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料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。August 22, 2026

〈イデー〉で出会って約30年。長年親交を深めてきた料理人の野村友里さんと、家具デザイナーの河野俊介さん。オリジナルスツールをともに制作した二人に、スツールを「つくる、選ぶ、使う」うえで大切にしていることを聞きました。

「ちょっと腰掛ける」自由さが魅力。 人が集まる、境界線のない家具。

河野俊介(以下、河野) スツールの定義って、基本的には「ちょっと腰掛ける」ための家具なんだよね。背もたれがあってどっしり座る椅子とは違う。でももちろん椅子としても使えるし、サイドテーブルにもなる。だからこそ「多機能であること」がすごく大事かな。
野村友里(以下、野村) スツールって立ち座りが楽で、人の動きを軽くしてくれる存在だなって思うの。河野くんは普段どんなスツールを使っているの?
河野 いろいろ持っているけれど、結局アメリカの〈リオン〉のファクトリーチェアが実用的だなって思う。100年近く前からある老舗ブランドで、学校のスチールロッカーとか、向こうの工場では当たり前のように使われている日常的なプロダクトなんだけど。必要に応じて背もたれやクッションをオプションで付けられる汎用性があって、値段もリーズナブル。軽さと強度を併せ持っていて、道具としての機能が完璧に成り立ってる。
野村 たしかに、シンプルで多機能だからこそ生活の中にすっとなじむものね。
河野 あとは、バウハウス出身のマックス・ビルが手がけた「ウルムスツール」もやっぱり素晴らしい。座るだけでなく、サイドテーブルや持ち運びできるシェルフにもなる多機能さがあって、丈夫で軽い。組み継ぎの構造部分そのものがデザインのアクセントになっていて、機能と見た目の美しさが同居しているなと感じる。アンティ・ヌルスミニエミのサウナスツールもサウナ用として汗が落ちるようにきちんと座面が設計されていて、その佇まいが美しいんだよね。
野村 私は家でもお店でも、カウンターとスツールの関係が昔から好きで。記憶を辿ると、昔の『CAFFÈ@IDÉE』(90年代、野村さんが働いていた南青山のカフェ)で使っていた「ローバックハイスツール」に行き着くの。少しだけ背があって座面にクッションがあって、スツールというよりは“背の高い椅子”という印象だった。カウンターに「よいしょ」って乗る感覚なんだけど、一度座るとすごく落ち着いて。そこからスツールという存在が気になり始めたかな。
河野 友里ちゃんの家のカウンターでも『eatrip soil』用に作ったスツール使ってくれているよね。
野村 そう。隣に大きなダイニングテーブルがあっても、みんないつのまにかカウンターに集まって、スツールに腰かけて飲んだり食べたりしてる(笑)。対面でなく横並びの関係っていいなと思っていて。目を合わせないことでふだん言いにくいことや、大事なことも不思議と喋れちゃうことがあるの。「大事なことは車の座席で」という言葉もあるくらい。それにお店でカウンター&スツールがある空間だと一人でもずっと座っていられるから、店と客の距離感もいい。あとね、スツールってギフトにも最高だと思うの。贈られた人が自由に用途を決められるでしょ。
河野 椅子ほど限定されないし、どう使ってもいいし、どこにでも置けるしね。
野村 アフリカで「壺」が水や食べ物を入れる道具であり、楽器でもあり、最後は自分の棺桶になるような……生活道具の中で境界線が曖昧なものってすごく愛おしい。用途を限定しないスツールも、その自由なところがちょっと似ている気がしていて好きなのよね。

料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。 | 右は野村さんの店『eatrip soil』で7年ほど使用しているスツール。左は新作の「eatrippe」。経年変化を楽しめる素材を重視した。
右は野村さんの店『eatrip soil』で7年ほど使用しているスツール。左は新作の「eatrippe」。経年変化を楽しめる素材を重視した。
料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。 | アメリカの老舗家具メーカー・リオン社製のスツール。無骨なスチールフレームと高い耐久性で、使い方を選ばないデザインが魅力。
アメリカの老舗家具メーカー・リオン社製のスツール。無骨なスチールフレームと高い耐久性で、使い方を選ばないデザインが魅力。
料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。 | フィンランドのデザイナー、アンティ・ヌルスミニエミによるサウナスツール。美しい木目と曲線美、水はけに優れた座面が特徴。
フィンランドのデザイナー、アンティ・ヌルスミニエミによるサウナスツール。美しい木目と曲線美、水はけに優れた座面が特徴。
料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。 | ブラジルのモダンデザインを牽引した建築家兼デザイナー、セルジオ・ロドリゲスの「モショ・スツール」。オリジナルスツール制作の際、取っ手を参考にした。
ブラジルのモダンデザインを牽引した建築家兼デザイナー、セルジオ・ロドリゲスの「モショ・スツール」。オリジナルスツール制作の際、取っ手を参考にした。
料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。 | バウハウスの思想を継ぐマックス・ビルがデザインした「ウルムスツール」はシンプルな木製構造で椅子や棚など、多用途に活躍する。
バウハウスの思想を継ぐマックス・ビルがデザインした「ウルムスツール」はシンプルな木製構造で椅子や棚など、多用途に活躍する。

使い込むほど、美しく育つ。 将来のヴィンテージになるスツール。

河野 以前『eatrip soil』用に作ったスツールは、もう7年くらい経ってすごく良い経年変化をしてるよね。この座面はメープルで、脚はタンニンで黒く酸化させたもの。ウレタン塗装ではなくオイル仕上げだから、使い込むほどツヤや深みが出て味わいが増していく。
野村 ほんとうに良い色に育ってる!
河野 最初は「どの方向からでも座れるように」って、石ころや岩みたいな有機的な形からスタートしたよね。もしかしたら覚えてないかもしれないけど、僕が〈イデー〉にいた25年くらい前、友里ちゃんが「河野くん、こういうの好きだと思うよ」って、ヨーガン・レールさんの『ZOMO』という写真集をくれたことがあって。そこには石や風紋、山や海から生まれた模様、自然が作る風景が広がっていて、すごく感動して。
野村 あ! 覚えてる(笑)。ヨーガン・レールさんの世界観、本当に素敵だったよね。思い出してきた、あの本すごく好きだった。
河野 友里ちゃんと「食」や「集う場」をどう解釈してスツールに落とし込むかと考えたとき、その本が頭の片隅にあって、まず「石ころ」からイメージしたんだよね。特定の正面を作らず、どこからでも自由に座れる、大きな岩の上に腰かけているような感覚がいいんじゃないかって。
野村 確かに、最初は方向性を持たせないデザインから始まったよね。
河野 でも実際に使ってみると「もう少しお尻の座りが良いほうが落ち着くね」という話になって。今回の「eatrippe」のスツールは、伝統的なシューメーカーチェアーにある窪みと出っ張りをもっとつけるようにしました。凹凸があると、やっぱり座りやすいので少しずつお尻にフィットする形状へと方向性を調整して、すごく良い塩梅に仕上がったよね。
野村 うん、すごくいい感じ! 座面の「削り」の深さや形状もかなり議論したね。座面が平らならディスプレイ台としても使いやすいし、サドルみたいに小さく薄い方が見た目は可愛いかもしれない。だけど、お店や家で長時間座っていると疲れちゃうから。
河野 最初のアイデアから、お尻のラインに沿うフィット感を追求した結果、座面の大きさを従来より約1.2倍ほど大きくして。高さもほんの気持ち程度低く設定し直しました。
野村 お店で長年使ってきた体験をベースに、さらにアップデートしたので、かなり座りやすいと思う。今回は多機能さより「長時間の座り心地」をいちばんに大切にしたのよね。
河野 座面の取っ手は、ブラジルの建築家セルジオ・ロドリゲスのスツールから着想を得て、持ち運びやすいように。
野村 片手でサッと移動できるのが本当にラク。見た目もアイコンっぽくて可愛いデザインになった。 あと、今回の木材はすべて「食べられる木(実がなる木)」で揃えているのが嬉しい。
河野 友里ちゃんと作るから、やっぱり“食”を意識して、ワインの樽になるオーク、ウォールナット、チェリー、メープルとか、実がなる広葉樹を選びました。国内の材木屋さんで、そのとき採れる材を余すことなく使えるように設計したから木材の無駄が出ないし、コスト的にも適正価格に抑えられた。日本の伝統的な、ほぞ組のような木工技術を取り入れていて、ネジや釘などの金具を一切使っていないのも特徴かな。
野村 木の命を無駄にしないって大事よね。特に広葉樹は育つまでに何十年もかかるから。家具づくりも食と同じように素材から考える時代だと思っているの。私たちが共通して惹かれる素材って、使い込むほどに味わいが出て、汚れや傷も「味」になっていくもの。自然素材であり、経年変化を楽しめるものが好きよね。
河野 年を重ねるごとに自然素材への愛着が増していくのは、土に還りたい気持ちが増しているのかな(笑)。シェル・シルヴァスタインの『大きな木』って絵本があるでしょう。その最後に、おじいさんになった男の子が切り株にちょこんと座るんだけど、理想のスツールって何だろうって考えたときに、物語の素晴らしさも相まって、“切り株”かもしれないと。究極のスツールは自然界にあるもの。これがもっとも素直な腰掛けなのかもしれないなって。
野村 素敵な話。自然素材に囲まれて暮らすって、簡単そうで意識しないとできないこと。木は長く使えて、使い込むほど変化して、人間を支えてくれる。そして最後は土へ還る。そんな素材だからこそ、100年後に誰かがこのスツールを手にしたとき、「100年前のものだけど、こんなにいい味になってるんだ」って思ってもらえるものになったらいいよね。自分が作りたいものも選びたいものも、使うほど美しく育っていく「将来のヴィンテージ」になるもの。そういうものを身の回りに置きたいって思っています。

料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。 | きれいな形の石からインスピレーションを受けてデザインされた座面。オーク、カエデ、クルミ、サクラなど実のなる材を取り入れた。
きれいな形の石からインスピレーションを受けてデザインされた座面。オーク、カエデ、クルミ、サクラなど実のなる材を取り入れた。
料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。 | 「以前のものより座面は少し大きめにしたこと、凹凸をつけたことで長時間座っても快適に過ごせるようになっています」と野村さん。
「以前のものより座面は少し大きめにしたこと、凹凸をつけたことで長時間座っても快適に過ごせるようになっています」と野村さん。
料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。 | 「ウルムスツール」の組み継ぎのように、座面と脚の部分の木をはめ込んで、木材の膨張を利用して強度を高めた。
「ウルムスツール」の組み継ぎのように、座面と脚の部分の木をはめ込んで、木材の膨張を利用して強度を高めた。
料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。 | 子どもへの読み聞かせの中で知ったシェル・シルヴァスタインの『大きな木』。「究極のスツール」は自然界にあるのかもと河野さん。
子どもへの読み聞かせの中で知ったシェル・シルヴァスタインの『大きな木』。「究極のスツール」は自然界にあるのかもと河野さん。
料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。 | 『大きな木』は無償の愛や幸福の本質を問いかける普遍的な物語。左は、野村さんが河野さんに贈った写真集『ZOMO』。
『大きな木』は無償の愛や幸福の本質を問いかける普遍的な物語。左は、野村さんが河野さんに贈った写真集『ZOMO』。

Information「eatrippe」スツール

料理人・野村友里さんと家具デザイナー・河野俊介さんが語る、スツールの楽しみ。 | 「ウルムスツール」の組み継ぎのように、座面と脚の部分の木をはめ込んで、木材の膨張を利用して強度を高めた。

野村さんと河野さんが共同で制作したオリジナルスツール「eatrippe」¥69,300。サイズは、W52×D43×H63cm。東京・表参道『eatrip soil』、祐天寺の『babajiji house』にて実物をご覧いただける予定です。ご注文は『YES SHOP』インスタグラムのDMにて承ります。

詳しくはこちら

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野村友里料理人

料理人。フードクリエイティブチーム〈eatrip〉主宰。料理にまつわるさまざまな活動をしながら、東京・祐天寺でレストラン『babajiji kitchen』、東京・原宿でグローサリーショップ『eatrip soil』を営む。著書に『とびきりおいしいおうちごはん』『とびきりおいしい おうちおやつ』(ともに小学館クリエイティブ)など多数。

babajiji.com

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河野俊介家具デザイナー

家具デザイナー、〈WRIGHT〉代表。1976年、神奈川県生まれ。〈イデー〉を経て、店舗や宿泊施設などのオリジナル家具や什器を手がける。東京・駒場に国内外のヴィンテージアイテムを扱うショップ『In a Station』を共同主宰。

in-a-station.com/top

photo : Shinji Harada text : Chizuru Atsuta

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