INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
家の声を聞きながら、古道具のように継いで、直して。『hitonoto』店主・安田奈央さんとビデオグラファー・ニック・ヴァン・デル・ギーセンさんの築60年の家。August 17, 2026
豊かな暮らしを追求する人々を訪ねた&Premium147号(2026年3月号)「部屋を心地よく、整える」より、『hitonoto』店主・安田奈央さんとビデオグラファー・ニック・ヴァン・デル・ギーセンさんの住まいを紹介します。
家の声を聞きながら、古道具のように継いで、直して。
築60年と聞いて訪れたその家は、想像以上にしっかりとしたコンクリート造り。和洋折衷になっていて、当時としては実験的な佇まいの建物だったに違いない。とはいえ、やはり古さは否めない。約5年前からここに暮らす安田奈央さんとパートナーのニック・ヴァン・デル・ギーセンさんは「ひどい吹雪だったときに脱衣所の上の窓の隙間から雪が降っていたんです」とあっけらかんと話す。竣工当時の木枠の窓が今は作られていない仕様で気に入っており、そのまま使用していたがところどころに隙間がある。不便は少しずつ直しながらも、家の個性として楽しむ心があれば大丈夫、と笑う二人。大きく改修はせず、当時の意匠を残したまま暮らしている。
「この空間ありき。ご縁があったこの場所に合わせて、古い家具などを見つけています。サイズが限られているので、ちょうどいいものに出合うまでに時間がかかりますがそれも楽しいです」
『hitonoto』という手仕事の工芸品や古物を紹介する町家を拠点としたギャラリーを営む安田さんは「人の気配がするもの、自然と対峙した作品に惹かれます。古いものはそれこそ自然に学び、人の手で作られているものばかり。当時の営みや祈りから生まれる作為のない形や色に美しさを感じます」と話す。
この家で一番手間をかけたのは、合計36枚の障子と15枚のふすま。能登の珪藻土を漉き込んだ仁行和紙(にぎょうわし)など、好きな和紙を自分たちの手で張り直した。すべて張り終えるのに数か月かかったという。ふすまの場合は枠を外して紙をはがし、下地と表地の紙を張り、ふたたび枠をはめていく、素人には骨が折れる作業。その甲斐あって生まれた、落ち着いた和の質感だが、そんな障子も愛猫のツメにかかるとひとたまりもない。ヤモリを追いかけて破られるたびに、穴が開いた部分だけ小さな和紙で補修する。ここでの暮らしが長くなるにつれてその数が多くなり、不思議な美しさを湛えたパッチワーク柄になっている。
古さも受け入れながら、自分たちらしく、継いで、直して。


ニック・ヴァン・デル・ギーセン/安田奈央ビデオグラファー/ショップ店主
ニックさんはオランダ出身のフォトグラファー、ビデオグラファー。安田さんは工芸品やアートを紹介するスペース『hitonoto』の店主。
photo : Nik van der Giesen edit & text : Tomohiro Okusa













































