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国語の先生と梶井基次郎の『檸檬』。海辺の本屋の日々と本。写真と文:あかしゆか(編集者・『aru』店主)#2September 11, 2026

国語の先生と梶井基次郎の『檸檬』。海辺の本屋の日々と本。写真と文:あかしゆか(編集者・『aru』店主)#2
光のうつくしい、冬の日だった。

常連さんに、高校教師のGさんというひとがいる。今は担当科目が変わったらしいが、長いあいだ国語を教えていた方だ。Gさんはとても博識で、いつも私にいろんなことを教えてくれる。

その日はたまたま店頭に、梶井基次郎の『檸檬』の古本を置いていた。その本を手に取りパラパラとページをめくったあと、Gさんは「たぶんこの本を以前持っていたひとは、先生だったんだと思います」と言った。本の中にある書き込みの内容が、どうやら「どんな授業をするか」を考えている最中のものだったらしいのだ。

そうしてそのあとに、昔そういえばこんな授業をしたことがあるんです、と、Gさんが高校で実際にしたという国語の授業について教えてくれた。

まず、米津玄師の「Lemon」をクラス全員で聴く。
そして、高村光太郎の「レモン哀歌」を読む(光太郎が、妻の智恵子が死ぬ直前に食べたレモンについて書いた有名な詩だ)。
ふたつの作品において、レモンという果物がどういう役割を果たしているのかを考えてみる。
そのあとに、梶井基次郎の『檸檬』を読んで、同じくレモンが何を象徴しているのかみんなで考える──。

急に教科書に載っている『檸檬』を解釈しましょうと言われても、興味を持てない学生が多いかもしれない。けれども流行している曲や、短い詩などで解釈の楽しさに少しでも触れたあとだったら、一見とっつきづらい文学もおもしろいと思ってもらえるかもしれない。文学や物語、本への入り口を学生たちに開こうと工夫されている話を聞いて、とてもすてきだなあと思った。そして、Gさんに教えてもらえる生徒さんは幸せだなあと思い、そんなGさんに本を買ってもらえる私の本屋も幸せだな、と思うのだった。

店で手にされる本が、これから、Gさんを介してもしかするとどこかの知らない高校生の人生をすこし動かすかもしれない。そう考えただけで胸が震えた。本のその先を想像するたびに、本屋とはなんとロマンチックな職業なんだろうと思う。

わたしはそれ以降レモンを見ると、あの日のGさんとの会話と穏やかな海をよく思い出す。レモンはわたしの中では、爆弾でも哀しみでもなく、豊かな好奇心と共に何かに誠実に向き合う象徴として、胸の中でじゅわりと果実を実らせている。


編集者・本屋『aru店主』 あかしゆか

あかしゆか
1992年京都生まれ、岡山在住。東京での会社員生活を経て独立。2021年に本屋『aru』を岡山県倉敷市児島で開業し、現在2店舗を経営している。Web、出版、イベント、場づくりなど、媒体を問わず「ことば」に関する編集に携わる。

instagram.com/akyskaa

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