LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。
〝美しく古びる〞空間を目指して。築50年以上を経た、建築家・林寛治さんの自邸。October 19, 2026
限りあるスペースや、年月を経た古い家など、一見ネガティブにも捉えられる条件とどう向き合い、居心地のいい場所をつくりだすか。その創意工夫のプロセスも「整える」ことのひとつ。これまで本誌で取材してきた、狭さや古さにとらわれずにベターライフを楽しんでいる36組の実例集を一冊にまとめた2026年10月8日発売「住まいと心を、整える」MOOKから、建築家・林寛治さんの住まいを紹介します。
〝100年住宅〞を目指した家づくり。
都内の閑静な住宅地に立つ、建築家・林寛治さんの自邸が竣工したのが1971年。この家の設計を決意したのは、イタリアでの6年にわたる設計事務所勤務を経て帰国し、吉村順三に師事していた、33歳のときだった。
「イタリアから帰国して見た日本の住宅は建設費が高く、間取りも窮屈に思えた。それならば家づくりの段取りを学びつつもコストが抑えられる直営施工で、自ら実験するのがいいと思ったのです」
当時、実家のあった敷地の一角に建てた、補強コンクリートブロック造の1階と木造の2階、屋根裏からなる住宅。個室とサニタリーに仕切られた1階に対し、2階は庭に面してL字形に大きく取られた窓と吹き抜けが印象的な居間と、それに連続する食堂、キッチンを配した開放的な空間が広がっている。この家で試みたことのひとつが、「広く感じる居間」を作ること。それは視覚的な広がりのみではなく、動的な広がり感の獲得を目指したものだった。人が集まる交流の場である2階は回遊動線として自然な人の流れを促し、どの場所からも視線が窓の外へ向かうように意識することで、限られた空間に広がりが生まれた。部屋の至る所に置かれた椅子にも意味があり、座る場所を変えるだけでも部屋の眺めが変わり、その視線の変化が新鮮味をもたらしてくれる。「好きな場所に座って、季節によって移り変わる庭の景色を見るのが一番の楽しみ。50年以上住んでも飽きることがありません」と妻のアメリーさんが嬉しそうに教えてくれる。
この家で主題としたもうひとつが土足での暮らし。「当時の日本では珍しかったタイル敷きの床。イタリアで実感したタイルの不変・不朽性をここでも実感したかった」と、GRESというイタリアで最も安価な素焼きタイルを輸入し、家全体の床を統一。定期的にワックスを塗り込み、丁寧にケアされてきたタイルは時間の経過とともに艶を増し、今でも鞣し革のような温かみのある表情を保っている。玄関から家の隅々まで同色で同じ手触りのタイルを敷き詰めることで空間に連続性を生んでいることも、平米数以上に感じるこの家の広がりや心地よさにも繋がっているのだろう。
「古いものほど良い、と言い切ったほうがいいと思っているんです。それは丈夫であること、大切にされてきたことの証しだから」。
自ら塗装した深紅の外壁も、空間に広がりをもたらす窓の木製建具も、床一面のタイルも、時間を経た今こそが最も美しい状態なのかもしれない。「日本にも、古典となる住宅が増えればいい」。そう語る建築家が暮らす家には、時代を超えて味わいを増していく、確かな美しさがあった。


林 寛治/林アメリー建築家/キルト作家
寛治さんは吉村順三の下で学んだ後、1974年に自身の設計事務所を設立。アメリーさんはフランス出身。キルト作家として個展開催など精力的に活動する。
photo : Shinnosuke Yoshimori
















































