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忘れられない一本。フランス・ロワールで出会ったパトリック・デプラのワイン。写真と文:平澤淳一 (ワインセレクター) #4August 26, 2026

仕事柄、一年を通して本当にたくさんのワインを口にする。

「忘れられない一本は?」と聞かれたら、迷わず思い浮かぶのが、今年2月にフランス・ロワールで飲んだパトリック・デプラのワインだ。

以前は「グリオット」の名でワインを造り、現在は年間3,000〜4,000本ほどしか生産しない。日本に届く本数もわずかで、レストランで出合えたら、それだけで少し幸運な気持ちになる。

パリからTGV(高速列車)でアンジェへ向かい、さらに車を走らせる。

到着して車を降りると、小さな森へ続く道があった。

歩いていくと現れたのは、まるで物語の中に出てくるような、小さなアトリエ。

そこで迎えてくれたのが、パトリックだった。

まずは前日に開けたワインを一杯。正直、「おいしい」という言葉だけでは足りなかった。

忘れられない一本。パトリック・デプラのワイン。写真と文:平澤淳一 (〈gubigubi〉主宰) #4巨匠パトリック・デプラ氏。 | 巨匠パトリック・デプラ氏。
巨匠パトリック・デプラ氏。
忘れられない一本。パトリック・デプラのワイン。写真と文:平澤淳一 (〈gubigubi〉主宰) #4ジブリの世界線にあるようなアトリエ。 | ジブリの世界線にあるようなアトリエ。
ジブリの世界線にあるようなアトリエ。

しばらくワインを飲みながら話をしていると、「醸造している場所を見に行こう」と案内してくれた。

少し歩いた先にあったのは、私が想像していたワイナリーとはまったく違う景色だった。

屋根もない。壁もない。あるのは、地中に埋められたクヴェヴリ(伝統的なジョージアワインの発酵、貯蔵、熟成に使われる素焼きの壺)だけ。

森そのものが、醸造所だった。

ジョージアでクヴェヴリによる醸造に出会い、その考え方に惹かれた彼は、この醸造方法でワインを造ることを選んだという。

リリース前のワインを試飲しながら、気づけば数時間が過ぎていた。

電気を使わない暮らしをしている彼のもとでは、夜になっても灯りはつかない。

真冬の森は静かで、暗闇の中でワインを飲んでいると、不思議と感覚だけが研ぎ澄まされていくようだった。

帰る前、最近土地を買ったという話になった。

「ブドウ畑を広げるんですか?」

そう尋ねると、彼は首を横に振って、

「池をつくろうと思っているんだ。動物たちが水を飲みに来て、生態系が少し豊かになるから」と答えた。

「自分がいなくなっても、この場所が自然に還っていけばいい」
その言葉が、とても静かに心に残った。

帰り支度を始めた私は、ワインを譲ってほしいという気持ちもあったけれど、この日はそれ以上にたくさんのものを受け取った気がしていた。

お礼を伝えると、彼はアトリエへ戻り、大切そうにマグナムボトルを抱えて戻ってきた。

「また遊びにおいで」

その一本は、味だけではなく、その日見た景色や時間ごと持ち帰ったような気がしている。

ワインは、ただ飲んで終わるものではない。

人や土地、そこで過ごした時間までも記憶に残してくれる。

だから私は、今日もまた新しい一本に出会うため、誰かとワインを飲みたいと思う。

忘れられない一本。パトリック・デプラのワイン。写真と文:平澤淳一 (〈gubigubi〉主宰) #4森の醸造所。 | 森の醸造所。
森の醸造所。
忘れられない一本。パトリック・デプラのワイン。写真と文:平澤淳一 (〈gubigubi〉主宰) #4醸造の作業で使う器具。 | 醸造の作業で使う器具。
醸造の作業で使う器具。
忘れられない一本。パトリック・デプラのワイン。写真と文:平澤淳一 (〈gubigubi〉主宰) #4オランダのワインショップのロロさんとパット。 | 一緒に訪れた、オランダのワインショップのロロさんとパット。
一緒に訪れた、オランダのワインショップのロロさんとパット。
忘れられない一本。パトリック・デプラのワイン。写真と文:平澤淳一 (〈gubigubi〉主宰) #4地中に埋められたクヴェヴリ。 | 地中に埋められたクヴェヴリ。
地中に埋められたクヴェヴリ。
忘れられない一本。パトリック・デプラのワイン。写真と文:平澤淳一 (〈gubigubi〉主宰) #42016年のワイン。霜にやられて少量しか造れなかったそう。 | 2016年のワイン。霜にやられて少量しか造れなかったそう。
2016年のワイン。霜にやられて少量しか造れなかったそう。
忘れられない一本。パトリック・デプラのワイン。写真と文:平澤淳一 (〈gubigubi〉主宰) #4最後にプレゼントしてもらったマグナムワイン。 | 最後にプレゼントしてもらったマグナムワイン。
最後にプレゼントしてもらったマグナムワイン。

cooperation:NICHIFUTSU SHOJI


〈gubigubi〉主宰 平澤淳一

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ワインセレクター。ナチュラルワインのインポーターを経て独立。〈gubigubi〉として国内外のワイン生産者を訪ねながら、イベントやポップアップ、食とのコラボレーションを通してワインの楽しみ方を提案している。毎年ヨーロッパを訪れ、生産者と食卓を囲み、その土地の風景や時間に触れることを大切にする。ワインそのものだけではなく、その一本の向こうにいる人や物語を届けることをライフワークとしている。

instagram.com/gubigubi_official

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