冥丁 / MEITEI – 電子音楽家 / 音楽プロデューサー  | & Premium (アンド プレミアム)

電子音楽家 / 音楽プロデューサー  冥丁 / MEITEI


June 25, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/冥丁 vol.4

June.25 – July.01, 2021

Saturday Morning

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Title.
Gymnopédie No.1(feat.Drew Jurecka)
Artist.
Joseph Shabason
梅雨らしい日が続くことなく、六月が過ぎ去ろうとしていますが、どうでしょうか。今週選ばせて頂いた楽曲は「Gymnopédie No.1」です。
オリジナルも好きなのですが、特にこのジョゼフ・シャバソンのテイクを愛聴しています。1800年代後半のパリのムードをイメージされているとのことです。
淡い残像のように楽曲の奥に響く喧騒の中に、過ぎ去った日の人々の心象風景を垣間見ることが出来ます。
“地球上に一人用のテーブルよりも居心地の良い空間はないと心の底で私達は理解している” シャバソンが考えるこの孤独の捉え方に、共感してしまいます。
意識と意識が密集する社会で暮らす僕等にとって、孤独な時間はある種の救いのようなものなのではないでしょうか。
人々が健やかであればあるほど、孤独が持つ温度も変化していくように思います。冷え切った孤独ではなく、温かで穏やかな孤独もあるのです。
6月最終週の朝に相応しい一曲ではないでしょうか。
シングル『Gymnopédie No.1(feat.Drew Jurecka)』収録。

Sunday Night

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Title.
千両幟(Senryou Nobori)
Artist.
豊澤平吉(Toyosawa Heikichi)
先週、町で偶然出会った方に教えて頂いた作品になります。フレッド・ガイズバーグさんによってレコーディングされた19世紀の日本の音楽集です。商業目的において、日本最古の音源とされる1903年からの貴重な音源も収録されている作品です。何度も聴かせて頂きましたが、良い塩梅に仕上がっていますね。
古い日本音楽を聴く時、不思議と感覚の差異を感じます。
それは音楽鑑賞というよりは、美術鑑賞という言葉の方が腑に落ちる様な気がするからです。西洋的な概念が浸透する以前の日本音楽ならば、全く違う概念を持っていても不思議ではないですよね。
現代に生きる玄人に依ることなく、俯瞰的な魅力を秘めたまま、時代の片隅に在り続けたこの音楽に深い情が湧き上がってきます。
このアルバムを作るために来日したロバート・ミリスさんは、このアルバムを編集するために日本各地を巡ってSP盤を蒐集していたようです。その情熱に心から敬意を表します。
本来ならば日本人の手で日本からリリースされるのが本望ではありますが、それは相変わらず難しいようです。僕個人としては、この感覚を頼りに、また新たな日本を知る旅に出発してみたいと感じました。遠い日の日本に想いを馳せながら、涼風立つ初夏の夜に聴きたいですね。
アルバム『Sound Storing Machines: The First 78rpm Records from Japan, 1903-1912』収録。




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音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 小西康陽、青葉市子、七尾旅人、長田佳子、テイ・トウワ、中嶋朋子……、 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付きです。 詳しくはこちら


June 18, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/冥丁 vol.3

June.18 – June.24, 2021

Saturday Morning

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Title.
光と水
Artist.
日向敏史
数年前の初夏、ある女性に恋をしました。
彼女と会う朝の時間は楽しいものでした。
この音楽を聴くと、当時の記憶を思い出してしまいますね。
先日彼女を数年ぶりに街で見かけました。
まるで時が止まったような不思議な感覚になりました。
現在と過去がすれ違っていくように、心が揺れているのを感じました。
僕らは互いの存在に気づきながらも、目を合わせることはありませんでした。
それは不思議と心地の良いもので、それで良かったと思えるものでした。
大人になってから経験する恋は、どこか爽やかな感情に包まれています。
帰り道、海岸沿いの国道を車で走りました。
この曲が車内で流れていました。
私にとって初夏の恋の思い出を優しく呼び覚ましてくれる一曲です。
アルバム『ひとつぶの海 Reality In Love』収録。

Sunday Night

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Title.
宇多野
Artist.
冥丁
手前味噌で恐縮なのですが、こちらを六月の夜の一曲として選びました。
二十代の後半は、京都の嵐山周辺で暮らしていました。
伝統と非伝統が混ざりこむ嵯峨野の空気感と、人気のない夜の静けさがお気に入りでした。
ある晩、そんな日常の気配を引用した音楽を作ってみたいと思いつきました。
音楽を単なる内面的な自己表現に使うのは勿体ないと思ったからでした。
過去のヴァイナルを引用するよりも、目の前にある風景を出来るだけ引用してみたかったのです。
特別なことをしたいわけではなかったんですよね。
「宇多野」は、夜な夜な広沢池に赴き、様々な印象を引用し制作しました
先祖代々詠まれてきた広沢月詠の系譜に、御一緒させて頂くような気分でしたね。実際それは恐れ多いことですが、自国と感覚的な繋がりを持つことが重要だと思いました。些細でありながらも、いつも側にある偉大な日本の姿を今後も大切にしたいです。
初夏の夜に聴いて頂きたい一曲です。
また京都で暮らしたいと思いました。
アルバム『小町』収録。




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June 11, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/冥丁 vol.2

June.11 – June.17, 2021

Saturday Morning

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Title.
Helical
Artist.
John Frusciante
雨景色と親和性のある曲を思った時に「Helical」が浮かびました。
土曜日の朝に良さそうですね。
青銅色のステンドグラスのような音色に、指で雨音をなぞるようなギターピッキングの塩梅に色気を感じます。
バッキングの反響に、どこか水琴窟のような趣も感じましたね。
ふと気が付くと、10年以上もこの曲を聴いているようです。時代は変わり、当然ながら私自身も変わりました。
記憶の中にいる自分の姿も、最近は遠くに霞んで見えるようになりましたね。
平穏が渦を巻くように、日常の深くに徐々に潜って行くような感覚です。
空は晴れ渡り、雲を失った雨達が、まだここでは降り続いています。
初夏の緑陰が美しい朝に聴いてみたい曲です。
アルバム『The Will To Death 』収録。

Sunday Night

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Title.
Silk Print
Artist.
Puma Blue
帰宅後、静まり返った部屋で、この曲を聴いてみたくなりました。
夜のしじまに浮かぶような心地よさがありますよ。朧げなエコーのシルエットと、繊細な息遣いに色気を感じますね。
六月のしだれた日曜日の夜に良さそうです。
アルバムタイトルの『In Praise Of Shadows』は谷崎潤一郎さんの陰翳礼讃からでしょうか。興味深いですよね。
物語の真意が判らずとも、ふっと香ってくるような気配が好きなんですよね。
感覚から溢れてくる涙のような真実を遠慮深く愛してみたいです。
「Silk Print」はそんな音楽だと思いますよ。
そっと夜の帳が下りてくるような味わい深い一曲ですね。
アルバム『In Praise Of Shadows』収録。




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June 04, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/冥丁 vol.1

June.04 – June.10, 2021

Saturday Morning

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Title.
Mood
Artist.
Katya Yonder
ロシアのエカテリンブルクに住む友人のカチャ・ヨンダーさんから届いた新しいアルバム。その中でもこの曲が一番のお気に入りで、「Mood」というタイトルも好きです。部屋でこの曲を流しながら、まだ深い朝のトワイライトに浸るのも良いと思いますよ。
暫く目を閉じて聴いていると、空想の中の不思議な世界へと旅立つことが出来ます。淡光の入る白い部屋から始まり、視界は徐々に霞んでいきます。辺り一面には植物達が生い茂り、遠い日の未来に一人で立っている。土曜日の朝は、そんな想像に耽りながら雨音と共に微睡んでみたい。
爽やかな孤独に包み込まれる一曲だと思いますよ。
アルバム『Multiply Intentions』収録。

Sunday Night

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Title.
The Tunnel
Artist.
Azimuth
日曜日の夕刻、瀬戸内海に架かる街道を通って旅に出かけることがあります。暗がりの車内でこの曲を流しながら、四国へ向かうのが好きなんですよ。六月の夜も聴いてみたいと思いましたね。
この街道の4番目に架かる橋を越えた辺りから、永遠と続く道を進んでいるように思えてきます。車窓から見える外の景色はとても静かで穏やかな表情をしています。
月明かりに照らされた海峡は煌めき、島々が夜空の下で響いています。
橋を渡り、海峡を越え、トンネルをぬける度に、夜は深まっていきます。
そう云えば、この曲を聴いていると宮沢賢治の銀河鉄道の夜を思い出しましたね。
一つの物語がそっと終わっていくかのような、読後感の漂う一曲だと思いますよ。
アルバム『Azimuth / The Touchstone / Départ』収録。




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電子音楽家 / 音楽プロデューサー  冥丁 / MEITEI

先一昨年、民間伝承の新解釈として『怪談』を発表し、藤田は冥丁として活動を始めました。翌年、日本の夜を表現した『小町』を発表し、2020年には、古美学乃風刺と題した『古風』の発表へと続きます。いずれの作品も彼の美意識に基づいて制作された珠玉の音楽作品になっています。
*冥丁 – 藤田による日本の印象を音楽にするプロジェクトの呼称。

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