのアンティーク 器:スティーブ・ハリソンほか
Herbal Sweets / October 22, 2021 vol.19 マジョラムとオレガノのスコーン
自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第19回は「マジョラムとオレガノのスコーン」をお届けします。
This Month's Herbal Sweets
「マジョラムとオレガノのスコーン」

朝食や午後のおやつにぴったりな、ハーブの香り漂う軽やかなスコーン。
パンを食すには、胃が重たいと感じる起き抜けの朝。あるいは、ちょっと小腹がすいた午後。そうしたシチュエーションに、スコーンを手作りすることをお勧めしたい。なぜなら、スコーンは小麦粉やバター、牛乳など、日常的に頻繁に使う材料で作ることができる、とても軽やかで素朴なおやつだから。
自宅で作ると、何より焼きたてを食べられることが至福。その時間は、繰り返す日々の中で、ちょっとした贅沢をもたらしてくれるかもしれない。
フルーツやチョコを使ったスコーンもおいしいけれど、甘いものが得意な人じゃなくても食べやすいスコーンをレパートリーとして持っていると、ちょっとした“食事”にもなり得るし、どんなゲストにも喜ばれたりもしそうだ。
そこで考えたのが、オレガノとマジョラムのドライハーブの爽やかな香りが漂うスコーン。イタリア料理にもよく使われるこれらのハーブは、スーパーでも手に入れやすい。ハーブを育てている人ならば、3日間ほど天日干しにして、ドライハーブにしてから使用してみるといい。ドライな状態のほうが生地に馴染みやすく、そうしたニュアンスにこだわることが、おいしさの秘訣になる。
そして、もうひとつ大切なのが、生地を作る際のバターの扱い方。小麦粉にバターをすり合わせていくことで、口の中で溶けていく、ホロホロとした食感を導くことができます。
実際、食べるときは、手で半分に割って、ひと口で食べられるサイズに。
シンプルに何もつけずに素材の味を楽しんだ後は、好みのジャムやクロテッドクリームなどを塗ってみると、味わいがまた、豊かなものに。市販のクロテッドクリームの代わりに、サワークリームと生クリームを混ぜ合わせて自分で作ってみるのもおすすめです。
噛み砕くたびにホロホロと崩れ、味わい深いスコーン。口内にハーブの爽やかな香りがほのかに広がっていく心地よさがクセになり、きっとまたすぐに作りたくなるはず。

左/オレガノ
地中海沿岸原産のシソ科の多年草。イタリア料理には欠かせないハーブで、少し苦味のある爽やかな香りが特徴。シソ科のハーブの中でも、最も香りが強いといわれています。ピザやトマトソースなどの香り付けによく使われています。また、古代ギリシャでは、料理用としてだけではなく、芳香剤、鎮痛剤として広く利用されていたそう。また、抗菌、殺菌作用、消化器系の不調の緩和、風邪予防にも効果が期待できます。
右/マジョラム
シソ科の多年草。オレガノは同属のハーブ。古代ギリシャ・ローマ時代から栽培されていたハーブで、“幸福のシンボル”とされていました。あらゆる肉料理はもちろん、野菜や豆との相性も良く、シチューやスープなどの煮込み料理にもよく使われています。ハーブティーのマジョラムには、体の中の毒素を排出してくれる効果もあると言われていて、肝臓を強化する働きもあるため酒を飲む人にもおすすめ。マジョラムのアロマオイルは血行促進のサポートにも。
レシピ 6個分
・薄力粉150g
・ベーキングパウダー8g
・きび砂糖15g
・塩ひとつまみ
・バター(無塩)35g
・牛乳80ml
・お好みのジャムやクロテッドクリーム適量
・ドライマジョラム、オレガノ適量
How to cook

photo: Hiroko Matsubara edit & text : Seika Yajima
ハーブ:まるふく農園 キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY
器: ヨーロッパ アンティーク
選・文 / 長田佳子(菓子研究家) / March 25, 2021 極私的・偏愛映画論『街の灯』
This Month Themeスタイルのある女性に憧れる。

友人たちを思い出させるヴァージニア・チェリルの演技。
私の映画の見方はとても偏っていて、気に入った作品を繰り返し観ては、発見を積み重ねて満足してしまう。新しい作品を次々観ることができれば、夢も膨らむであろうに少々腰が重いところは、人との関係性をゆっくり深めていきたいところに通ずるものがあるように思う。
チャップリンの作品をはじめて目にしたのは、おそらく幼稚園生の頃で深夜のロードショーだった。モノクロのサイレント映像の中、白化粧をした叔父さんが小刻みに動いている様子に奇妙さを感じるものの、なんだか癖になる。ただただ表情を追うことが新鮮で心地よく感じたのを覚えている。
『街の灯』は、チャップリン演じる放浪者が盲目の花売り娘と出逢い恋をすることからはじまる。放浪者は彼女の眼の治療費のために、体を張ってボクサーになったり、大富豪の社長を味方につけたり、奮闘しながら想いを育む一途な恋の物語。
ヴァージニア・チェリル演じる花売りの娘は、憂いのある笑顔が印象的だ。
細身の体に似合ったクラシカルな装いにはうっとりするし、振る舞いや表情の豊かさも少女のように愛らしい。彼女を見ていると、なぜだかあらゆる知人たちを思い出す。友人や先生や母……。これまで自分と関わってくれた人々の顔が浮かんできてならないのだ。彼女等は全て私の憧れの人たちでもある。
思春期の頃の私は、“私”というものの生き方がわからず、思い悩むことが多かった。
おそらく、「素敵に、まっすぐに生きたい」と過度な期待をしていたのだと思う。
しかしいつからか、大好きな友人たちと時間を共にするなか、背伸びをしないでもたくさんのお手本が近くにあったことを知る。彼女たちの夢の実現を近くでみたり、言葉に耳をすませたりしているとワクワクして堪らず、自分に落胆する暇もなくなっていたのだ。きっと彼女たちが鏡となって、道に迷わない私を作ってくれていたのだと思う。
美しい主人公に心を奪われ陶酔する作品ももちろんあるけれど、ひとりの人物から、多くの友人たちを思い出させるヴァージニア・チェリルの演技、この作品は私にとってとても特別なものである。


『街の灯』
Director
チャールズ・チャップリン
Screenwriter
チャールズ・チャップリン
Year
1931年
Running Time
87分
May 24, 2019 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/長田佳子 vol.4
May.24 – May.30, 2019
Saturday Morning

アルバム『Orange Crate Art』収録。
Sunday Night

『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

May 17, 2019 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/長田佳子 vol.3
May.17 – May.23, 2019
Saturday Morning

アルバム『Innervisions』収録。
Sunday Night

『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

May 10, 2019 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/長田佳子 vol.2
May.10 – May.16, 2019
Saturday Morning

アルバム『11 De Novembre』収録。
Sunday Night

『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

May 03, 2019 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/長田佳子 vol.1
May.03 – May.09, 2019
Saturday Morning

アルバム『Eureka』収録。
Sunday Night

『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

菓子研究家 長田 佳子

レストラン、パティスリーなどでの修業を経て、YAECAフード部門「PLAIN BAKERY」でメニュー開発、お菓子の製造を担う。2015年に独立。〈foodremedies〉という屋号でハーブやスパイスなどを使ったまるでアロマが広がるような、体に素直に響くお菓子を研究している。著書に『季節を味わう癒しのお菓子』(扶桑社)、『全粒粉が香る軽やかなお菓子』(文化出版局)などがある。2021年7月より登録制による動画配信のお菓子教室を開催。