Music

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/林正樹 vol.2January 08, 2021

January.08 – January.14, 2021

Saturday Morning

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Title.
The Awakening
Artist.
The Ahmad Jamal Trio
現役御年90歳のレジェンドピアニスト、アーマッド・ジャマルの1970年の作品。カンバスの上に描かれた墨の濃淡の世界に、無造作のようでいて計算された朱色のアクセントを入れていくかのように、独特な間でピアノを操るアーマッド。モダンジャズの基本編成とも言えるピアノトリオはこれ以上ない黄金のトライアングルなだけに、つい型に嵌ってしまうきらいがあるが、アーマッドの一貫した独特の美学は間をしっかりと活かしつつも、前に出るところは惜しみない豪快なフレージングで、抑えるところは潔くベース、ドラムにバトンを渡す。現在でもジャンルを超えて様々な音楽家に影響を与え続けている彼のスタイルの一片を感じることができる。
幸運にも7年前の東京JAZZの舞台袖から、無駄の一切が削ぎ落とされたメリハリの効いたプレイを拝ませてもらったことを思い出す。その領域に少しでも近づけたらいいのだが、道のり未だ険し。
アルバム『The Awakening』収録。

Sunday Night

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Title.
It Never Entered My Mind
Artist.
Miles Davis
凛とした寒さ沁みいる夜半の冬、暖かくした家でお気に入りのタンザニア「ブラックバーン農園」の豆でコーヒーを淹れ、ずっしりとした薫りの中に漂うほのかなカカオとフルーティーさを味わいながら静かにレコードに針を落とす。なんて贅沢な時間だろうか。
マイルス・デイビスが静かにメロディーを歌い上げるミュート・トランペットと、温かく包容力のあるレッド・ガーランドのピアノのハーモニーとが絶妙に揺らぐポイントがあるのだが、そこが自分にとっての最高のエモポイント。なんて切ない音楽だろうか。
レッド・ガーランドは元プロボクサーという経歴を持つピアニスト。ジャブの如く揺るぎない左手のアンティシペーションが魅力の一つだが、バラードでの歌心溢れる優しい演奏も僕は大好きだ。もしもアーマッド・ジャマルがマイルスからの誘いを引き受けていたとしたら、このセッションは実現していなかったのかもしれない、なんて妄想してみたり。 
アルバム『Workin’ With The Miles Davis Quintet』収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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ピアニスト 、作曲家 林 正樹

自作曲を中心とするソロでの演奏や、生音でのアンサンブルをコンセプトとした「間を奏でる」などのプロジェクトの他に、小野リサ、渡辺貞夫、菊地成孔、徳澤青弦など様々な音楽家とアコースティックな演奏活動を行なっている。多種多様な音楽的要素を内包した、独自の諧謔を孕んだ静的なソングライティングと繊細な演奏が高次で融合するスタイルは、国内外で高い評価を獲得している。2021年2月公開予定の映画『すばらしき世界』(監督:西川美和)の音楽を担当。

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