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高知の山には、生姜をしまうための穴がある。生姜穴探訪記。 写真と文:後田将人(〈soyogi〉プロデューサー)#1November 06, 2026

気づけば、ジンジャーエールをつくりはじめて、6年になる。

そのあいだ、いくつもの生姜農家を訪ねた。青々と生い茂る畑を歩き、収穫したばかりの生姜を分けてもらい、加工場に持ち帰り、切ったり、すりおろしたりして、味わってみる。それを何度も繰り返してきた。

掘りたての生姜は、驚くほど大きい。株ごと土から上げると、顔よりも大きな塊で姿を現す。私たちが普段目にしているのは、そこから割り取った、小さなカケラにすぎない。

株ごと掘り上げた生姜
株ごと掘り上げた生姜。顔よりも大きな塊になっている。

同じ「生姜」であるにも関わらず、かじると、これまで食べていたものと驚くほどの違いがあったのは、不思議だった。辛さの立ち上がり方も、香りの抜け方も、喉の奥に残るジンジンと来る熱さも。

この違いは、どこで生まれるのだろう......。

品種なのか、地質なのか、育て方なのか。おそらく全部関係しているのだろうが、ひとつだけ、手がかりがあった。収穫したあとの生姜は、寝かせて水分が抜けていく過程で、辛味の質が変わっていくらしい。この作物は、「取れたてがいちばん!」というわけでもない。

だとしたら、「どう寝かせるか」が、生姜の味をつくっているのかもしれない。

そんなことを考えていた頃、偶然これらの研究をしている友人に再会し、「高知に、生姜をしまっておくための穴があるんだよ」という話を聞いた。その名前を「生姜穴」、またの名を「壕(ごう)」というらしい。初めて聞く言葉だった。僕は実際にこの穴を見にいくことにした。

生姜穴へと続く山あいの道
山の斜面に沿って入り口がある生姜穴。

12月。山あいの空気は、しんとして冷たかった。生姜穴に近づくと、中からもわっとした空気が流れてきた。湿っていて、土の匂いがする。奥は暗くて、先が見えない。

怖かった。誰か先に入ってくれないかな、と思いながら、身をかがめて中へと進んだ。もう使われなくなって久しい穴の中には、生姜はなく、気持ちばかりの漬け込まれた梅酒が入り口に置かれていただけだった。

奥のほうから、ぴちょん、ぴちょん、と水の垂れる音がする。前の日に降った雨が、山に染み込んで落ちてくるらしい。暗がりの中で響くその音が、より怖さを増していた。

貯蔵庫というより、遺跡に近いと思った。誰かの暮らしの跡を、そっと覗き込んでいるような感覚にもなった。

使われなくなった生姜穴の入口
土の壁と、暗がりと、湿気だけが漂う、生姜穴。

ここで何が起きていたのか。なぜこんな形をしているのか、この穴にどんな意味があったのか。このときの私には、ほとんど何もわからなかったが、計り知れない好奇心が湧いた。

聞いた話の中で、いちばん印象的だったのは、この穴が農家の手で掘られたということ。重機でもなく、ピッケルを振るって。生姜をしまうためだけに、人が山の中へ数年かけて掘り進めていた。

狂気だ、と思った。

ただ、おいしいジンジャーエールを作りたくて、生姜の違いを探していたはずの私に、疑問がまたひとつ増えた。

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クラフトジンジャーエール〈soyogi〉。この一杯を作るために、生姜の違いを探しはじめた。 photo:Yuki Nasuno

次回の連載では、いくつかの農家を訪ね歩き、「なぜ山に穴を掘ったのか」という歴史をたどる。


〈soyogi〉プロデューサー 後田将人

後田将人
1999年生まれ。関西学院大学で建築を学び、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科へ。観光では出会えない地域の食と風景を訪ね歩き、高知県四万十町では手掘りの貯蔵庫「生姜穴」を実測と聞き取りで記録してきた。そこで紐解いた文脈をもとに、穴で眠った生姜も使うジンジャーエール〈soyogi〉を手がける。〈shiki〉としても各地の食のブランド立ち上げやクリエイティブディレクションを担い、い、これまでにGOOD DESIGN NEW HOPE AWARD 2026 優秀賞を受賞。

→ soyogi.store

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