真似をしたくなる、サンドイッチ

フムスとごまクリームがチキンにぴったり! パリで家族が作るサンドイッチ。November 05, 2025

サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No57となる今回は、本誌No144に登場した『ウィルズ・デリ』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

今回も川村さんからのスケッチから。具材がこれでもかと積み上げられらおいしそうなルーベンサンド 川村明子
今回も川村さんからのスケッチから。本誌で紹介したルーベンサンド(左)は、具材がこれでもかと積み上げられています。

*本誌で「ルーベンスサンド」と紹介したサンドイッチは、正しい名称は「ルーベンサンド」でした。ここにお詫びして、訂正させていただきます。 本web連載では「ルーベンサンド」と記載しております。

サンドイッチを日々食べ歩いていると。

たまにとても赤身の肉が食べたくなる。というのも私は、基本的に1日2食で、その2食とは、ほとんどの場合、朝と昼だ。朝ごはんにもしお肉を食べるとしたらハムくらいだし、だいたい動物性タンパク質は、卵か乳製品で摂ることが圧倒的に多い。そしてサンドイッチの具材として赤身肉が用いられている率は、かなり低いと思う。フランスはシャルキュトリーの文化が根づいているゆえ、ハムやドライソーセージなどの豚肉加工品はサンドイッチの具材として最もスタンダードだ。それに並ぶくらい、チキンサンドも存在する。もしかしたら、豚肉以上に見かけるかもしれない。コストの面もさることながら、宗教を問わず誰でも食べられる点においても、需要が高いのだろう。おそらく、そんなわけで、サンドイッチのメニューに牛肉を見つけると、お! とアンテナが反応する。

これから『ウィルズ デリ』のサンドイッチを紹介する前に、この店でおいしかったチーズケーキを先出し! 背中側はベイクドチーズケーキの質感で、中の方はほぼレアチーズケーキ。レモンゼストがちょっと入って、甘みも程よく、とても好みです。川村明子
これから『ウィルズ デリ』のサンドイッチを紹介する前に、この店でおいしかったチーズケーキを先出し! 背中側はベイクドチーズケーキの質感で、中の方はほぼレアチーズケーキ。レモンの皮がちょっと入って、甘みも程よく、とても好みです。

『ウィルズ・デリ』に気付いたときは、一気に心がニューヨークへ飛んだ。

この夏は、ある仕事をするにあたり、初めてニューヨークを訪れた30年前の記憶を幾度となく手繰っていた。そこへ近しい友人が出張に行くと聞いたところで、いつもチーズを買いに行く店の帰り道に、ふと「PASTRAMI」の文字が目に入ったのだ。あれ? このお店いつからここにあったのだろう?と思いながら近づいて、窓に貼られたメニューを見たら、サンドイッチが10種類。最初に掲げられた「ホットパストラミサンド」は5種類が並んでいる(正確にはそのうち一つは、パストラミではなくコーンド・ビーフ)。窓にある「生産者」の表記にも、ぐんと気持ちが高まった。頭の中に、ニューヨークに行けば必ず食べるパストラミサンドが浮かんだ。

「Mac & Cheese Balls」とサイドメニューに見つけて、食べずにはいられなかった。エメンタールとモツァレラ、チェダーチーズをベシャメルソースと合わせているそう。こっくりしているも、くどさはなくて、パカパカいけちゃう。川村明子 | 「Mac & Cheese Balls」とサイドメニューに見つけて、食べずにはいられなかった。エメンタールとモッツァレラ、チェダーチーズをベシャメルソースと合わせ、マカロニと和えているそう。こっくりしているものの、くどさはなくて、パカパカいけちゃう。
「Mac & Cheese Balls」とサイドメニューに見つけて、食べずにはいられなかった。エメンタールとモッツァレラ、チェダーチーズをベシャメルソースと合わせ、マカロニと和えているそう。こっくりしているものの、くどさはなくて、パカパカいけちゃう。
こんな感じでショーケースには揚げる前のマカロニ&チーズボールやコールスロー、チーズケーキなどが並んでいます。川村明子 | こんな感じでショーケースには揚げる前のマカロニ&チーズボールやコールスロー、チーズケーキなどが並んでいます。 パストラミも量り売りで販売。
こんな感じでショーケースには揚げる前のマカロニ&チーズボールやコールスロー、チーズケーキなどが並んでいます。 パストラミも量り売りで販売。

数日後、ランチへ。

パストラミにピクルスとハニーマスタードのシンプルなサンドイッチにしようか、発酵キャベツとチェダーチーズも加えられたルーベンサンドと迷っていたら、「ルーベンにしたら?」とすすめられたので、そうした。すると、限りなく薄切りにしたパストラミが綺麗に重ねられた断面を見せてサンドイッチがやってきた。その様相に、肉肉しい味を口の中で想像したのだが、これが、全然くどさがなく、脂っこくもなく、むしろパストラミはふわっとしていた。香りで肉を食べるような感じだ。パン・オ・ルヴァンの香ばしさもおおいに手伝って、軽快な口当たり。とてもおいしい。まだ暖かい日で、テラスで食べていると、店の人たちが外に出てきた。どうも親子のようだった。家に帰ってから店のサイトを開いたら、家族経営であることがわかった。パストラミはお父さんのレシピらしい。また行こう、と思った。

本誌で紹介したルーベンサンド。一見、ぎゅっとお肉が詰まっているようだが、口の中ではふわっと感じる。川村明子 サンドイッチ
本誌で紹介したルーベンサンド。一見、ぎゅっとお肉が詰まっているようだが、口の中ではふわっと感じる。

翌週再訪すると、前回と同じ男性が店頭に立っていて。

「あー! こないだ気に入った?」と笑顔で挨拶された。「Oui」と答えて、メニューを見ながら「メトロの中でも考えていたのだけど、今日はタヒニ・シーザーサンドとホット・ドッグで迷っている」と伝えたら「こないだ初めてきたときに、ルーベンサンドを食べたから、2回目はホットドッグだな」と言われた。食べたものも覚えていたようだ。ホットドッグのビーフ・ソーセージも自家製かと尋ねると、カウンター脇のテーブルに座った男性を指し「そうだよ、パパの工房で作っているんだ」と紹介された。お父さんの名前がウィリアムで、だから店名は『ウィルズ・デリ』。チーズとパン以外は、全て自家製という。たっぷりとレリッシュ(きゅうりピクルスのみじん切り)の盛られたホットドッグを、家族が揃っている(お父さんの隣にはお母さんもいた)店の温かさを感じながら、お父さんの向かいの席で頬張った。

ウィルズ・デリ タヒニ・シーザー サンドイッチ スケッチ 川村明子

ホットドッグはもちろんおいしかったのだけれど、やっぱり"タヒニ・シーザー”と謳われているサンドイッチが気になって、後日、改めて食べに行くことにした。
ピタパンサンドとあったから、袋状になっているピタパンに具を詰め込んでいるものを脳裏に描いていたら、違った。ロール状だった。この店は入り口を入ってすぐの右側に天板があり、店の外から焼いている様子が見られる。それで、一度外に出て、窓際から作るところを見せてもらった。まずピタパンを天板にのせ、十分に温まった(と思われる)ところで、フムスを塗る。その上にアイスバーグレタスを広げ、細めのくし切りにした赤たまねぎと赤ピーマンを散らし、今度はスパイシータヒニソースをまわしかける。そして1.5cmほどの幅に切ったフライドチキンを置いて、ビーフンを揚げたのかと思うくらいに極細のポテトのフライ「アリュメット」を全体に散らす。ここまでを天板の上で済ませたら、ペーパーの上に移動させて、最後にパセリをたっぷり。それをペーパーごと、ぎゅっと巻き込む。

包む前のタヒニ・シーザーサンド。パセリがたっぷりなんです。ディルも入っています。川村明子 サンドイッチ
包む前のタヒニ・シーザーサンド。パセリがたっぷりなんです。ディルも入っています。

フライドチキンは、パン粉をはたいて作られていた。それでなのか、惣菜コーナーに売っていそうな親しみやすい味だった。もも肉でジューシー。同時に、やさしくて、食べやすい。脂っこさを感じないのは、レタスと同じくらいの分量に見えたパセリが一役買っているのかもしれない。スパイシータヒニは、タヒニ(ごまクリーム)にコチュジャンを合わせているそうだ。全然辛いとは感じなかったけれど、これも、全体がもったりした味にならない効果をもたらしている気がした。フムスとタヒニで具材を繋ぐ”シーザー”。ひょっとすると、パルメザンチーズで作る本家よりも、好きかもしれないなぁ。

『Will’s Deli』

28 Rue Poissonnière 75002 11:30〜22:00 (月火〜15:30) 日休 パストラミはプラス€6で100g追加できる。店内奥にはテーブル席が20席ほどある。 川村明子
28 Rue Poissonnière 75002 11:30〜22:00(月火〜15:30)日休 パストラミはプラス€6で100g追加できる。店内奥にはテーブル席が20席ほどある。


文筆家 川村 明子

川村明子
パリ在住。本誌にて「パリのサンドイッチ調査隊」連載中。サンドイッチ探求はもはやライフワーク。著書に『パリのパン屋さん』(新潮社)、『日曜日は、プーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)などがある。Instagramは@mlleakiko。Podcast「今日のおいしい」も随時更新。朝ごはんブログ再開しました。

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