長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。
太陽と、干し野菜と、北欧の薄焼きパン。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.4】August 29, 2026
料理家・長尾智子さんの新連載「おいしいニュー・スタンダード」。日々の食卓にまつわる小さなお話とレシピ、“作って食べて暮らす”ことを、長尾さんがエッセイで綴ります。第4回は、残暑の陽射しで作る干し野菜と、北欧の薄焼きパンのお話です。

太陽の恩恵を、食卓に。
そろそろ夏の終わりに差しかかる頃。まだしばらく残る夏の陽射しを享受すべく、野菜を干して、そして焼いて、漬けています。
夏至を過ぎると陽が陰に転じ、立秋を過ぎるとお盆、お盆休みが終わる頃には、夕暮れ時はうっすらと秋の空。次第に空の気配が変わっていくと少しほっとします。それでも昼間の気温は高く、まだ夏休み気分を手放したくないこの時季、夏野菜をかごに乗せてよく日の当たる場所に出しておきます。これはどの季節でも同じで、冬の一番寒い時季も良いチャンス。年中、日当たりを気にしているのは、少し干して水分を程よく抜いた野菜が、使い勝手が良いこと。
野菜の水分を少し抜くやり方は、馴染みのある漬物がヒントでもあります。実際に数時間でも外に干してから使うと、味がしっかりして水分が出にくいので、炒めてもべたっとしなくてしかも早く仕上がるというメリットがあります。あまり時間をかけずに素材そのものを食べる感覚。単純な味つけ、火の通し方、野菜の姿を変えずに料理する気楽さがあります。もちろん、炒めるだけでなく浅漬けやピクルスも試してみてください。
干すのは、ズッキーニ、トマト、パプリカ、茄子、そして時には、きゅうりを漬ける前に軽く干したり。トマトは、元祖南イタリアのやり方に倣って、全体に軽く塩を振ってから。甘さに塩気が加わって、切りたての生にはない、また違った味のバランスが生まれるから、これはぜひ試してほしいやり方です。
陽射しの恩恵はコストゼロに加えて、お日様に当てる栄養的な効果もあり、今そこにあるものを利用しない手はなし。おまけに、少しずつ水気が抜けていく野菜の姿も美しいのです。
今回、ふと思い立って茄子を縦に切ってみました。ちょっと干し過ぎ。もう少し厚くスライスするべきだったのですが、薄いなら表面が乾く程度に軽く干せばいいわけで、実のところ干し過ぎても気にしてはいない(実験なので)のですが、歯切れが悪くなるのでレシピでは少し厚くしてあります。




さてと、干したらどう食べよう?
たくさん干したら、まとめて数日間ストックしつつ食べることにします。ズッキーニ、茄子、パプリカは、オリーブオイルに少しの塩でさっと炒めます。食べる分だけとって、瓶に詰めて少しオイルをまわしかけたら冷蔵庫へ。そのまま食べるなら、チーズ(ほぼなんでも合います)と一緒に。ゆで卵と、ハムやツナ、サラミ、ソーセージ、葉野菜と、何かしら材料を組み合わせてサラダとして食べます。パンにチーズと一緒に乗せてトースト、マスタード、ハム、マヨネーズと挟んでサンドイッチに。
干すだけ、それを軽く焼くだけだとしても、そこまでの仕込みの時間と手間があってこそ、ファストフード的な食べ方ができるというわけです。
トマトは、盛んに出回ると取り憑かれたように仕込んで食べてしまう魅力? 魔力? がありますね。スープを出汁要らずにしたり、水分の加減とテクスチャーでいろいろなものを包み込んだり、味を決めたり、仲を取り持ったり。色の効果ももちろん。昼間、晴れていたらミニトマトを2等分して塩を振って干し、オイルをまぶして、あればハーブを少し混ぜ、しばらく置いておけばもてなし料理にもなかなか良いもの。一度試せばファンになり、きっとやめられない干しトマトです。オーブン焼き、すりおろし、そして日に干して、夏のトマトの締めくくりです。

北欧の薄焼きパンと夏野菜のオープンサンド。
まだ暑い夏の日とは真逆の、クールな風情の本を開きました。リンドル・ヴィング著『SNOW FOOD』(2ndLap刊)は、冬山を楽しむための料理の一冊です。著者はスウェーデン出身のシェフで、子供の頃から山とスキーに親しんできた人。
”薄焼きの皮”に興味(というより執着)のある私にとっては、北欧の薄焼きパンはその代表格で、クレープにチャパティ、トルティーヤと薄焼きのいろいろ、桜餅の皮までも含めて、いつでも作りたい簡素で味わい深いものなのです。
この本の中でも、伝統的なレシピを工夫した薄焼きパンは紹介されているので、版元の了解を得て、クイックブレッド的に重曹で膨らませるレシピを参考にして作ってみました。
北欧の薄焼きパンは、簡単に言えば小麦粉とライ麦粉、塩、水が基本で、何かしらの膨らみを助ける材料を少し入れて焼けばいい、どんな出来でも黒焦げにしない限りは成功、なのではないかしら。カリッとしても柔らかくても、粉の味が生きていればいい。そのままでもチーズを乗せるだけでもしみじみおいしいものです。著者のファストフードの考え方についても書かれていますが、大いに共感するはずです。


本で紹介されているレシピはこんな具合。
プレーンヨーグルト150ml、ゴールデンシロップ大さじ2、塩小さじ1/2、重曹小さじ1/2、ライ麦粉と小麦粉各3/4カップ(150g)。粉に液体などを混ぜて生地を作り4等分、それぞれ丸く伸ばしてフォークで穴を開け、フライパンで両面を焼く。火加減は強火。以上! というような、想像力を要するレシピなので、後ほど少々解説しましょう。


途中、いつかストックホルムのスカンセン(野外博物館)で見た、クネッケ(ライ麦のクラッカー状のパン)の実演を思い出して、薄く焼いてみました。火加減は強火。焼き色は色々に。生地を丸く切り取って焼くと、また違った雰囲気になります。残った生地はオーブンで焼いてカリカリに。なんだか今日は、薄焼きパンに心を奪われすぎ。
というわけで、仕上げは干し野菜のソテーとミニトマトのマリネを乗せました。味のアクセントは考えないで良しとし、シンプルに。食べてみると素直で飽きない味です。灼熱の日々が落ち着いたら、焼きたての薄焼きパンを乾かないように布に包んでトッピングを一緒に持ち、外に出かけて食べると、シンプルな味がびっくりするほどおいしいはず。

干し野菜いろいろ
〈材料〉(作りやすい量)
ミニトマト(2、3種組み合わせると良い)約300g
ズッキーニ 大きめ1本
茄子 大小2本
パプリカ 赤1個
タイム 2、3本
塩 少々
オリーブオイル 適量
菜種油(または米油など)適量
〈作り方〉
- ミニトマトはヘタを取って2等分し、ざるに並べて軽く塩をふりかける。ズッキーニは両端を切り落として約1cmに切り分ける。茄子はヘタを取って縦に1cmくらいの厚さに切る。パプリカは4等分して、横に細切りする。それぞれざる(またはトレーなどにキッチンペーパーを敷いて)に乗せて3、4時間干す。
- 干し上がった野菜をボウルに入れ、塩とオリーブオイル、菜種油を半々に大さじ1~2ほどまわしかけてざっと混ぜ、温めたフライパンでこんがりと焼く。
- 食べる分を取り分け、残りは保存瓶に詰めて少しオイルを足して冷蔵庫へ。ミニトマトも保存瓶に入れ、塩、タイムを重ねながら詰めて、全体に馴染むくらいのオリーブオイルを回しかける。冷蔵庫で保存し、どちらも4、5日で食べきる。
*ミニトマトは、切り口の水分が抜けてしわが寄るくらいにすると後で形が崩れにくく扱いが良いので、時間は1~2時間長めにするといい。
*干し野菜は、フライパンに入れて軽く炒め、真ん中を空けて溶き卵を落としたら、スクランブルエッグのように軽く混ぜて仕上げるのもおいしい。
*薄焼きパンなどに載せて食べるなら、ヨーグルトを多めに用意し、200gくらいをキッチンペーパーに包んで重しをして水気を切ったものを、食べる時にパンに塗って野菜をのせて仕上げる。重しを乗せて、パンを焼く間水切りしておくといい。
【薄焼きパンについてのメモ】
*ライ麦は北欧パン全体の基本材料。ここでも量は多めで、小麦粉と半々です。ライ麦の産地や挽き方にもよるから、今回使った北海道産ライ麦の全粒粉で作った生地は、色が濃く生地の仕上がりは硬め。パン用の細挽きや、外皮を取り除いたタイプを使うと生地は軽くなります。粉は白くなるほどに軽い仕上がりというところ。どれも捨てがたいけれど。
*ゴールデンシロップは市販されていますが、もう少し手に入りやすいアガベシロップのダークで代用。薄く焼くパンなので、重曹はベーキングパウダーでも良いかな。プレーンヨーグルトだけでまとめるということもあって、生地は硬めになるので、水を少しずつ足してみて調整しました。ライ麦全粒粉を使うなら、初めからヨーグルトに少し水を足しておくくらいでいい気がします。ゆるければ少し小麦粉を足す。または生地をのばす時に打ち粉をする、で大丈夫。扱いやすい生地にしたい時は、粉の割合を変えます。小麦粉6割など、割合の段階で”生地感”は変化。そこも面白いところ。
*生地が硬めだったので、薄く伸ばして強めの火加減、時間をかけずという感じで焼きました。薄焼きパンは、クネッケのイメージもあるけれど、それはまた別のおいしさ。焼きたては、ライ麦はもちろん、生地に加えた甘みがとても良い味のバランスだから、焼き手の特権ということで、焼きたてをぜひ食べてみてほしい。生地の大きさは、手持ちの道具に合わせて調整しましょう。
長尾智子料理家
著書に『長尾智子の料理1.2.3』(暮しの手帖社)、『あなたの料理がいちばんおいしい』(KADOKAWA)、『料理の時間』(朝日新聞出版)、『ティーとアペロ』(柴田書店)など。オンラインストア『SOUPs around the table』ではオリジナル商品のほか、セレクトした道具や器、調味料などを紹介している。
https://soup-s.shop/
photo,movie&text : Tomoko Nagao




















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