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吉田山のすそのに集う、魅力溢れる小さな店。京都・吉田、ローカルガイド。前編September 11, 2026

吉田山の緑に抱かれる吉田神社と、その麓に広がる京都大学吉田キャンパス。観光地としては銀閣寺と哲学の道があるものの閑静なエリアに、ここ最近、店主の個性が光る小さないい店が増えている。自身もこの地で小さな書店を営む、『コフク ブックアンドデイリーストア』店主の佐藤夕伽子さんに案内してもらった。

この記事は前編です。後半はこちら

吉田神社

京都の吉田神社
貞観元(859)年、平安京の守護神として創建された『吉田神社』(京都市左京区吉田神楽岡町30)。全国の神々を祀る斎場所大元宮をはじめ、料理や菓子などさまざまな信仰の社が、標高約105mの吉田山の山中に点在する。住所の神楽岡の由来が「神が集いし岡」と聞けば、このエリアに満ちる気のよさにも頷ける。「地元の人は吉田神社がとても好きで、2月の節分祭にはみんな行ってるんじゃないかと思います」と案内人の佐藤さん。写真は大元宮へ続く南参道の鳥居前。左手のパン屋『エンタ』(左京区吉田上大路町27‒1)は、鳥居と紅葉が織りなす景色や山野草に惹かれて、ここに店を構えた。オープン日の水曜と金曜の朝にできる静かな行列もまた、吉田の日常風景になっている。

ベンチ

京都・吉田のグロサリー『ベンチ 』
食や暮らしの本を多く取り扱ってきた佐藤さんが注目するのは「それぞれカラーや扱っているものが違うのが面白い」 というグロサリー。2025年6月オープンの『ベンチ』(京都市左京区浄土寺東田町34‒1F)は食品や日用品のセレクトショップだ。「日常の買い物の合間にふらりと立ち寄ってもらえる場所を作りたかった」という店主の加藤沙耶花さん。京都の〈円卓〉のコチュジャンや〈寒山拾得〉の鹿肉味噌のほか、全国の生産者から直接買い付ける調味料やお茶などが並ぶ。カフェスペースもあり、街の〝ベンチ〞としてここでひと息。

フィウ

京都・吉田のグロサリー『フィウ』
吉田山の東麓、静かな住宅街に佇む『フィウ』(京都市左京区浄土寺真如町12)は2025年5月の開店。店名はニュージーランドの先住民族マオリの言葉で「ごはんを食べて満足」の意。「食卓を囲んでみんなが笑顔になるようなおいしい時間のおともを集めています」と話す店主の美田真知子さん。自然光が差し込む明るい店内に並ぶのは、長崎の〈伊崎洋明商店〉の乾麺や、沖縄の金城宙矛の器など、旅先で出合ったおいしいものの数々と日常使いにぴったりの器。調味料はほとんどが試食可能で、気さくな美田さんとの料理談議も楽しい。

み空

京都・吉田の珈琲店『み空』
間借り営業を経て、石倉源太さんが珈琲店『み空』(京都市左京区北白川久保田町28‒1‒1F)の新天地に選んだのは、白川疏水沿いのビルの半地下。祇園のギャラリー『HS』の店主と作り上げた空間は、ソリッド感と白木の温もりが混じり合う。ゆったりした席の配置は「一人でも、おしゃべりを楽しむ人も、みんなが居心地のいい場所にしたい」との思いから。「四角い窓に切り取られた疏水沿いの景色を眺めながら、コーヒーを飲むのが好き」と佐藤さん。その場の雰囲気に合わせたレコードの音色が、それぞれの時間にやさしく寄り添う。

オーウェン

京都・吉田のワインバー『オーウェン』
白川通沿いの大きなガラス扉から光がこぼれ、つい引き寄せられる。2024年12月オープンの『オーウェン』(京都市左京区北白川東久保田町7)は、バリスタとしてキャリアを重ねた江頭諒さんが、ナチュラルワインに魅せられて始めたワインバー。食事メニューはなく、ワインだけでも楽しめるバランスのよいものを常時グラスで7~8種類揃える。「近隣でのディナーの前後に立ち寄って一杯いただくのにちょうどいい」と佐藤さん。ふくよかな味わいと音楽好きの江頭さんによる心地よい選曲に身を委ね、穏やかに更ける宵を楽しみたい。

風光 huko

京都・吉田 風光 huko 写真画廊 | 「見落としそうな路地の中ほど。中に入るとどこを切り取っても美しい佇まいで、訪れると落ち着いた心持ちになる」。そう佐藤さんが語るのは、2025年10月に開廊した写真画廊『風光 huko』(京都市左京区岡崎西福ノ川町22‒21)。オーナーは日本の風土や寺社を撮り続ける写真家の須藤和也さん。築100年余の町家を建築家・魚谷繁礼に委ね、当時の姿に戻すように丁寧に改修。静謐さと余白を漂わせる空間に、刻々と移ろう光が陰影を添え、つい見惚れてしまうほど。
「見落としそうな路地の中ほど。中に入るとどこを切り取っても美しい佇まいで、訪れると落ち着いた心持ちになる」。そう佐藤さんが語るのは、2025年10月に開廊した写真画廊『風光 huko』(京都市左京区岡崎西福ノ川町22‒21)。オーナーは日本の風土や寺社を撮り続ける写真家の須藤和也さん。築100年余の町家を建築家・魚谷繁礼に委ね、当時の姿に戻すように丁寧に改修。静謐さと余白を漂わせる空間に、刻々と移ろう光が陰影を添え、つい見惚れてしまうほど。
京都・吉田 風光 huko 写真画廊 | 床の間や壁に掛かるのは杮落としとして展示された写真家・山本昌男の作品。写真展示のほか、茶会、演奏会と今後の展開が楽しみ。
床の間や壁に掛かるのは杮落としとして展示された写真家・山本昌男の作品。写真展示のほか、茶会、演奏会と今後の展開が楽しみ。

Kyoto Local Guide_吉田

いい店同士のつながりを辿り、〝素顔〞の京都に出合う。

 現在は実家のある大阪に暮らすものの、5年前までの25年間この吉田エリアに住み、2024年4月には自身の店『コフク ブックアンドデイリーストア』を開いた佐藤夕伽子さん。「店を開くならここと決めていました。知り合いも多く、土地勘もあって気心が知れた場所。京都の中でも特に文化や文学の色があり、人と人のつながりが感じられるところで始めたかったんです」と話す。
 地元に愛されてきた老舗喫茶やカフェの閉店が続く一方で、ここ数年は店主のセンスや人生観がそのまま表れたような小さな飲食店やショップ、ギャラリーなどが静かに増えている。「大型資本のチェーンではなく、個人が経営する小さい店が点在して、ゆるやかにつながっているのがこのエリアの魅力。その走りとなったのはかつての名物書店『ガケ書房(現・ホホホ座)』やギャラリー&クラフトの『北白川ちせ』だと思います」
 吉田山の麓に広がるように店が誕生するなかでも、活気づいているのが白川通今出川の交差点から近い白川疏水の周辺だ。
「仁王門の間借り時代から通っていた『み空』は、私の前の店とほぼ同時期に向かいにオープンしたご縁のある存在。石倉さんが作るロールケーキは生クリームが苦手な私でも驚くほど軽やか。その並びの『プレック』はみんなが上田さんのキャラクターに惹かれて会いに行く場所。海外経験もあり英語が話せるので、外国のお客さんも多いよう。私も焼き菓子を買ったり、早めの昼ごはんに水餃子を食べに行きます。『花屋にち 星雲おやつ』は手土産を探すのにもちょうどいい。店主のお二人のお人柄にも和みます」
 同じ頃に店を始めた店主たちが、互いの店を行き来しながらこのエリアを楽しんでいる。
 みんなが口を揃えて言うのは「いい店が近くに増えて嬉しい」ということ。その空気感は旅行者にも伝わるのか、近隣の店をハシゴして回る人も多いよう。
「私の店が料理本を中心に扱っていることもあり、グロサリーが増えているのも楽しい流れ。『ベンチ』や『フィウ』、そしてうちへと足を運んでもらえたら嬉しいです(笑)」
 吉田山の山頂にあるカフェ『茂庵』もこのエリアを歩くなら、ぜひ訪れてほしいという佐藤さん。「コロナ禍以降は席数が減って、喫茶メニューのみになったけれど、まさに〝市中の山居〞といった風情で、静かな時間を過ごしたいときにおすすめの一軒です」
 エリアの顔になりつつあるのは、吉田山の麓にできた『エンタ』。吉田神社の朱色の鳥居の前で、焼きたてのパンを求める行列はどこかのどか。「間違いないだろうなと思っていたら、たちまち有名店になりました。どれも味わい深くおいしいけれど、特に好きなのはライ麦のサワー種を使っているデンマーク発祥のロブロ。やわらかい酸味でしっとりして食べやすい」。さらに南に下れば自らの感性と向き合うような静謐な写真画廊『風光』がある。アートに身を浸したら、すぐ近くの『おはる』へ。海辺の食堂のようなおおらかな雰囲気の空間で、魚介の白ワイン蒸しや炭火グリルを、ワインとともに楽しみたい。
 吉田エリアは観光地のざわめきとは距離を置きながら、ここに暮らしているように旅をし、京都の素顔を感じられる場所。最後にこのエリアを楽しむ秘訣を聞いた。「バスも本数が多いから便利だけど、ぜひ歩いてみてほしいです。小さい路地にも発見があるし、初めての道も楽しい。大文字や吉田山がどこにいても見えるので、近くにいつもある山々の美しさや安心感も感じてほしいですね」

佐藤夕伽子 『コフク ブックアンドデイリーストア』店主

雑誌の編集者を経て、『枚方 蔦屋書店』『本と野菜 OyOy』で食関連の選書を担当。2024年4月に白川今出川に料理本と食材を扱う『コフク ブックアンドデイリーストア』を開店。詳細はInstagram(@kofukubook_dailystore)で。

佐藤夕伽子
 
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京都駅から吉田エリアまでタクシーで約20~30分。京阪本線で出町柳駅まで行き、そこからタクシーだと約5分。バスなら市バス5系統や206系統が本数も多く便利。吉田山に向かって起伏はあるが、金戒光明寺や真如堂などに立ち寄りながら歩いて回れる。今出川通周辺の小さな店はホッピングする楽しさも。

photo : Yoshiko Watanabe illustration : naohiga text & edit : Natsuko Konagaya

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