長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。
ポーチドサーモンは初秋の味。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.5】September 30, 2026
フードコーディネーター・長尾智子さんの連載「おいしいニュー・スタンダード」。日々の食卓にまつわる小さなお話とレシピ、“作って食べて暮らす”こと。第5回は、鍋ひとつで作れる茹で料理。ポーチドサーモンは、秋の始まりにぴったりのひと皿です。

ひたすらに優しげな色と味わい。
野菜や果物の出回る時期が長くなったとはいえ、旬の合間の端境期は、次の季節の待ち時間のようなもの。夏の終わり、秋の初めは確かに中途半端で、食べるものも着るものと同じく、どっちつかずな感じです。長雨が続くと、ほんの一瞬の晴れ間や空の青さや夕焼けが心地よく、そう思っているとまた雨。そんなにはっきりしないのなら、中間色でいくことにしよう。
この場合の中間色とは、お皿の中の料理のこと。メリハリの効いてない料理法と仕上がりの色のことです。なんだかはっきりしないお天気みたいですが、料理の場合はちょっと違う。これを覚えておくと、季節だけでなく、豪快な料理なんてしたくない、油を飛び散らしたくない、今日は私、ちょっと静かにいきたいのよ、という時にとても良いのです。静かにしたい、落ち着きたい、穏やかに過ごしたい日は、けっこうあるものですよね。仕切り直しとまでいかずとも。その日の気分とその日食べるもの、作るものは密接に関係しており、私、何を食べたい? と自分の本心を探ってうまくリンクさせる必要があります。本心に従うのが一番重要で、時間をかけられたりかけたくなかったりも加わって、絞り込んでいくといいところへ着地できるもの。
夏でも秋でもない日、作ってほしいものは、煮るでも焼くでも揚げるでもない、”茹でる料理”(ポーチ)です。なんとも頼りなげ? と思いきや、心穏やかに作って食べられる良い調理法です。
ポーチといえばまず浮かぶのはポーチドエッグですが、今日のポーチはサーモン。鮭の切り身が野菜スープの上で寝そべるようなイメージです。ポーチドサーモンも、卵と同じで茹で料理の代表的なものといえますが、いろいろな魚で作ってみると、サーモン(または鱒など)ほどポーチが似合う材料はないなと思うほど。茹でた後に応用が効くのも良いところで、多めに作っておくのもかなりお勧めです。
私たちはふだん、鮭を一尾、または半身の大きな状態で料理することはほとんどないですが、例えばヨーロッパの道具店やブロカントで、細長い大きめの魚用のお鍋を見たことがありませんか。60cmはありそうな大きなお鍋の中には、横たわり煮られた大きな魚が取り出しやすいように、脚付きの台がセットされています。そっと引き上げて皮を外し、身を外して、さらりとしたマヨネーズのようなソースをかけたり、そこに蒸したじゃがいもを添えたり。玉ねぎの他、ディルやタラゴンなどの風味もあって、色はひたすら優しげです。そんな料理も、もうクラシックな部類。最近は、どんどん広がるラフな料理に追いやられているような気がします。

ポーチドサーモンの作り方は様々あって、基本は水と白ワイン、スライスした玉ねぎ、にんじん、ローリエなどを塩と煮て、ベースになる出汁を作ります。そこまではしっかりと火を通してワインのアルコールを飛ばし、サーモンを茹でる段階で火は弱火。ほどよい湯加減の中で、静かに茹でるというわけ。身が軟らかいですから、そっと火を通していきます。先にコクのあるブイヨンを取っておき、それでサーモンを茹でるという手の込んだやり方もありますし、水分は少なく野菜を敷き詰めた上で蒸し煮に近い作り方もありと、習慣だけでなく作り手の好みや工夫でいろいろとアレンジされている気がします。つまり、”穏やかな火加減で静かに火を通す”ということさえ守れば、スープが多くても少なくてもいい。もっと手軽にするなら市販のブイヨン少しでも作れるというわけです。白ワインは少し入れてほしいかな……と思うくらいで、手軽で穏やかな食べ方をするための方法として、頭の隅に置いておくと良いやり方です。



近頃の野菜の値段の上がり方や天候不順も加わって、素材をどこまでおいしく食べるかということも自然と考えます。野菜くずを一緒に煮る、ってよくありますが、食べずに出汁をとるならば、皮だけ、最低限に。野菜の実を出汁のためだけに使うということはありません。皮やヘタだけ取り除いて、食べられるところは全部食べる、ということもテーマのひとつにしていくと、料理のボリュームも出る。その方が良いですよね。
というわけで、今回のポーチドサーモンは、玉ねぎとじゃがいもを水と白ワイン、ディルの茎、にんにく、レモンの出汁でそっと茹でることにしました。サーモンを入れたら、一段階コクを増すためにバターを加えます。仕上げは白こしょうとオリーブオイルで。

サーモンを取り出したあとのスープは、水と塩を足して魚の出汁として、クリームなど入れてクラムチャウダーにするもよし、サーモンの切り身をもう1枚多く茹でておき、それをフードプロセッサーやミキサーにかけて、ふんわりとしたポタージュにするのもおいしい。仕上げにヨーグルトと多めのオリーブオイルをまわしかけて。さらに、スープの汁気を軽く切ってミキサーにかけると、サーモンのスプレッドにもなったりと、何かと楽しめます。栄養的にもなるべく食べたいサーモンなので、1度と言わず2度3度とアレンジすると良さそうです。


サーモンといってもいろいろな仲間が出回っていて、日本国内の養殖も増えています。身近なところで手に入るものでいいのですが、生鮭(塩漬けしていないもの)が基本です。アトランティックサーモンは身がしっとりして脂の乗りがよく、北海道や宮城、青森などの養殖のサーモン、秋鮭、銀鮭、紅鮭などもあります。切り分け方の違いも少々注意します。アトランティックサーモンは、身に直角に切り分けてあるので、厚すぎないものを選びます。日本産の鮭の切り身に多い、頭に近い部分から尾に向かって斜めに切り分けてあるものなら、身の厚みが平均している尾に近い部分が扱いやすいと思います。
何はともあれ、この時季にポーチドサーモンを試して、もっと寒くなったらクリームも足したりバターを増やしたり、その時々の何が食べたい? に合わせて作ってみてください。度々作りたくなる、優しい料理になるはずですから。

ポーチドサーモンと野菜のスープ
〈材料〉(スープ多め2人分)
サーモン 2切れ
じゃがいも(メークイン)中2個
玉ねぎ 中1/2個
紫玉ねぎ 小さめ1個
にんにく 1片
ディル 3、4本
レモン スライス4、5枚
白ワイン 100ml
オリーブオイル 適量
無塩バター 約15g
塩、白こしょう 各少々
〈作り方〉
- サーモンの身の側に軽く塩をふっておく。じゃがいもはピーラーで皮をむき、薄く輪切りにしてから流水でさっと洗っておく。玉ねぎは4等分して皮をむき(根元に包丁を入れて上に向かってむくとむきやすい)、縦に薄切りする。紫玉ねぎも同様に。にんにくは皮をむいて2等分(芯が気になるようなら外す)、ディルは葉を摘んで茎も取っておく。レモンは薄めにスライスしておく。
- 鍋に1リットルくらいの水(分量外)を入れ、白ワイン、塩少々も加えて煮立てる。沸騰してきたら紫玉ねぎとディルの葉以外の1の材料を全部入れ、ごく軽く煮立つくらいの火加減で10分ほど煮込む。じゃがいもに火が通り、玉ねぎがすっかり柔らかくなったら弱火にして、塩気を拭き取ったサーモンを乗せる。バターを加えて蓋をし、弱火で2分ほど火を通したら紫玉ねぎを加えて少しスープをかけ、再び蓋をする。弱火のまま、さらに2分ほど煮て火を止める。
- 器にサーモンと野菜を盛り合わせ、スープを少しまわしかける。ディルの葉をたっぷり乗せ、白こしょうを挽きかけ、オリーブオイルを細くたらしてまわしかけて仕上げる。
*弱火、短めの時間、余熱を意識すると、サーモンの身が硬くならずに仕上がるので、極力弱火で。身が厚いと加熱時間が難しいので、ほどほどの厚みを選ぶようにする。
*紫玉ねぎはすぐに色が溶け出るので、最後に入れる。全体がサーモンピンクに寄った仕上がりになって、優しい色味になるので、ぜひ使って欲しい。残った紫玉ねぎは薄切りして、塩と酢、はちみつで揉んでサラダのパーツにも。重宝します。
*じゃがいもはメークインなど崩れにくいタイプを選ぶと煮あがりがきれい。
*白ワインは、少し入れるだけでサーモンに限らず鶏肉や豚肉の煮込みも一味深まる。フルボトルを開けた時にグラス2杯分くらいを料理用にあえて残しておくのもおすすめ。小瓶を料理用として買っておいてもいい。
*ディルは飾りではなく、重要な風味づけでサーモンとは切り離せないくらいの材料。こんもりと盛ってもいいし、全体に散らすとまた違った印象に。取り分ける人数が多かったり、ディルの量が少ない場合に乗せ方を適宜変えるといい。
長尾智子フードコーディネーター
著書に『長尾智子の料理1.2.3』(暮しの手帖社)、『あなたの料理がいちばんおいしい』(KADOKAWA)、『料理の時間』(朝日新聞出版)、『ティーとアペロ』(柴田書店)など。オンラインストア『SOUPs around the table』ではオリジナル商品のほか、セレクトした道具や器、調味料などを紹介している。
https://soup-s.shop/
photo,movie&text : Tomoko Nagao





























