林 正樹 – ピアニスト 、作曲家 | & Premium (アンド プレミアム)

ピアニスト 、作曲家 林 正樹


January 29, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/林正樹 vol.5

January.29 – February.04, 2021

Saturday Morning

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Title.
Clapperclowe
Artist.
Peter Erskine,Palle Danielsson,John Taylor
冷たい空気も肺に心地よい朝は、ジョギングからスタートして少しアクティブな一日にしようかな。そんな時のお供にこの一曲。Peter Erskine Trioでフィーチャリングされているピアニストは、気品溢れる硬派な美しいピアノを演奏するJohn Taylor。その素晴らしい音色の秘密を体感したのは2012年にジャズトリオ、meadowでの来日の時。PAを使うのが一般的であろう少し広めのライブハウスにも関わらず、モニターはもちろんのこと、PAも一切使わない完全生音の繊細なライブだった。音が小さいと思った人もおそらく多かったかもしれないが、自分自身も生音にこだわったアンサンブル”間を奏でる”を結成した直後であったので、美しい音色で音楽を作るにはどうすればいいのか、この体験は大いなる試金石になった。天国にいるジョン・テイラーに改めて感謝したい。
アルバム『You Never Know』収録。

Sunday Night

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Title.
Spiegel Im Spiegel
Artist.
Arvo Pärt
慌ただしかった一週間の終わりに、キャンドルに火を灯し揺らめく炎を見ながら鼻腔の奥に仄かに感じる煤けた匂いが心を落ち着かせてくれる。エストニアを代表する作曲家Arvo Pärtが辿り着いた独自の静謐な音の世界と同化していく。極限までに要素が削ぎ落とされ必要最小限の音で構成されるこの楽曲は、雑踏を抜け自然の音に耳をすますと、そこに長三和音の普遍的な美しさが存在することを教えてくれるかのようだ。深い闇に吸い込まれて行くようでいて光が差し込んでくるような、無機質なのにエモーショナルな、何かが終わっていくようでいてここから始まるような。そんな時空が歪むような10分間の体験は、自らと対峙し無意識に散乱してしまっている自己の意識、感情を、正しい位置にそっと引き戻してくれるかのような感覚を覚える。世界がどう変わっていこうとも自分はここにいるんだ。
アルバム『ALINA』収録。




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&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ
音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 小西康陽、青葉市子、七尾旅人、長田佳子、テイ・トウワ、中嶋朋子……、 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付きです。 詳しくはこちら


January 22, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/林正樹 vol.4

January.22 – January.28, 2021

Saturday Morning

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Title.
Barcarola
Artist.
Riccardo Zegna
まだ巡り合っていない自分にとっての新しい音楽を探すには、今の世の中には便利な方法が多々あると思うが、自分は敢えてアナログな手段を好んでいる。好みのレーベルを頼りにしたレーベル買いもその一つ。例えばイタリアのペルージャ発のレーベル<EGEA>。ジャケットを見ればすぐに<EGEA>の作品だと分かる特徴的なデザイン。日本にはそれほど多く流通していない分、見つけると宝物を発見したような気にさせてもらえる。こうして出合った「Barcarola」は時が経っても愛聴し続けている作品。ウェットになり過ぎない程よいホールの響きとともに、四人の音色が溶け合いながらも、その一つ一つが歌心を大切に奏でられていることが心地よく伝わる室内楽ジャズ。フォカッチャにたっぷりとエクストラバージンオイルを浸した遅めの朝食をとりながら妄想する。ここは地中海近くの小さな街、柔らかな木漏れ陽を浴びつつ、今日は何して過ごそうか。 
アルバム『Barcarola』収録。

Sunday Night

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Title.
Köln, January 24, 1975 Part I
Artist.
Keith Jarrett
キース本人の体調も、さらには用意されていたピアノの状態も悪く、開演直前に危うく中止になりかけたソロコンサート。当時29歳だったキースが悪条件の重なる中、完全即興演奏によって行われたコンサート録音が、今でも代表作と言われていることは何の因果だろうか。何か大きなヒントがそこに隠されているはずだ。ピアノの音だけ考えると決して豊かな響きとは言えないが、音楽としては完璧である。キース・ジャレットの魂全てが音楽へと昇華されていると言えよう。そのピアノ、その瞬間、その空間、シチュエーション全てがまさに一期一会のこの音楽は、46年前のちょうど今日、1月24日の夜の記録。 
自分自身ライブ会場で思うようなピアノと出合えなかったとしても、ケルンコンサートでのキースを思い起こし未知なる自分が降りてくるかもしれない、そうポジティブに考えるようにしているのだ。
アルバム『The Köln Concert』収録。




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January 15, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/林正樹 vol.3

January.15 – January.21, 2021

Saturday Morning

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Title.
El Mayor
Artist.
Anders Jormin Severi Pyysalo
寒い日に暖くした部屋でアイスクリームを食べるあの幸せ感を味わうべく、冬の朝には、より寒い国の音楽に心震えてみたい。スウェーデンを代表する世界的なコントラバス奏者Anders Jorminと、フィンランドのビブラフォン奏者Severi Pyysalo。楽器を究極まで操り切ることのできる二人だからこそ、演奏から生まれる緊張感ある音の”スペース”を存分に楽しむことのできる珠玉のDUO。キューバのヌエバトローバの大巨匠Silvio Rodriguezの曲を元に、Bobo Stenson Trioでのしっとりした演奏ともまた違う瑞々しい演奏が繰り広げられている。一見何色とも言い難いメランジ調のカラーの如く、聴けば聴くほどにそこに色々な色調が浮かび上がってくるような、奥行きのあるサウンドスケープにしんみりと熱くさせられる。(ちなみに真夏にはひんやり冷房を効かせた部屋でベッドに潜りこむのも好きだ)
アルバム『Aviaja』収録。

Sunday Night

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Title.
Opening Image
Artist.
Arve Henriksen
ジャズフィールドにおいて、生楽器とエレクトロニクスをセンスよく融合させるアーティストが豊潤に活躍しているノルウェー。他にない個性を放つレーベル〈Rune Grammofon〉に目も耳も惹きつけられる。このレーベルのアートワークの多くを手がけているのは、本人も音楽家でもあるKim Hiorthoy。ミッドセンチュリーの北欧デザインを引き継いだ、色の掛け合いが楽しいコンテンポラリーなデザインは、〈ECM〉のそれとはまた違うが音楽とのマッチングにも高いアート性を感じさせてくれる。
電子音、生楽器、様々なサウンドの中に調和しつつも浮き立つArve Henriksenの独特なトランペットの音色は、日本の冬の景色にも不思議と溶け込んでゆくなあと思っていた。最近遡って彼の初期の、和の要素を多分に取り入れた「Sakuteiki」を聴いて、そのことがすとんと腑に落ちた。いつかは共演してみたい音楽家の一人だ。
アルバム『Chiaroscuro』収録。




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January 08, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/林正樹 vol.2

January.08 – January.14, 2021

Saturday Morning

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Title.
The Awakening
Artist.
The Ahmad Jamal Trio
現役御年90歳のレジェンドピアニスト、アーマッド・ジャマルの1970年の作品。カンバスの上に描かれた墨の濃淡の世界に、無造作のようでいて計算された朱色のアクセントを入れていくかのように、独特な間でピアノを操るアーマッド。モダンジャズの基本編成とも言えるピアノトリオはこれ以上ない黄金のトライアングルなだけに、つい型に嵌ってしまうきらいがあるが、アーマッドの一貫した独特の美学は間をしっかりと活かしつつも、前に出るところは惜しみない豪快なフレージングで、抑えるところは潔くベース、ドラムにバトンを渡す。現在でもジャンルを超えて様々な音楽家に影響を与え続けている彼のスタイルの一片を感じることができる。
幸運にも7年前の東京JAZZの舞台袖から、無駄の一切が削ぎ落とされたメリハリの効いたプレイを拝ませてもらったことを思い出す。その領域に少しでも近づけたらいいのだが、道のり未だ険し。
アルバム『The Awakening』収録。

Sunday Night

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Title.
It Never Entered My Mind
Artist.
Miles Davis
凛とした寒さ沁みいる夜半の冬、暖かくした家でお気に入りのタンザニア「ブラックバーン農園」の豆でコーヒーを淹れ、ずっしりとした薫りの中に漂うほのかなカカオとフルーティーさを味わいながら静かにレコードに針を落とす。なんて贅沢な時間だろうか。
マイルス・デイビスが静かにメロディーを歌い上げるミュート・トランペットと、温かく包容力のあるレッド・ガーランドのピアノのハーモニーとが絶妙に揺らぐポイントがあるのだが、そこが自分にとっての最高のエモポイント。なんて切ない音楽だろうか。
レッド・ガーランドは元プロボクサーという経歴を持つピアニスト。ジャブの如く揺るぎない左手のアンティシペーションが魅力の一つだが、バラードでの歌心溢れる優しい演奏も僕は大好きだ。もしもアーマッド・ジャマルがマイルスからの誘いを引き受けていたとしたら、このセッションは実現していなかったのかもしれない、なんて妄想してみたり。 
アルバム『Workin’ With The Miles Davis Quintet』収録。




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January 01, 2021 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/林正樹 vol.1

January.01 – January.07, 2021

Saturday Morning

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Title.
Holiday (For Pete & Gladys)
Artist.
Jim Beard With Vince Mendoza & The Metropole Orchestra
新年あけましておめでとうございます。ついつい夜更かしが続きがちなこの時節。ぬくぬくした布団から抜け出して寝ぼけ眼から一気に頭を活性化させて、ワクワクする事に出会えるような一日のスタートを切る、そんな朝に聴きたい一曲。奇才ピアニスト、ジム・ベアードと、今や世界に知れ渡る名アレンジャー、ヴィンス・メンドーサの編曲・指揮による50名を超えるメトロポールオーケストラが共演するこの作品は、アートワークさながら、リラックスしながらも色彩豊かでくるくると煌めき溢れる音の遊園地の様。乾いたリズムに思わず体を揺さぶられるポジティブな音楽。二曲目は希望「Hope」へと続いてく……。
アルバム『Revolutions』収録。

Sunday Night

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Title.
Travels
Artist.
Charlie Haden With Michael Brecker
パット・メセニーの名曲を、朗々と丁寧に歌い上げるマイケル・ブレッカーのテナーサックス、まるで深い森の奥にしっかりと根をおろす一本の大木の鼓動のようだ。自由に旅をすることができない今だからこそ尚、時空を超えた記憶の旅へと誘われる。複雑に絡み合う自分の感情を目の当たりにすると、人生そのものが旅なんだと思ったりもする。静かに時間の流れる夜、久しぶりに開いたCDジャケットに、生前マイケルにもらったサインを不意に見つけた。自分はあまりサインをもらう方ではないのだが、素直に嬉しくなった。チャーリー・ヘイデン、マイケル・ブレッカー、彼らが残してくれたたくさんの演奏は色褪せることを知らない。
アルバム『American Dreams』収録。




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ピアニスト 、作曲家 林 正樹

自作曲を中心とするソロでの演奏や、生音でのアンサンブルをコンセプトとした「間を奏でる」などのプロジェクトの他に、小野リサ、渡辺貞夫、菊地成孔、徳澤青弦など様々な音楽家とアコースティックな演奏活動を行なっている。多種多様な音楽的要素を内包した、独自の諧謔を孕んだ静的なソングライティングと繊細な演奏が高次で融合するスタイルは、国内外で高い評価を獲得している。2021年2月公開予定の映画『すばらしき世界』(監督:西川美和)の音楽を担当。

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