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沖縄のムーチーに宿る、月桃の香り。アジア植物紀行。写真と文:堀江麗(蒸留家)#4October 28, 2026

沖縄を訪れたのは、島の食と植物の関わりを見てみたいと思ったからだった。宿の近くのお店にふらっと立ち寄ると、月桃の葉が束になって並んでいた。店の人に尋ねたところ、ちょうどムーチーを仕込む時期だという。

ムーチーは、旧暦12月8日に食べる、月桃の葉で包んだ蒸し餅だ。厄払いや健康長寿を願う、沖縄に古くから伝わる行事菓子で、この日だけは特別な意味を持つ。もち粉に黒糖を合わせて練り、月桃の葉でくるりと巻いて蒸しあげる。

沖縄の月桃の葉で包んだ蒸し餅。ムーチー。
白糖や紅芋など、家によって様々な味付けがあるそう。

ただの餅を包む作業のはずなのに、教えてくれた人の手つきには、祈りのような丁寧さがあった。行事というより、儀式に近い時間だった。蒸しあがった葉を開くと、湯気とともに、青々しく甘い香りがふわりと立ちのぼる。もちもちとした生地の甘さに、月桃特有の清涼感がかすかに重なって、食べるというより、香りごと味わうお菓子だと感じた。

月桃の香りには、どこか神秘的な雰囲気がある。爽やかでありながら、薬草のような奥行きもあり、それでいて花のような柔らかさも同居している。強すぎず、でも、印象に残る。月桃は昔から女性たちに親しまれてきた植物で、化粧水や精油としても使われている。効能を求めてというより、あの香りに包まれる時間そのものが、心をゆるめてくれる。凛としているのに優しい、そんな女性らしさを月桃の香りに重ねる人が多いのも、うなずける気がした。

月桃
自生している月桃。人の身長よりも高く伸びることも。

滞在中、月桃の葉を乾燥させたハーブティーもいただいた。ムーチーの記憶そのままの香りが、お湯に溶けて立ちのぼる。特別な行事の日でなくても、こうして毎日の暮らしの中に月桃はさりげなく寄り添っている。厄払いという大きな意味を背負う日もあれば、ただ一杯のお茶として、静かに香ってくれる日もある。さまざまな場面に寄り添う、懐の深い植物なのだ。


蒸留家 堀江 麗

蒸留家・堀江 麗さん
1992年生まれ。〈Google Japan〉に勤務の後、クラフト飲料ブランド〈HOLON〉を創業。“DRINKING AS MEDITATION” をテーマに東洋の植物を調合した飲料を展開する。千葉県の『大多喜有用植物苑』にて蒸留のアトリエを構え、ハーブの栽培と蒸留を横断的に探求している。 Instagram @rei_horie_ Holon HP

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