装丁家・グラフィックデザイナーの名久井直子さんが語る、堀内誠一さんの魅力。January 24, 2025

1月22日から、東京・立川の「PLAY! MUSEUM」で、「堀内誠一展　FASHION・FANTASY・FUTURE」が開催される。堀内さんの装丁を引き継ぐ形で彼の仕事と深く向き合ったことのある装丁家・グラフィックデザイナーの名久井直子さんに話を聞いた。

装丁家として過去に３冊、堀内誠一さんが手掛けた本の新装版を担当した名久井直子さん。おそらく誰もがそうであるように、特別に意識することなく自然と、小さな頃に手にした絵本で堀内誠一さんの仕事と出合っていたという。

「昨年、イルフ童画館で開催された堀内さんの展覧会で、名前を知るずっと前から、たくさんの作品を見ていたんだなということがわかって。小学校時代にも、生まれ育った岩手の盛岡で一番身近で都会に触れられるものとして、堀内さんがロゴをデザインした『anan』などのファッション誌を見て育ちました」

堀内さんの仕事は、知らず知らずのうちに名久井さんに“染み込み続けていた”のかもしれない。その後、デザインを学んだ大学時代に、膨大な仕事の全貌を知ることになる。

「小さい頃に読んだ絵本から、『anan』や『BRUTUS』のロゴ、雑誌でよく見たイラストマップ、書籍のデザインまでが一直線に結びついた。そうして “総体”として理解できてから、その多彩さに圧倒されましたね。堀内さんの仕事って、ステキさの届け方が多角的だと感じます。自分で自分に仕事を依頼して、そこに着実に答えているように思える。やっぱりアーティストではなくて、きちんと“デザイナー”なんですよね」

2009年には、堀内さんが初版を手掛けた森茉莉翻訳、ジィップの戯曲『マドゥモァゼル・ルウルウ』の新装版を担当。続いて、2014年に沢渡朔さんの写真集『少女アリス　スペシャル・エディション』、2020年には堀内さんの自著『あかずきん』の絵本の装丁を引き継いだ名久井さん。70年代初頭の３冊が、新たな装いで生まれ変わった。

「いい本って、時代を超えて読み継がれるもの。だからこれら３冊に限らず、これから先またかたちが変わるといいなと、いつも自分がやっているのはその本にとっての“途中の仕事”だと思っています。堀内さんが手掛けたものを引き継ぐのはもちろん緊張もしましたが、じっくりと対面して今にあった時代感にしたいと考えました」

箱から出した本のデザインもエレガントな『ルウルウ』は、宇野亜喜良さんの描き下ろしの絵がふんだんに使われている。中ページの２色印刷も当時のままに残し、小口をピンク色に。『少女アリス』は過去に出た２冊と並べて本棚に置けるようにサイズや装丁を揃え、中のカバーやエンボス、ロゴのデザインも許可を得て踏襲。『あかずきん』は、ヴィヴィッドな原画の発色をなるべく生かしたいというのがスタートとなった。

「そもそも堀内さんが作ったものが素晴らしかったので、オリジナルのイメージをなるべく残しながら、自分なりに再解釈しました。『あかずきん』は、印刷費用をおさえながらどこまで原画の色を再現できるか、実は心配していたんです。でも、最初の色校を見たら、思いのほかキレイに出ていた。なぜかなと思ったら、緑と赤などの対比する色をそばにおいて、互いの色を際立たせているんですね。その計算し尽くされた配色の素晴らしさに驚きました。これは自分が改訂を担当しなかったら、気が付かなかったことでしたね」

３つの装丁の仕事だけでもまったく違う、堀内さんの多彩さを感じられたという名久井さん。

「どの本も、伝えたい内容を伝える相手にあわせてチューニングしているから、まったく別々のイメージになる。堀内さんが作るものにはものすごくメジャー感があるけれども、たぶんどれが堀内さんの仕事かを見た目だけで判断した場合に全問正解は難しいですよね。そのくらい職人肌で、職業的にデザイナーであるところが好きなところです。私自身も含めてみんなたぶん、どうしても自分の手癖を超えられないところってある。だから、とても憧れる部分なんですよね。今回、新しいディレクションの展覧会で、また知らない堀内さんと出会えるのが楽しみです」

堀内誠一さんの魅力に迫る本サイト内の小特集「THINGS FOR BETTER LIFE」は、以下のリンクからご覧ください。

photo : Kazuhiro Otsuki text : Asuka Ochi