MUSIC 心地よい音楽を。
ベーシスト、作曲家 千葉広樹さんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.4October 23, 2026
October.23 – October.29
Saturday Morning

すべては心象風景の中にある。
地元岩手県には1891年に創業の小岩井農場という大きな農場がある。岩手山の麓にある広大な牧草地は東京ドーム約640個分の敷地面積を誇る。小さい頃からこの農場が大好きで牛や馬、羊なんかがいたり、創業当時からある現役のサイロや牛舎があったりしてとてもワクワクする。同郷の詩人、宮沢賢治もこの農場を愛し、詩集『春と修羅』や幾つかの童話の題材にもなっていて、賢治の持つ独自の自然観、世界観は小岩井農場から影響を受けたと言っても過言ではない。その世界観とは見た景色をそのまま伝えるのではなく、世界と自分が出合うなかで、心や情感というフィルターを通過することで両者の見え方が変容して生み出された賢治独特の言葉や表現そのもの。賢治の作品を読んでいると、僕らはそれぞれが持つ変容した心象風景の中に生き、常日頃から世界(社会)と向き合い続けているんじゃないかと思うんです。そんなことを思いながら賢治の詩を読んでいた2017年のある日、僕の心象風景はどんな音なんだろうと唐突に思い立ち、幼い頃に見た雪解けの春の朝、草木から滴り落ちる雫、どこまでも続く新緑の木々、そして雄大に聳え立つ岩手山、そんな記憶のなかの原風景を基にこの曲を作った。賢治の作品を読むと、いつだって意識の中で故郷に帰ることができる。
EP『Eine Phantasie im Morgen』収録。
地元岩手県には1891年に創業の小岩井農場という大きな農場がある。岩手山の麓にある広大な牧草地は東京ドーム約640個分の敷地面積を誇る。小さい頃からこの農場が大好きで牛や馬、羊なんかがいたり、創業当時からある現役のサイロや牛舎があったりしてとてもワクワクする。同郷の詩人、宮沢賢治もこの農場を愛し、詩集『春と修羅』や幾つかの童話の題材にもなっていて、賢治の持つ独自の自然観、世界観は小岩井農場から影響を受けたと言っても過言ではない。その世界観とは見た景色をそのまま伝えるのではなく、世界と自分が出合うなかで、心や情感というフィルターを通過することで両者の見え方が変容して生み出された賢治独特の言葉や表現そのもの。賢治の作品を読んでいると、僕らはそれぞれが持つ変容した心象風景の中に生き、常日頃から世界(社会)と向き合い続けているんじゃないかと思うんです。そんなことを思いながら賢治の詩を読んでいた2017年のある日、僕の心象風景はどんな音なんだろうと唐突に思い立ち、幼い頃に見た雪解けの春の朝、草木から滴り落ちる雫、どこまでも続く新緑の木々、そして雄大に聳え立つ岩手山、そんな記憶のなかの原風景を基にこの曲を作った。賢治の作品を読むと、いつだって意識の中で故郷に帰ることができる。
EP『Eine Phantasie im Morgen』収録。
Sunday Night

今日は日曜の札幌。何を書こうかなとホテルの部屋でぼんやりしていたら、ちょうど北京に住む友人からメッセージが届いた。友人とやりとりしているうちに、とあるライブの日のことを思い出した。2017年の春、ライブツアーで中国上海市青浦区にある1700年以上の歴史を持つ川の周囲に形成された街、朱家角(ジュージャージャオ)を訪れた。「東洋のベネツィア」とも称され有名な観光地のひとつだ。川沿いに並ぶたくさんの明・清時代の古い木造建築が並び、アーチ型のとても美しい石橋があったり、通りには飲食店と露店がひしめき観光客で賑わう華やかな街だ。ライブもたくさんの人々が聴きに来てくれて大盛況。皆オープンマインドで優しいし、ライブ後も興奮冷めやらぬ人々が話しかけてくる。店主も気さくな人で、自家製の酒をありったけ飲ませてくれて、みんなでひたすら乾杯し続けた。実はこの日のライブはいろいろありえないトラブルが続いたのだが、街の人々の優しさと寛容さに救われたライブだった。そんなカオスな状況を切り抜け、皆で夜の街を歩いていると有名なアーチ型の橋に辿り着いた。ふと橋の上から街の景色を眺めると、川の先の方から潮風が吹き、暗闇の中に遠くまで続くぼんやりと光る美しい街並みが見えた。そして肩を組みながら闊歩している酒に酔ったメンバーと現地の友人達。時はもう深夜24時を過ぎている。みんなにとっては別に何でもない時間かもしれないけど、僕にとってはなんだかすごく尊くて美しい世界が見えた。もしかしたらこれこそが完璧な世界なのかもしれない。何気ない日常の断片が折り重なった瞬間にこそ完璧な世界が生まれるのかもしれない。でもそれは日常的に誰にでも等しく起こりうる瞬間なんだろう。その小さな喜びみたいなものがどんどん連鎖していけば世界はほんの少しだけでも幸せになるのかもしれない、なんて思ったり。そんな昔話を回想しているうちにもう深夜24時を過ぎてしまった。今日も今日とて日曜の深夜はありふれた世界かもしれないが、Jakob Bro Trioの美しいこの曲が今夜には相応しいでしょう。
アルバム『Bay Of Rainbows』収録。
アルバム『Bay Of Rainbows』収録。
edit : Seika Yajima
ベーシスト、作曲家 千葉広樹

1981年岩手県盛岡市生まれ。東京在住のベーシスト、作曲家。これまでに数多くのミュージシャンとの共演を重ねているが、クラシック、ジャズのキャリアを経て2017年より本格的にソロ活動をスタート。コントラバスによるクラシカルなサウンドと、電子音によるアトモスフェリックな独自のサウンドスケープを追求している。これまでに4枚のソロアルバムをリリース。
2019年には、東京都現代美術館で行われたファッションブランド〈ミナ ペルホネン〉のファッションショーの音楽を担当。2025年公開の吉田大八監督作品『敵』、2026年には武田真悟監督のホラー映画『祝山』のサウンドトラックを手がける。荒内佑(cero)とのユニット王睘 土竟(かんきょう)、自身のバンドIsolation Music Trioの活動や、蓮沼執太フィル、YOUR SONG IS GOODの吉澤成友、光永渉とのblah bruh、吉田省念、笹倉慎介、岡田拓郎、原摩利彦、Julia Shortreed、角銅真実、渡邊琢磨、古川麦、藤原さくらなどのライヴベーシストでもある。arauchi yu(cero)、優河、Janis Crunch、湯川潮音、cero、Luca Delphi、古川麦などのプロデュースやストリングスアレンジも手がける。音楽サイト「NiEW」にて「デイドリーム・サウンドトラックス~千葉広樹による『映画音楽』案内~」を連載中。
Photo :Tetsuya Yamakawa
































