MUSIC 心地よい音楽を。
ミュージシャン 原田郁子さんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.2July 10, 2026
July.10– July.16
Saturday Morning

先日、Joyce Morenoのライブを観に行った。ずっと音源を聴いてきたジョイスが目の前に現れた。青いワンピースをさらりと羽織って、白髪が混じったおかっぱが揺れる。笑顔がチャーミングで、いい歳の重ね方をしてきたんだなぁ、、と嬉しくなる。ジョイスはエレクトリックのギターを弾きながら歌った。そのタッチはとてもやわらかく、注意深く聴こうとしないと聞き取れないくらいささやかに弾く。歌うためにそっと鳴らし続けているようだけど、バンド全体のグルーヴを引っぱっていく。メンバーは皆、ジョイスと演奏できることが嬉しくてたまらない、という表情で奏でる。私は彼女の小刻みにタップする指に釘づけだった。そのうえで、語りかけるように歌う声。わぁ、、、。彼女自身がとても魅力的な楽器だった。——『Passarinho Urbano』は、一番好きで一番聴いてきたアルバムです。1曲めはカエターノ・ヴェローゾのカヴァー。音そのものに魅せられていたけれど、ある時、歌詞を調べている中で、このアルバムの背景を知った。録音されたのは、私が生まれた1975年。軍事政権下だったブラジルには厳しい言論統制があり、カエターノは逮捕、監視され、ロンドンに亡命することになる(この曲はブラジルに戻ってきてから作られたのだそう)。ジョイスは、検閲の対象となった楽曲を1曲ずつカヴァーし、ツアー先のイタリアで録音、リリースすることで、ブラジルの現状を世界に伝えた。なんという強さ、、。1曲が終わると次の曲にシームレスに繋がってゆき、アルバム全体が物語のよう。手と手を取りあっているようにも聴こえてくる。ぜひフルでゆっくり聴いてみてください。自由を求める、ジョイスの願いが込められています。
アルバム『Passarinho Urbano』収録。
アルバム『Passarinho Urbano』収録。
Sunday Night

ジョアン・ジルベルトが初めて来日した2003年、東京国際フォーラムへライブを観に行った。会場のロビーでドリンクを飲みながらドキドキする。遅れてコンサートがはじまった、途中で帰ってしまった、いろんな噂が飛び交っていて、無事に開催されるんだろうか、、とドキドキしていた。開演時間になってもはじまる気配はない。しばらくお待ちください、と言うようなアナウンスが流れる。しばらくしてまた流れる。だんだん具体的に伝えてくれる。「ただ今、アーティストは滞在先のホテルを出発しました」「向かっております」「会場に到着しました」そのたびに、拍手が沸き起こる。思いがけない時間に、少しずつ気持ちがほぐれて、高まっていく。観にきた私たちがそれぞれにチューニングを合わせながら、その時を待つ。そしてついに、、、はじまった。登場したとき。「コンバンワ」と挨拶したとき。そして、1曲め。ギターと歌声の、その音のあまりの小ささ、ささやかさに、涙が出た。ステージの上にたった一人、繊細なコードワーク、リズムで紡がれる宇宙。ある曲の演奏がおわり、ギターの残響が消えてから、ホールいっぱいに割れんばかりの拍手が響いた。だんだんデクレッシェンド、拍手が小さくなってきてやむかなと思うと、またクレッシェンド、大きく膨らんでくる。波のように。鳴りやまない拍手が降り注ぐ中、ジョアン・ジルベルトはうつむいて、「アリガトウ」というようにじっと聴いている。時間にしてどのくらいだったんだろう? 20分ぐらい?? スタッフの人が袖から出てきて、そっと肩に触れて話しかける。長い長い拍手は一際大きくなって、やんだ。、、、、、沈黙、、、、、、次の1音めに、集まった全員がまた耳を澄ます。——あの日のコンサートが、『In Tokyo』というライブ盤になって発表されました。1曲目から演奏した順番に聴くことができます(数曲と、長い拍手のシーンは収録されていませんでした)。あんなにもドキドキして、静かで、エモーショナルなライブ体験をしたことは、後にも先にもない。アルバムを聴いていても、夢だったのかなと思うほど。Obrigada!!!
アルバム『In Tokyo』収録。
アルバム『In Tokyo』収録。
edit : Seika Yajima
ミュージシャン 原田郁子

1975年福岡生まれ。1995年にミト、伊藤大助と3ピースバンド「クラムボン」を結成。歌と鍵盤を担当。バンド活動と並行して、ソロ活動、さまざまなミュージシャンとの共演、共作、舞台音楽、執筆、ドローイングなど活動は多岐に渡る。吉祥寺『キチム』の立ち上げに関わる。これまでにソロアルバム『ピアノ』『気配と余韻』『ケモノと魔法』『銀河』、2023年に詩人・谷川俊太郎との共作曲「いまここ」、アルバム『いま』を発表。2026年、二階堂和美のニューアルバム『潮汐』にプロデュースで参加。クラムボンのカヴァーアルバム『LOVER ALBUM』『LOVER ALBUM2』がアナログ盤となって発売された。






























