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Music土曜の朝と日曜の夜の音楽。

シンガー Eri Liao (エリ・リャオ)


October 27, 2017 今月の選曲家 エリ・リャオ

October.27 – November.02, 2017

Saturday Morning

Elis-Tom
Title.
Aguas De Março (Waters of March)
Artist.
Antonio Carlos Jobim & Elis Regina
「三月の雨」の生まれた南半球ブラジルで、三月とは秋だ。長い雨がようやく上がると、秋はもう冬へ向かっているというリオの季節。この十月私たちも、秋晴れのよく見えぬまま台風が来て、過ぎ、洪水が引き、やっと日は差したがあたたかいのは一瞬だった。棒切れ。石ころ。道の終わり。希望という言葉はその同義語のように転がり、冬も近いと感じる。でも立ちつくす私たちを想像して、私には「三月の雨」が聴こえる。アントニオ・カルロス・ジョビンとエリス・レジーナの歌声、笑い声、口笛。むせび泣きたい時でさえ、こみ上げているのは実は生きる喜びなのだと教えてくれるこの曲を、十月最後の土曜日、嵐の予報の気になる朝にまた聴きたい。
アルバム『Elis & Tom』収録。

Sunday Night

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Title.
At Night
Artist.
Theo Bleckmann & Ben Monder
聴きなれない旋律が妙に胸を打つ。触ったことのなかった場所へ、長調とも短調ともつかない、何拍子ともわからない音楽が、そこが居場所だというようにすっと入る。人の声とエレキギターがエフェクターを通って現れる風景はデジャヴのようで、祈り方を探し、静かにきしむ音のようだ。リズムが私を連れて行く先は、楽しいパーティでも哀しい思い出でもなく、どこか湖の奥のような、行き先はないような、夜、夢を見るように、私はそこへ行くのを好んでいる。気付けば虫の鳴き声も聴こえなくなり、今、夜は一層長く静かになった。ルーミーの詩につけられたこのメロディは、私の中をロウソクの灯のように揺れている。
アルバム『At Night』収録。

October 20, 2017 今月の選曲家 エリ・リャオ

October.20 – October.26, 2017

Saturday Morning

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Title.
The Revolution Will Not Be Televised
Artist.
Gil Scott-Heron
初めて聴いた20代の時、ラジオからあの声が流れた瞬間、空気が止まったと感じた。何を言っているかわからなかったし、メロディはない。でもこれは何か大事な音楽なんだ、と聴きながらに刻印されていった。この土曜日の朝、私は音楽にいったい何を聴きたいだろう。考えているとふとこのフレーズが浮かんだ。The Revolution Will Not Be Televised. 今再びこの曲を聴き、空気はもう止まっていない。今ある何かを、大きく、ひっくり返すほど変えたいのなら、私は自分の奥底深く、息を止めず、息を乱さず、ただ刻々と突き抜けていかなくてはならないのだから。
アルバム『Pieces Of A Man』収録。

Sunday Night

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Title.
Aria
Artist.
Glenn Gould
ピアノの音の響きには、近付いてはいけない冷たさと、なおかつ包まれている温もりの両方を感じる。私の耳から私へと入って、中まで届いているはずなのに、時々ピアノは、まるでやっと目の前に来た遠くの物語が、指の間をみるみるこぼれ落ちていく音を立てているようだ。この273年前の、私に入ってくる音と、私を通り過ぎようとする音の、ぽつぽつと降り出して流れる音楽は、私を今につなぎ止めたまま、少し先へと押し出す。今がどんなところでも、少し先がどんなところでも。冬の気配のする夜、上着を重ねて、グールドのピアノに耳を澄ませてみたい。目の前がどんな景色だとしても。
アルバム『Bach: The Goldberg Variations, BWV 988 (1981 Recording, Remastered)』収録。

October 13, 2017 今月の選曲家 エリ・リャオ

October.13 – October.19, 2017

Saturday Morning

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Title.
Ku-Isa Tama Laug
Artist.
David Darling & The Wulu Bunun
夜から降っている雨が朝になってもやまなかった。雨の日は、ただ窓を開けて、雨の音、濡れた地面を車やバイクが通っていく音、隣近所からする生活音なんかを聞いているのが好きだ。そういう音を聴いていると、土曜日に家にいることがとても幸せだと思える。ブヌン族の歌は、私にとってそういう音と「音楽」の間にある。ベランダの手すりに落ちる雨粒、鳥のさえずり、子どもの声、スリッパ、お湯の沸いてくる音。わざわざ音楽してない音楽が聞こえてくる時の喜びが、山間のブヌンの村の、雨の朝の、音と音楽の間を滝のように流れているのを、デヴィッド・ダーリングのチェロが「ほら」と見せてくれる。
アルバム『Mudanin Kata』収録。

Sunday Night

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Title.
The Nearness of You
Artist.
Abbey Lincoln and Hank Jones
友人たちと歩いていたら、駅の方に大きな月が見えた。「ねえねえ、月だよ」と私が指差すと、友人は横にいた自分の彼女を「そこに立ってて」と立ち止まらせ、月と彼女と夜の街の写真を撮った。撮った写真を確認して嬉しそうにしている友人を見ながら、「月がきれい」と空を見上げる時、私たちの心を輝かせているのは月ではないのかもなと思った。この古いスタンダードもそう言っている。月ではなく、あなたが近くにいることだ、と。でも、アビーの歌とハンク・ジョーンズのピアノがそう言えば言うほど、どうしてか私の心の中で、もう近くにはいない人が、遠くの月のように浮かび上がっている。
アルバム『When There Is Love』収録。

October 06, 2017 今月の選曲家 エリ・リャオ

October.06 – October.12, 2017

Saturday Morning

&MUSIC
Title.
Everybody Loves The Sunshine
Artist.
Roy Ayers Ubiquity
土曜の朝、夜の続き。誰かの夜が終わろうと、誰かの朝が始まろうとする頃。寝る準備もそこそこに眠りこけ、目が覚めると、朝はもう私の街からいなくなっている。ついこの間まであったと思った夏の名残りも、10月の朝にはすっかり消えていて、明け方に聴こうと思っていた曲は季節外れになっている。「でも、」と、この曲をかけてみたくなった。長袖のパジャマで、あたたかいお茶がほしくなっているが、そんな朝もやっぱりこの曲が好きだ。朝焼けの見えない部屋、目を閉じていても、どこか遠くで朝が来ていて、私は安心して眠っていていいような気持ちになるのだ。
アルバム『Everybody Loves The Sunshine』収録。

Sunday Night

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Title.
A Sunday Kind Of Love
Artist.
Etta James
題名に曜日の入った曲はどこか特別だ。カーペンターズの「Rainy Days and Mondays」サイモン&ガーファンクルの「Wednesday Morning, 3 A.M.」。ある曜日の持つ何かが、音楽の中で私の知っている景色とぴたっと合う瞬間がある。日曜の夜は静かだ。夕方には買い物に出て、部屋着につっかけの人々に混ざり、食料品をかかえて帰ったら、家でゆっくり、ただ火を通しただけのような食事をしたい。片付けを済ませ、電気を消し、無事に一日が終わっていくが、目を閉じる頃、日曜の静けさがふと表情を変えることがある。真夜中の闇。エタの歌は光を届ける魔法ではない。だけど私は、暗がりを覗いたまま、深く深く、慰められている。
アルバム『At Last!』収録。

シンガー Eri Liao (エリ・リャオ)

台湾・台北生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。同大学大学院を中退、コロンビア大学大学院芸術学部へ編入、NYで文芸創作とジャズを学ぶ。祖母の死をきっかけにコロンビア大大学院も中退、本格的に音楽活動に取り組む。Eri Liao Trioとして2017年8月にCDデビューを果たす。最新アルバムに『紅い木のうた』がある。eriliao.jimdo.com