TRAVEL あの町で。

生活と文化が同一線上にある街。京都・一乗寺で出合った13のスポット。後編September 12, 2026

京都駅から電車で約40分。目立つ神社仏閣はなく、都市として賑わうわけでもない左京区の小さなエリアだが、ここが最も〝京都らしい〞と言う人は多い。住宅の合間に喫茶店、古道具店、ワインバーなどが潜む街の歩き方を、ローカルたちが集うショップ『コウエン』のマネージャー、日髙美月さんが案内してくれた。

この記事は後編です。前編はこちら。

胡椒餅&豆花 みつは

京都・一乗寺 『胡椒餅&豆花 みつは』 胡椒餅や白玉入りあんぱんはタンドール窯で焼かれる。豆花が付く胡椒餅セット(¥800)。
『胡椒餅&豆花 みつは』(左京区田中高原町28‒1)は「台湾好きの方や豆花を初めて食べる方にもおすすめ。シロップがおいしい」と日髙さん。胡椒餅や白玉入りあんぱんはタンドール窯で焼かれる。豆花が付く胡椒餅セット(¥800)。

ナチュラルフーズ・ドングリ

京都・一乗寺 自然食品店『ナチュラルフーズ・ドングリ』 | 一乗寺の人々に愛され続けて約40年、赤塚ファミリーが運営する自然食品店『ナチュラルフーズ・ドングリ』(京都市左京区田中古川町3‒2)。「調味料やワインなど、本当にありがたいお店」と日髙さん。ここで仕入れる京都の飲食店も数多い。
一乗寺の人々に愛され続けて約40年、赤塚ファミリーが運営する自然食品店『ナチュラルフーズ・ドングリ』(京都市左京区田中古川町3‒2)。「調味料やワインなど、本当にありがたいお店」と日髙さん。ここで仕入れる京都の飲食店も数多い。
京都・一乗寺 自然食品店『ナチュラルフーズ・ドングリ』 | 『ドングリ』には大原や京北など地元の無農薬野菜から石鹸、浄水器まで体に優しい品が揃う。調理法などが丁寧に書かれたポップや、還元率の高いスタンプカードも地域に親しまれる理由。楽しい赤塚ファミリーのファンも少なくない。
『ドングリ』には大原や京北など地元の無農薬野菜から石鹸、浄水器まで体に優しい品が揃う。調理法などが丁寧に書かれたポップや、還元率の高いスタンプカードも地域に親しまれる理由。楽しい赤塚ファミリーのファンも少なくない。

白川疏水

京都・一乗寺 白川疏水
一乗寺の白川疏水は琵琶湖疏水の分線で、哲学の道から下鴨あたりまでを流れる。疏水沿いは「どこか異世界に繋がっているような雰囲気(笑)。疏水沿いを南に散歩して、今出川通の『み空』まで歩いてみたり」と日髙さん。

一乗寺駅

京都・一乗寺 叡山電鉄の一乗寺駅のホーム。写る車両は1 両編成の700系(デオ720形)。
叡山電鉄の一乗寺駅のホーム。写る車両は1 両編成の700系(デオ720形)。京阪電車の廃車部品が再利用されている。朱色は沿線の神社仏閣をイメージしているそう。トコトコと走る「1両の車両がなんとも可愛らしい」と日髙さん。

遠藤珈琲店

京都・一乗寺 ストロングブレンド(¥600) | 『遠藤珈琲店』の定番、ストロングブレンド(¥600)はインドネシアとエチオピアの豆を自家焙煎し、ネルドリップで丁寧に淹れられる。「深煎りの芳醇な味わい」と日髙さん。手作りチーズケーキ、ガトーショコラ(各¥500)も。
『遠藤珈琲店』の定番、ストロングブレンド(¥600)はインドネシアとエチオピアの豆を自家焙煎し、ネルドリップで丁寧に淹れられる。「深煎りの芳醇な味わい」と日髙さん。手作りチーズケーキ、ガトーショコラ(各¥500)も。
京都・一乗寺 『遠藤珈琲店』のキッチンには、ブラジルの歌手ナラ・レオンの1971年作の名盤『美しきボサノヴァのミューズ』や、こちらも名作、ジャック・タチ監督のフランス映画『ぼくの伯父さん』のポスターが飾られている。 | レコードがBGMの『遠藤珈琲店』のキッチンには、ブラジルの歌手ナラ・レオンの1971年作の名盤『美しきボサノヴァのミューズ』や、こちらも名作、ジャック・タチ監督のフランス映画『ぼくの伯父さん』のポスターが飾られている。
レコードがBGMの『遠藤珈琲店』のキッチンには、ブラジルの歌手ナラ・レオンの1971年作の名盤『美しきボサノヴァのミューズ』や、こちらも名作、ジャック・タチ監督のフランス映画『ぼくの伯父さん』のポスターが飾られている。

アンティーク分室

京都・一乗寺 滋賀県の近江八幡にあるアンティークショップ『コミンカ』の京都店として、昨年10月に開店した『アンティーク分室』 フランスなどで買い付けた器、古道具、オブジェなどが並ぶ
滋賀県の近江八幡にあるアンティークショップ『コミンカ』の京都店として、昨年10月に開店した『アンティーク分室』(左京区高野玉岡町72)。フランスなどで買い付けた器、古道具、オブジェなどが並ぶ。月ごとに商品の入れ替えを行う。

恵文社一乗寺店

京都・一乗寺 『恵文社一乗寺店』 人文、美術、建築、料理などの書籍だけでなく、併設するギャラリー「アンフェール」、そして「生活館」では生活雑貨を扱い、「コテージ」ではイベントを開催。京都を代表する文化拠点。
昨年、開店50周年を迎えた『恵文社一乗寺店』。人文、美術、建築、料理などの書籍だけでなく、併設するギャラリー「アンフェール」、そして「生活館」では生活雑貨を扱い、「コテージ」ではイベントを開催。京都を代表する文化拠点。

マヤルカ古書店

京都・一乗寺、ローカルガイド 『マヤルカ古書店』 
『マヤルカ古書店』(左京区一乗寺大原田町23‒12)は、2017年に西陣から白川疏水沿いの古民家に移転。文芸書をはじめ、専門書、暮らしの本など幅広く、加えてこけしなどの郷土玩具も所狭しと。2階にはギャラリースペースがある。

ル タン ドゥ グー

京都・一乗寺 焼き菓子を軸としたカフェ『ル タン ドゥ グー』 ライムのタルト¥700、ブレンドコーヒー¥500。 | 疏水沿いの気持ちよいロケーションにある、焼き菓子を軸としたカフェ『ル タン ドゥ グー』(左京区一乗寺地蔵本町30‒3)。ブロックガラスの明るい店内で、落ち着いてひと休みを。ライムのタルト¥700、ブレンドコーヒー¥500。
疏水沿いの気持ちよいロケーションにある、焼き菓子を軸としたカフェ『ル タン ドゥ グー』(左京区一乗寺地蔵本町30‒3)。ブロックガラスの明るい店内で、落ち着いてひと休みを。ライムのタルト¥700、ブレンドコーヒー¥500。
京都・一乗寺『ル タン ドゥ グー』の焼き菓子 | 焼き菓子のいい香りに包まれる『ル タン ドゥ グー』ではガレットやマドレーヌなどがテイクアウトできる。日髙さんいわく「季節のフルーツを使ったスイーツがおすすめ。カヌレやフィナンシェなど種類がたくさん。お土産にもぴったり」。
焼き菓子のいい香りに包まれる『ル タン ドゥ グー』ではガレットやマドレーヌなどがテイクアウトできる。日髙さんいわく「季節のフルーツを使ったスイーツがおすすめ。カヌレやフィナンシェなど種類がたくさん。お土産にもぴったり」。

喫茶 霧箱

京都・一乗寺 東大路通近くの養徳小学校前の『喫茶 霧箱』 | 東大路通近くの養徳小学校前の『喫茶 霧箱』(左京区田中古川町37‒14)は東山区の『菊しんコーヒー』の2店舗目。元スナックを改装し一昨年にオープン。霧箱は大気中に飛び交う宇宙線観測装置のことで、その美しさにあやかり命名。
東大路通近くの養徳小学校前の『喫茶 霧箱』(左京区田中古川町37‒14)は東山区の『菊しんコーヒー』の2店舗目。元スナックを改装し一昨年にオープン。霧箱は大気中に飛び交う宇宙線観測装置のことで、その美しさにあやかり命名。
京都・一乗寺 『喫茶 霧箱』 ハヤシライス&コーヒーセット | 「ランチは『喫茶 霧箱』で食べることも多くて。ハヤシライスもトーストもおいしい。明るい店内で本棚の漫画を読むのも楽しみ」と日髙さん。ミニハンバーグ入りで、コクと苦味が食欲をそそるハヤシライス&コーヒーセット(¥1,200)。
「ランチは『喫茶 霧箱』で食べることも多くて。ハヤシライスもトーストもおいしい。明るい店内で本棚の漫画を読むのも楽しみ」と日髙さん。ミニハンバーグ入りで、コクと苦味が食欲をそそるハヤシライス&コーヒーセット(¥1,200)。

コイモ ワイン&カフェ

京都・一乗寺 『コイモ ワイン&カフェ』 | 『コイモ ワイン&カフェ』(左京区一乗寺払殿町38‒3 1D)はパティシエ経験もある店主の高橋順子さんがナチュラルワインに魅せられ2022年に開店。日髙さんは「基本15時からオープンで、昼間からひとりで気楽に入れて日常使いできる」。
『コイモ ワイン&カフェ』(左京区一乗寺払殿町38‒3 1D)はパティシエ経験もある店主の高橋順子さんがナチュラルワインに魅せられ2022年に開店。日髙さんは「基本15時からオープンで、昼間からひとりで気楽に入れて日常使いできる」。
京都・一乗寺 『コイモ ワイン&カフェ』 ワイン¥800~、里芋や柴漬けが入ったコイモサラダ小500円。 | 「すべてがちょうどいい。気取らないお料理もおいしいし、ひとり飲みに最適な量感も」。店内には店主の実姉、写真家の高橋ヨーコさんの作品が展示されている。ワイン¥800~、里芋や柴漬けが入ったコイモサラダ小500円。
「すべてがちょうどいい。気取らないお料理もおいしいし、ひとり飲みに最適な量感も」。店内には店主の実姉、写真家の高橋ヨーコさんの作品が展示されている。ワイン¥800~、里芋や柴漬けが入ったコイモサラダ小500円。

イトウ

京都・一乗寺 『イトウ』の壁に展示されていたカセットプレーヤー「ウォークマン」の絵画
『イトウ』の壁に展示されていたカセットプレーヤー「ウォークマン」の絵画(¥25,000)。「’80年代の発売当時、美大生によって描かれたと思われる」と伊藤さん。予期せぬモノに出合う『イトウ』ならではのユニークな一品。

モンティーク

京都・一乗寺 『モンティーク』 フランス、ベルギー、日本の器や日用品、照明などを扱うアンティークショップ
『モンティーク』(左京区一乗寺払殿町12‒2 1F西)はフランス、ベルギー、日本の器や日用品、照明などを扱うアンティークショップ。「部屋に自然に溶け込む、いい意味で癖が強すぎない素敵なアイテムが多く揃っています」と日髙さん。

Kyoto Local Guide_一乗寺

観光地化する京都とは別世界。日常が根付き、息づく一乗寺。

「毎日、店に立っていると、入り口の大きなガラスが額縁で外の景色が絵のように思えるときがあって。もちろん季節の移ろいも感じられるし、公園の子どもたちが遊ぶ姿も目に入る。街の人たちの行き交う姿から、一乗寺の心地よい生活が垣間見られるようです」
 そう語るのは一昨年にオープンした『コウエン』のストアマネージャーの日髙美月さん。開店を機にそれまで住んでいた北区の西陣エリアから引っ越し。一乗寺で暮らし始めた。以前から新しい店に行くことや喫茶店で過ごすのが好きで、街の新しいパブリックスペース的空間である『コウエン』を訪れるお客さんたちとの会話も相まって、一乗寺の魅力を日々実感している。
「ずっと変わらない、京都のしっとりした空気感」のある西陣と比べると、一乗寺は「思っていた以上に若い人が多くて。風通しが良い」という印象だという。
「大学生と地元の方の暮らしがうまく混じり合っているというか。そのなかで、少しずつ新しいお店がオープンして、街がゆっくり変化していく。それが一乗寺らしさなのかな、と。昔ながらのものも親しまれながら、新しい風も受け入れてくれる街だと思いますね」
 一乗寺エリアは駅を中心として徒歩15分ほどの小さな圏内。そこに「スーパーから古本屋さんまですべてある」。例えば、葱が飛び出たスーパーの袋を提げながら『恵文社一乗寺店』で自費出版の歌集を立ち読み。そんな光景は今も昔も変わらない。
 日髙さんもわざわざ、ではなく、普段の買い物や散歩中に、レコードが聴ける『遠藤珈琲店』や、いわばニューウェーブな古道具店『イトウ』などに寄ることで、日常と現在進行形のカルチャーが同一線上にある、一乗寺ならではの暮らしを自然と謳歌している。
「『恵文社一乗寺店』で本を買って、すぐ近くの『モンティーク』を覗いて。それから『コイモ ワイン&カフェ』でちょっとワインを飲んだり。『ナチュラルフーズ・ドングリ』では大原など地元の野菜や調味料を買ったりも。それらが自分の生活圏内にあって、いつでも立ち寄れるんです。好きなのはそういった、いわゆる京都らしいとか観光客の方に向けた店ではなくて、あくまで一乗寺に暮らしている方に向けた場所。ずっと街に愛されている店、というか」
 とはいえローカルが新入りに閉鎖的というわけではなく、『喫茶 霧箱』のように新しいスポットもいつの間にか街に溶け込んでいる。
「京都の人でも『一乗寺はラーメン屋さんばっかりでしょう?』と思っている人も意外にまだまだいますが、それだけじゃもったいない。疏水沿いをちょっと散歩するだけでも『マヤルカ古書店』や『ル タン ドゥ グー』『胡椒餅&豆花 みつは』だったり、決して癖は強くなく、店主の個性やこだわりをさりげなく大切にした、素敵なお店が増えています」
 取材中、一乗寺で働く人から、この街は「オフのままで過ごせてしまう街。京都駅や河原町に行くときは気持ちをオンにして、気合を入れないといけません」と聞いた。この言葉に日髙さんも共感する。つまり、一乗寺は観光客で溢れ返るテンションの高い京都とは別の京都。ここには、のんびりと散策したくなる、よそゆきではない京都の日常が根付く。
「ちょうどよい、ということだと思います。それは店側もお客さんも気取らなくていいということ。ユルすぎず、でも整いすぎず。暮らしの中にあって、ずっと通いたくなる店が一乗寺の魅力を支えているし、そんな店がこれからも残っていくと思います」

日髙美月 『コウエン』ストアマネージャー

1998年、京都府生まれ。一乗寺在住。学生時代はグラフィックデザインを学び、その後は大阪の書店や京都市内の飲食店などに勤務。2024年11月、カフェ+ギャラリー+ショップの複合空間『コウエン』のオープンを機にストアマネージャーに。一乗寺エリアの移動は「主に自転車で」。

日髙美月
 
Access
 
ichijyoji Access Map

京都駅から一乗寺駅までは、地下鉄烏丸線の烏丸御池駅で乗り換え三条京阪駅へ。三条駅から京阪鴨東線で出町柳駅。叡山電鉄に乗り換え一乗寺駅へ。元田中駅で下車し、緑豊かな白川疏水沿いを散歩しながら北上するルートもおすすめ。鴨川から東へ分岐した高野川へは一乗寺駅から徒歩10分ほど。

photo : Yosuke Tanaka edit & text : Yusuke Nakamura

Pick Up 注目の記事

Latest Issue 最新号

Latest Issuepremium No. 154わたしの部屋ができるまで。2026.08.20 — 980円