長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。
真っ赤な夏の女王さま。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.3】July 25, 2026
料理家・長尾智子さんの新連載「おいしいニュー・スタンダード」。日々の食卓にまつわる小さなお話とレシピ、“作って食べて暮らす”ことを、長尾さんがエッセイで綴ります。第3回は、いよいよ出盛りを迎えるトマトについて、もう少しだけおしゃべりを。

丸ごとトマトを、すりおろしてみたら。
真っ赤な夏の女王さま、トマトが再びのお出ましですよ。
トマトは春先からハウス栽培が出回り、きれいでおとなしい感じのものが揃っているなと思ったら……。だんだんお構いなしにサイズアップされ、形もいろいろになり、値段もお得になってくるので、今の時季こそ夏の料理に君臨していただきたいトマトです。
前回は、切ってオーブン焼きしてスープにという食べ方を基本にしました。使い方はいろいろ。ソースにもなるしスパイスを加えれば夏らしいカレーにもなるし、書ききれませんでしたが、ケチャップも作れたりと万能な焼きトマトでしたが、今月は丸ごとのトマトをすりおろすことから始まる真夏のアイデアです。
トマトをすりおろすなんて! とびっくりするかもしれませんが、それを初めて知ったのは、スペイン料理のパエリアに加えることがあると聞いたことから。濃厚なトマトピュレを加えるのが鉄則とばかり思っていましたが、味の濃い熟したトマトに限って入れてもよし、ということでした。
スペインのカタルーニャ地方(今ではカタルーニャに留まらず広く知られていますが)のパン・コン・トマーテ。グリルしたパンににんにくをすりつけて香りづけし、横に切ったトマトを全面にすりつけて塩、オリーブオイルで食べる、シンプルで、想像するだけで景色が浮かぶおいしいパンの食べ方です。個人的には、さりげなく趣味のいい食べ方上位に位置します。
以前、すりつけたトマトはまた使うの? とスペインの友人に聞いたら、そのあと使ったところを見たことがないと言う……。まぁ、お祭りがあるくらいに溢れんほどに身近にあるトマトでしょうから、取っておいてソースにするなど考えなかったのかもしれませんが、もったいなさこの上ない話ではありますから、すりおろしを始めてからのパン・コン・トマーテは、決まってあらかじめすりおろしたトマトです。
何しろ、質感、食感に一番興味があるので(味は材料と調味料で担保されると思う)、ざっくり言えば、食べ心地の研究あるいは実験をしているというつもり。ここでやっと、トマトをすりおろす提案ができるとは、嬉しい限りなのです。
この夏の暑さ、無駄にできない食材全般のことなどを考えると、今こそトマトをすりおろすべき時なのでは!と思うのでした。なんだか料理のようで実験、遊びのようでしょう? トマトを吟味すればたいてい間違いなく、“よい加減の粗さ”になるのが素晴らしいところ。そして、“よい加減” を生み出すのは、目の細かいものではなく、チーズおろしの粗さです。その結果、出来上がるのは’トマトサラダのスープ’とも言いたいような食べ心地。この夏は、前回のようにオーブン任せで焼くか、それとも火を通さずすりおろして食べるか、その時々で作り分けてみてください。
“よい加減の粗さ”に仕上げる道具といえば、フランスのムーラン・ア・レギューム(野菜濾し器)です。一見奇妙にも見える実用の道具で、ポタージュの国だけあって火を通した野菜を濾すには最適です。生野菜で漉せるのは完熟のトマトくらいでしょう。本当によく使っていたけれど、レシピに落とし込むにはあまりに特殊で、代わるものがなかったのですが、トマトに限ってはチーズおろしもムーランと同じくらいに向いています。(2枚目の写真は、昔々初めて市場で買った小さなムーラン。今でも使います)
トマトをすりおろしたら、塩とオリーブオイルで軽く味つけします。これだけで十分なスープになることに、驚くかもしれませんよ。茹でた枝豆や、一緒に仕込むオイル漬けをのせれば、夏らしさ満載の、充実した一品になります。夏の間は、バジルなどのハーブで風味づけすればもっと広がります。細いパスタのソースにしたらおいしいこと間違いなし。今回は、パスタの仲間のそうめんにも合わせてみました。白だしを水で割って合わせて、レモン風味のトマトそうめんです。他の野菜を合わせてガスパチョにしたり、とにかく涼しげに食べたいものです。
さて、すりおろすと皮が残ります。皮と実の間が一番おいしくて、そして栄養も豊富とよく言われますが、残るのはやっぱり気になるので、もう少しで皮1枚になりそうな手前でストップです。少しの実をつけつつひらひらと残った皮は、ちぎって保存瓶へ。塩少々とにんにく少々、レモン少々も加えて、オリーブオイルを注いでおきます。トマトの皮のオイル漬け。ヘタだけが残る気持ちよさです。こちらもバジルやタイム(葉先の柔らかいところ)、チーズにもぴったり。
簡単にしたいならミキサーにかければいいんじゃない? ですって? いやいや、ミキサーにかけた優しい色もいいけれど、ここはひとつチーズおろしを手に入れて、手作業ですりおろしてほしい。ミキサーとの違いは、食感だけでなく色合いです。すりおろせば、透明感のあるトマトの色のままですもん。
何度も繰り返すうちに、いろんな食べ方のアイデアが湧いてくるはず。トマトですっきりとおいしく過ごす夏になりそうです。赤く美しいトマトに心から感謝。スープにしたり、トーストに乗せたり、暑い夏の朝ごはんの強い味方にもなってくれます。

すりおろしトマトスープとオイル漬け
〈材料〉(多めの仕込み量)
トマト…中4個
ミニトマト…約12個
塩…少々
オリーブオイル…少々
[トマトの皮のオイル漬け]
残ったトマトの皮…中4個分
オリーブオイル、米油か菜種油…各80mlくらい
塩…少々
にんにく…小1片
レモンのスライス…1枚
〈作り方〉
- トマトは十字に切り込みを入れて、チーズ用などの粗いおろしがねですりおろす。途中で回転させながら満遍なくすりおろし、皮が薄くなってきたところでストップする。塩を少し加えておき、冷蔵保存する。スープとして食べる際には、塩とオリーブオイルで軽く味付けを。
- オイル漬けを作る。残った皮は適当にちぎってボウルに入れ、軽く塩を振って保存容器に詰める。皮をむいて2等分したにんにくと、レモンのスライスを加えて、油をたっぷり注ぐ。蓋をして冷蔵保存。
*全部すりおろすと500ml強くらい。スープだと3、4人分。必要なだけ取り分けて、残りは冷蔵で3日くらいの間に食べきるつもりで。
*冷凍もできるが、せっかく新鮮なトマトがある時季だがら、多めに仕込んで冷蔵し、2、3回で食べるのがおすすめ。食べたい時に必要な量をすりおろすのがいい。
*オイル漬けは、トマトをすりおろした時にだけ作れるスペシャルなおまけ。サラダのトッピングに、チーズと合わせてお酒の供に、チーズトーストに。
[すりおろしトマトの楽しみ方いろいろ]
*すりおろしトマトに塩、オリーブオイルの基本形に、茹でた枝豆、トマトの皮のオイル漬けを加えたスープ。
*もめん豆腐にすりおろしトマトと皮のオイル漬けで、真っ赤な冷奴。
*すりおろしトマトを、焼いてからにんにく風味をつけたパンにのせて、ブロッコリースプラウト、オリーブオイル、粗塩を振りかけてパン・コン・トマーテに。栄養豊富なスプラウトをおいしく食べる方法でもあります。
*トマトそうめん。白だしと水、すりおろしトマトを“だし”として、茹でたそうめんにたっぷりかけ、レモンのスライスで風味づけ。好みで濃いめのかつおだしでも。
長尾智子料理家
著書に『長尾智子の料理1.2.3』(暮しの手帖社)、『あなたの料理がいちばんおいしい』(KADOKAWA)、『料理の時間』(朝日新聞出版)、『ティーとアペロ』(柴田書店)など。「21_21DESIGN SIGHT」にて8月9日まで開催中の『スープはいのち』展にて映像作品「色をまとい、色を味わうー身体を染める色と味」(ISSEY MIYAKE +林響太郎+長尾智子)を展示中。オンラインストア『SOUPs around the table』ではオリジナル商品のほか、セレクトした道具や器、調味料などを紹介している。
https://soup-s.shop/
「スープはいのち」展
会期:2026年3月27日(金)〜8月9日(日)
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
URL:https://www.2121designsight.jp/program/soup/index.html
photo,movie&text : Tomoko Nagao








































