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ブルーグレイの記憶。心に深く寄り添う、私の一本。編集後記「誰かと語りたい、あの映画」July 17, 2026

今回の特集「誰かと語りたい、あの映画」では、78人の映画好きに聞いた「私が薦めたい」「誰かに薦められた」映画、221本が収められています。熱を帯びたアンケートの一つひとつに、一本の映画がいかに深く誰かの人生に寄り添ってきたかをあらためて思い知らされました。
そこで、私からもお薦めしたい映画をひとつ。10代の頃、何気なく出かけた地元・広島の映画館で出合った、市川崑監督の『幸福』(1981年)という作品です。
『犬神家の一族』『獄門島』など、金田一シリーズで大旋風を巻き起こしていた当時の市川崑監督。その熱狂の合間に、ふっとさりげなく公開された一作、という印象の作品です。強く惹きつけられたのは、「銀残し」という特殊なフィルム現像技法による映像美。画面全体を覆う、鈍いブルーグレイのような色調のビジュアルが、泥臭いとも思えるストーリーを不思議なほどクールに見せてくれます。
原作はエド・マクベインの警察小説『クレアが死んでいる』。物語は、殺人事件の「犯人探し」でもありますが、本作の主軸は、犯人には直接つながらないサイドストーリーにあります。男手ひとつで幼い姉弟を育てつつ、仕事にも淡々と向き合う刑事(水谷豊)の、侘しさと切なさ。そして、恋人(中原理恵)を無残に失い、狂気的なまでの悲しみに囚われていく若い刑事(永島敏行)の姿。事件を追う男たちの孤独や感情のディテールが、ブルーグレイの画の中で痛いほど胸に迫ってきます。
『幸福』というタイトル。10代だった当時の自分には、その意味がわかるようでわからないような、もどかしさが残っていました。けれど、長い時間を経て見返したいま、凄惨な事件と哀しみのなかで、彼らが求めたものが、このタイトルの真意として、少しだけわかるような気がします。
地味な作品ではありますが、ミステリーという枠を超え、人間の哀しみと愛を描き出した傑作。見終わったあと、その余韻について誰かと静かに語り合いたくなる、大切な一本です。
(編集K)





































