INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
光の美しさを知る。建築家・谷尻誠さんに聞いた、心地よく過ごすための空間づくり。February 16, 2026
豊かな暮らしを追求する人々を訪ねた&Premium147号(2026年3月号)「部屋を心地よく、整える」より、建築家・谷尻誠さんに聞いた心地よく過ごすための空間づくりを紹介します。


暗さを住まいの質として選び取る。
南向きに窓があり、さんさんと太陽の光が降り注ぐ。長い間、それが住宅を選ぶ際のセオリーだと思われてきた。もちろん、日当たりのいい部屋にいると活動的になるし、気持ちが晴れやかになるというメリットもある。
けれども暗さもまた、心を落ち着かせ、内省を促し、対話の密度を濃くするといった居心地の良さをもたらす重要な要素である。
建築家・谷尻誠さんの自邸は、まさに暗さを楽しむ家である。2021年に竣工した「HOUSE T」は、洞窟にいるかのような陰影が特徴的で、玄関から奥に向かうにつれ、昼間でも照明をつけたくなる陰りのある空間が広がる。そして、北側に大きく開けた窓からは安定した光が差し込み、しっとりとしたあわいを生み出している。
このアイデアの源泉は、谷尻さんが生まれ育った家にある。
「僕は幼少期、町家に住んでいて、昼間でも薄暗い家で育ったんです。子どもの頃はそれが嫌だったのですが、今考えると、けっこう貴重な体験でした。外がきれいに見えるのは中が暗いときだというのを実感として知れたし、お寺に行くのも好きなのですが、境内から眺める風景が実家に近いことに気づきます。良質な暗さで満たされた環境というのは、人が本能的に求めているものなのではないかと思うようになったんです」
そこで、自由に設計できる自邸は、あえて光を抑制する建築にチャレンジした。その試みは正解だったと、5年経った今も確信。
「全体的にフラットに明るいより落ち着くし、集中できます。自分の内面と向き合ったり、本来出せないものを出せる環境として、暗さというのはけっこう有効なんです。それもあって、どこまで暗くできるかに挑戦したところがあります」
窓は北側と、ロフト部分の東側に作った2つのスリット窓のみ。照明は、暖炉脇のテーブルライトとダイニングテーブルの上を照らすオリジナルの壁掛け照明の他、天井に数点のスポットライトを設置した。
「照明に限らず、要素を減らすことは常に心がけています。素材もそうだし、コンセントやスイッチ、生活道具など空間って意外と情報量が多いんです。それらがあってきれいな場合もありますが、僕は制御されているほうが好きなので、なるべく抑えたい。我慢して設計するというか、あると便利かもしれないけれど、本当に必要なのか、というのを問いかけるようにしています。もし明かりが足りなければ置き照明を増やせばいいし、最初から用意しなくても生活のなかで変えていけばいいというスタンスなんです」
壁のコンクリートには、縦溝が施されている。装飾性もあるが、それだけではない。
「空間に線が少ないほうがミニマルになる。ふだんはそういう方向性のものを作ることが多いのですが、線が少ないと影が出ないんです。なので、ここではあえて線を増やして陰影が生まれる作り方にしてみました」
ロフト部分の部屋の仕切り壁にもなる、約2mの梁にも下部に段差をつけた。これも影を生み出すしかけの一つだ。
窓から柔らかく入ってくる自然の光、照明や暖炉の火が作り出す、ゆらぎのある光。ほの暗さをベースとした室内に、さまざまな光が陰影を浮かび上がらせている。
「光もそうですが、風や音、温度といった形のないものも、建築を作る上でけっこう大事なんです。極端に言えば形はどうにでもなる。実体がないものはセンシティブでもありますが、しっかりと考えて作ると、心を鎮めることも含め、精神に作用します」
ここを作ってから暗さを求める施主が増えたという。住宅の新たなスタンダードの提案であると同時に、暗さは欠如ではなく選択するものだということを教えてくれる建築だ。
谷尻 誠Makoto Tanijiri
建築家。2000年「SUPPOSE DESIGN OFFICE」を吉田愛と共同主宰で設立。住宅や商業空間など多数の設計を手がける。著書に『建築家で起業家の父が息子に綴る「人生の設計図」』(三笠書房)など。
photo : Takashi Ehara edit & text : Wakako Miyake





















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