LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。
家のなかにも、庭を連れてくる。料理家・細川亜衣さんが大切に整えるふたつの庭。April 30, 2026
植物との心地よい日々を楽しむ人々を訪ねた&Premium150号(2026年6月号)「花と緑のある暮らし。」より、料理家・細川亜衣さんの花と緑と暮らす家を紹介します。
いつまでも向き合っていたい、大切な場所。
心地よい春風に、満開を迎えたユキヤナギやシジミバナが揺れ、傍らでは気ままに枝を伸ばしたロシアンオリーブが葉を銀色に輝かせている。料理家の細川亜衣さんの住まいがあるのは熊本市の中心に程近い泰勝寺跡。結婚を機に東京からこの地に移り16年、かつての僧房を改修した平屋には、ふたつの美しい庭がある。
「これはバイカウツギで、向こうは利休梅。琉球椿の洋名はルッチェンシス。足元の小花はリュウキンカ。ハナニラやシャガは、どこかから勝手に来て咲いているの」
使い込んだ剪定鋏と台湾の背負子籠を携え庭に出た細川さんの口から、すらすらと飛び出す花の名前。
「ここに暮らしながら、少しずつ植物の名前を覚えていきました。いまは野菜や果実の名前よりもたくさん知っているかもしれません」
きっかけはもちろん、この庭だ。春を告げる宿根草、蕗やミツバの濃く力強い味、山芍薬の佇まいに涙が溢れたこと、むせかえるような夏の緑の匂い。日々繰り広げられる鮮やかな景色に「ずっと庭仕事をしていたい」ほど心奪われた。庭から受け取る土地の旬は、細川さんの料理における大切な柱となり、そして、シンボルツリーの藪椿をはじめとした古木や野草など元の植栽を生かしながら、もっと好きな草木を植え、花を咲かせてみたいと思うようになった。
「近所の立田山の森を歩いては、気に入った樹木に掛かる案内札で特徴を覚えたり、農産物直売所で山採り苗を眺めたり、以前暮らしたイタリアの果樹を思い起こして考えました。庭土を整える際に大変だったのは旺盛な笹で、根を掘り起こし除かないと他の植物が育たない。ここまでくるのに10年はかかったと思います」
こだわったのは、素朴な白い花。
「花でも服でも日用品でも、まっさらな白の〝あるがまま〞なところに惹かれます。庭というのは〝家〞があってこそのものだと思うので、窓越しに眺める風景を想像することも大切。さまざまな表情の白がポンポンと咲いていくよう、開花時期の異なる苗木を選んで配しています」
その言葉通り、寝室の大窓の向こうには花盛りの利休梅と花芽の膨らんだ小手毬が。まもなく見頃を迎える白いモッコウバラは、窓一面に広がる緑のカーテンとなって、食堂に美しい葉影を落としている。
「部屋に花を生けるのは、庭木の剪定をしたときだけ。食堂の窓辺に挿したのは、屋根まで伸びた利久梅の枝を払ったものです。飾るというより、大きな花瓶に張った水を〝土〞に見立て、木立のように〝入れている〞感じ。枯れ葉も虫食いの葉も自然のまま、枝もなるべく触らないのがいい。庭からそのまま連れてきたさまが、いちばん美しいですから」

細川 亜衣料理家
熊本市「taishoji」にて料理教室や展示会を主宰。国内外で食材や工芸作家の器を主題とした料理会も行う。『taishoji cookbook 1』(晶文社)など著書多数。
photo : Haruki Anami
































































