長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。

りんごと暮らす季節。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.6】October 24, 2026

フードコーディネーター・長尾智子さんの連載「おいしいニュー・スタンダード」。日々の食卓にまつわる小さなお話とレシピ、“作って食べて暮らす”こと。第6回は、りんご。本格的に出回るこれからの季節、品種に合わせてさまざまな食べ方で楽しみます。

りんごと暮らす季節。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.6】

可愛い姿と、色とりどりのりんご。

 野菜よりも果物で季節の移り変わりを感じるなと思うのは、特にりんごが本格的に出回る頃。
 
 保存技術が進歩して、夏でもりんごは売られているから、旬はもっと先だなと思いつつ、わりとよく買います。そのまま食べたり、水キムチやら、チーズ、夏野菜と合わせたサラダもおいしいもの。そんな季節外れに思える夏のりんごがふと姿を消し、今度は早生の品種が出回ると、いよいよシーズンだなとそわそわ。りんごが出回る期間はけっこう長いというのに、杏やいちじく、洋梨、プラムなどの時季が限られている果物と同じ気分になるのは、可愛い姿と色とりどりのりんごを逃してはならない、と思ってしまうから。毎日のように食べて、心身ともに安定させたいというような気分があるからかもしれません。
 

 最初に買うのは早生ふじ。近頃の果物は、立派に大きく育てて値段も高め、という贅沢品の傾向があるので、毎日食べたい派にとっては手頃なものを探したいところ。産直所、スーパーの小ぶりでまだ十分に熟していない、値段も安めのりんごを見つけたら、迷わず手が伸びる。果物としてというよりも、野菜と果物の間の感覚。さっぱりした梨や、台湾のレンブ(蓮霧)と仲間のように思っています。
 
 イギリス原産の、ブラムリー・アップルという青いりんごがありますが(ちなみにブラムリーは人名だそう)、日本では長野産を見かけるくらいのクッキングアップルの一種で、酸味とちょっとした渋みがあって、甘さはほんの少しといった感じです。特に果物は、糖度を競うように何かと甘くなっていることが気になって、甘さのメリハリをつけるという意味でも、さほど甘さのないりんごは、私にとってはとても重要な存在。未熟くらいがちょうどいい場合もあります。
 

ベーグルで、アップル&チーズサンドイッチに。
ベーグルで、アップル&チーズサンドイッチに。
半月切りのりんごとチーズを挟むだけ。
半月切りのりんごとチーズを挟むだけ。

 ブラムリーを期待していたら、いつも行くスーパーで今年は入荷がないとのこと。がっかりしつつも出始めの早生を探します。作るのは、アップル&チーズサンドイッチ。バゲットでもカンパーニュでも良いのですが、今日はベーグルで。といっても、まぁ見ての通り挟むだけ。バターも塗らず、材料はスライスしたチーズと半月に切ったりんご、そしてベーグルだけです。仕事に散歩、家にいるときのお昼に食べるのにちょうどいいサンドイッチ。ちょうどローズマリーがあったので、仕上げにほんのひと枝、挟んでおきました。細い先の部分なら一緒に食べても食べなくてもよく、ほんのり香りが移るのも洒落てるな、と思って。
 
 これに、マグで飲む程度のスープ(市販品にオリーブオイルの風味を足すのもお勧め)、おいしいコーヒーでもあれば満足です。何か足すとしたら、しっかりしたビスケットを1枚。りんごとチーズに加えてハムを挟むとボリュームが増して、それもおいしい。こんがりとトーストすればまた別ものに変わり、昼間からワインを飲みたくなるかもしれません。
 
 少し細めのフィセルにして量も少なめで、おもてなしに出したりもしますよ。りんごと合わせるチーズをブルー系にしたりということはあるものの、もはや、普段ともてなす場のボーダーラインは曖昧。出どころや味など中身を知っていて、しかもそれらが普段気に入っているものなら、あれこれと複雑にする必要はなく、「素材を食べている」ということに近い感覚感覚はとてもいいものなので、普段とおもてなしの境はほとんど不要なのです。
 
 それは、普段食べるパンやチーズ、野菜や果物を選ぶ基準(感覚的な)が定まっていればこそですが、特別に高級品が入らなくても、けっこう贅沢な味にもなるものです。「贅沢って何?」と考えれば、自分にとってのいいものを知っていることかな。大人ですから。
 

サンドイッチにはさっぱり、おやつには甘いりんごを。

爽やかな青りんごには、チーズとハムを。
爽やかな青りんごには、チーズとハムを。
甘いりんごには、ビターチョコレートを。 | 赤くて甘いりんごには、ビターチョコレートを。
赤くて甘いりんごには、ビターチョコレートを。

 早生ふじに始まり、サンつがる、秋映、紅玉、トキ、シナノスイート、千秋、森のかがやき、ぐんま名月まで、さまざまな品種があるりんごですが、サンドイッチにはさっぱりした甘さのものがよく、おやつには赤くて甘いりんごがお似合い。
 
 フランスのおやつの時間を「un goûter(アン・グテ)」と呼ぶそうですが、これは子どもも大人も、午後の少々お腹が空いた時に食べるもの、の意味。
 
 そんな時に昔からよく食べるのが(今はどうなんだろう?)、バゲットのチョコレート挟みだそう。あんパンのようなものかな。 ということで、細めのバゲットにチョコレート、りんごを一緒に挟んでみました。少し甘さのある赤いりんご、そしてチョコレートはビターにするのが良いバランスなので、ここは大人向けのおやつとして甘さ控えめのチョコレートを選びましょう。
 

りんごスライスのトーストと、焼きりんご。

りんごのトースト。まずはパンにバターを。
りんごのトースト。まずはパンにバターを。
薄切りのりんごをきれいに重ねて……。
薄切りのりんごをきれいに重ねて……。
粗糖をまぶしたら、温めたオーブンへ。
粗糖をまぶしたら、温めたオーブンへ。
200℃で10分ほど焼けば、もう完成。
200℃で10分ほど焼けば、もう完成。

 りんごのスライスをのせたトーストは、バターをパン(ここでは厚みを半分に切ったフォカッチャ)にのせ、薄切りしたりんごを重ねながら並べたら、メープルシロップ(アガベのダークでも)をまわしかけてブラウンシュガー(ここでは喜界島の粗糖)を振って、オーブンかトースターで焼きます。
 
 オーブンなら200℃で10分ほど。りんごにしっとりと火が通ったら出来上がりです。冷めてもおいしく、買うデニッシュよりもおいしいのでは? 仕上げに今回は甜菜糖とカルダモンを混ぜたカルダモンシュガーを振りましたが、シナモンシュガーでもよく(かけすぎ注意)、バターを有塩にすれば味も締まってとても上等なトーストになります。
 

焼きりんご。半分に切ったりんごの、芯をくり抜いたところにバターを詰めます。
焼きりんご。半分に切ったりんごの、芯をくり抜いたところにバターを詰めます。
山に盛った砂糖にのせたら、アルミホイルで包んでからオーブンで蒸し焼きに。 | 山に盛った砂糖にりんごをのせ、アルミホイルで包んでからオーブンで蒸し焼きに。
山に盛った砂糖にりんごをのせ、アルミホイルで包んでからオーブンで蒸し焼きに。

 最後は、焼きりんご。半分に切ってバターを詰め、天板に茶系の砂糖を乗せた上にりんご。蒸し焼きにするため、アルミホイルをかぶせて、オーブンで途中上下を返して焼きます。焼いてにじみ出たシロップが程よく煮つまり、果肉は軟らかさもあり、少しだけ歯ごたえが残る焼き上がりです。全部を軟らかくしたい場合は、時間を長くして調整。
 
 お酒を少し加えるならカルヴァドス。りんご同士の馴染み方は、他の蒸留酒ではそうはいかない風味の融合、という感じ。小さな瓶を買っておくのがお勧めです。アイスクリームを乗せて、シロップをかけたら出来上がり。
 
 ここでも、好きなお砂糖、いつも使っているバター、余計な材料が入っていないアイスクリームを使うとなれば、とびきりおいしい仕上がりになるはずです。
 
 りんごは、お菓子やデザートに、料理にと愛されてきた果物。まだまだ紹介したい食べ方があるので、来月もりんごライフが続きます。
 

りんごはできるだけ早めに食べたい。熟成した味も良いけれど、驚くほどのみずみずしさは、青森のりんご畑で知りました。
りんごはできるだけ早めに食べたい。熟成した味も良いけれど、驚くほどのみずみずしさは、青森のりんご畑で知りました。
りんごと暮らす季節。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.6】

焼きりんご

〈材料〉(りんご1個分)
りんご 中1個
粗糖 約40g
無縁バター 約20g
カルヴァドス 好みで適量
アイスクリーム 適量


〈作り方〉

  1. オーブンは190℃に温める。天板にベーキングシートを敷いて、粗糖を半量ずつ山に盛る。りんごは2等分して上下の硬い部分をナイフで切り落とし、スプーンでくり抜くようにして芯を取り除く。バターを窪みにぎゅっと詰めるように入れ、粗糖の上に押し付けるようにしてのせ、オーブンへ。
  2. 1にアルミホイルをかぶせて、20分ほど焼く。りんごの水気が出て粗糖が溶け出してきたら、そっと上下を返す。今度はフォイルを外して、さらに20分ほど焼き、全体が軟らかい食感になったら焼き上がり。小さじ1杯ずつくらいのカルヴァドスをりんごにかける。
  3. 2を器に盛り、アイスクリームをスプーンで乗せてシロップをまわしかける。

*りんごの種類は好みのものでいいが、軟らかめに仕上げるなら紅玉。サンつがる、秋映、シナノスイートなど、焼いても退色しにくい皮の赤いりんごもお薦め。

*砂糖は、粗糖やてん菜糖、ブラウンシュガーだとこくのある甘さに、グラニュー糖はすっきりとした基本の甘さになる。メープルシロップやはちみつを使うなら、煮詰まると焦げやすいので、りんごの切り口に少し垂らして伏せて焼き、上下を返した後、焼き上がる5分前くらいに回しかけて仕上げる。

長尾智子フードコーディネーター

著書に『長尾智子の料理1.2.3』(暮しの手帖社)、『あなたの料理がいちばんおいしい』(KADOKAWA)、『料理の時間』(朝日新聞出版)、『ティーとアペロ』(柴田書店)など。オンラインストア『SOUPs around the table』ではオリジナル商品のほか、セレクトした道具や器、調味料などを紹介している。
 
https://soup-s.shop/
 

photo,movie&text : Tomoko Nagao

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