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Project 「Us 4 IRIOMOTE」 / April 15, 2019 〈KEEN〉が「Us 4 IRIOMOTE」の活動を通じて、 守りたいもの、伝えたいこと。


アウトドア・フットウェアブランド〈KEEN〉が
この春からスタートさせたプロジェクト
「Us 4 IRIOMOTE(アス フォー イリオモテ)」。
イリオモテヤマネコをはじめとする希少動物や、
豊かな自然と人々が共生してきた西表島。
いま、この島で起こっていることを知り、
未来へと手渡しするために、
〈KEEN〉が守りたいもの、伝えたいこと。
 
photo : Tetsuo Kashiwada

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希少な生態系と、独自の伝統文化が息づく島。

石垣島から高速船に乗り、40分ほど。
周囲約130㎢の90%を、亜熱帯のジャングルに覆われた島には、約2400人の島民が暮らしている。

西表島。

沖縄県では本島に次いで大きなこの島は、浦内川や仲間川をはじめとする大小40以上の川や、広大なマングローブ林があり、国の天然記念物のイリオモテヤマネコや日本のワシ類では最小のカンムリワシなどの希少な動物が生息する、奥深い自然の宝庫だ。

そこで暮らす人々もまた、独自の文化と伝統を守り、受け継いできた。島の北西部に位置し、現存する村では最も古い祖納(そない)集落では、約500年前から伝わるといわれている神事「節祭(シチィ)」で豊作への感謝と、健康と繁栄を祈願し、16世紀はじめに伝わったとされる八重山諸島の伝統的な織物、ミンサー織りなどの独自の伝統工芸が今に息づいている。

この春、西表島の豊かな自然と文化を持続可能なものにするべく、アウトドア・フットウェアブランド〈KEEN〉が発足したプロジェクト「Us 4 IRIOMOTE」。なぜいまこのプロジェクトであったのか。この島に残る自然と伝統に触れ、そして直面する課題を知るべく、西表島を訪ねた。

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石垣島の石垣港離島ターミナルから定期運航便に乗り、約40分で西表島へ到着する。
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石垣港から高速船にのり、大原港へ到着。島には他に、上原港がある。
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港から車を走らせるとすぐに広がる山間の風景。古見岳、テドウ山、御座岳の三山を有し、山がちで平地が少ないのも西表島の特徴。
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海岸線沿いの県道215線が島の主要道路。島内の移動は路線バスかレンタカーが主となる。亜熱帯のジャングルが生い茂る内陸部には道路がなく、船を利用して移動する集落も。
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約9割が亜熱帯の原生林に囲まれている西表島。海水と淡水の交じり合う汽水域には、広大なマングローブ林が広がる。
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県道215線を走行中に見える海。遠くに小浜島を望む。
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島を歩くとよく見かける、亜熱帯から熱帯地域に生育するアダン。パイナップルによく似た実は、絶滅危惧種であるヤシガニの好物としても知られる。
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島の西部、祖納港からの景色。「まるまぼんさん」と呼ばれる小さな島がぽつんと浮かぶ。島の古謡「まるまぼんさん節」にも唄われている。
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西表島で見る夕焼け。昼間とは全く違った雰囲気が島を包み込む。
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1年を通して飛び交うホタルが見られる西表島。この時期見られるのは、日本一小さなホタル、ヤエヤマホタルの群舞。日没後40~50分ほどしか見られない幻想的な光の点滅が胸とうつ。©Choji Nakahodo

いま、西表島を取り巻く現状、直面している課題。

島の自然や伝統、「Us 4 IRIOMOTE」のプロジェクトに迫る前に、西表島が直面している課題について触れておきたい。

マングローブ林のジャングルやダイナミックな川、滝、そして海……。原始の自然の姿に出合える島としてツーリストから高い人気を誇ってきた西表島。加えて、2013年に奄美大島、徳之島、沖縄島北部と並んで世界自然遺産の候補地に選定されたことで、一層多くの人々の注目を集めるようになった。

島の魅力が広まり、入島者が増えるにつれて顕在化してきた問題が、希少エリアへの入域による植生・生態系へのダメージ、そして交通量増加による希少生物の交通事故だ。国指定特別天然記念物のイリオモテヤマネコは、現在100頭ほどが生息しているとされるが、2018年は過去最悪の9頭の事故が確認されている。また、希少な植物が植生しているエリアに限らず、島の人々がずっと大切にしてきた神聖な御嶽(うたき)に、ツーリストが知らないうちに足を踏み入れてしまう事態も後を絶たない。

もうひとつ、この島が抱えている問題に、漂着ゴミがある。島内の海岸に流れ着いたゴミは発泡スチロールやプラスチック製品が全体の約9割を占め、年間回収量が100トン以上の年もある。回収したゴミを調べると、現在は7割ほどが中国製で、近隣アジア諸国からのものも増加傾向にあるというが、もちろん日本のゴミも含まれている。ゴミが防潮林の生育を妨げると、津波や潮風、高潮の被害を防ぐ効果が薄れてしまう。回収にかかる人的負担や、廃棄のために船でゴミを運搬するコストもかかる。

今後も観光客が増加し、“オーバーツーリズム”が加速していったとき、これらの問題はさらに顕著になる。

そのために、明日の西表島のためにできることを今こそ考えよう。〈KEEN〉が「Us 4 IRIOMOTE」をスタートさせたのは、そんな思いからだ。

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幹線道路沿いのいたるところに掲げられているイリオモテヤマネコ飛び出し注意の立て看板。島内は基本的に制限速度は40キロ、村の中では30キロと定められている。
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海岸沿いに漂着したゴミの数々。発芽した新芽がゴミに押しつぶされたり、根が腐食したりで、木々が育たない被害が深刻化している。
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回収した漂着ゴミはリサイクル処理できないものも多く、石垣市内の業者処分場への搬出のコストも負担しなくてはいけないのが現状だ。

島の伝統文化と自然を守り、伝えていく人々。

「Us 4 IRIOMOTE」が伝えたいことのひとつ。それは、西表島のことをきちんと知ること。
島独自の伝統文化があり、それを継承する人々がいる。染織工房『紅露工房』を主宰する石垣金星さん・昭子さん夫妻もそうだ。先祖代々からこの島に暮らし、島唄や踊りなどの伝統芸能継承者でありながら、郷土史家研究家でもある夫の金星さんと染織家の昭子さんは、島の自然と暮らしに寄り添いながら、自然素材を用いた布づくりを行なっている。糸づくりや染織に必要な植物を工房の周りに植え、蚕に必要な桑も栽培。制作に使う素材や、水、薪などすべての原料は島で取れたものだ。染料もヒルギ(マングローブ樹皮)やナンバンコマツナギなどこの場所で採れたもの。美しく、深みのある紅や藍に染まった布が、風に吹かれて軽やかに揺れる。

金星さんは、村の文化と歴史を保存するために「西表島エコツーリズム協会」の顧問も務める。昭子さんは地元の祭祀の衣装も手掛けるなど、ともに島の暮らしに欠かせないキーパーソンだ。『紅露工房』では、ワークショップの開催や見学も受け入れて伝統技術の保存や後継者の育成にも力を入れている。島の暮らしを伝える語り部として、金星さんと昭子さんは今日も和かに人々を迎える。

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工房の庭に立つ石垣金星さん。緑に囲まれた心地よい空間に『紅露工房』はある。
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ヒルギの樹皮を釜炊きし、海水と混ぜて染料液を作る。
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自分の好きな柄が出るように、木片や輪ゴムなどを使って生地に模様付けする。
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自然染料ならではの柔らかな、それでいてしっかりとした紅色がヒルギ染めの特徴。
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釜から挙げた布を水にくぐらせる石垣昭子さん。人間国宝である志村ふくみさんに師事した経験を持つ。
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近くの水田で泥染めの実演をしてくれる金星さん。泥染めには、退色防止や防虫効果、消臭作用など様々な効果があるという。
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工房にほど近いマングローブの海で「海ざらし」を行う。 不純物が落ち、染料が定着するほか、カビ防止の効果もある伝統的な技法。
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『紅露工房』のほど近く、海ざらしを行った場所。素材から工程に至るまで、全てに島の恵みが生かされている。
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金星さんが食べさせてくれたピタンガ。南米の熱帯地方原産の果物で、赤く熟したものは甘みがある。
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ヒルギ染め、藍染めした布は、太陽光の下で乾燥させる。「こうしていると布も気持ち良さそうでしょ」と昭子さんは朗らかに笑う。

「Us 4 IRIOMOTE」では、西表島の自然保護や文化継承に取り組む人々を支援、または協力して活動を行なっている。

その一つが、「西表島エコツーリズム協会」。
エコツーリズムとは、自然環境や歴史文化など、その土地ならではの魅力をツーリストに伝えることにより、その価値が理解され、地域保全に繋がっていくという考え方。環境保全、環境教育、文化継承、エコツーリズムの4つのキーワードを軸に、島の自然を地域の手で守り、文化を知り、暮らしを受け継ぎ、自立した経済を目指す。自然と人が共生する西表島のために日々活動を行なっているNPO法人だ。

二つ目は、「やまねこパトロール」。
NPO『JTEFトラ・ゾウ保護基金』が開始した「やまねこパトロール」は、イリオモテヤマネコの生息を脅かす交通事故から守るため、日が落ちる頃から2〜3時間、時速20キロ程度で車を走らせてパトロールを行なう。ほかに生息状況調査、保護活動、島の子どもたちへの環境教育なども行う。

三つ目が、前述の漂着ゴミが問題となっている現場を見せてくれた「西表島バナナハウス」。
代表の森本孝房さんを中心に、カヌーやトレッキングで西表島の自然の楽しみ方を伝える活動と平行して、漂着ゴミの問題がこれほど注目される以前の2001年から継続してビーチクリーンアップ活動を続けている。

西表島の自然を愛し、直面する課題に目を向け、明日への志を同じくする各団体と手を繋ぎ、「Us 4 IRIOMOTE」は西表島の未来を見つめている。

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「西表島エコツーリズム協会」は1996年設立。四半世紀に渡り、自らの手で島を守り発展させてきた。
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「西表島エコツーリズム協会」事務局長の徳岡春美さん。「世界自然遺産で注目され、環境貢献活動を支援したいという声が増えている中で、〈KEEN〉さんは真剣に島に関わろうという気持ちが伝わりました」と話す。
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沖縄流炊き込みご飯“ジューシー”。食文化も含めて、西表島には未来へと伝えたいものがたくさんある。「西表島エコツーリズム協会」にて。
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「JTEF西表島支部やまねこパトロール」の活動について説明する事務局長の高山雄介さん。
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「イリオモテヤマネコが路上にいても避けたり止まったりできる法定速度をドライバーに守ってもらうことが1番の目的です」と高山さん。
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「西表島バナナハウス」の森本孝房さんに先導され、海岸へと続くボードウォークを歩く。時折、海から数十メートル離れた内陸部まで漂着しているゴミに驚かされる。
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漂着ゴミの多くはペットボトルや発泡スチロールなど。「そのままにしていては木々や野生動物に影響を及ぼす。人間の出したゴミは自分たちで処理しないといけません」と森本さん。

西表島の自然と文化を未来に残すために。

“Us”は英語で私たち、そして明日の意味。
“4”は「知る」「守る」「話す」「残す」という4つの行動を表す。

西表島の明日のために、私たちができる4つのこと。
この島の豊かな自然を守り、伝統文化を継承していくのは、そこで暮らす人たちだけに課せられた使命では決してない。
西表島の今を知り、明日のためにできること考えるのは、ツーリストの立場にも求められていることだ。

〈KEEN〉では、イリオモテヤマネコの柄をモチーフにした新作シューズの売上の10%をはじめ、クラウドファンディングやチャリティグッズの販売をベースとした「Us 4 IRIOMOTE基金」を設立し、西表島で活動する団体を支援するほか、ツーリストに向けてのマナー啓蒙、文化発信などを行なっていく。さらには、2020年には西表島の春夏秋冬を捉えたドキュメンタリー映画も公開予定でいる。

これまでの消費型の旅から、地域の自然環境や文化を尊重するエシカル・ツーリズムへ。
必要なのはルールではなくモラル。一人ひとりが少しの意識の変化が、西表島の明日をつくる。

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西表島エコツーリズム協会 / https://www.iriomote-ea.com/
JTEF西表島支部やまねこパトロール / http://www.jtef.jp/showcase_yamaneko_03_06.html
西表島バナナハウス / http://www.iriomotenature.com/

※売り上げの10%を「Us 4 IRIOMOTE」の活動に活用する〈KEEN〉の新作シューズについては、こちらの記事をご覧ください。
https://andpremium.jp/recommendation/keen-uneek-evo/