長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。

トマトスープで、料理の夏支度。【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.2】June 27, 2026

料理家・長尾智子さんの新連載が始まりました。日々の食卓にまつわる小さなお話とレシピ、“作って食べて暮らす”こと。長尾さんがエッセイで綴る「おいしいニュー・スタンダード」の第2回は、これからの暑い季節にこそ作ってほしい、オーブンで焼くトマトスープから広がるお話です。

トマトスープで、料理の夏支度。 【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.2】

すっきりとして美しい、焼いて作るトマトスープ。

 暑さに備える準備は済んでいますか?
 
 年々、夏が早く始まって長く続くので、今年こそ早めに夏支度して備えようと思うのですが、これがなかなか。それでも夏日は急にやってくるので、いよいよウールは不要、裏起毛のものはさっさとしまって、すっかり夏服を出して準備万端、と思ったらまさかの温度差で読めない日々。気温が高いからといって、薄着でいいかといえばそうでもなく、朝晩の気温が低めな日でも電車や建物の中の冷房は効きすぎです。スーパーで買い物をしていると、全体が冷蔵庫としか思えない冷やし方。やっぱり羽織るもの、薄手の長袖は必要なので、夏とはいえ守りの態勢を怠るわけにはいきません。そんな調子で細かな調整は続きます。
 
 さて毎日の料理は、どんな夏支度をしよう。
 
 今年から習慣にしてほしいと思っているものがあります。それは、オーブンで焼いて作るトマトスープ。暑い夏にオーブン? と思うかもしれませんが、季節を問わず、お任せできる調理家電の代表格なんですよ。もちろん、キッチンが暑いのはたまらん、とは思うのですが、お鍋で煮続ける暑さと蒸気、どちらを取るかというと、私はオーブンを選ぶことも多くなって、意外なことに気楽になって繰り返し作っています。特に、野菜を焼くこと、そして中でもトマトを焼くことについては、これはもう完全に定番です。
 

 年々進化している調理家電。限りなくオーブンに近い機能を持つトースターもありますし、近頃の小型オーブンの性能はなかなかのものだと思います。仕事場で長く使っているのは、わりあい大型で単純な機能のガスオーブンです。パイやグラタンなどをどんと焼くにはとてもよいものの、小回りが効かないので、使ったことがなかった電気オーブンを購入したのが10年ほど前。便利に使ってきました。いつも通りにソーダブレッドを焼こうと余熱で温め、いつも通りに焼き始め、いつも通りに焼きあがるはずがなんだか静か。よく働いてくれたオーブンは、途中で力尽きてしまったようでした。あるのが当たり前、焼くこと以外に解凍や保温にも使う便利な相棒であったために、さすがに慌てましたが、この際、最新の機能つきのものを? と迷いつつ、ほぼ同じものを急いで買い直しました。
 
 

トマトスープで、料理の夏支度。 【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.2】
トマトはよく熟したものを。さらに何種類かを組みあわせてみると、仕上がりの風味がぐっと深まります。

 真新しいオーブンの試運転、手始めはやっぱりトマトです。ぜひ習慣にしてほしい! と強く言いたいほど、焼いて作るトマトスープが気に入っているのです。何よりも単純で明快な作り方が自慢です。よく熟した出盛りのトマトは、大小2、3種類を組み合わせると糖度や酸味の違い、産地の違いから味が単一になりにくいので、とにかくおいしいトマトを楽しむスープに仕上がります。思いついて最初に作っていたのは、玉ねぎやにんにく、セロリも混ぜて、塩とハーブとオリーブオイルで風味づけしてからオーブンで焼くというやり方。それでもう完成品ですから、とにかく気楽だったのです。
 

トマトスープで、料理の夏支度。 【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.2】
同じくらいのサイズに切り分け、耐熱皿に。塩とオリーブオイルを振りざっと混ぜたら、あとはオーブンに入れるだけ。

 作っているうちに気づいた、お鍋で煮ることとのちょっとした違いがあります。それは、煮汁(焼き汁)がクリアであること。トマトの形がぎりぎり固形物として保たれること。素材そのままのすっきりした味がとても好み! と思ってから、ますますお鍋からオーブンへと変わっていきました。その結果、トマトに軽めの塩、そしてほんのひと匙のオリーブオイルのみを加えて焼くという単純調理に着地しました。少しだけタイムかローズマリーを加えても良いのですが、極力単純にしておくと後でアレンジが自由になるので、何も加えずただ焼くことがすっかり多くなりました。そして、このやり方はトマトあってこそだなと、トマト愛がますます強まりました。
 
 
 

トマトスープで、料理の夏支度。 【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.2】
素材そのまま、クリアですっきりとしたトマトスープ。お鍋で煮て作ったものとは、仕上がりも味わいも違うから面白い。

 
 トマトが焼き上がったらスープ皿に盛り、塩とオリーブオイルを少し足して、レモンを少し搾って召し上がれ。2、3回で食べるつもりで保存容器に入れて冷蔵庫に入れておくわけですが、水を足して温めて温泉卵をのせたスープとして、たっぷり作ってパスタソースという基本のような食べ方も無駄がなくおすすめしたい方法です。
 
 茹でたパスタにレードル1杯の茹で汁とトマトスープにオリーブオイルを少し加えて一緒に馴染ませます。パスタは、しっかり太めのスパゲッティにしましたが、ショートパスタでもよし、もっと手軽にするなら、パスタを茹でて冷凍しておいたっていいんです。食べたい時に、手間をかけずに済むことを優先したい日がありますよね。気楽なことこの上なしのやり方です。その時々で使うトマトの個性が楽しめるので、材料を選ぶときの意識が自然と変わると思います。
 

トマトスープで、料理の夏支度。 【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.2】
シンプルなトマトスープはアレンジも自在。パスタの茹で汁を加えたら、気楽なパスタソースにも。

 
 そこからさらに一段階進めると。とろりとしたポタージュのようなトマトスープにするのはどうでしょう。水気をきりつつ、フードプロセッサー(またはブレンダーでも)で撹拌しておくと、温めても冷やしてもおいしくて目に鮮やかな美しいスープになります。何か緑の素材(グリーンピース、枝豆、そら豆、いんげんなど)を仕上げに加えたり、ヨーグルトをそっとまわしかけたりすると、身体に沁み入るような味わい深さ。今回は、軽く茹でて刻んだそら豆を散らしました。種と皮は少し残るので、ポタージュの場合どこまで濾すかが悩ましいのですが、一旦濾してはみたものの、戻してしまいました。結果、ヘタ以外全部食べることに。
 

トマトスープで、料理の夏支度。 【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.2】
美しいポタージュは、ぜひ夏の定番にしてほしいひと皿。軽く温めても、よく冷やしてもおいしいのです。

 
 素朴で色々な種類のトマトが出回る初夏から夏にかけて、よくフランスに行っていたなと思い出します。暑いながらもカラッと快晴で心地よい週末に、のんびりまわるブロカント(蚤の市)は最高に自由で楽しい気分でした。それもコロナ禍以前のことなので、手ぶらで帰るわけにはいかない買い付けのためだったとしても、広々した青空の田舎の雰囲気は、余裕があってのんびりしたもの。10年も前のことではないのに、多分、ブロカントの雰囲気は今と違っていたはずです。洗練されたパリのブロカントとも違い、地方色溢れる器や布、調理器具など興味深いものが豊富にあり、そしてブームも今ほどでなかったせいか、まさに宝探しのし放題。年に何度も行く中で、特に夏の旅の楽しみでした。地方のおいしいものを現地で知ったもの、そんな旅の途中です。今ほどではないけれど、その頃から「ヨーロッパの6月でこんな蒸し暑さって……」と思うこともあったので、気候の変化(特に湿度)は今始まったことではないし、年々変化は感じていましたが、まさか今年のようなことになろうとは思わずに過ごしたものです。
 

トマトスープで、料理の夏支度。 【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.2】
夏のフランス、ブロカントで見つけたお洒落さん。装いも料理も、軽やかに乗り切りたいこれからの季節です。

 ブロカントに出かけると時折遭遇する個性的なお洒落さんに学ぶことは多くて、それも楽しみの一部でした。なぜなら、暑い中では何を食べるかより何を着るかの方が悩ましいから。時折見かける誰かのお手本は見るだけで気分がワクワク、ニヤニヤしてしまいます。
 
 ある日、パリに出かけるとデパートやブロカントやカフェでよく見かけることがあった、可愛らしくちょっとパンクなスタイルの方を、幸運にもまた発見してしまいました。ブロカントとはいえ素敵なお出かけ着で、夏はこんな感じにできたら最高、な黒いワンピース。ハイウエスト、チュールのような透ける半袖、足元は少しカラフルなエスパドリーユ。そのマダム、モードの世界でよく知られた存在のようなので、当然筋金入りいうわけですから、決して同じようにいくわけがないものの、いい塩梅に週末感を醸し出している足もとくらいはヒントになりそうです。
 
 エスパドリーユで思い出すのが、いつか夏休みに一緒にバスクを旅したフランス在住の友人のスタイルです。行き先は、スペイン・バスクのサン・セバスティアンから少し離れたところ。景色のいいとてもエレガントなレストランです。散歩中、いつの間にか旧市街でエスパドリーユを手に入れていた友人は、シンプルなシャツとパンツに、カラフルな色合いのエスパドリーユがぴったりで、気取らない夏のTPOとはこういうことだなと学んだ夏休みでした。
 
 迷いなく気に入っている定番も大事、時にちょっとした変化も新鮮、というのは、料理も服も同じ。
 
 自分のワードローブから、今日は何を選ぶか? そのまま? ちょっと色を足す? ボリュームを出す? 酸味を足す? などとイメージすれば、食べるものも着るものも何かと迷う長い夏でも、何とか乗り切れそうな気がするのです。
 
 

トマトスープで、料理の夏支度。 【長尾智子 おいしいニュー・スタンダード。 vol.2】

オーブン焼きトマトスープ

〈材料〉(2~3人分)
トマト…中4個
小さめのトマト(ミディトマトなど)…4〜5個
塩…約小さじ1/4
オリーブオイル…小さじ1


〈作り方〉

  1. トマトは、中サイズは4等分してからさらに切り分けて、1切れを12等分くらいに刻む。小さめのトマトは4等分して芯を切り落とす。耐熱皿にトマトを全部入れ、塩とオリーブオイルを振ってざっと混ぜる。
  2. オーブンは180度に温めておき、1を入れて30分ほど焼く。トマトが柔らかくなって水分が出たら取り出す。

*トマトはなるべく熟したものを使い、倍量くらいで作ってもいい。
*焼きあがって思ったより水分が出ていない場合は、適宜水を足して混ぜる。
*スープとしてすぐに食べる場合は、盛りつけて塩とオリーブオイル、レモンなどで風味づけを。
*すぐに食べない場合は、粗熱をとって保存瓶などに入れて冷蔵保存。気温が高い時期は3日を目安に食べきる。

[トマトソースとして使う場合]
*パスタを茹で、ゆで汁レードル1杯とオリーブ油適量をフライパンに入れ、焼きあがったトマトを好きな量だけ加えて、混ぜながら和える。全体がしっかりなじんだら器に盛り、パルミジャーノやグラナパダーノなどハードーチーズをおろしてたっぷりふりかける。

[ポタージュにする場合]
*トマトが焼きあがったら粗熱をとり、焼き汁の汁気をきりながらフードプロセッサーに入れて攪拌。最後に焼き汁も加えて混ぜ合わせる。軽く温めても、よく冷やしてもおいしい。
*ポタージュのトッピングは、茹でて刻んだそら豆とヨーグルト、レモン果汁でさっぱりと。焼いたベーコン、細かく刻んで焼いたクルトン、カレー粉、タイムなどドライハーブ(指ですり潰すようにしてふりかける)もおいしい。


長尾智子料理家

著書に『長尾智子の料理1.2.3』(暮しの手帖社)、『あなたの料理がいちばんおいしい』(KADOKAWA)、『料理の時間』(朝日新聞出版)、『ティーとアペロ』(柴田書店)など。「21_21DESIGN SIGHT」にて8月9日まで開催中の『スープはいのち』展にて映像作品「色をまとい、色を味わうー身体を染める色と味」(ISSEY MIYAKE +林響太郎+長尾智子)を展示中。オンラインストア『SOUPs around the table』ではオリジナル商品のほか、セレクトした道具や器、調味料などを紹介している。
 
https://soup-s.shop/
 
「スープはいのち」展
会期:2026年3月27日(金)- 8月9日(日)
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
URL:https://www.2121designsight.jp/program/soup/index.html

photo,movie&text : Tomoko Nagao

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