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生活と文化が同一線上にある街。京都・一乗寺、ローカルガイド。前編September 12, 2026

京都駅から電車で約40分。目立つ神社仏閣はなく、都市として賑わうわけでもない左京区の小さなエリアだが、ここが最も〝京都らしい〞と言う人は多い。住宅の合間に喫茶店、古道具店、ワインバーなどが潜む街の歩き方を、ローカルたちが集うショップ『コウエン』のマネージャー、日髙美月さんが案内してくれた。

この記事は前編です。後編はこちら

一乗寺駅

京都・一乗寺の〝えいでん〞こと叡山電鉄
鴨川デルタに程近い南側の始発駅・出町柳から、鞍馬、八瀬比叡山口といった山間部まで、左京区を南北に繋ぐ市民の足〝えいでん〞こと叡山電鉄は、昨年開業100年を迎えた。出町柳から乗車しておよそ5分、3つ目の駅が一乗寺だ。写真の2両編成、800系(デオ810形)の帯色は沿線の山並みをイメージした緑。無人駅の小さなホームからは、街のメインストリートである曼殊院道の商店街 を横切る車両を近距離で眺められる。「乗るたびにちょっとだけ旅行の気分になります」とは案内人の日髙さん。ちなみに「一乗寺」の地名の由来となったのは同名の寺院。紫式部が仕えたとして知られる藤原彰子によって建立されたとされるが、焼き討ち、再建を経て南北朝の戦乱で消失。以来、廃絶した。

曼殊院道/一乗寺商店街

京都・一乗寺 曼殊院道/一乗寺商店街 商店街から東側の瓜生山を望む風景。 
商店街から東側の瓜生山を望む風景。商店街にはレンガ造りの外観の名物書店『恵文社一乗寺店』(京都市左京区一乗寺払殿町10)をはじめ、さまざまな個人商店が軒を連ねる。『恵文社』の斜向かい(現在はドラッグストア)にはかつて〝洛北のシネマサロン〞であった名画座『京一会館』が1988年まで存在し、文化の中心として賑わいをみせた。『恵文社』のすぐそばには古道具店の『モンティーク』が。西側の東大路通はラーメン街道として知られ、通りを挟んですぐにローカルを代表するそばの名店『通しあげ そば鶴』も。

塚本児童公園

京都・一乗寺 塚本児童公園 
一乗寺公園、辻児童公園、高槻児童公園など周辺には10ほどの公園が存在し、散歩中のひと休みに困らないのも一乗寺エリアの特徴。通称〝電車公園〞こと塚本児童公園には、かつて市内を走っていた市電700形720号「きぼう号」が保存され、町の集会所として使用されている。手を振るガイドの日髙さんがストアマネージャーを務める『コウエン』は、その電車公園が目の前の気持ちのよいロケーション。店名はそこにあやかり、店としての機能だけでなく「いろんな方の拠り所になれたら」と名付けられた。

遠藤珈琲店

京都・一乗寺『遠藤珈琲店』 | 2025年8月にオープンした、レコードが聴ける喫茶『遠藤珈琲店』(京都市左京区一乗寺東杉ノ宮町18‒2)。元法律事務所の物件だが、内装はほぼ手を入れず、素っ気ない空気感がむしろ心地よい。店主の遠藤聡さんは鎌倉や名古屋などで、大手コーヒーチェーンから個人喫茶店まで勤務したのち、昔ながらの喫茶文化が残る京都の土壌に惚れ込み移住。年季の入ったステレオから鳴る音楽はシンガー・ソングライターが中心で、遠藤さんいわく「ヒューマンソング」。つまり「流行り廃りに左右されない、人間の心のこもった温かい音楽」。
2025年8月にオープンした、レコードが聴ける喫茶『遠藤珈琲店』(京都市左京区一乗寺東杉ノ宮町18‒2)。元法律事務所の物件だが、内装はほぼ手を入れず、素っ気ない空気感がむしろ心地よい。店主の遠藤聡さんは鎌倉や名古屋などで、大手コーヒーチェーンから個人喫茶店まで勤務したのち、昔ながらの喫茶文化が残る京都の土壌に惚れ込み移住。年季の入ったステレオから鳴る音楽はシンガー・ソングライターが中心で、遠藤さんいわく「ヒューマンソング」。つまり「流行り廃りに左右されない、人間の心のこもった温かい音楽」。
京都・一乗寺 『遠藤珈琲店』 | 棚にはアントニオ・カルロス・ジョビンらブラジル音楽や日本のロック、フォークも。「落ち着くし、音楽がダイレクトに堪能できる空間」と日髙さん。
棚にはアントニオ・カルロス・ジョビンらブラジル音楽や日本のロック、フォークも。「落ち着くし、音楽がダイレクトに堪能できる空間」と日髙さん。

イトウ

京都・一乗寺 古物を扱うショップ『イトウ』 | 案内人の日髙さんが「行くたびにディスプレイが変わるのが新鮮。モノの見え方も変わるし勉強になりますね」と刺激を受ける、古物を扱うショップ『イトウ』(京都市左京区一乗寺出口町7‒2F)。大きな窓から光が入り込む天高の店内にはユニークな視点で集められたオブジェが並ぶ。
案内人の日髙さんが「行くたびにディスプレイが変わるのが新鮮。モノの見え方も変わるし勉強になりますね」と刺激を受ける、古物を扱うショップ『イトウ』(京都市左京区一乗寺出口町7‒2F)。大きな窓から光が入り込む天高の店内にはユニークな視点で集められたオブジェが並ぶ。
京都・一乗寺 古物を扱うショップ『イトウ』 | 古今東西のあらゆるモノがあるが、セレクトは骨董としての歴史的価値のみに頼らない。
古今東西のあらゆるモノがあるが、セレクトは骨董としての歴史的価値のみに頼らない。
京都・一乗寺 古物を扱うショップ『イトウ』 | 用途が判別できない道具や謎の日用品、それに子どもが制作した絵や花瓶など、ネット検索では見つからない、作者不詳のモノたちのユーモアと美に魅せられる、いわば発見の空間。
用途が判別できない道具や謎の日用品、それに子どもが制作した絵や花瓶など、ネット検索では見つからない、作者不詳のモノたちのユーモアと美に魅せられる、いわば発見の空間。
京都・一乗寺 古物を扱うショップ『イトウ』 | モノの魅力をどう引き出すのか? 店の空間構成の「バランスはいつも考えています」と店主の伊藤槙吾さん。
モノの魅力をどう引き出すのか? 店の空間構成の「バランスはいつも考えています」と店主の伊藤槙吾さん。

コウエン

京都・一乗寺 カフェ+ギャラリー、そしてアパレルなどを扱う複合ショップ『コウエン』 | 塚本児童公園の目の前に、2024年11月にオープンしたカフェ+ギャラリー、そしてアパレルなどを扱う複合ショップ『コウエン』(京都市左京区一乗寺塚本町15‒2)。日髙さんいわく、「どこに座っても自由」な3つの円が重なる1階の大テーブルを囲めば「自然とコミュニケーションが生まれる」。店名の通り、一乗寺の縁が交わる〝交縁〞の場だ。
塚本児童公園の目の前に、2024年11月にオープンしたカフェ+ギャラリー、そしてアパレルなどを扱う複合ショップ『コウエン』(京都市左京区一乗寺塚本町15‒2)。日髙さんいわく、「どこに座っても自由」な3つの円が重なる1階の大テーブルを囲めば「自然とコミュニケーションが生まれる」。店名の通り、一乗寺の縁が交わる〝交縁〞の場だ。
京都・一乗寺 カフェ+ギャラリー、そしてアパレルなどを扱う複合ショップ『コウエン』 | 1階にはアパレルや作家のアイテムが。2階のギャラリーでは月1回ほどのペースで企画展を開催し、その他、旬の食材を使用する料理や、観葉植物のポップアップなども。「きっかけはいろいろ。だけどリピートしてくださる方が多いので嬉しい」。アーティスト、写真家の嶌村吉祥丸さんがディレクターを務める。
1階にはアパレルや作家のアイテムが。2階のギャラリーでは月1回ほどのペースで企画展を開催し、その他、旬の食材を使用する料理や、観葉植物のポップアップなども。「きっかけはいろいろ。だけどリピートしてくださる方が多いので嬉しい」。アーティスト、写真家の嶌村吉祥丸さんがディレクターを務める。

Kyoto Local Guide_一乗寺

観光地化する京都とは別世界。日常が根付き、息づく一乗寺。

「毎日、店に立っていると、入り口の大きなガラスが額縁で外の景色が絵のように思えるときがあって。もちろん季節の移ろいも感じられるし、公園の子どもたちが遊ぶ姿も目に入る。街の人たちの行き交う姿から、一乗寺の心地よい生活が垣間見られるようです」
 そう語るのは一昨年にオープンした『コウエン』のストアマネージャーの日髙美月さん。開店を機にそれまで住んでいた北区の西陣エリアから引っ越し。一乗寺で暮らし始めた。以前から新しい店に行くことや喫茶店で過ごすのが好きで、街の新しいパブリックスペース的空間である『コウエン』を訪れるお客さんたちとの会話も相まって、一乗寺の魅力を日々実感している。
「ずっと変わらない、京都のしっとりした空気感」のある西陣と比べると、一乗寺は「思っていた以上に若い人が多くて。風通しが良い」という印象だという。
「大学生と地元の方の暮らしがうまく混じり合っているというか。そのなかで、少しずつ新しいお店がオープンして、街がゆっくり変化していく。それが一乗寺らしさなのかな、と。昔ながらのものも親しまれながら、新しい風も受け入れてくれる街だと思いますね」
 一乗寺エリアは駅を中心として徒歩15分ほどの小さな圏内。そこに「スーパーから古本屋さんまですべてある」。例えば、葱が飛び出たスーパーの袋を提げながら『恵文社一乗寺店』で自費出版の歌集を立ち読み。そんな光景は今も昔も変わらない。
 日髙さんもわざわざ、ではなく、普段の買い物や散歩中に、レコードが聴ける『遠藤珈琲店』や、いわばニューウェーブな古道具店『イトウ』などに寄ることで、日常と現在進行形のカルチャーが同一線上にある、一乗寺ならではの暮らしを自然と謳歌している。
「『恵文社一乗寺店』で本を買って、すぐ近くの『モンティーク』を覗いて。それから『コイモ ワイン&カフェ』でちょっとワインを飲んだり。『ナチュラルフーズ・ドングリ』では大原など地元の野菜や調味料を買ったりも。それらが自分の生活圏内にあって、いつでも立ち寄れるんです。好きなのはそういった、いわゆる京都らしいとか観光客の方に向けた店ではなくて、あくまで一乗寺に暮らしている方に向けた場所。ずっと街に愛されている店、というか」
 とはいえローカルが新入りに閉鎖的というわけではなく、『喫茶 霧箱』のように新しいスポットもいつの間にか街に溶け込んでいる。
「京都の人でも『一乗寺はラーメン屋さんばっかりでしょう?』と思っている人も意外にまだまだいますが、それだけじゃもったいない。疏水沿いをちょっと散歩するだけでも『マヤルカ古書店』や『ル タン ドゥ グー』『胡椒餅&豆花 みつは』だったり、決して癖は強くなく、店主の個性やこだわりをさりげなく大切にした、素敵なお店が増えています」
 取材中、一乗寺で働く人から、この街は「オフのままで過ごせてしまう街。京都駅や河原町に行くときは気持ちをオンにして、気合を入れないといけません」と聞いた。この言葉に日髙さんも共感する。つまり、一乗寺は観光客で溢れ返るテンションの高い京都とは別の京都。ここには、のんびりと散策したくなる、よそゆきではない京都の日常が根付く。
「ちょうどよい、ということだと思います。それは店側もお客さんも気取らなくていいということ。ユルすぎず、でも整いすぎず。暮らしの中にあって、ずっと通いたくなる店が一乗寺の魅力を支えているし、そんな店がこれからも残っていくと思います」

日髙美月 『コウエン』ストアマネージャー

1998年、京都府生まれ。一乗寺在住。学生時代はグラフィックデザインを学び、その後は大阪の書店や京都市内の飲食店などに勤務。2024年11月、カフェ+ギャラリー+ショップの複合空間『コウエン』のオープンを機にストアマネージャーに。一乗寺エリアの移動は「主に自転車で」。

日髙美月
 
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京都駅から一乗寺駅までは、地下鉄烏丸線の烏丸御池駅で乗り換え三条京阪駅へ。三条駅から京阪鴨東線で出町柳駅。叡山電鉄に乗り換え一乗寺駅へ。元田中駅で下車し、緑豊かな白川疏水沿いを散歩しながら北上するルートもおすすめ。鴨川から東へ分岐した高野川へは一乗寺駅から徒歩10分ほど。

photo : Yosuke Tanaka edit & text : Yusuke Nakamura

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