TALK あの人が語るベターライフ。
「“ただ生きている”という姿を映せたことは、人間らしくていいなって」。俳優・岸井ゆきのさんが語る、映画『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』のこと。June 24, 2026

吉本ばなな原作の短編小説を映画化した『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』。台湾の次世代を担う俳優のツェン・ジンホアとともに主演を務めるのは、俳優の岸井ゆきのさん。あらゆる役を変幻自在に生きる彼女が、どんな表情を見せてくれるのか? 今作への思いや撮影時のエピソードを聞いてみた。
喪失感からの再生をつぶさに描き、
自分を慈しむことの大切さを静かに語りかける作品。
今作は岸井さんにとって初めて、台湾と日本との合作映画。監督と数人を除くほとんどが台湾のクルーで、現地に3週間近く滞在して撮影を行ったそう。
「もともと合作映画に興味がありましたし、監督が日本人ということで、すんなり挑めました。言語や文化の違いはあったものの、作品を撮るという共通の目的があったので、大きな壁はなかったです。けれど正直、役作りには苦心しました。ちづみという女性は最愛の母を亡くし、大きな喪失感を抱えながらも、うわべだけは凪いでいる。独特の世界観やキャラクターを映画でどう表現するか? 明確な答えが見つからないままクランクインを迎えました。でも、そのわからなさこそがちづみらしいし、私の心情ともリンクしていたので、現場で感じたことを大切に、還元するように演じました」
好きなものがたくさんあったはずなのに、しわしわの風船みたいに萎んでしまったちづみの心を膨らませるきっかけになったのが、ツェン・ジンホア演じるシンシンとの出会い。
「クランクイン前の“はじめまして”の時、自ら光源を持っているのでは? と疑うほど、キラッキラの笑顔で挨拶してくださって。『ジンホアさんがシンシンなら大丈夫だ』と確信しましたし、それでいてものすごく真面目で努力家で、誠実に台本と向き合う方。ほとんどが日本語でのシーンゆえ、相当ハードだったと思うのですが、撮休日も日本語を自主練していて。ちなみに、雨のシーンでは、ちづみが濡れないようにと、シンシンが手で雨をしのぐシーンがあるのですが、じつは彼のアドリブ。劇中にも、そういった真摯な姿が現れています」
心の奥底に追いやった感情のやり取りによって、2人は言葉を超えて共鳴していく。そこからちづみが再生するまでの心の行き来を、ゆっくりじっくり描き出す。
「ちづみは、東京の自宅ではもちろん、せっかく台湾まで来たのに寝てばかりいるし、外出したかと思えばすぐ部屋に戻って休んじゃう。生活ってすべてに意味やメッセージがあるわけではないし、簡単には心の回復なんてできない。風が吹き、鳥がさえずり、電車が走るその中で、繊細な心の揺れとともに“ただ生きている”という姿を映せたことは、人間らしくていいなって」

“あるがままの私”を肯定してもらえるセリフに注目してもらえれば。
ちづみがひとりで台湾を訪れたように、岸井さんも旅が大好き。ちづみのような感情になったときは、どうやって乗り越えているのだろうか。
「ひとつの作品を終えると、喪失感に似た感覚が生まれることがあります。その時はどこか遠くへ行くしか、今のところ方法がないんです。私の場合、かつてはその喪失感を隠し持ったまま、守るようなことをしていました。でも、そのままどん底まで落ち、足元の感触を確かめてからじゃないと、思考も体も浮上できないと、最近になってやっとわかってきたところです」
日常の小さな世界を丁寧に描き、自分を慈しむことの大切さを静かに語りかけるこの作品。ちづみを演じたからこそ伝えたいメッセージとは?
「生きていると仕事も人間関係もがんばらないといけないし、ときには見栄を張らなきゃいけない時も。そうやって踏ん張って立っている人が、今もたくさんいると思うんです。ストーリーの後半、そういう“背伸び”の部分じゃない、生きていること、あるがままの姿を肯定してもらえるようなメッセージを、ちづみはシンシンから受け取ります。さりげないけれど、生きるうえでとても大事な言葉です。その素敵さを伝えたいし、観てくださるみなさんに伝わったら嬉しいです」
For Better Life
「ベターライフのために大切にしていることはありますか?」

&Premiumが大切にしている「Better Life(より良き日々)」。それを叶えるためのヒントを岸井ゆきのさんに聞いてみました。
「お気に入りのペンを使う」:パイロットの「ハイテックCコレト」のペンは、書き味がなめらかで、本当におすすめです。1つのボディに対してレフィルを4本選べるのですが、色はすべてブラック。それ以外の色は使いません。好きすぎて自宅のあらゆる場所に置いてあるし、パスポートに添えて海外まで持っていくほど。もちろん仕事用のバッグにも必ず入れていて、演出家からのアドバイスを台本に書くときにも使います。あえて消さないようにしているから、稽古が進むにつれ、ページが文字でびっしり埋まっていって、後で見返すとすごいことになっています。
岸井ゆきの Kishii Yukino俳優
1992年生まれ、神奈川県出身。2009年にデビューして以来、『愛がなんだ』(2018年)では「第43回 日本アカデミー賞 新人俳優賞」を、『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)では「第64回 日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞」をはじめ、多くの映画賞を受賞。近年の主な作品に、「第35回 日本映画批評家大賞」に選出された映画『佐藤さんと佐藤さん』や、『お別れホスピタル』(NHK)『恋は闇』(NTV)など、テレビドラマでも活躍。2026年秋には「第79回 カンヌ国際映画祭 ある視点部門」に正式出品した『すべて真夜中の恋人たち』の公開を控える。
Movie Information『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』
最愛の母(余 貴美子)を亡くし、深い喪失感を抱えたまま日々を過ごすちづみ(岸井ゆきの)。虚無のまま時間だけが過ぎていくなか、友人のマサミチ(藤原季節)に誘われ、台湾を訪れる。そこで台湾人の母と日本人の父を持つシンシン(ツェン・ジンホア)を紹介される。台湾の景色とシンシンとの何げない会話の積み重ねが、止まっていた心を少しずつ動かしていく。吉本ばななの短編小説集『ミトンとふびん』に収められた一篇「SINSIN AND THE MOUSE」が原作。
公開日:2026年6月26日(金)
原作 : 吉本ばなな
監督、脚本 、編集 : 真壁幸紀 共同脚本 : 加藤法子
出演 : 岸井ゆきの ツェン・ジンホア 藤原季節 中田青渚 柄本時生 伊勢佳世 飯田基祐 余 貴美子
衣装協力・Hirotaka 表参道ヒルズ ☎︎03-3478-1830
photo : Shinnosuke Yoshimori styling:Makiko Fujii hair & make up: Misuzu Mogi text : Yukino Hirosawa





































