MUSIC 心地よい音楽を。

ミュージシャン 西寺郷太さんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.3August 21, 2026

August.21 – August.27

Saturday Morning

Title.
I’m Gonna Make You Love Me
Artist.
Diana Ross & The Supremes and The Temptations
 僕のバンド、ノーナ・リーヴスは来年でメジャー・デビューから30年を迎えます。メンバーは3人。ドラマーの小松シゲルは、僕が京都から上京して大学に入学した1992年4月、初めてちゃんと話した同級生でした。一緒に音楽サークルを探したんです。たくさんサークルがあったんですが、ドラマーって数が圧倒的に少ないから引っ張りだこなんですよ。小松と偶然出会って、勝手に「見失ってはいけない!」と後ろから追いかけました。携帯なんて誰も持っていない時代だったので、一期一会で。今も一緒にバンドで活動しているなんて、信じられません。本当にラッキーでした。
 もう一人は、一年下のサークルの後輩、ギタリストの奥田健介。入部してきた時の衝撃が凄くて。僕を含めた先輩たちの誰もが敵わないと思うほど、彼は耳が良かったんです。どんな曲のコードも瞬時に聴き分け、ギターだけでなくキーボードでも自由自在に再現できるので驚きました。彼は作曲家としてもすごいので、今、久々に作っているノーナのアルバムでもたくさん一緒に曲を作っています。
 それぞれ音楽の好みは少しずつ違いますが、共通項はソウルやR&B、黒人音楽が好きということ。特にモータウン・レコードが好きということが、3人のど真ん中にあると思っています。社長ベリー・ゴーディ・ジュニアのコントロールのもとで「ヒット曲製造工場」と呼ばれ、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ、ザ・テンプテーションズ、マーサ・リーヴス&ザ・ヴァンデラス、ダイアナ・ロス&ザ・シュープリームス、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、そしてジャクソン・ファイヴと、スーパースターが群雄割拠していたレーベル。僕らのバンド名、ノーナ・リーヴスは、1960年代のモータウンを代表する女性シンガー、マーサ・リーヴスから苗字を、マーヴィンの娘ノーナから名前をもらって組み合わせ、架空の黒人女性シンガーの名前として考えたんです。まさに「ダイアナ・ロス」みたいな名前を、グループにあえてつけたくて。
 1960年代のシングル中心主義の時代、モータウンの二大巨頭といえば、ダイアナ・ロスを擁するシュープリームスと、ワイルドなダミ声のデヴィッド・ラフィン、まろやかなハイトーンのエディ・ケンドリックスのツイン・リードで人気を集めたテンプテーションズでした。テンプテーションズには、メンバーになるためには身長6フィート、約183センチ以上という基準まであり、クラシック期の5人は全員がすらりとした長身。その体格を生かし、揃いのスーツで一糸乱れぬステップを踏む姿そのものが、歌声と同じくらい重要な魅力でした。
 土曜日の朝に聴きたいのは、このふたつのグループが共演した夢のようなアルバムからのシングル「I’m Gonna Make You Love Me(君に愛されたい)」。「My Girl」などの代表曲でリードを取ったデヴィッド・ラフィンが脱退し、後任のデニス・エドワーズが加入したばかりという、テンプテーションズにとっては激動の時期でした。しかし、長身で甘いルックス、王子様のようなエディ・ケンドリックスのエスコートするような歌声と、キャンディのようにとろけながらスポットライトを一身に集めるダイアナ・ロスの、“お姫様感”たっぷりの堂々とした存在感が素晴らしい。
 発売と同時にポップチャート、R&Bチャートともに2位まで到達しました。優雅に流れるストリングスと、豪華すぎるヴォーカル陣。世界で一番いい曲は、これです。
アルバム『Diana Ross & The Supremes Join The Temptations』収録。

Sunday Night

土曜の朝と日曜の夜の音楽。
Title.
How Will I Know
Artist.
Stevie Wonder feat. Aisha Morris
 世界で一番すごいミュージシャン、ポップミュージック史上最大の才能は誰なんだろう。そんな投票をして、10人くらいの名前がトップを争ったとしたら、必ず入ってくるのがスティーヴィー・ワンダーでしょう。
 11歳で名門モータウンと契約し、「リトル・スティーヴィー・ワンダー」としてデビュー。20代に入ると、作詞・作曲、演奏、アレンジ、プロデュースまで自ら手がける名盤を連打します。70年代前半から半ばにかけての『Talking Book』『Innervisions』『Fulfillingness' First Finale』という三作は、ポップ・ミュージックの歴史に名を刻む傑作群。もうさすがにこれ以上の高みはないだろう、と誰もが思ったその先に発表されたのが、二枚組LPに4曲入りEPを加えた全21曲の金字塔『Songs In The Key Of Life』でした。
 単に曲数が多いだけではなく、ジャンルの振れ幅も、一曲ごとのクオリティも半端ない。カヴァーも無数に生まれ、ノーナ・リーヴスでも「AS(永遠の誓い)」をカヴァーしたことがあります。ジャズ界の巨匠デューク・エリントンへの敬意を歌った「Sir Duke」、フュージョン的なインストゥルメンタル「Contusion」をはじめ、特に音楽好きやマニアでなくても耳馴染みのある曲がいくつも含まれた傑作です。
 なかでも最も広く愛されている曲が、日本でも今なおCMなどで頻繁に聴こえてくる「Isn't She Lovely」ではないでしょうか。邦題は「可愛いアイシャ」。
 僕は小学生の頃に『Songs in the Key of Life』を買ったんですが、「アイシャ」という響きをそれまで聞いたことがなくて、意味がわからなかったんです。今のようにネットやスマートフォンですぐに調べられる時代ではありません。同じマンションに住んでいた音楽好きの友達、辻君と「可愛いアイシャって何?」と、ふたりでツボに入って笑ったことを昨日のことのように思い出します。
 その後、ライナーノーツや解説を読んで、アイシャとは当時生まれたスティーヴィーの娘の名前だったと知りました。イントロには赤ちゃんの産声が入り、娘が生まれた喜び、その歓喜を丸ごと歌に封じ込めた曲だったんですよね。だから大事だなと思います、こういう解説。
 当時、アフリカ系アメリカ人の間では、西欧風ではなく、アフリカやイスラム文化に由来する響きの名前を子どもにつけようという流れも広がっていたそうです。アイシャもその中で選ばれた、今にして思えば本当に素敵な名前です。スティーヴィーの娘がアイシャ、マーヴィン・ゲイの娘がノーナ。結局、僕は自分のバンドに「ノーナ」と名づけましたが、スタートした頃には「アイシャもバンド名にいいな」と思っていたくらいです。
 そのアイシャが成長し、2005年にスティーヴィー・ワンダーが10年ぶりに発表したオリジナル・アルバム『A Time To Love』で、デュエット相手として本格的な歌声を聴かせてくれました。この時、アイシャは30歳。僕は「How Will I Know」を聴くたびに、これまた「世界で一番いい曲」は、これなんじゃないかと思ったりもします。少なくとも、誕生の瞬間の喜びを世界的な名曲として分かち合われた女の子が、30年後、これほど素晴らしいシンガーに成長して、天才ソングライターである父親と一緒に歌う。これは間違いなく、「世界で一番いい話」にエントリーできるエピソードです。
 エレガントなコード進行、父のピアノと娘の歌声が生み出す甘美な響き。日曜日の夜にぴったりの曲だと思うのですが、どうでしょうか?
アルバム『A Time To Love』収録。

edit : Seika Yajima


ミュージシャン 西寺郷太(NONA REEVES)

西寺郷太
1997年にNONA REEVESのシンガー、メイン・ソングライターとしてデビュー。 以後、音楽プロデューサー、作詞・作曲家としても少年隊、SMAP、V6、YUKI、岡村靖幸、A.B.C-Z、鈴木愛理などの多くの作品、アーティストに携わる。 バンド以外でも小説家、脚本家、ライター、MCや自身のYouTube チャンネルNishidera Gota Channel(NGC)では映画『Michael』の劇場公開に合わせたマイケル・ジャクソンの解説動画が100万以上の再生数を記録。これまでにソロとしてカバーアルバムを含め4枚をリリース。弾き語りなどソロライブも定期的に実施。

x.com/gota_nonareeves

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