INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
デザイン性と利便性を兼ね備えたキッチン&ダイニング。フィリックス・コンランとエミリー・スミス、奈良の小さな「森の家」ができるまで。#4June 01, 2026
Kitchen & Dining

使い手目線のアイデアに溢れるワーキングキッチン。
料理を作るのも食べるのも大好きだという二人。とりわけ週末には昼から夕方までキッチンに立って料理を作り、そのあと夜までゆっくり食事するのが楽しみだという。住まいにキッチンの占める割合が大きくなったのも、そんなライフスタイルを反映すれば当然のこと。高火力のオーブン付きガスコンロや、数多くの調理道具が整然と並ぶ様子からも、二人の料理への愛が伝わってくる。
この日は、エミリーさんが森で手に入れた紫陽花が窓辺に彩りを添えていた。自然はいつも身近にあり、暮らしとの間に境目はない。「山菜やきのこを長い歴史のなかで上手に生活に取り入れてきた文化があるのも、日本に惹かれた理由のひとつ」とエミリーさんはいう。畑で収穫した野菜や隣人の梅本さんからのお裾分け、森で収穫した様々な食材で作った保存食など、東吉野村での生活は食の豊かさも大きな魅力となっている。明るい窓に向かってたっぷりと作業スペースをとったキッチンは、採れたての野菜の下ごしらえをしたり、調理するのにぴったりだ。とはいえ、無垢の木を使った天板はカビや汚れなどのダメージが気にならないのだろうか。「ここは〝ワーキングキッチン〞。シミや跡がついても、それが暮らすということ。古い家で生活する人の多いイギリスでは、 壊れたら直す、傷がついたら磨けばいいという考え方がポピュラーです。この家ではさらに一歩進んで、汚れや傷跡さえも住まいの歴史と捉えられたら」とフィリックスさんはいう。その天板や収 納には、日本の伝統的な木組みの技法が応用して取り入れられている。なかでもスライドレールを付けずに作られた引き出しは、気密性が高く動きも驚くほど滑らか。1世紀以上前に家が建てられた当時の職人の技術や仕事は、リノベーションによって天井の梁以外は姿を隠してしまったものの、その技法はきっちりと受け継がれている。
天井に目を向ければイギリスの田舎の住宅でよく見られる吊り下げ式の物干し。紐を引いたり緩めたりして洗濯物を掛けたラックを上下させ、下の空間を有効に使うことができる。二人は干物づ くりにも活用するというから、キッチンにあって便利なアイテムだ。ダイニングテーブルは中央の板を外して鉄製の容器を入れることで鍋を囲める仕様。そしてスツールは東吉野のデザインプロダクト。吉野桧とペーパーコードの家具制作キットで作ったものだ。リビングの床に張られた吉野桧の木製タイルはそのままキッチン&ダイニングにもあしらわれ、スツールと同じ素材ならではの調和がもたらされている。
フィリックスさんのアイデアとDIY技術は、壁の収納ラックからも伝わる。乾燥させたきのこや山菜から、梅干しや梅酒、漬物、発酵調味料などまで、自家製の保存食を作ることにも情熱を注ぐエミリーさん。いきおいストックは日々増え続ける。そのために作られたのがニッチを生かしたラックで、重量のあるものにも耐えられるよう頑丈に仕立てた。食器を収納するのは、ワイヤーを使用して棚板を上下に動かすことのできるラック。スパイスは保存瓶や缶の高さに合わせたスモールラックにと、棚ひとつをとっても用途に合わせて様々。とはいえ木目の揃った無垢材を使うことで、木の持つ美しさを生かしつつ、統一感を演出している。冷蔵庫は圧迫感のない台下冷蔵庫を取り入れ、さらに扉に木目シートを張ることで空間全体のトーンを揃えているのもさりげないデザイン。叶えたい暮らしの一つひとつに向き合った結果、目に留まるものすべてにアイデアが吹き込まれたキッチン&ダイニングが生まれたのだった。
Felix Conran/フィリックス・コンラン家具デザイナー
1994年オーストラリア生まれ。 ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ在学中に起業。2018年には父と家具ブランド〈メーカー&サン〉を創業。Instagram@felixconran www.felixconran.com
Emily Smith/エミリー・スミスドキュメンタリープロデューサー
1993年イギリス生まれ。ロンドン大学キングス・カレッジを卒業後、ドキュメンタリー映画の制作に携わる。SNSで東吉野の生活を発信中。Instagram@down2forage
photo : Haruhi Okuyama text : Mako Yamato cooperation : Kazuki Nakamori (OFFICE CAMP)


























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