&STORY 名品が紡ぐ物語

愛と敬意をしたためた、〈シャネル〉のキルティングバッグ。September 27, 2026

BRAND: Chanel ITEM: Bag

愛と敬意をしたためた、〈シャネル〉のキルティングバッグ。

愛と敬意をしたためた、キルティングバッグ。

 ふたつの留め具が連なるバッグ。それは、ガブリエル・シャネルとカール・ラガーフェルドという偉大なる才能へ、マチュー・ブレイジーが贈る一通のラブレターだ。

 始まりは、1955年2月。バッグを抱えて両手がふさがってしまうことに不自由さを感じていたガブリエルは、革新的なスタイルを考案した。肩から掛けられるハンドバッグ。着想源となったのは、修道院で働く女性たちが、仕事の際にスカートをたくし上げるために身に着けていたチェーンだった。レザーには、ダイヤモンド形のキルティングを。ガブリエルが愛した乗馬の世界で目にした、ジャケットをヒントにしたものだ。ライニングは、収納したものが見つけやすく、艶めきも添えるバーガンディのレザー。7つの機能的なポケットも設えられ、なかでも「シークレット ポケット」と呼ばれたファスナー付きのポケットは、恋文を忍ばせるためのものだったという。こうして、誕生の月と年をそのまま名に刻んだ「2.55」が世に送り出された。

 男性のワードローブからインスピレーションを得て、実用性をエレガンスに取り入れる。その発想は、以来メゾンの核となった。それから約30年後、カールの手によって再解釈されたのが「11.12」。「2.55」にあしらわれた長方形のツイスト式留め具は、象徴的なダブルCのクラスプに姿を変え、チェーンにはレザーが編み込まれた。

 アーティスティック・ディレクターとしてマチューが目指すのは、この継承されてきた美意識との対話だ。この秋、提案したのは「2.55」と「11.12」が宿すDNAを再構築した新しいデザイン。ヘリテージはひとつのバッグへと結晶した。

 革は一枚ごとに色やシボの均一性、厚みまでを職人の目と手で確かめて選ばれ、縫製には「ステッチ&ターン」を採用。裏側から仕立て、最後に表に返すというメゾンの主軸である服づくりのテクニックが生かされている。

 ガブリエルはかつてこう語った。「ファッションは移り変わるけれど、スタイルは永遠」だと。それは、受け継いだ哲学を、それぞれの時代の感性で語り直していくことなのかもしれない。修道院での記憶、乗馬やスポーツへの愛、そして女性を自由にする発想。ガブリエルが残したディテールの数々が、カールによって新たなアイコンとなり、今またマチューの手へ。新作に託された想い。その先に、タバコの煙をくゆらせながら微笑むガブリエルの姿が浮かんだ。

バッグ[W25×H16×D6.5㎝]¥2,913,900(シャネル/シャネル カスタマー ケア センター 0120‒525‒519)

photo : L.A.Tomari edit & text : Aiko Ishii
※この記事は、No.155 2026年11月号「&STORY」に掲載されたものです。

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