真似をしたくなる、サンドイッチ
ふっくらドライトマトと、チーズのクリームソースが絡み合う!軽やかなのに満足感たっぷりな、パリの野菜サンド。July 08, 2026
サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No65となる今回は、本誌No152に登場した『セールセール』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

フランスで暮らし始めて5か月目のこと。
夏休みに両親がやって来ることになり、私は空港へ迎えに行った。当時は地方の街に住んでいて、たしか、パリのシャルル・ド・ゴール空港までは直通のTGV(高速鉄道)があり、それで向かったと思う。ただ、本数が少ないから、両親の到着まで、空港で少し待ち時間があった。ちょっとした小旅行だったし、おなかが空くだろうからと、ホームステイ先のマダムは私にサンドイッチを渡してくれた。アルミホイルに包んで、細めのバゲット"フィセル"で作った、長さ15、6cmのものを3種類。空港でそのサンドイッチを食べたときの気持ちは、とてもよく覚えている。ハムを挟んだものよりも、まだおいしさがそこまでわからなかったサンネクテール(チーズ)とレタスのサンドイッチを食べている間の気持ちと、景色のほうがずっと鮮明に記憶に残っている。
『セールセール』で出合ったのは。
『セールセール』の窓の外に貼られたメニューに"にんじんメルト"サンドを見つけ、気になって入った。残念ながらその日はすでに売り切れていて、代わりにパストラミサンドをテイクアウト用に注文したら、アルミホイルに包んで渡された。それだけで、親近感が湧いた。外で買う、商品の味が家で作られる手作りの味に近づく気がする。

数日後、改めて、にんじんサンドを買いに行った。またテイクアウトをすると、やっぱりアルミホイルに包んで渡された。「いいなぁ」と思いながら、家に持ち帰り包みを開けると、思いもよらないにんじんサンドが現れた。

ほぐしたにんじんのロースト、と書かれていたから、大ぶりに切って焼いたものを食べやすい大きさに、ほぐすとか裂くとかしているのだろうと想像していたのだ。ところが、きれいにスライスされたにんじんが重なっていて、食べると歯応えがリズムを刻んだ。もちろん、生ではない。のだけれど、火が完全に通っているとは感じない。「なんか、おもしろいー!」と楽しくなりながら、考えた。サンドイッチで野菜を挟む場合に、スライスした歯応えを得るものといったら、真っ先に浮かぶのはきゅうり。でもほかに思い浮かぶものが、ない。ピクルスで、赤玉ねぎや、ラディッシュ、小きゅうりなどはあっても、このにんじんサンドのようにある程度の長さをもってスライスされた野菜が主役になったタイプは、初体験かもしれない。それもなかなかのボリュームで重ねられている。全体的に塩味が控えめで、うすーくソースは絡んでいるものの、先頭に立っているのはにんじんのフレッシュな味わいとローストの香りだ。サンドイッチ自体は結構な大きさながら、食後感は腹八分。この歯応えと食べ心地はクセになりそうだと思った。
ヨーグルト仕立てのソースには、にんじんの葉が加えられていたから、新にんじんの季節が終わったら、他の野菜を使ったサンドイッチに変わるのか店の人に尋ねると、その予定だという。それは楽しみだ。是非とも食べてみたい。それで夏の気配が色濃くなったタイミングで再訪した。
気になるものが2つ登場していた。
一つは「スパイシー・チョリソ」と名付けられ、チョリソに赤パプリカのマリネの組み合わせ。もう一つは「フェタ・ファイヤー」で、材料の最初にドライトマトとある。どちらも気になったから、2つとも注文した。チョリソ味のほうが強そうだと踏んで、まずは「フェタ・ファイヤー」から食べることにした。辛味が選べたから、2種類あるホットソースのより辛い方をほんの少しだけ加えてもらった。
オイル漬けされたドライトマトはふっくらと厚みがあり、軽くねっとりした舌触りで、ザータル(タイムやオレガノが主体の中東のミックススパイス)とフェタチーズを混ぜ合わせたクリームソースと相性がぴったりだ。たっぷり挟まれたルッコラのピリッとした辛味が、全体の味のキレをよくしている。と、食べながらちょっと考えごとをしていたら、いつの間にか、チョリソが入っているように錯覚していた。フェタのクリームソース自体は主張がなく、ドライトマトと自然に絡んでいて、その一体感がそう思わせたのだろうか。トマトの厚みがポイントのような気がした。
この具材と、プレッツェルを柔らかくして、パン・オ・レ(牛乳パン)を二回りほど大きくしたサイズに成形された軽やかでもちっとしたパンの、味とボリュームのバランスがジャストな感じで、届いて欲しいところに全部届いているかの満足感を得た。そして、食べたあとにおなかが張ることがないのも、すごくいい。
続いて「スパイシー・チョリソ」も食べてみると。
チョリソよりも赤パプリカの独特の甘みに断然おいしさを感じた。赤パプリカの勝利。やっぱりこれもパンの質感と具の味加減のボリュームが一致していて、食べやすさはそこに起因していると思った。フォカッチャとかチャバタのほうがイメージしやすい具材な気がしたけれど、この柔らかさをともなうパンだからこそのおいしさだと思う。
そう、あと、たぶんもう一つのポイントは、いずれも、パンに切り口を入れて開き、主役となる具材(いっぽうはドライトマト、もうひとつはチョリソ)を並べてからサラマンダー(上部を集中的に焼くオーブン)に入れ、しっかり焼き目をつけた上でピクルスや葉野菜をのせている。それで、パンの内側は香ばしいのだけれど、外側は柔らかい。この工程、何気ないようで、大きな違いを生んでいるのではないかなぁ。凝ったことは見受けられないのに、どれも後ろ髪惹かれるおいしさなのだ。
『cercer』

文筆家 川村 明子
















































