INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。

自ら手がけた家具が彩る、日本様式の趣を残したリビング。フィリックス・コンランとエミリー・スミス、奈良の小さな「森の家」ができるまで。#3May 31, 2026

Living

ガラス扉は玄関で、入ってすぐがリビング。奥にオイシン・バーン、ダグラス・ディアスや坂本和之らの作品が並ぶ。
ガラス扉は玄関で、入ってすぐがリビング。奥にオイシン・バーン、ダグラス・ディアスや坂本和之らの作品が並ぶ。

モダンな〝囲炉裏〞を囲む、オリジナル家具とアート。

 かくして築140年の家は梁にその面影を残しつつも、モダンな住居へと生まれ変わった。大きなガラス扉の玄関から入ってすぐにあるのがリビングだ。中央には囲炉裏をイメージした暖炉が置かれ、ダイニング&キッチンとを緩やかに区切る役割を果たしている。「かつて家の中心にあった囲炉裏は、暖房や調理場を兼ねた日本の生活の象徴。とても大切な存在として捉え、センターに置くことを決めました」とフィリックスさん。ここにも日本で受け継がれてきた生活様式を、新たな形で未来へと引き継ぐ気概が顔を覗かせる。

 「家の裏手にある柿の木は、この家のシンボルツリー。植えた人に思いを馳せ、これから先も続いていく気持ちを大切にしたくて、リビングから見える位置に窓を付けたいとリクエストしました」とエミリーさん。その窓を含め、家にはいくつもの窓が新たに設けられた。室内からも手を伸ばせば届きそうに豊かな緑を眺めれば、内と外との境目は曖昧となり、空間に広がりを感じさせている。暖炉を囲んで置かれているのはこれまでフィリックスさんがデザインしてきたソファ。左ページでエミリーさんが座る「SOFHA」は、円柱のパーツを移動させることで自由な座り方が可能。下の台を外せばローソファとなって、和室にも馴染むようデザインされている。吉野杉のブロックを組み合わせた木製タイルは、無垢材ならではの足触りのよさと、年輪を強調した意匠が新鮮。梁に吊るされた照明は、ごく薄くスライスされた吉野杉を使ったオリジナル。古くから吉野では木材を薄く削って仕立てる技術が発達しており、この地方ならではの素材と技法を用いたプロダクトだ。

 奥まったコーナーにはデスクが置かれ、ワーキングスペースとして活用。玄関の上壁には、エミリーさんのリクエストで作られた〝小さな図書館〞がある。きのこ図鑑や山菜ガイドなどの本が洋書に交じって並ぶのが微笑ましい。玄関のガラス扉は網戸が取り付けられているが、戸の両側の壁裏を戸袋に使い、扉と同じレールを共有することで、使用しないときには隠せる仕掛けも。コンパクトだからこその工夫が凝縮する空間だ。「ここでの生活は自分たちが快適に暮らすということが目標。だから困ったことや、こうしたほうがいいと思うことがあれば、フィリックスはすぐに解決方法を考えて実行します。たとえば小さな家具はすぐにDIYで作ったり。家は最初から完成するのではないから」というエミリーさんの言葉が心に響く。

 壁を彩るアートワークもまた、二人の暮らしにとって欠かせないもの。チェックのクロスに描かれた家の絵は、フィリックスさんが生まれたときからそばにあったというオーストラリアの作家、デヴィッド・バンドのアート。一緒に引っ越しを続け、ついには東吉野までやってきた、ひと際愛着のある作品だ。イギリス・バートンコートの祖父の家で、燃やされようとしていたのを救出してきたというサラダバーの試作。ダダイズム運動の創始者の一人、ジャン・アルプの版画。コンラン卿が師事したエドゥアルド・パオロッツィの彫刻。フィリックスさんが足の怪我で歩けなくなった際にオークの木に円を彫り、足が治るのに反比例して、木が乾燥してひび割れていく様子を表現した自身のアート。そして大きく存在感を放つのがビジュアルアーティスト、オイシン・バーンの絵画。村に住む友人のダグラス・ディアスや、二人がAirbnbで滞在したアトリエの持ち主で、移住のきっかけとなった画家、坂本和之の作品もある。それぞれにストーリーを持つ作品は、二人にとって装飾以上の大切な存在となっているようだ。

大きなスプーンのようなものがサラダバーの試作。その右下にある木製の作品がフィリックスさんによるもの。
大きなスプーンのようなものがサラダバーの試作。その右下にある木製の作品がフィリックスさんによるもの。
ヴィンテージの椅子に座り、デスクに向かうフィリックスさん。デスクは自身でデザインして東吉野で制作した。
ヴィンテージの椅子に座り、デスクに向かうフィリックスさん。デスクは自身でデザインして東吉野で制作した。
背もたれの円柱が前後に動く「SOFHA」は日本の暮らしに合わせてフィリックスさんがデザインした。
背もたれの円柱が前後に動く「SOFHA」は日本の暮らしに合わせてフィリックスさんがデザインした。

Felix Conran/フィリックス・コンラン家具デザイナー

1994年オーストラリア生まれ。 ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ在学中に起業。2018年には父と家具ブランド〈メーカー&サン〉を創業。Instagram@felixconran www.felixconran.com

Emily Smith/エミリー・スミスドキュメンタリープロデューサー

1993年イギリス生まれ。ロンドン大学キングス・カレッジを卒業後、ドキュメンタリー映画の制作に携わる。SNSで東吉野の生活を発信中。Instagram@down2forage 

photo : Haruhi Okuyama text : Mako Yamato cooperation : Kazuki Nakamori (OFFICE CAMP)

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