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「不便さによってもたらされる、時間の豊かさを感じたい」。俳優の柄本佑さんが語る、映画『メモリィズ』のこと。June 05, 2026

「不便さによってもたらされる、時間の豊かさを感じたい」。俳優の柄本佑さんが語る、映画『メモリィズ』のこと。

数多くの映画に出演するだけでなく、日本映画の普及にも尽力している俳優の柄本佑さん。今回、主演として新たに挑んだ作品が『メモリィズ』だ。監督・脚本を務めるのは、J-POPのミュージックビデオという存在をポピュラーにした故・坂西伊作氏を父に持つ、坂西未郁さん。出演の経緯から役作り、今作の魅力について聞いてみた。

あらゆるものを削ぎ落とし、俳優としての根源を追求した役作り。

「この映画に出演した理由は、脚本がよい意味で変わっていて面白いな、と。それと、企画を担当された映画プロデューサーで<リトルモア>の代表を務める孫家邦さんは、僕が駆け出しだった10代の頃からお世話になっている方。”偉大な映画友達”でもある存在から主演として声をかけていただいたのも、うれしかったですね」

 柄本さん演じる、やさしいけれどどこか飄々としている雄太は、九州のとある田舎町を訪れる。足を骨折した一人暮らしの義父の身の回りの世話と、彼が営む写真館を手伝うためだ。あるがままの自然が残る環境に身を置き、義父との凪のような生活に少しずつ馴染みながら、ときどき東京にいる妻や娘とスマホで撮った写真や動画をメールで交わす日々。劇的なドラマは、何も起こらない。

「事前に役のための準備をするよりも、自然体で生きていることを求められるキャラクター。だからこそ難しくはありました。歩いて、食べて、時には手を振ったり、会釈をして……雄太の人間性と演出が相まって、台本に余白が多い、つまりセリフが少ないんですよ。かれこれ25年近く役者をやっているせいか、手持ち無沙汰だと、『俺、何しよっかな』と不安になったりも。なので今作では、わかったつもりになっていた部分を取り払い、いかに俳優としての根源に向き合うかに注力しました。専念できたのはロケ地が大分県竹田市だったことも大きく、3週間近く地方で撮影に臨めたのは、僕にとっても、役柄の雄太を演じるにあたっても、とってもよかったなと思います」

 雄太という人物を作り上げるなかで、こんなエピソードも。

「劇中で雄太がかぶっているニット帽は、僕が普段から愛用しているものなんです。まぁ正確には、妻である安藤サクラの私物なんですけど。若い頃は演技に対してもっと頭でっかちだったけれど、三宅唱監督・脚本の『きみの鳥はうたえる』との出会いをきっかけに、もっと自分のアイデアを言ってもいいんだ、と思えるように。坂西さんともあれこれ対話をするなかで提案してみたら、賛成してもらえました」

「不便さによってもたらされる、時間の豊かさを感じたい」。俳優の柄本佑さんが語る、映画『メモリィズ』のこと。

これまでもこれからも続いていく、家族の記憶と記録の物語。

 互いに多くを語るわけではないが、“ちょうどいい距離”を見つけ出す義父と雄太。義父が大事にしていたとある場所の写真、そんな2人に会いに来る妻と娘、そこで判明した事実。それぞれの思い出を持ち寄った時に浮かび上がる、かけがえのない家族愛。観る者もそれらを共有することで、共感を覚えていく。

「完成した作品を観て、柔らかいようで芯がある映画だな、と思いましたね。ちなみに現場では、会話からあれこれ行動するシーンまで、ずいぶん撮っているんです。『上映時間は2時間超えかな』と予想していたけれど、実尺は97分。坂西監督にはしっかり狙いがあって、脳内で編集しながら的確に撮っていたんだな、と驚きました」

 映像としての心地良さの中に圧倒的な余韻を残すこの作品は、「フィルムで撮影したことも醍醐味のひとつ」だと語る。

「かつて映画はフィルムで撮影していましたが、あれよあれよという間にデジタルに移行しました。時代の変化に対応するのも大切だとわかりつつも、撮られる側としては、カメラが回る音とともに“10分弱を長回しで撮るし、何度も撮り直しができるものでもないから、この一発にかけるぞ”という集中力や緊張感含め、相当な気合いが入りますよね。あと、デジタル撮影だとメモリーカードを30秒くらいで交換できますが、フィルムだと交換してセットするまで15分ほどかかるんです。それを待つ間、お茶を飲む人や談笑する人がいれば、ぱっとタバコ吸いに行く人も。それぞれが一旦立ち止まり、作品についての思考を深めることで、もやついていた部分のパズルがきれいにハマって、化学反応を起こすことがある。不便さによってもたらされる時間の豊かさが、作品を大きくすることもあって、ある意味、映画というものを作り上げているような気もするんです。だからこそフィルム映画には、言葉で言い尽くせない魅力があるんですよね。また、近頃はある種の重さや観る人に強く訴えかける作品が多い印象ですが、それとは違って『鑑賞中の97分は映画に身を委ねて欲しい』『気持ちよく映画館を出てもらいたい』、そんな思いが伝わる作品でもあります」

For Better Life
「ベターライフのために大切にしていることはありますか?」

「不便さによってもたらされる、時間の豊かさを感じたい」。俳優の柄本佑さんが語る、映画『メモリィズ』のこと。

&Premiumが大切にしている「Better Life(より良き日々)」。それを叶えるためのヒントを柄本佑さんに聞いてみました。

「ペンケースを持ち歩く」:このレザー製のペンケースは2代目で、いつもカバンに入れてます。中には鉛筆も2本入っていて、自主映画を撮る際にカット割りのことなどを書き込んでいます。ギリギリ使えなくなるまで捨てられないので鉛筆用のキャップと、あとは消しゴムとおみやげでもらったボールペン。3色ペンとか消えるボールペンみたいな便利なものより、削って使うような手間がかかるものが好きだし、性に合っていると思います。

柄本佑 Tasuku Emoto俳優

東京都出身。14歳で『美しい夏キリシマ』のオーディションに合格、2003年同作の主演としてデビューし、俳優活動をスタート。連続テレビ小説『あさが来た』やNHK大河ドラマ「光る君へ」などテレビドラマでの活躍とともに、映画界でも活躍。『きみの鳥はうたえる』では第92回キネマ旬報ベスト・テンと、第73回毎日映画コンクールほかで主演男優賞に輝く。2026年は『木挽町のあだ討ち』や本作に加え、『黒牢城』や『このごにおよんで愛など』など映画への出演作が続く。

Movie Information『メモリィズ』

骨折した義父の誠(イッセー尾形)の世話をするため、九州の田舎町へとやって来た雄太(柄本 佑)。誠が営む写真館の仕事を手伝いながら、東京で働く妻(穂志もえか)と娘にスマートフォンで撮影した動画や写真を送り合う。ある日、誠がかつて撮影した家族写真を雄太とともに鑑賞していると、そこに写っていたのは……。監督、脚本は、本作が初の長編作品となる坂西未郁。

公開日:2026年6月12日(金)
監督、脚本 : 坂西未郁
出演 : 柄本 佑 穂志もえか 香椎由宇/イッセー尾形

詳細はこちら

ジャケット¥403,700、ニットポロ¥201,300、デニムパンツ¥190,300、シューズ¥143,000(すべてメゾン マルジェラ/マルジェラ ジャパン クライアントサービス︎➿0120-934-779)

photo : Shinji Harada  styling:Michio Hayashi hair & make up: Kanako Hoshino text : Yukino Hirosawa

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