長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。

パンケーキにバナナ。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.1】May 23, 2026

料理家・長尾智子さんの新連載が始まりました。日々の食卓にまつわる小さなお話とレシピ、“作って食べて暮らす”こと。長尾さんがエッセイで綴る「おいしいニュー・スタンダード」です。第1回は、パンケーキのあれこれ。近頃お気に入りのレシピがあるようで……。

パンケーキにバナナ。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.1】

バナナにしかできない、いい仕事。

 パンケーキはお好きですか? 焼くのも食べるのも? 私の場合はどうかというと、焼こうと決めていったん取りかかると、時間を忘れて延々と焼き続けてしまうのを何とか我慢して終了するのが常。パンケーキ作りは、なぜか止まらなくなる危険な作業の一つなのです。
 
 パンケーキのレシピは様々ですが、最近気に入っているのは、スタンダードに近いレシピの6〜7割焼いた生地にバナナをのせた「バナナパンケーキ」。これは&Premium5月号を探していただくとどこかに見つかる“岡尾美代子好み”の小ぶりなフライパンで焼いたもの。そのお話とレシピです。

 レードルですくって流す、柔らかいパンケーキの生地は、流す量とフライパンのサイズに影響されるもの。大きなフライパンに少しずつ流し、薄く大きな1枚にする、小さなフライパンに1枚、生地をたっぷり流すと厚めに、少なめだとパンケーキとクレープの間のような薄さに、と実は好みで仕上がりは自由自在です。今日のフライパンは直径18cm、内側の平らな部分はほぼ12cmと、都合のいいサイズなので、少し厚みのある生地の量で2枚、焼いてみました。1枚ずつ生地を流して焼くメリットは、形が揃うこと。不揃いも良いけれど、揃って出来上がるのは気持ちのよいものですよね。
 
 そんなわけで、いろいろなサイズのフライパンで試すうちに、小ぶりなフライパンにぴったりの焼き方を見つけました。厚みが出るように流した生地を焼く途中でバナナを並べ、もう少しで焼きすぎかなというくらいにしっかりめに焼き込んでひっくり返し、途中、ふとした思いつきで下になった“バナナ側”をバターと粗糖でさらにキャラメリゼする、というやり方を試して、すっかり気に入ってしまったのです。

 
 
 

パンケーキにバナナ。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.1】
こんがりツヤツヤに焼き上げます。小さなひと口をコーヒーと。

 
 こんがりと焼けたバナナとキャラメルの香りに、あら、この感じいいんじゃない? と、いい気分。さらに、生地をよりしっかりと混ぜることにしよう。パンケーキといえばふわふわに膨らませるのが流行りのこの頃、時代に逆行してるな、この生地の詰まり具合は。
 
 でも、よく混ぜるメリットもあるのです。この生地は、バターの使い方が違うだけで、私たちにもお馴染みのフランスの郷土菓子、カヌレやファーブルトンに少し似ていると言えるところがあって、焼き上がりは少しかためのプリンのよう。しかも温かいうちはふんわりと柔らかな食感なので、別のお菓子に格上げしてもいいくらいです。これは作ってみるしかないですよ!

 
 

バナナあってこその、このパンケーキとも言えます。
バナナあってこその、このパンケーキとも言えます。

 焼き上がりの食感がもっちりと詰まる理由は、生地をよく混ぜること(泡が消えてガスが抜ける)に加えて、大ぶりに切ったバナナが邪魔をして、生地は膨らむことができずに抑え込まれたまま焼かれ、身動きできない、水分も空気も逃げない、というせいでしょう。結果、それが功を奏したように思います。
 
 ファーブルトンやカヌレの生地には、クリームやバターが入り、卵も多め。そして、生地を寝かせたり焼くのに時間をかける一方、このバナナパンケーキはよく混ぜてすぐ焼くから、待ち時間はほとんど無い。生地にバターを入れない代わりに、纏わせてキャラメリゼしつつ、バターの香ばしさで仕上げるという、プリンにカヌレ、ファーブルトンの要素を含んだ(もっと言えばクイニアマンのカリカリも?)、簡易ながら、いいお菓子になったと思いますが、どうでしょう?

パンケーキにバナナ。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.1】
生地の下側が焼けてきたらバナナを並べます。

 どうということのない素朴な生地からの味や食感、変化の広がりは計り知れず、いろいろに展開させて振り返ってみると、簡素で少し甘い小麦粉の生地から始まったのだった、とそこに戻り、ふだん食べる身近なお菓子はそれで十分だった、ということもあります。この焼き方もそう。しかも、バナナにしかできない仕事があると確信を持つのでした。
 
 言うまでもなくキャラメルの効果は偉大ですから、キャラメリゼするのもお忘れなく。キャラメルソースを作るのより、かなり気楽なはずです。
 
 簡単にできそうなものほど丁寧に作りたいと思うこの頃。なんだかね、気分も仕上がりもよい気がしてならないのだ。大事なことはそこにあり、なのかなと思います。

パンケーキにバナナ。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.1】

キャラメリゼしたバナナパンケーキ

〈材料〉(直径約12cm 2枚分)薄力粉…100g
ベーキングパウダー…小さじ1
卵…1個
てん菜糖…30g
牛乳…100ml
バナナ…大きめ1本
植物油(米油、太白ごま油など)…少々
無塩バター…約30g
粗糖(キャラメリゼ用)…大さじ軽く山盛り2
プルーン(種を抜いたもの)…2個


〈作り方〉

  1. 薄力粉とベーキングパウダーを合わせてふるい、ボウルに入れておく。別のボウルに卵を軽く溶き、てん菜糖を加えて泡立てないようにフォークでしっかり溶きほぐす。そこに牛乳も加えて混ぜる。
  2. 粉のボウルに卵液を一度に加えて泡立て器で混ぜる(とくに初めは躊躇しないで手早く)。粉気がなくなってすっかり馴染むまで、勢いよく混ぜ合わせる。
  3. バナナの長さを2〜3等分し、さらに縦に2等分する。フライパンを温めて、キッチンペーパーなどに染み込ませた植物油を薄く塗ってなじませてから、生地を流し込む(まず約半量)。弱めの中火で焼き、下側はこんがり、上はまだ生の状態になったらバナナを並べ入れて、ターナーでひっくり返す。
  4. 3の裏側をそっと持ち上げてちらっと覗き、生地の縁が固まって軽めに焼き色がついていたら、いったんまな板に取る。フライパンに無塩バターの半量と粗糖の半量を入れて中火にかける。バターと粗糖が溶けて泡が立ってきたら、バナナ側を下にしてフライパンに戻す。フライパンを揺すって馴染ませ、ぶくぶくとバターが泡を立てながら焦げて、キャラメルの香りがしてきたら焼き上がり。
  5. 焼きあがったパンケーキに刻んだプルーンを乗せて仕上げ。切り分けるサイズは自由。2等分して二人分でも、細かくして一口ずつでも。出来たての柔らかいうちに。

*卵はフォークで溶くのが正解。泡立てず、白身を溶きほぐすようにして。キッチンに1本、フォークを。
*もう少し大きなサイズのフライパンで1枚にまとめて焼いてもいい。大きすぎると厚手のクレープのようになるので、21~22cmくらいまでのサイズで厚みが出るように。
*キャラメリゼに使った粗糖は、鹿児島・喜界島のもの。ザラメのように粗く、素朴なキャラメル風味になるのでおすすめです。種子島産も使います。
*無塩バターは、ファーブルトンのように有塩バターにしてもいい。もし両方手元にあれば、無塩と有塩を半々で混ぜると控えめな塩気になってパンケーキに合う。
*焼き直す時は、140~150度のオーブンかトースターで数分温める程度にリベイクする。ワット数の表示なら300W前後の低い設定で。


長尾智子料理家

著書に『長尾智子の料理1.2.3』(暮しの手帖社)、『あなたの料理がいちばんおいしい』(KADOKAWA)、『料理の時間』(朝日新聞出版)、『ティーとアペロ』(柴田書店)など。オンラインストア『SOUPs around the table』では、オリジナル商品のほか、季節や暮らしにフィットする道具や器、調味料などを紹介している。
https://soup-s.shop/

photo&text : Tomoko Nagao

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