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町家のアトリエ。写真と文:原田教正 (写真家) #3June 19, 2026
今年の春、海沿いの街に借りていたアトリエを、京都のとある場所に移した。帰国中に日本で過ごす時間のなかでも、東京から遠く離れた場所で制作できる環境を探していたのだ。そんな折、数年前からお世話になっている方が借りている町家を、一緒に使わせてもらうことになった。これまで使ってきたソファやベッド、本棚や作業机、買い集めてきた写真集や陶器などをワンルームに収めて部屋をつくり、私が滞在しないときは、パートナーや家主、家主の店で展覧会を開く作家さんなどが、思い思いに使うことになった。神経質で、他人を自分のプライベートな空間に招くことがほとんどなかった私だったが、この数年で徐々に心持ちが変化してきたのか、誰かと場所をシェアするのも面白いと思うようになった。
家主の椹木(さわらぎ)知佳子さんは、京都で『Kit』という店を十数年営んでいる。私が椹木さんに出会ったのは、今から6、7年前のことだ。京都に行くと、仕事終わりに必ず立ち寄り、その日に得たお金をすべてそこで使って帰るようなことをしていた。『Kit』には、いわゆる器ギャラリーやライフスタイルショップにはない独特の雰囲気と、言葉に言い表せない物たちが並んでいて、いつも隅から隅まで目を皿にして見てきた。そうして何年か経ち、徐々に会話の機会が増え、東京でも会うようになったのはここ数年のことだ。だんだんとわかってきたことは、椹木さんは完成された美しい物を、それほど求めていないということだった。
『Kit』で扱っている作家の多くは、その経歴や活動が非常にユニークで、紆余曲折を持った人が多い。表現のあり方や人生と真正面から向き合い、格闘し、それでもいかんともしがたい思いを抱えたところから生まれてくる、何かのパーツや断片のようなものたちが、独特な陳列で小気味よく並べられている。意図的な表現の少し手前にある部分、あるいは混線して言語化できない部分を、椹木さんは大切にしているのではないだろうか。彼女自身もまた非常に興味深い経歴の持ち主で、その頭の中を覗かせてもらうと、より一層この店のことや、到底真似できない個性的な仕事の仕方に驚かされるし、妙に納得する。
そんな椹木さんが町家を借りた当初、「いつかここを整えて、誰かが制作したり滞在したり、その様子を横目で見ていたい。そういう環境が身近にあると落ち着く」と思っていたことを知ったとき、なんだか腑に落ちたような思いだった。大学のアトリエやゼミ室にも、当時そんな空気が漂っていたし、いろいろ起こったりもするのだが、日々葛藤する人だけが持つ謎の集中力や引力みたいなものが、改めて面白いなと思うこの頃だ。
写真家 原田教正




















































