真似をしたくなる、サンドイッチ

ビールで7時間火入れした豚肉を、ほぐしてパニーニに! パリで食べたいサンドイッチ。May 13, 2026

サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No63となる今回は、本誌No150に登場した『ジョニー・ドウィッチ』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

毎回恒例、川村さんによるサンドイッチのスケッチからスタート。今回は豚肉のパニーニが主役です。
毎回恒例、川村さんによるサンドイッチのスケッチからスタート。今回は豚肉のパニーニが主役です。

世の中には、それはもういろいろなサンドイッチがあって。

パンの種類だけでも多岐に渡るし、具材やソースも考えたら、ジャンル分けするにも本当にさまざまな分類ができると思う。だから探求することに一向に飽きがこないわけだけれども、そんななかで、出合うたびに「好きだよなぁ」としみじみするタイプがある。それは、前日のメイン料理の残りを、フォークやナイフを必要としない形状にアレンジしてサンドイッチの具材としたもの。もちろん、サンドイッチの専門店では前日の残り物ではなく、サンドイッチの具とすべく調理したものを用いているが、着想が"前日の主菜を元にした"ことを思わせる具材だと、それだけで心を動かされる。

偶然出合ってしまった、この店。

本誌No149の「サンドイッチ調査隊」、そして前回のweb連載で紹介した『パッセリーナ』で友人と落ち合う約束をしたある日、開店と同時に乗り込もう!と前のめりな気持ちでいたら、あまりに楽しみでだいぶ早く着いてしまったことがあった。天気の良い夕方で、せっかくだから近くを散歩しようと辺りをうろついて見つけたのが『ジョニー・ドウィッチ』だ。角を曲がるにしても3軒隣なのに、全然気づいていなかった。が、それもそうだ。最寄り駅から向かうと『パッセリーナ』が手前で、たまに少し先まで足を伸ばしても、『ジョニー・ドウィッチ』のあるほうに曲がることはほとんどなかった。加えて、営業時間がまったく被らない。かたやワインバーで18時からのオープン、もう一方はランチタイムのみの営業で15時には閉店だ。ちょっと早く着いてしまったがゆえの見っけもんにうれしくなった。

鴨のコンフィのサンドイッチを先にチラリと。
鴨のコンフィのサンドイッチを先にチラリと。

早速メニューをチェックすると、ラクレット(チーズ)やローストビーフに並び、ブッフ・ブルギニヨン(牛ほほ肉の赤ワイン煮込み)、そして鴨のコンフィと書かれている。ブッフ・ブルギニヨンサンドは少し前に別の店で食べていたけれど、鴨のコンフィが具のサンドイッチはこれまでに出合った記憶がない。どんなふうに挟まれているのだろう? 気になった。

それで後日、早速ランチに出かけた。

すると、鴨肉は完全にほぐされ、レモンの塩漬けコンフィにオリーブ、ハリッサなどと和えて、ほぼペースト状になったものがチャバタに挟まれていた。パニーニメーカーでカリッと焼き上げ出てきたそれは、初めての味で、鴨のコンフィは好きだし気が向けば食べるのに、全然馴染みのないものに感じられた。でもその感覚は、体験したことがあった。昔、高校時代に友人の家で夕食をご馳走になったとき、カレーだったか肉じゃがだったか忘れたけれど、思いがけない具が入っていて(ちくわだったかなぁ)、初めて食べる料理くらいにはじめましての味に思えたのだ。友人のお母さんが「うちはよく入れるのよ」と言うのを聞いて、このおうちの味はこれなんだなぁと、心の中で、実は結構衝撃を受けたのを思い出す。ブッフ・ブルギニヨンも、豚肉のコンフィも、きっと『ジョニー・ドウィッチ』の味になってサンドイッチに挟まれているのだろうと思ったら、やっぱり食べてみたい。

日本だと挽き肉が売っているし、豚肉をほぐして使うという発想があまり日常的ではない気がするけれど、じっくり煮込んでほぐして使うなら、作り置きにとても良さそうだ。レパートリーも広がりそうで、私は、すぐにでも作りたい気持ちが高まっています。 川村明子
日本だと挽き肉が売っているし、豚肉をほぐして使うという発想があまり日常的ではない気がするけれど、じっくり煮込んでほぐして使うなら、作り置きにとても良さそうだ。レパートリーも広がりそうで、私は、すぐにでも作りたい気持ちが高まっています。

豚肉のコンフィは、肩甲骨肉をビールで7時間ほど低温でじっくり火を入れ、ひと晩置いてほぐしたものを、白キャベツの千切りと一緒に、パニーニ形に成形したバンで挟んでいた。コンフィの言葉から想像するにこってりしていそうだけれど、肩甲骨肉は脂身がとても少なく、ほぐした段階でだいぶパサパサしているらしい。だから、マヨネーズを少しとチェダーチーズを加えて、全体を繋いでいる。それでもまったくくどさはなくて、むしろさっぱりした食べ心地だ。それには、コリアンダーと青唐辛子、ライム、ニンニクにオリーブオイルを注いで作るモジョ・ソースもひと役買っているのかもしれない。
あと、バンの歯応えの軽やかさも大きいだろう。ともかくとても食べやすくて、家でも作ってみたいと思った。ビールの煮込みって試してみたいとだいぶ長いこと思いながら(それで賞味期限を過ぎてしまったビールが我が家にはある)一度もやってみたことがないのだ。まとめて作っておけばいろいろ応用が利きそうだし、サンドイッチの具にするにも、ハムよりバリエーションができそうな気がする。家庭料理を元にした具材って、こういう転換がどんどん思いついて楽しいよなぁ。

これが本誌で紹介したタレッジョサンド。チーズとしてタレッジョを選んだのは、クリーミーかつ風味のしっかりしたものではなく、マイルドなものにしたかったからだそう。 川村明子 | これが本誌で紹介したタレッジョサンド。チーズとしてタレッジョを選んだのは、クリーミーかつ風味のしっかりしたものではなく、マイルドなものにしたかったからだそう。
これが本誌で紹介したタレッジョサンド。チーズとしてタレッジョを選んだのは、クリーミーかつ風味のしっかりしたものではなく、マイルドなものにしたかったからだそう。
タレッジョサンドのチーズ以外の具を合わせたもの。川村明子 | タレッジョサンドのチーズ以外の具を合わせたもの。
タレッジョサンドのチーズ以外の具を合わせたもの。

ほとんどのサンドイッチが売り切れてしまっていた日に買った、タレッジョ(チーズ)のバゲットサンドもまた、単なるチーズサンドとは異なっていた。さっとゆがいたほうれん草に、エシャロットのコンポートとりんごを合わせており、くるみも少し。火を通した青菜のミネラルがぎゅっと詰まったような味と、果実の甘酸っぱさがマイルドなチーズに程よく絡み、ほっとして食べているうちに元気になるおいしさだった。白ワインのお供にも相性が良さそうだ。何より驚いたのは、具を挟んだバゲットをパニーニメーカーで焼くことだ。たしかに、とても香ばしくておいしい。

それにしても、バゲットをパニーニメーカーに置いて焼くのは、やっぱり斬新だと思う。 川村明子 | それにしても、バゲットをパニーニメーカーに置いて焼くのは、やっぱり斬新だと思う。
それにしても、バゲットをパニーニメーカーに置いて焼くのは、やっぱり斬新だと思う。
蓋をして焼くのに、意外にもバゲットは潰れない。バゲット、すごいな。 川村明子 | 蓋をして焼くのに、意外にもバゲットは潰れない。バゲット、すごいな。
蓋をして焼くのに、意外にもバゲットは潰れない。バゲット、すごいな。

それでもこの店で人気なのは、煮込み料理やコンフィを元にした具のサンドイッチだという。時間をかけて作る料理の副産物は、やっぱりみんなにとっておいしいのだ。

『Johny Dwich』

1 rue Emilio Castelar 75012 ☎️なし 11:30~15:00 (月〜金) 、17:00~22:00 (木〜土) 日休 サンドイッチは5種類あってどれも9ユーロ。春になりテラス席が設置され、夜も営業開始。ワインとサンドイッチが楽しめる。
1 rue Emilio Castelar 75012 ☎️なし 11:30~15:00(月〜金)、17:00~22:00(木〜土)日休 サンドイッチは5種類あってどれも9ユーロ。春になりテラス席が設置され、夜も営業開始。ワインとサンドイッチが楽しめる。


文筆家 川村 明子

川村明子
パリ在住。本誌にて「パリのサンドイッチ調査隊」連載中。サンドイッチ探求はもはやライフワーク。著書に『パリのパン屋さん』(新潮社)、『日曜日は、プーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)などがある。Instagramは@mlleakiko。Podcast「今日のおいしい」も随時更新。朝ごはんブログ再開しました。

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