TALK あの人が語るベターライフ。

「走馬灯に出てこないような日常のささやかさに目を向け、言葉を綴り続ける」。作家・朝吹真理子さんが語る、エッセイ『信号旗K』に込めた想い。July 27, 2026

「走馬灯に出てこないような日常のささやかさに目を向け、言葉を綴り続ける」。作家・朝吹真理子さんが語る、エッセイ『信号旗K』に込めた想い。

2011年に『きことわ』で芥川賞を受賞して以来、小説からエッセイ、アートまで幅広い表現活動を行っている作家の朝吹真理子さん。雑誌『GINZA』で連載していたアーティストやファッションデザイナーなど各界で活躍するゲストとの対談に加え、新たに音楽家の青葉市子さんとのトークを収録し、5年ぶりのエッセイ『信号旗K』を刊行した。この本に込めた思いや、日々の「ベターライフ」のために大切にしていることについて、話を聞いてみた。

対談相手とのこぼれおちそうな時間や出来事を記録していきたい。

音楽家・細野晴臣さん、作家・村田沙耶香さん、ファッションデザイナー・黒河内真衣子さん、情報学研究者・ドミニク・チェンさんをはじめ、年代、ジャンルが多岐にわたる各界のゲストを訪ねた記録的対談エッセイ『信号旗K』。旧友から、はじめましての人とのトークが詰まっている。朝吹さんと各ゲストとの出会いもさまざま。偶然出会った時の状況やきっかけを大事にすることで関係を進めていくのだという。

例えば、もともと〈マメ クロゴウチ〉の洋服が好きでよく着ていたという朝吹さんは、今ではデザイナーの黒河内さんのことを「まいちゃん」と呼ぶほど仲がいい。対談前から旧友だった彼女との出会いは、ひょんなことから。「10年以上前、絶対にまいちゃんが普段来ないような大所帯のご飯会で、偶然隣の席になって意気投合したんです。翌々日には二人で一緒に京都に行くことになっていました。不思議ですよね。私がコロナになった時にも、フリスビーを投げ込むみたいにして、ローソンの『どらもっち』を届けてくれたりして。『どらもっち』を見かけるたびに、まいちゃんが来てくれたことを思い出すんです」

こんなふうに彼女が綴るゲストとの「食」の描写は鮮やかで、目の前に当時の情景が浮かぶ。

家族ぐるみで親交があるというドミニク・チェンさんとはこんなエピソードも。
「私がすごく元気がない日に大量に蒸してくれた一口サイズの肉まんを娘のソフィアちゃんと食べたり、チェン家で代々レシピが受け継がれ変わっていくネム(ベトナムの春巻き)を食べたり……。死ぬ時に思い出したいことって、いわゆる走馬灯に出てきそうな大きな事件や抑揚のあるできごとよりも、本当にささやかなことばかりを思い出したい気がします」と語る制作の原点は、消えて忘れてしまうような日々の記憶を書き留めることだという。

「誰かと過ごしたことを書いて本にするというのは、暴力的なことだと思っています。"書かれる"ということは思っていたことと違うことを書かれるかもしれないし、私も相手のことをわかったとは思えません。でも、ゲストの方が許してくださったのが、とてもありがたいことだなと思っています」

「走馬灯に出てこないような日常のささやかさに目を向け、言葉を綴り続ける」。作家・朝吹真理子さんが語る、エッセイ『信号旗K』に込めた想い。

「私はあなたと交信したい」という意味が込められた"信号旗K"をタイトルに。

「瀬戸内海の島を巡っていた時に、とある土産物店で見つけたのが『信号旗K』と書かれたピンバッジだったんです。最初は『どこかの国の国旗かな、かわいいな』くらいに思っていたのですが、実は全然違い、船舶信号というものがあることをその時に知ったんです。思い返せば、本を出すことは、誰かと交信したいと願いながら、一艘のとても小さな笹舟を海に流すような感覚があります。読み手としても、本屋に行けば、エミリー・ディキンソンの船(=本)もあれば、大江健三郎の船もあって。自分が手にしたいと思った時に、その一艘の船と信号を交わすことができるんですよね。その船の作家が今も生きていらっしゃるかどうかは関係なくて、本を開いた瞬間から言葉が生き始めるんです。私の本を海に流したとき、誰かが偶然拾ってくれたらいいなと思います」

タイトルである『信号旗K』に込められた「あなたと交信したい」という意味の中には、彼女の「みんなのことを知りたい」という他者への好奇心と愛が背景にあるようだ。

「走馬灯に出てこないような日常のささやかさに目を向け、言葉を綴り続ける」。作家・朝吹真理子さんが語る、エッセイ『信号旗K』に込めた想い。

For Better Life
「ベターライフのために大切にしていることはありますか?」

「走馬灯に出てこないような日常のささやかさに目を向け、言葉を綴り続ける」。作家・朝吹真理子さんが語る、エッセイ『信号旗K』に込めた想い。

&Premiumが大切にしている「Better Life(より良き日々)」。それを叶えるためのヒントを朝吹真理子さんに聞いてみました。

「お気に入りのリップを塗ること」:毎日お気に入りのリップを複数本持ち歩いています。ケアには〈ユリアージュ〉のリップを、友人からもらった〈ドリス ヴァン ノッテン〉や〈トム フォード〉のリップもお気に入りで、ずっと使い続けています。大きめのポーチに入れて持ち運んでいるのですが、友人がつくってくれたバッグに直接つけられるリップホルダーが、どんな形のリップにもフィットするので愛用しています。

Book Information『信号旗K』

「走馬灯に出てこないような日常のささやかさに目を向け、言葉を綴り続ける」。作家・朝吹真理子さんが語る、エッセイ『信号旗K』に込めた想い。

音楽家・江崎文武さん、写真家・高木由利子さん、アーティスト・毛利悠子さんなど、各界のゲストを訪ね、語り合ってきた『GINZA』での連載<信号旗K>。書籍化にあたって、新たに書き下ろした音楽家・青葉市子さんへの訪問パートを含め、全32編が収録されている。

著者:朝吹真理子
出版社:マガジンハウス
価格:¥3,300

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朝吹 真理子 Mariko Asabuki作家

1984年、東京生まれ。2009年に『流跡』でデビュー。2010年に同作でドゥマゴ文学賞を最年少で受賞。2011年『きことわ』で芥川賞を受賞。他に小説『TIMELESS』や、エッセイ集としては『抽斗のなかの海』、『だいちょうことばめぐり』など。今年8月には新潮社から「岡山芸術交流2025 青豆の公園」の公式カタログとして300部限定の短編小説『閉じた目』を、9月には河出書房新社から新作小説『ゆめ』を刊行予定。

instagram.com/mariko_asabuki

衣装協力:パジャマシャツ ¥82,500(MA déshabillé/info@ma-deshabille.com)

photo : Shinnosuke Yoshimori

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