MUSIC 心地よい音楽を。
ベーシスト、作曲家 千葉広樹さんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.3October 16, 2026
October.16 – October.22
Saturday Morning

京都の街がとても好きだ。なぜなら数多の寺社仏閣はもちろん、未だ昭和の雰囲気を感じられる建物や店、若い人たちが中心になって新しいムーブメントを発信している感じとか、時代を超えたカルチャーがギュッと詰まったような街がとても気に入っている。あと東京ほど大きすぎないし、中心地でも端から端まではバスや地下鉄で割とすぐに移動できるちょうど良い街の広さが好きだ。僕は岩手県盛岡市出身の田舎者で、市街地から少し離れた山間にある自然に囲まれた町で育ったものだから、20歳の時に初めてライヴで京都へ行った時は、圧倒的な深い歴史と、新しい文化がミックスしている様がリアルにカルチャーショックだった。それからはライブで行くことも増えてたくさんの友だちができ、一緒に演奏したり毎晩朝まで飲み明かしたり。いつだって楽しい京都の街が好きだ。あれはたしか金曜だったかもしれない。ライヴ後の打ち上げでひとしきり酒を飲み、二軒目、三軒目と辿り着いたのが、先斗町にある行きつけのミュージックバー。友だちとまた性懲りも無くウイスキーをあおり、なかなか泥酔したものでそろそろ帰ろうかと店を出て、先斗町を下がって鴨川沿いの路地を歩いていると、ふと気がつけば人影の無い街に朝日が差し込んできた。今日も賑やかな京都の街が目覚めようとしている。朝日の眩しさを感じつつ、ほろ酔い気分で足踏みしながら、また旅の続きを始めようと思った。そんな夜ふかししてしまった土曜の晴れた朝は、吉田省念の清々しい晴れ男の歌を聴いて酔いを覚まそうかな。
アルバム 『黄金の館』収録。
アルバム 『黄金の館』収録。
Sunday Night

“Nocturne”(ノクターン) とは日本語で“夜想曲”という意味。ラテン語で“夜”という意味の“nox”が語源となっている。これを書いているのは10月初旬なのでいわゆる”秋の夜長”の時季。秋分の日を境に日没がだんだん早まり夜の時間が長くなるだいたい一か月半くらいの期間のことを言う。秋はキャンプにとって絶好のシーズンだ。なぜなら暑くもなく寒すぎもしないし、雨も少なく空気がカラっとしていて過ごしやすい。数年前、僕のキャンプの師匠でもある友人と、富士山の麓にあるキャンプ場に行った。ちょうど今くらいの時季だろうか。日中は半袖でも過ごせるくらい暖かく、夜は厚手のジャケットを着ないと富士山から吹き下ろしてくる冷気が結構寒い。テントを並べてそれぞれの椅子に座りながら焚き火を見つめ、ぼんやり景色を眺めたりお酒を飲んだり、特に何もしないのが楽しい。その友人のこれまでの破天荒な人生話を聞いたり馬鹿話をしたり、音楽についてディスカッションしたり、終始互いに明け透けな話で盛り上がった。眼の前には暗闇に浮かぶ大きな富士山とそれを照らす大きな満月。その壮大な情景を眼前にするとなんだか不思議と嘘偽りを包み隠すことなく、正直者にならざるを得なくなってしまい、ついつい喋りすぎてしまうし、盃がすすむ。夜の情景は郷愁を誘い、心を解き放つことができる。ささやかな歌声に包み込まれた壮大なこの“夜想曲”を聞くと、あの日の情景と馬鹿話を想い出す。もしかしたら“夜想曲”は時空を超えて存在しているのかも知れない。今は亡きその友人にこの曲を捧げたいと思う。
EP「~~~ - EP」収録。
EP「~~~ - EP」収録。
edit : Seika Yajima
ベーシスト、作曲家 千葉広樹

1981年岩手県盛岡市生まれ。東京在住のベーシスト、作曲家。これまでに数多くのミュージシャンとの共演を重ねているが、クラシック、ジャズのキャリアを経て2017年より本格的にソロ活動をスタート。コントラバスによるクラシカルなサウンドと、電子音によるアトモスフェリックな独自のサウンドスケープを追求している。これまでに4枚のソロアルバムをリリース。
2019年には、東京都現代美術館で行われたファッションブランド〈ミナ ペルホネン〉のファッションショーの音楽を担当。2025年公開の吉田大八監督作品『敵』、2026年には武田真悟監督のホラー映画『祝山』のサウンドトラックを手がける。荒内佑(cero)とのユニット王睘 土竟(かんきょう)、自身のバンドIsolation Music Trioの活動や、蓮沼執太フィル、YOUR SONG IS GOODの吉澤成友、光永渉とのblah bruh、吉田省念、笹倉慎介、岡田拓郎、原摩利彦、Julia Shortreed、角銅真実、渡邊琢磨、古川麦、藤原さくらなどのライヴベーシストでもある。arauchi yu(cero)、優河、Janis Crunch、湯川潮音、cero、Luca Delphi、古川麦などのプロデュースやストリングスアレンジも手がける。音楽サイト「NiEW」にて「デイドリーム・サウンドトラックス~千葉広樹による『映画音楽』案内~」を連載中。
Photo :Tetsuya Yamakawa






























