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好奇心のままに作った、沖縄と金沢の宿。写真と文:室田啓介 (内見家) #4May 25, 2026

東京生まれの僕にとって、"故郷"という感覚は縁遠いものだった。沖縄出身の妻と那覇の実家に帰省するたびに、光も風も、人も建物も、すべてが日常の景色と違って見えた。「いつかは沖縄に別荘を」と夢見る僕を、「そんな余力がどこにある?」ともう一人の僕が打ち消す。その問答を何度繰り返したことか。

〈Airbnb〉の誕生が転機だった。世界中に暮らす人たちの個人的な空間に泊まれるというのは夢のようなサービスで、僕も面白そうな遊びに加わりたいと思った。これは沖縄に別荘を持つ言い訳……いや、夢を叶えるチャンスだ、と。

妻の実家近くの那覇で物件を探していたはずが、かわいい古民家に惹かれて初めて訪れた今帰仁村(なきじんそん)で、感性の針が大きく揺れた。ゆっくりと流れる時間と飾らない風景。「まだ、ここはバレてない」その直感をもとに、初めて訪れた土地でその日に家を買った。

那覇で探していたはずが、かわいらしい古民家に惹かれて初めて今帰仁村へ。これは僕がこの建物と対面した瞬間の写真だ。
那覇で探していたはずが、かわいらしい古民家に惹かれて初めて今帰仁村へ。これは僕がこの建物と対面した瞬間の写真だ。
建物全体が醸し出す”おばあちゃんの家”っぽさに感性の針が揺れ、直感で購入を決めてしまった。
建物全体が醸し出す”おばあちゃんの家”っぽさに感性の針が揺れ、直感で購入を決めてしまった。
“故郷”という感覚が縁遠かった僕に、今帰仁村のゆっくりとした時間の流れがとても魅力的に感じられた。photo:岡田和幸
“故郷”という感覚が縁遠かった僕に、今帰仁村のゆっくりとした時間の流れがとても魅力的に感じられた。photo:岡田和幸
少し坂を登れば、今帰仁村がいかに自然と共存しているのかが分かる。photo:岡田和幸
少し坂を登れば、今帰仁村がいかに自然と共存しているのかが分かる。photo:岡田和幸
数件隣でカフェ『波羅蜜』を手がける根本きこさんが、この建物を”ドラえもんハウス”と呼んでいたことを後で知った。
数件隣でカフェ『波羅蜜』を手がける根本きこさんが、この建物を”ドラえもんハウス”と呼んでいたことを後で知った。

数か月に一度、今帰仁に帰ると、友人たちが「おかえり」と声をかけてくれる。歩いて30秒先には、料理家の根本きこさんと店主の西郡(にしごおり)潤士さんが営むカフェ『波羅蜜』がある。イベント時には宿の椅子を貸し、潤士さんは焙煎した珈琲豆を宿に届けてくれる。宿の食卓には村の友人たちが集まり、遅くまで酒を酌み交わす。宿ができて早7年。今帰仁はすっかり、僕の"故郷"になった。

“宿を作る”のではなく、まずは自分自身の感覚を詰め込んだ”自分の別荘”を作り、それを宿として開放するというアプローチをとった。普通とは異なるアプローチで作られた宿は『irregular INN Nakijin』と名付けた。photo:岡田和幸
“宿を作る”のではなく、まずは自分自身の感覚を詰め込んだ”自分の別荘”を作り、それを宿として開放するというアプローチをとった。普通とは異なるアプローチで作られた宿は『irregular INN Nakijin』と名付けた。photo:岡田和幸
“ドラえもんハウス”時代からは玄関の場所を変えたものの、懐かしい雰囲気はそのまま残した。photo:岡田和幸
“ドラえもんハウス”時代からは玄関の場所を変えたものの、懐かしい雰囲気はそのまま残した。photo:岡田和幸
キッチンで僕一人飲んでいると、気付けば村の友人たちが集まって夜深くまで酒を飲み交わす。今帰仁村の子どもたちの誕生日会の場所として使ってくれたりするのもうれしい。photo:岡田和幸 | キッチンで僕一人飲んでいると、気づけば村の友人たちが集まって夜深くまで酒を飲み交わす。今帰仁村の子どもたちの誕生日会の場所として使ってくれたりするのもうれしい。photo:岡田和幸
キッチンで僕一人飲んでいると、気づけば村の友人たちが集まって夜深くまで酒を飲み交わす。今帰仁村の子どもたちの誕生日会の場所として使ってくれたりするのもうれしい。photo:岡田和幸
宿だと考えれば無駄の多いつくりをしているが、そんなことは気にしない。これは宿である前に僕の別荘なのだ。photo:岡田和幸
宿だと考えれば無駄の多いつくりをしているが、そんなことは気にしない。これは宿である前に僕の別荘なのだ。photo:岡田和幸
こんなに外から丸見えの寝室を作れるのも、今帰仁村の人の少なさならでは。photo:岡田和幸
こんなに外から丸見えの寝室を作れるのも、今帰仁村の人の少なさならでは。photo:岡田和幸

もうひとつの宿を始めたきっかけは、2021年のある日、世界の主要都市を旅してきた知人が今帰仁に訪ねてきたときのことだ。「どこでも宿をやれるなら、どこでやりたい?」と尋ねると、返ってきたのは金沢・主計町(かずえまち)という茶屋街の名だった。3か月後、僕は知人とともにその路地に立っていた。緊急事態宣言下で誰一人歩いていない夜だったのは、今思えば運が良かったのかもしれない。その街並みはまるで映画のセットのようで、「これ、映画美術の人と宿を作ったら面白いんじゃない?」と思いついた。

目の前を流れる浅野川と、桜並木にガス燈。明治時代の風情を色濃く残す主計町の街並みは映画のワンシーンのように美しく、一目で魅了されてしまった。photo:Nik van der Giesen
目の前を流れる浅野川と、桜並木にガス燈。明治時代の風情を色濃く残す主計町の街並みは映画のワンシーンのように美しく、一目で魅了されてしまった。photo:Nik van der Giesen
「この街、映画っぽいよね。」という会話から、本当に映画美術さんに声をかけ、一緒に『風知』と『空知』という2棟の宿を作ることになった。photo:Nik van der Giesen
「この街、映画っぽいよね。」という会話から、本当に映画美術さんに声をかけ、一緒に『風知』と『空知』という2棟の宿を作ることになった。photo:Nik van der Giesen
映画美術の技術なんて、当然ながらまったく自分にとって未知の領域。不動産というホビーを通じて自分の世界が広がっていく。photo:Nik van der Giesen
映画美術の技術なんて、当然ながらまったく自分にとって未知の領域。不動産というホビーを通じて自分の世界が広がっていく。photo:Nik van der Giesen
今ではすっかり映画美術さんと阿吽の呼吸ができて、空間づくりのキャッチボールを楽しんでいる。photo:Nik van der Giesen
今ではすっかり映画美術さんと阿吽の呼吸ができて、空間づくりのキャッチボールを楽しんでいる。photo:Nik van der Giesen
置かれているものそれぞれにストーリーを持たせつつ、それを自ら明かすことはしない。映画美術の世界の奥深さに対する興味は尽きそうもない。photo:Nik van der Giesen
置かれているものそれぞれにストーリーを持たせつつ、それを自ら明かすことはしない。映画美術の世界の奥深さに対する興味は尽きそうもない。photo:Nik van der Giesen

どうやら僕は"好奇心"が唯一の燃料らしい。”人生の転機”を自ら作れる不動産というホビーに、しばらくは飽きそうもない。この連載で出会った人たちも、きっと感性の針が揺れる瞬間を信じて動いた人たちだ。どこで暮らすか、何を選ぶかに「正解」はない。"縁"と"運"と"勘"。それだけを頼りに、人生は面白い方向へ転がっていく。


『ホビー不動産』代表/内見家 室田啓介

室田啓介プロフィール
2006年より東京R不動産で仲介に携わる。2024年に『ホビー不動産』を立ち上げ独立。大家業・旅館業を営み、『irregular INN Nakijin』(沖縄)、『風知空知』(金沢)を手がける。YouTubeチャンネル『ホビー不動産』での発信を通じて、資産価値ではなく「どんな暮らしをつくるか」という視点で不動産と向き合うことを提案している。

instagram.com/hobby.estate

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