Quiet Corner 山本 勇樹
January 29, 2016 今月の選曲家 山本勇樹
Jan. 29 – Feb. 04, 2016
Saturday Morning

偶然、店頭で彼女の自伝を見つけて、そういえばまだ読んでいないことに気付き、すぐさま購入し、読みふけっています。そうなると久しぶりにレコードを引っ張り出して聴きたくなるもので、最近はとっかえひっかえプレーヤーにセットしています。せっかくなので、好きな曲だけ集めてプライベート用のプレイリストを作ってみようと冒頭に選んだのがこの曲でした。軽やかに弾むワルツのリズムと伸びやかな歌声。キャロル・キングのジャジーな魅力がよく表れた珠玉の名曲です。音楽の素晴らしさを純粋に歌ったきらめく旋律。「多幸感」という言葉がこれほど似合う曲をほかに知りません。名作といわれる『つづれおり』の陰に隠れがちですが、この曲が収録されたアルバムも全編通して素敵な曲ばかりです。この曲が発表されたのは1971年。僕は70年代前半のシンガー・ソングライター、とくにソウルやジャズの影響を強く受けた作品が大好きです。その中でもこの曲は最高峰かもしれないと、聴くたびに感じるのです。
アルバム『Music』収録。
アルバム『Music』収録。
Sunday Night

昨年発表されたアルバムに収められた一曲で、はじめて聴いたときはあまりの衝撃に鳥肌が立ちました。こういう感覚は久しぶりです。たしか24時を過ぎたぐらいの時間帯だったと思います。流れた瞬間、部屋の空気が変わったのがわかりました。スッと意識がどこかに連れていかれるような、そういう不思議な魅力をもった音楽です。ヴィブラフォンとスキャットはブラジルの若き奇才アントニオ・ロウレイロによるもの。林正樹さんのピアノと三位一体となるアンサンブルが圧倒的に素晴らしい。あえてひと言で表現するならば、そこにはブラジル音楽ともジャズともいえないジャンルレスな無国籍の風景が広がっています。あえていうなら東京の音楽。エレガントで洗練された趣ながらも、土着的でエスニックな香りも漂っています。過去から未来へ、自在に時空を飛び越えてしまうような力があります。実は林さんと僕は、同い年なんです。こんなにも稀有な才能をもった方が同世代にいるなんて、本当に誇りに思います。
アルバム『Pendulum』収録。
アルバム『Pendulum』収録。
『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

January 22, 2016 今月の選曲家 山本勇樹
Jan. 22 – Jan. 28, 2016
Saturday Morning

昨年いろんなライブを観ましたが、その中で最も感動したのがダイアナ・パントンでした。彼女はカナダを代表するジャズ・ヴォーカリストとして、ここ数年日本でも人気が高く、まさに待望といえる初来日公演にはぜひ、この目で観たいと友人もわざわざ遠方から訪れたほど。さて、今回ご紹介する「レインボウ・コネクション」は、言わずと知れたポール・ウィリアムスが書いた名曲で数多くのカバー・バージョンも残されています。ほっこりするようなメロディーとダイアナのやさしい歌声の相性も抜群。休日の朝にラジオからふと流れてきたら、それだけで今日一日がハッピーになるような不思議な魅力があります。この曲が収録されたアルバムのジャケットは、絵本のように可愛いので思わず手が伸びます。そうそう、つい先日アナログ盤の発売も決まったみたいです!
アルバム『I Believe In Little Things』収録。
アルバム『I Believe In Little Things』収録。
Sunday Night

ピアノとチェロによる音の対話、クラシカルでシネマティックな音像、余白と余韻、隅々まで美学が行き届き、時が止まるような静けさに満ちています。この曲が収録されたアルバムは、「沈黙の次に最も美しい音」というコンセプトを掲げるドイツの名門ECMから発表されています。もちろんアノニマスなアートワークも素晴らしい。ECMの作品には演奏がはじまる前に、ほんのひとときの無音部分が用意されています。以前、音楽家の伊藤ゴローさんは、そのことについて「ECMのすべてを物語っている」と語っていました。たしかにこの沈黙は聴き手を、どこか特別な場所へ連れて行ってくれるような気がします。夜空のむこうに明日が見える前に、そっと耳を傾けてみたくなります。
アルバム『Night Song』収録。
アルバム『Night Song』収録。
『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

January 15, 2016 今月の選曲家 山本勇樹
Jan. 15 – Jan. 21, 2016
Saturday Morning

彼らの音楽とはじめて出会ったのは、確か6、7年前だったと思います。きっかけは、音楽ライターの栗本斉さんがアルゼンチン音楽をコンパイルしたCD『オーガニック・ブエノスアイレス』でした。透明感あふれる音色と浮遊感ただよう旋律。それはジャズやブラジル音楽とは異なる風合いで、今までに体験したことがない感覚でした。2005年に発表された『水の光』と題されたアルバムはとにかく珠玉の内容で僕のまわりでも人気がありますが、なんと昨年、10年ぶりの続編が届けられました(国内盤がバー・ブエノスアイレス・レーベルから)。この曲はそこに収められた一曲です。きらきらと輝くピアノはセバスティアン・マッキ、そしてそよ風のように優しいパーカッションはカルロス・アギーレです。
アルバム『LUZ DE AGUA : Otras Canciones』収録
アルバム『LUZ DE AGUA : Otras Canciones』収録
Sunday Night

その名も「夜の音楽」。フランスのチェロ奏者のヴァンサン・セガールと、アフリカのコラ奏者のバラケ・シソコによるデュオ演奏です。コラとは別名アフリカン・ハープと呼ばれる民族楽器で、僕も一度、彼らのステージを観たことがありますが、武骨で大きな姿からは想像できない繊細で美しい音色に驚き、感動しました。これがチェロと互いに響き合い、独特で神秘的な音楽になるのです。民族音楽とクラシックとジャズの要素が絶妙に溶けあった新しい室内楽といってもいいでしょう。こちらはアルバムの冒頭を飾る曲。心を鎮めたい時、気持ちを穏やかにしたい時によく部屋で流します。そういった意味では日曜の夜のBGMとして十分に相応しい音楽かもしれません。
アルバム『Musique De Nuit』収録
アルバム『Musique De Nuit』収録
『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

January 08, 2016 今月の選曲家 山本勇樹
Jan. 8 – Jan. 14, 2016
Saturday Morning

2015年に一番聴いたアルバムといったら大げさかもしれませんが、それでもベスト5には入るのは間違いないです。なかでもこの「Current Carry」は、ほのぼのした雰囲気で休日の朝によく似合うと思います。ヴェティヴァーはアンディ・キャビックというシンガー・ソングライターを中心としたアメリカのバンドで、決して有名とはいえませんが、僕のまわりでは熱狂的なファンが多い。2013年にデヴェンドラ・バンハートと一緒に来日した際は満を持して観に行きましたが、まるで70年代のシンガー・ソングライターが目の前にいるようなサイケデリックな風貌に魅了されました。とはいえ、DJ的なクラブ・サウンド以降のセンスも感じられ、他にはない希有でエヴァーグリーンな音楽であることもたしかです。
アルバム『Complete Strangers』収録
アルバム『Complete Strangers』収録
Sunday Night

静かな夜には穏やかな音楽を。イノセンス・ミッションはペンシルベニア州を拠点に夫婦で活動しているバンドです。「Stay Awake」といえば映画『メリー・ポピンズ』の劇中歌としてよく知られていますが、こちらのバージョンもそのシーンを思わせる愛らしい一曲です。少女の面影を残した歌声と控えめでありながら温もりあふれる伴奏には、ハンドメイドのような手触りがあります。子どもの頃に耳にした懐かしいメロディが記憶の奥のしまいこんだ風景を呼び起こします。この曲は昨年、彼らのキャリアを振り返りながら大好きな曲を集めて編んだ『The Innocence Mission For Quiet Corner』にも、もちろん収録しました。そしてアートワークはボーカルのカレン・ペリスによる描きおろしです。
アルバム『The Innocence Mission For Quiet Corner』収録
アルバム『The Innocence Mission For Quiet Corner』収録
『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

January 02, 2016 今月の選曲家 山本勇樹
Jan. 1 – Jan. 7, 2016
Saturday Morning

土曜日の朝、穏やかな冬の光に包まれて、丁寧に淹れたコーヒーとともに聴きたい音楽があります。カナダのシンガー・ソングライター、ブルース・コバーンによる「ハッピー・グッド・モーニング・ブルース」(タイトルも素敵です)。淡々と爪弾かれるアコースティック・ギターとジェントルな語り口、後半のマウスペットにも素朴な雰囲気が感じられますが、凛とした佇まいからどこか知的で哲学者のような表情ものぞき見られて魅力的です。まさに雪景色を映したモノクロ・ジャケットそのままの世界観とでもいいましょうか。なぜか寒い国には心を惹かれる音楽が多い気がします。ジョニ・ミッチェル、トニー・コジネク、ロン・セクスミス、ダイアナ・パントン……。そう、みんなカナダ出身なのです。
アルバム『High Winds White Sky』収録
アルバム『High Winds White Sky』収録
Sunday Night

日曜日の夜にどんな音楽を流しますか? 仕事柄、こうして毎日大量に音楽を浴びていると、自然と静かなレコードやCDに手が伸びてしまうというか、身体が欲しているわけですが、このビル・エヴァンスの曲もそんな精神安定剤のような存在です。もちろん「ワルツ・フォー・デビー」や「ポルカ・ドッツ・ムーンビームス」のような有名なトリオ曲でもよいわけですが、やはりこのクラウス・オガーマンが手がけた流麗なオーケストレーションとの共演は格別です。フォーレ、スクリャービン、バッハやショパンに並んでいてもまったく違和感のないオリジナルの「マイ・ベルズ」。澄んだピアノの音色とたおやかな弦の響きは、英国製のナチュラルな音を鳴らすスピーカーQUAD社のブックシェルフ型のスピーカーがよく似合います。できれば小さな音量でぜひ。
アルバム『Bill Evans Trio with Symphony Orchestra』収録
アルバム『Bill Evans Trio with Symphony Orchestra』収録
『&Premium』特別編集
『&Music/土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ 』 好評発売中。

Quiet Corner 山本 勇樹

HMV本部でワールド/ジャズを統括後、現在は〈HMV&BOOKS TOKYO〉で音楽バイヤーを担当。多数のCDの選曲やライナー・ノーツを手がけ、2010年より音楽文筆家の吉本宏氏と共に〈bar buenos aires〉を主宰しCDの制作やライブの企画を行う。2014年にディスクガイド『Quiet Corner』(シンコーミュージック)を刊行。またUSEN550にて同チャンネルの選曲も手掛ける。2015年には文具メーカー〈DELFONICS〉とコラボレーションしてコンピレーションを発表。