作家・マンガ家 小林 エリカ


June 14, 2022 ラッピングペーパー小林エリカの文房具トラベラー &STATIONERY vol.36

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具 トラベラー メッセージ

 蔵にしまわれていた古いものを整理していたら、その包み紙というのがなんと戦時中の新聞と、江戸時代の新聞(の役割を果たす手書きの和紙)だった、という話を先日友人から聞いて、興奮した。それは京都のお寺の話だったが、新興住宅地に暮らす我が身とて、何かが新聞や裏紙などに包まれているというシチュエーションには案外出くわすものである。
 お雛様を出したりしまったりする時など、ちょっとしたタイムトラベル感を味わえるし、旅先で買った割れ物を包んでもらった折(特にフリーマーケットとか)には紙の裏面を熟読することもしばしばである。お洒落な雑貨屋が用意する英字新聞から、果てはおばあちゃんがチラシで折り紙して作ったゴミ箱にまで、愛おしいし、何が印刷されているのかめっちゃ気になる(私はTシャツにプリントされた文言は何語でも解読を試みたい派の人間です)。
 というわけでプレゼントを貰う時にも包む時にも、そこには何かしらのメッセージが含まれているのでは、と超常的なメンタリティーになりがちな秋の日です。

大/フランス、パリのブックフェアでZINEを購入した時に貰ったポスター。中/アメリカ、シアトルの地図屋で購入したアメリカの地図。小/E・E・カミングスの詩をコピーして包んでみました。小林エリカ 文房具 トラベラー
大/フランス、パリのブックフェアでZINEを購入した時に貰ったポスター。中/アメリカ、シアトルの地図屋で購入したアメリカの地図。小/E・E・カミングスの詩をコピーして包んでみました。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.37 2017年1月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


June 07, 2022 ポストカード小林エリカの文房具トラベラー &STATIONERY vol.35

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具 トラベラー ポストカード

 旅行へ行くと絶対に買うのがポストカードだ。旅先から友人宛にお手紙を……なんていうのはかなり乙だが、そんな心の余裕が無くても必ず買う。
 しかし、正直、このポストカード、どんなシチュエーションでいったい誰に送ればいいんだろう、と頭を悩ませる種類のものもある。でも、それでも私は買う。
 ポーランドのナチスドイツ、アウシュビッツ強制収容所の「ARBEIT MACHT FREI」(労働は自由をもたらす)のゲート写真ポストカード、フランスのノジャン=シュル=セーヌの原子力発電所の煙突から煙が上がる光景ポストカード(因みにこれは私の仕事デスクの前に貼っている)、アメリカのニューメキシコ州ロスアラモスの原爆開発歴史博物館の原子爆弾のキノコ雲写真ポストカード、等が私の送れないコレクションである。
 駅で、売店で、ホテルのロビーでひっそりと埃をかぶって売られているポストカードを持ち帰る。旅先でも自分では滅多に写真を撮らない故、見返すのは決まって、誰にも送られなかったポストカードだ。

こちらは珠玉の送れるポストカードブック。左/NYで手に入れたライアン・マッギンレー「Olympic Swimmers」。中/ノルウェーの写真家ウナ・フンデリの「Happy End of the World」。右/リトルモアのポストカードブックシリーズ。kvinaの『Mi amas TOHOKU 東北が好き』。小林エリカ 文房具 トラベラー
こちらは珠玉の送れるポストカードブック。左/NYで手に入れたライアン・マッギンレー「Olympic Swimmers」。中/ノルウェーの写真家ウナ・フンデリの「Happy End of the World」。右/リトルモアのポストカードブックシリーズ。kvinaの『Mi amas TOHOKU 東北が好き』。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.36 2016年12月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


May 31, 2022 リボン小林エリカの文房具トラベラー &STATIONERY vol.34

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具 トラベラー リボン

 女の子っぽい(とされる)ものが大嫌いだった。ピンク色はもとより、ひらひらしたスカート、レース、リボンなんてまっぴらごめんだと考え思いつめるあまり、少女漫画誌の『りぼん』さえ読めぬまま、自分の中にあるリボンを愛する心を長らく封印していた。
 しかし、ある時ルイ14世の肖像画の胸元にはひらひらしたレース、足元にはシルバーのハイヒールに大きなリボンがあしらわれているのを発見し(最高級なオシャレ)、なんだ、私の方が現代の社会的抑圧や因習にとらわれ屈しているのではないかという気持ちになったのだった。
 そうだ、男の子であろうと女の子であろうと誰であろうとリボンを愛する気持ちに本当は性差なんてないはずなのに。というわけで、不惑の四十手前で私のリボン熱は大爆発中である。レース、ベルベットにタフタ、この繊細なリボンたちの優美なことよ。結んでも解いても可憐である。
 ところで、私は草花の名前もいいけれど、サイン、コサイン、タンジェントも断然学びたいし、ディアナ・アグロンも好きだけどアインシュタインの方がもっと好き!

小林エリカ 文房具 トラベラー リボン左/いまはなき表参道の文具店で入手したイタリアレースリボン。右/デザイナーのIさんからいただいた日本が誇る〈木馬社〉製のリボン。窓辺に吊るすと内藤礼さん風に。下/香港の卸の布店で手に入れたビーズつき。
左/いまはなき表参道の文具店で入手したイタリアレースリボン。右/デザイナーのIさんからいただいた日本が誇る〈木馬社〉製のリボン。窓辺に吊るすと内藤礼さん風に。下/香港の卸の布店で手に入れたビーズつき。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.35 2016年11月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / May 24, 2022 万年筆小林エリカの文房具トラベラーvol.33

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカの文房具トラベラー 万年筆

 どうにも貧乏性な私は、ステッドラーのシャープペンシル(1000円くらい)を買うのにも震えるような性格故、筆記用具の最高峰万年筆に至っては、もはや恐れ慄いて手が出なかったというのが正直なところである。欲しい。でも高い! いつかお気に入りの珠玉の一本を手に入れたいと思いつつ、なかなか叶わぬまま三十を過ぎて、遂に私がそれを手に入れたのは、父が死んだ時のことであった。
 父はもっぱら赤青鉛筆か三色ボールペンを使っていたのだが、その文房具箱には大量の筆記用具が蓄えられていて、中にはいくつもの万年筆が眠っていた。勿体なくて使わなかったのか、色鉛筆とボールペンの方が好きだったのかは不明だが、かくして私は父から受け継ぐ形で、はじめての万年筆を手に入れたのだった。
 ちょっとした切なさを噛み締めながらペン先に滲むブルーブラックのインクに私は大いに魅了される。そして私が死んだらまた誰かが私の文房具箱から万年筆を見つけ、千年、万年、鶴亀のごとく使い続けてくれたらよいと切望するのであった。

左/1960年代モデルのドイツ起源〈モンブラン〉 No.32。中/シルバーの〈パーカー〉メイド・イン・フランス。ちなみに同社のデュオフォールドは太平洋戦争降伏文書の署名に使われたそう。右/アメリカ1970年代〈シェーファー〉のインペリアルスターリングシルバー。
左/1960年代モデルのドイツ起源〈モンブラン〉 No.32。中/シルバーの〈パーカー〉メイド・イン・フランス。ちなみに同社のデュオフォールドは太平洋戦争降伏文書の署名に使われたそう。右/アメリカ1970年代〈シェーファー〉のインペリアルスターリングシルバー。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.34 2016年10月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / May 17, 2022 レースペーパー小林エリカの文房具トラベラーvol.32

小林エリカ 文房具トラベラー
レースペーパー 小林エリカの文房具トラベラー piece-of-cake

 生クリームがたっぷりかかった苺ケーキ、キウイやパインを挟んだフルーツサンド、焼きたてマドレーヌに、ブランデー入りチョコレート。それらをレースペーパーに載せた姿を思い浮かべるだけでうっとりする。
 真っ白な(時にはゴールドやシルバーの)レースペーパーの繊細な切り抜きの中に浮かび上がるバラの花や、型押しされた蔓草模様の美しいこと――それが百円ショップの品だろうとも! ――一度レースペーパーを使えば、もうポテトチップスからフライドチキン、遂には柿の種やらさきいかまで、あらゆる食べ物をその上に載せたい誘惑に駆られてしまう。そうしながら私は、世のおばあちゃんたちがドアノブからピアノや黒電話まで、みんなレース編みで覆ってしまう気持ちを理解する。そう! レースはいとも簡単(ピース・オブ・ケイク)な魔法なのだ。レースさえあればどんなものも、醜いものさえ美しく見える(はず)。
 私は今日もレースペーパーの上に載せる品々を妄想しながらいつしか、載せるを凌駕し、何もかも包んで覆いたくなってくるのかもしれないと、考える。

左・中/ボストンのマーケットで見つけたシルバー(ゴールドもあり)のFancy DOILIESとRoyal Lace。王室風なイメージですがどちらもアメリカ製。右/エストニアのスーパーマーケットで購入したフィンランド製∅10㎝。
左・中/ボストンのマーケットで見つけたシルバー(ゴールドもあり)のFancy DOILIESとRoyal Lace。王室風なイメージですがどちらもアメリカ製。右/エストニアのスーパーマーケットで購入したフィンランド製∅10㎝。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.33 2016年9月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


March 29, 2022小林エリカの文房具トラベラーvol.31

小林エリカ 文房具トラベラー

 赤は俄然テンションがあがる。闘牛士が振る布も、パリジェンヌが穿くタイツも、神社の鳥居も、一輪のバラの花も、テイラー・スウィフトのアルバムも、その色が数ある色の中でも敢えて赤であることが腑に落ちる。
 赤は血の赤。革命の赤。
 ホットチリスープから、共産主義革命まで。マルクスの好きな色も赤だったとか。善をなさんとして赤をなす!? なんて調子で、赤は不穏な空気を孕みつつ、激しさを秘めた情熱の色。
 かくなるうえは、ペンの赤にもこだわりたい。なかでも私が執心するのは、水性ではなく油性ペン。その名も永遠(パーマネント)・マーカー。そうよ、大事な注意書きが消えたりしたら困るもの。
 永遠というからには、簡単に色が褪せなくて(特にインクは黄色に続いて赤が紫外線で退色しやすいそうですよ、気をつけて!)、発色も鮮やかなもの。そう、そして何より私が欲しいのは、セクシーな赤。
 で、勝手に油性赤ペン色比べやってみました。結果お気に入りの上位3本。

文房具トラベラー   赤 小林エリカ
左/ドイツ〈エディング〉社製品。インクものは断然エディング! 中/三菱ペイントマーカ ーは流石のクオリティ。渋めの赤。右/オランダの文房具チェーン店〈bruna〉(なんとミッフィーの作者の叔父さんが創設者だそう!) のペンは発色最高。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.32 2016年8月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


March 22, 2022 カッター小林エリカの文房具トラベラーvol.30

小林エリカ 文房具トラベラー
カッター 小林エリカの文房具トラベラー

 実は鞄やアタッシェケースにカッターナイフを忍ばせている、という人は少なくないのかもしれない。そういうとなんとも不穏な感じがするが、イラストレーターのHちゃんも至極可愛いトートバッグの中には常にカッターナイフを欠かさないと言っていたし、我が母親もミニカッターナイフを大概持ち歩いている。
 ワインの栓が開かない〜って時にさっとサバイバルナイフを差し出す要領で、小包のきつく結ばれた紐を前に、さらっとカッターナイフを差し出されると、確かになるほど持ち運ぶ意義ありと唸らされる。
 そして大概そういう人の持っているカッターナイフは切れ味がいい。なぜなら扱いにも慣れているから、カッターナイフの刃も大胆にぽきっと折って真新しい切れ味をやすやすと出すことができるのだ(あの刃を折る工程私は怖くて超苦手)。そんなカッターナイフの使い手はカッコイイ。
 これからは、私もハイヒールでハンドバッグの中にカッターナイフを忍ばせたい。何だかサバイバルにも役立ちそうだしね(銃刀法違反に気をつけて♪)。

左/デンマーク製マジックカッター。1枚だけ綺麗に切り取れます。中/通常使うのは絶対これ、〈NT CUTTER PRO A−1P〉。右/コミックのスクリーントーン貼り・削り(雲作れます)、細かな仕事にはこちら〈NT CUTTER DS−800P〉。メイド・イン・ジャパン。
左/デンマーク製マジックカッター。1枚だけ綺麗に切り取れます。中/通常使うのは絶対これ、〈NT CUTTER PRO A−1P〉。右/コミックのスクリーントーン貼り・削り(雲作れます)、細かな仕事にはこちら〈NT CUTTER DS−800P〉。メイド・イン・ジャパン。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.31 2016年7月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


March 15, 2022 額縁小林エリカの文房具トラベラーvol.29

小林エリカ 文房具トラベラー
額縁 小林エリカの文房具トラベラー

 フリーマーケット、蚤の市、スリフトショップ(慈善団体によって運営されているいわゆるリサイクルショップ的な店。←マックルモア&ライアン・ルイスのラップ・ソングがあるよね)。
 ひと月ばかりかけてアメリカ横断旅行をしたことがあるのだが、新しい街に着くたびにくまなく探したのがこの三つ。ごちゃごちゃと並ぶ玉石混交の中から掘り出し物を見つけるのは最高にエキサイティングだ。ボストンの田舎街で、5ドルで買ったトランクは特にお気に入りで、5年ばかりそれを使っていたのだがついに壊れて新品を買ったら、かのトランクが100個買える値段で頭を抱えた。なんたるインフレ。
 ちなみにそこで私が目を光らせるのは勿論文房具♡ とはいえ正統的な文房具ではなく、レースペーパーや、リボン、ペンたてだとか。なかでも、最大の収穫は古い額縁(文房具じゃない?!がデスクには欠かせない)。中に入っている絵や写真の面白さもあるし(裏紙なんかもまた良いのが入っていたりする)、そこへ自分の作品なんかを入れてみて楽しむというのもまた一興。

右/ニューヨークの路上で売っていたもの。中には黒人の家族写真が入っていた。中/アメリカ、アラモゴードのスリフトショップで見つけた。ガラスが凸になっている。左/ポーランドのクラコフのマーケットで見つけたもの。イコンが入っていた。
右/ニューヨークの路上で売っていたもの。中には黒人の家族写真が入っていた。中/アメリカ、アラモゴードのスリフトショップで見つけた。ガラスが凸になっている。左/ポーランドのクラコフのマーケットで見つけたもの。イコンが入っていた。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.30 2016年6月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


March 08, 2022 テープ小林エリカの文房具トラベラーvol.28

小林エリカ 文房具トラベラー
テープ 小林エリカの文房具トラベラー

 海外旅行の折、土産に何を持ってゆくべきか、それが問題だ。無難なのは食べ物系だが、海苔とか佃煮とか梅干しとかハードコアなものは人を選ぶ。消えものでない物を選ぶとなると難しい。大仰すぎずちょっとしたもので、かさばらず、軽いもの。
 我が父親はなぜか必ず電卓を幾つも買って土産に用意していた。私としては不思議でならなかったが、ある時、友人のお父さんもやっぱり「海外への土産は絶対電卓!」
と仰っていたので、電化製品メイドインジャパン全盛を生きた世代に共通するものなのやもしれぬ。
 翻って我らがジェネレーションの海外土産は如何なるものか。随分昔、困り果てた末、香港の友人に尋ねたところ「日本のメンディングテープ♡」という答えが返ってきた。ちょうどカラーバリエーション豊かなテープが登場し始めたばかりの頃であった。唯一の(喜ばしい)難は、メンディングテープが人気すぎて今や海外でも結構簡単に手に入るようになってしまったこと。
 私の海外土産探しの旅は果てしなく続く。求む、よい土産レコメンド!

上/毎回手書きしていたので、遂に印刷のgraphic社でオリジナルのFRAGILEテープ作製。商品化希望。中/岡山県カモ井加工紙株式会社のmtメンディングテープシリーズはやっぱり革命だよね! 下/作品や額装など保存用には中性紙と無酸性糊のテープが欠かせません。
上/毎回手書きしていたので、遂に印刷のgraphic社でオリジナルのFRAGILEテープ作製。商品化希望。中/岡山県カモ井加工紙株式会社のmtメンディングテープシリーズはやっぱり革命だよね! 下/作品や額装など保存用には中性紙と無酸性糊のテープが欠かせません。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.29 2016年5月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


March 01, 2022 ラベル小林エリカの文房具トラベラーvol.27

小林エリカ 文房具トラベラー

 かつて私を恐ろしいふり方でふったボーイフレンドは、今思えば物凄いミニマリストだった。さすがにスーツケースひとつでAirbnbに暮らす中国の〈OnePlus〉の共同創業者Carl Peiほどではなかったが、とにかく部屋にあるのはソファベッドと椅子とコンロと数冊の本のみで、貰った物も秒速でなんでも捨てていた。いってみれば、そのミニマリストの男の生活には私自身も不要だったというわけで、私は失恋の苦難を味わうことになる。
 さすがにその男には言えなかったが、当時の私は物を捨てられない症候群でゴミ屋敷に等しい部屋に住んでいたので、なおのこと悔しくて仕方なかった。
 まあ、ふられたところで学べる教訓など大してあるとも信じていないが、ひとつよかったのは、それを機に私も物を捨てられるようになったこと。
 泣きながら部屋をはじめて掃除する私にしっかりした女友達が教えてくれた。まずは物のあるべき位置を決めなさい。そして、そこにラベルを貼りなさい。
 以来ラベルは私にとって救世主に等しい。

左/〈ダイモ〉のラベルバディ。ちなみに作品保存箱は〈TAKEO〉のKIT BOX。右上/チェコはプラハのカリスマ文房具店〈papelote:carta〉で見つけたノートラベル。右下/かつて〈TABF〉で購入した「印刷加工連」の切り取り式の蛍光イエローラベル。
左/〈ダイモ〉のラベルバディ。ちなみに作品保存箱は〈TAKEO〉のKIT BOX。右上/チェコはプラハのカリスマ文房具店〈papelote:carta〉で見つけたノートラベル。右下/かつて〈TABF〉で購入した「印刷加工連」の切り取り式の蛍光イエローラベル。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.28 2016年4月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


February 22, 2022 祝儀袋小林エリカの文房具トラベラーvol.26

小林エリカ 文房具トラベラー

紅白まんじゅう、鯛のお頭、金箔を浮かべたお屠蘇。縁起が良さそうなものというのは、とにかく見ているだけでも心がうきうきする。そんな中でも私がもっとも愛おしく思うのは、なんといっても祝儀袋♡
勿論中身が最高なのは言わずもがなだけれど、私はプレゼントのリボンなんかも至極大切にとっておくたちなので、つまるところ、その包み紙機能とリボン装飾を兼ね備えた封筒! 更に中には金!という無敵の組み合わせこそが、祝儀袋というわけだ。
まあ気づけばもう私自身が祝儀袋を貰うこともなさそうで、今後はお年玉もあげる個数が増大する一途の予感であるが、なんともめでたいことだし、祝儀袋やぽち袋そのものが可愛いのだからいと喜ばしき哉。
ところで祝儀袋に結ばれている、あの芸術的なまでの完成度を誇る水引、ネットを検索すると結構もったいなくて捨てられない人が多数いるようである。箸置きや髪飾りへの転用にはじまり、独自に製作する水引アートから神社でのお炊きあげまで様々な提案がなされており、うん、なんだか、その気持ちすごくわかります。

左/〈CLASKA Gallery & Shop “DO”〉の田部井美奈さんデザイン。ぽち袋もあるよ。中/インドのペーパーメーカー、Chimanlals社製インドのご祝儀袋! 右/金沢の津田水引折型。『和樂』で取材に行ったという友人に教えてもらい一目惚れ。宛名書きサービスもあり〼。
左/〈CLASKA Gallery & Shop “DO”〉の田部井美奈さんデザイン。ぽち袋もあるよ。中/インドのペーパーメーカー、Chimanlals社製インドのご祝儀袋! 右/金沢の津田水引折型。『和樂』で取材に行ったという友人に教えてもらい一目惚れ。宛名書きサービスもあり〼。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.27 2016年3月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


February 15, 2022 カレンダー小林エリカの文房具トラベラーvol.25

小林エリカ 文房具トラベラー

 かつて私がまだ幼かった頃、我が家のトイレには毎年、誰が買っていたのか必ず『御教訓カレンダー』(←教訓パロディーがテンコ盛りになっている品です)が掲げられていて、三日坊主めくり形式でカレンダーを捲っては笑い転げるのが楽しみだった。
 ところで、実家ってなんでトイレにカレンダーが貼ってあるのでしょう(時折更にそこに世界地図や国旗が加わる)!? それ台所とかリビングで良いのでは、と疑問が湧かなくもないのですが、トイレの時間さえ無駄にしない向学心の表れなのか!?
 しかし友人の家や、居酒屋を訪れ、そのトイレにカレンダーを見つけた時の奇妙な安心感、それが私は結構嫌いじゃない。貼られているカレンダーは大概、世界遺産とか、可愛い猫ちゃんだったりして(居酒屋だと時折更にそこにピースボート世界一周ポスターが加わる)それもまた和む。
 というわけで、ゆく年くる年、新年に向けてカレンダーの準備は欠かせない。実家を出て以降、私は未だトイレにカレンダーを設置したことはないのだが、いつその境地へ足を踏み出すべきか。

左/デンマーク〈HAY〉のカレンダーは1日ずつ切り取り式。中/アーティスト平山昌尚(HIMAA)さんのカレンダー。2222年までとっておきましょう。右/HALF-LIFEカレンダー作りました。放射性ラジウムの半減期1601年をカウントダウンできます。1601枚のナンバリング入り。〈アーツ前橋〉の展示で配布中。
左/デンマーク〈HAY〉のカレンダーは1日ずつ切り取り式。中/アーティスト平山昌尚(HIMAA)さんのカレンダー。2222年までとっておきましょう。右/HALF-LIFEカレンダー作りました。放射性ラジウムの半減期1601年をカウントダウンできます。1601枚のナンバリング入り。〈アーツ前橋〉の展示で配布中(2015年時)。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.26 2016年 2月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


February 08, 2022 メジャー小林エリカの文房具トラベラーvol.24

小林エリカ 文房具トラベラー

 恋人と初めて一緒に部屋を借りて、初めて同棲するにあたって、その小さな部屋にぎりぎりダブルベッドが入るかどうか、という逼迫した事態が訪れたことがある。うーん、目視ではかなり際どい。そこで恋人が取り出したのは可愛らしいゾウさんの形をした巻き尺(鼻部分から巻き尺が伸びる1m)で、私が取り出したのが金定規(30㎝)であった。1㎝、いや数㎜の差がダブルベッドの命取りになるこの状況においてなんたること。ゾウさんと金定規を組み合わせてなんとか部屋の横幅を測ってみたもののどうにも心もとない。東京駅駅舎復原工事では煉瓦の目地幅がコンマ3桁で㎜指定されていたんだぞ! というわけでベッドより先に我々に必要なのは正確に測れるメジャーであった。メジャーあれば憂いなし。(しかし金属のシャキーンとしたメジャーはプロっぽくてカッコ良いし完璧なのだが、いつか手が切れてしまうのじゃないかとハラハラするのは私だけ!?)
 ところで幸いダブルベッドは無事に収まったが、その部屋からは1年も待たずしてまた引越しする羽目になったのだった。

左/アトリエにもメジャーがなかったことを見かねた友人からのドイツ土産はカラーが可愛い。お役立ち本格派3m。右上/先日文具店で働くプロからプレゼントでいただいた巻き尺。こちらもさすがのドイツ製〈HOECHSTMASS〉。右下/万一の際にはiPhoneをメジャーにしてね。
左/アトリエにもメジャーがなかったことを見かねた友人からのドイツ土産はカラーが可愛い。お役立ち本格派3m。右上/先日文具店で働くプロからプレゼントでいただいた巻き尺。こちらもさすがのドイツ製〈HOECHSTMASS〉。右下/万一の際にはiPhoneをメジャーにしてね。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.25 2016年 1月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / February 01, 2022 日本の白小林エリカの文房具トラベラーvol.23

小林エリカ 文房具トラベラー

 熟れたベリーの赤、夕焼け空のピンク、ホースのブルー、好きな色は無数にある。けれど、どうしてもその中から1色だけを選ぶなら、私は白。北極圏で雪の白を幾つもの言葉で言い表せたらどんなにか素敵だろう。
 中でもずば抜けて素晴らしいと思うのは日本の紙の白。伝統的な和紙は勿論のこと、書籍から、コンビニのコピー用紙に至るまで、私の白い欲望をこんなにも満たしてくれる紙天国は、他に見たことがない。
 そんなに白い紙が好きならばと思い立ち、以前一度和紙漉き教室へ通ったことがあるのだが、一朝一夕で職人技をマスターできるはずもない。
 理想だけは高い私が思い描くのは、6世紀初頭からはじまったともいわれ画伯たちが愛用した越前和紙や、正倉院に残るという美濃和紙であり、断然それは自分で漉くより買うべきものであった。
 白い紙を何枚も重ねてみる。そしてその上に白い絵の具で線を描く。ああうっとり。外をふと見れば秋雨の空の雲も垂れこめ白い。あと数ヶ月もすれば雪も降るだろう。

左/鳥取県の因州和紙封筒(高松のBOOK MA RUTEで買ったけれど)。右/京都国立博物館蔵、俵屋宗達画「鶴図下絵三十六歌仙和歌巻」がアレンジされた便箋。下/日本画用の絵具の白は貝殻から作られた「胡粉」。
左/鳥取県の因州和紙封筒(高松のBOOK MA RUTEで買ったけれど)。右/京都国立博物館蔵、俵屋宗達画「鶴図下絵三十六歌仙和歌巻」がアレンジされた便箋。下/日本画用の絵具の白は貝殻から作られた「胡粉」。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.24 2015年 12月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / January 11, 2022 小林エリカの文房具トラベラー vol.22「ペン」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具 トラベラー イラスト ペン

 ペンはペンでも私が最も愛用しているのはインク壺につけて使うタイプのGペンである。若かりし日に漫画家、竹宮惠子先生の『竹宮惠子のマンガ教室』を読んで、衝撃を受けた私は、すぐさまGペン、丸ペンなど一通り買い揃えたのがはじまりであった。かの本には優秀なアシスタントとは灰皿と言えば金属か陶器かを描き分けられるとあってその神業に私は軽く倒れそうになったのであるが、それはさておいても、マンガは、ペンは、いと楽し。Gペンに於いては、力の強弱で線の太さが変わる様や、インクのハネや滲みすら、私は一々感動を覚えずにはいられない。私が特に好きなのは、紙に突っかかった時にできる飛沫(マニアック)と途中で落ちたインク染み。
 結局、水性ペンや何やらを使ってみても、私は必ずインク壺のあるところへ帰ってきてしまう。持ち運びという点においては確かに不便なところもあるが、それをもはるかに凌駕する素晴らしき世界と線がそこにはある。ところでインク壺にもペン先のブランドにも一家言あるのであるが、まあ今回のところはペンに言及するに留めたい。

左/イタリア〈ルビナート〉のガラスペンの可憐さは見ているだけでもうっとり。中/〈タチカワ〉の丸ペンは細かいものを描くときに。右/Gペンの軸はドイツ〈スタビロ〉の軸を色違いで揃えてインクによって使い分け。
左/イタリア〈ルビナート〉のガラスペンの可憐さは見ているだけでもうっとり。中/〈タチカワ〉の丸ペンは細かいものを描くときに。右/Gペンの軸はドイツ〈スタビロ〉の軸を色違いで揃えてインクによって使い分け。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.23 2015年 11月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / December 28, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.21「ペーパーウェイト」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具 トラベラー イラスト ペーパーウェイト

 かつてかの名探偵シャーロック・ホームズは壁にピストルでVR(ヴィクトリア女王のイニシャル)を撃ち抜き、手紙はナイフでマントルピースに留めていた、というのを読んで以来、なんてクール!と私はひたすら感嘆しながら、いつか真似したいと密かに夢見た。しかし実際は、大層小心な私は、ぴかぴかの壁紙の前に、手紙も書類も丁寧に積みあげ、ちまちま消しゴムやなにかを載せてその場を凌いでいた。なぜならナイフ以外の代用品といっても、私には赤銅色の文鎮的な品しか思い浮かばず、どうにもそそられなかったし、重いだけの物体に意味を見出せなかったからである。
 しかし、あるときガラス製のペーパーウェイトをプレゼントされて以来、その素晴らしさに私は俄然開眼した。それは机の上に単に紙を留めるという役割を果たすのみならず、窓から差し込む光にきらめき紙全体を引き立て輝かせているではないか。このオブジェ、いや、文房具の神々しさよ!
 今、私は声を大にして言いたい。ホームズさん、一度でいいから、ガラスのペーパーウェイト、試してみてはいかがかしら?

左/レインボー♡プリズムをペーパーウェイトに。右上/原田知世さんのアルバム『noon moon』にあわせてkvinaがデザインしたもの。右下/スウェーデンの山野アンダーソン陽子さんの作品。表参道〈ユトレヒト〉にて購入。
左/レインボー♡プリズムをペーパーウェイトに。右上/原田知世さんのアルバム『noon moon』にあわせてkvinaがデザインしたもの。右下/スウェーデンの山野アンダーソン陽子さんの作品。表参道〈ユトレヒト〉にて購入。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.22 2015年 10月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / December 21, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.20「セクシーな黒」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具 トラベラー イラスト セクシーな黒

 黒ほどセクシーな色は無い。墨の濃淡に痺れ、マンガのベタ塗りに悶える私でありますが、北欧の黒はまた格別だ。白夜の淡い光の中でその黒が映えることといったら! 先日バルト海の船旅へ出かけてきたのだが、コペンハーゲンも、オスロも、ストックホルムも、どの街も9時を過ぎても仄かに明るく太陽は沈まない。そんな夜に、それはそれは黒が似合うのよ。金色の髪の女の子たちが穿いているジーンズ、大きな窓の手前に置かれたレザーの椅子、木製のテーブルや壁、安ホテルのランプシェードまで、びしっと黒がきまって映える。
 勿論私がそこで惚れ惚れしながら黒い文房具に手を伸ばしたのは言うまでもない。しかしながら、私がもっともセクシーと考え購入して帰った黒革にゴールドのジッパーのポーチが、日本に戻った途端ヤンキー呼ばわりされたのには一抹の不安を隠しきれない。まさかこの文房具たちも……。北欧から持ち帰ったばかりのセクシーな黒を恐る恐るテーブルの上に広げてみる、異邦人な私。もしもこれをヤンキーと言うならば、それはきっと太陽が眩しすぎるから!

左/イェーテボリ美術館にて、デンマークの巨匠Arne Jacobsenデザインのアルファベットカード。TravellerのTを。右上/コペンハーゲンの画材店で見つけた荷物札。右下/ヘルシンキの美術館Kiasmaで巡回中のロバート・メイプルソープ展のノート!
左/イェーテボリ美術館にて、デンマークの巨匠Arne Jacobsenデザインのアルファベットカード。TravellerのTを。右上/コペンハーゲンの画材店で見つけた荷物札。右下/ヘルシンキの美術館Kiasmaで巡回中のロバート・メイプルソープ展のノート!

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.21 2015年 9月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / December 14, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.19「スタンプ」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具 トラベラー イラスト スタンプ

 私の自慢のスタンプコレクションは我ながら実に素晴らしい。フォントだって大きさだって多種多様で、数字は勿論のこと、アルファベットに、カタカナ、ひらがな、わずかばかりだけれど漢字だってある。
 かつて活版印刷の文字を拾ったり組んだりする職人さんが存在していたと聞くが、その現場を想像してみるだけで、私は俄然萌える。この手で色んな形の文字を組み合わせ、言葉を作り、刻印するなんて、なんてカッコいい仕事だろう!
 この21世紀、私はそれを自分の小さな机でちまちま再現してみては、うっとりとする。私は未だプリントゴッコだって愛用しているのだ(金銀の特色が家で刷れるのよ!)。オンデマンド印刷の精密な完璧さと、スタンプの掠れの可愛さや偶然的な面白さ、そのふたつを追い求める気持ちは、決して相反しない(と私は思う)。
 子どもの頃、ひそかに本の匂いをかぐのが好きだった。今でも本を手にすると一番に匂いをかいでしまう。印刷物ラブ。ありがとうグーテンベルク。愛すべき私のスタンプたちは世界で最小の印刷工場だ。

左/オリジナルスタンプは案外簡単に作れるのでオススメ。右/香港の活版印刷活字を販売しているお店で私の名前を見つけてもらいました。中/連結式アルファベットスタンプは東京のフリーマーケットで発掘。古い文房具屋も狙い目。
左/オリジナルスタンプは案外簡単に作れるのでオススメ。右/香港の活版印刷活字を販売しているお店で私の名前を見つけてもらいました。中/連結式アルファベットスタンプは東京のフリーマーケットで発掘。古い文房具屋も狙い目。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.20 2015年 8月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / December 07, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.18「ノートブック」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具 トラベラー イラスト ノートブック

 ノートブックというからにはこれは本の一種に違いない。
 しかし、告白すると私は、本は文句なしに好きだが、ノートブックという存在の重さには時折耐えられなくなる。だってそれは本のようにただ捲って読めばいいってものではなく、書き入れるもの。にもかかわらず、本のごとく糸かホチキスで綴じられているものだから、一枚破くとばらばらと反対側の紙まで破れてしまうし、自由がきくスケッチブックとは異なる緊張感満載である。つまり、同じ熊でもこれはパンダとヒグマほどの違いがある。いやが応にも使い手の真価は問われ、最初の一頁に向き合う際のプレッシャーは計り知れない。絶対に失敗できない!
 しかし、その壁を乗り越えるという成長を遂げ、気を緩ませること無く最後の一頁まで到達することに成功したならばその喜びは計り知れない。なにしろ、それは世界でただ一冊だけの「私の本」になるのだから。書棚に並べつつ輝かしき完成図を妄想し、真新しい頁を開いてみる。
思わず右手が震える四月の日(字足らず)。

小林エリカ 文房具 トラベラー イラスト ノートブック
左上/プレゼントされたフォーチュンテリングバースデーブック。アメリカの1930年代の復刻品。右/オランダ・アムステルダム、アンネ・フランクハウスで購入の日記帳。柄はアンネの日記帳のモチーフから。左下/NYはグッゲンハイム美術館、河原温の「サイレンス」で入手。
左上/プレゼントされたフォーチュンテリングバースデーブック。アメリカの1930年代の復刻品。右/オランダ・アムステルダム、アンネ・フランクハウスで購入の日記帳。柄はアンネの日記帳のモチーフから。左下/NYはグッゲンハイム美術館、河原温の「サイレンス」で入手。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.19 2015年 7月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / November 30, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.17「クリップ」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具 トラベラー イラスト クリップ

 昨今動物を象ったものなどバリエーション豊かなゼムクリップであるが、私としてはあのごく一般的曲線状のものが好きだ。シンプルで、機能と美が実に見事に一致した形状ではないか!?とググってみたら1890年頃のイギリスの〈ゼム・マニュファクチュアリング・カンパニー〉の発明らしい。一説には、ノルウェー人のヨハン・バーラーが発明者として特許を持っているそうで、第二次世界大戦中ナチスドイツ占領下のノルウェーでは胸ポケットに、かのクリップを留めるのが抵抗運動のシンボルだったという逸話も。やっぱり、私のクリップに対する直感は間違っていなかったと意味不明な確信を深めるのであった。
 ところで同じクリップとはいえ大小様々、ダブルクリップやVクリップ、山型クリップ、色々あるものなんですね。にしても、紙を束ねてクリップで留めた途端に訪れるあの小さな達成感は何だろう。もしやあれは画竜点睛でいうところの、竜の目なのかもしれない。白い紙の束はクリップなしには目を欠いた竜の如し。と、書類の端の目玉クリップとぴたりと目が合った。

左/〈HAY Mini Market〉の文房具コーナーでセレクトされていた山型クリップ。右上下/ハワイはオアフ島チャイナタウンの程近くにある巨大文具スーパー〈FISHER HAWAII〉に大興奮。買い漁ったゼムクリップとダブルクリップ。シルバーが定番ですがあえてゴールドを。
左/〈HAY Mini Market〉の文房具コーナーでセレクトされていた山型クリップ。右上下/ハワイはオアフ島チャイナタウンの程近くにある巨大文具スーパー〈FISHER HAWAII〉に大興奮。買い漁ったゼムクリップとダブルクリップ。シルバーが定番ですがあえてゴールドを。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.18 2015年 6月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / November 23, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.16「封筒」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具 トラベラー イラスト 封筒

 封筒を開けるという行為は、プレゼントのリボンをほどくのとおなじくらい、そう、恋人の洋服を脱がすときみたいに、ドキドキしてしかるべき瞬間だと思う。中に入っているのはどんな手紙かしら、ラブレターかしら。いや、たとえそれが請求書であろうとも、私ががっかりしないのは、封筒そのものが好きだから。切手やそこに押されたスタンプが可愛いだけで、もうそれがそのままメッセージ(と勝手に解釈)。
 特に私が好きなのは二重封筒の内側。そこにある色や印刷されている文様。ごく普通の白い封筒の中に隠され潜む三角地帯、ブルーやパープルのチェックやストライプ。時たまそこがゴールドだったり赤だったり。ルブタンの靴底が赤くて可愛い、学ランの裏側は龍刺繍、みたいな感覚だろうか。
 確実に同様の萌えポイントを持つ人は世界にも存在するようで、イギリスの詩人でアーティストのサイモン・カッツが主宰するプレスCoracleの本に、封筒の中の紙の文様ばかりを集めた『Airmail Envelope Interiors(2002)』という本があるのですが、それには悶えましたね。

小林エリカ 文房具 トラベラー イラスト 封筒
左/crane.社の紙と封筒に外れなし(鉄板)。右上/ドイツ・ヴュルツブルクのスーパーマーケットで売られていた封筒。印刷が擦れているカジュアルさがまたいいね。右下/チェコのカリスマ文房具店〈papelote〉で手に入れた封筒。実は広げると一枚の写真ポスターに。
左/crane.社の紙と封筒に外れなし(鉄板)。右上/ドイツ・ヴュルツブルクのスーパーマーケットで売られていた封筒。印刷が擦れているカジュアルさがまたいいね。右下/チェコのカリスマ文房具店〈papelote〉で手に入れた封筒。実は広げると一枚の写真ポスターに。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.17 2015年 5月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / November 18, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.15「筆箱」

小林エリカ 文房具トラベラー
文房具 トラベラー 小林エリカ 筆箱 ペンケース pencase

 筆箱を探し求めて三千里。我が愛する文房具を収めるに値する完璧な筆箱に出会いたいと研究調査を重ね、とにかく会う人ごとにみんなの筆箱を盗み見た。
 結果、NYのペインターがジップロックに色鉛筆とペンを入れて持ち歩いていたのはかっこ良かったな。あとかっこ良かったのは絵を描く友人が〈ROZA洋菓子店〉のクッキー缶にペンや定規を入れて使っていたこと。そう、そういえば、かのキュリー夫人も娘たちからの手紙を砂糖菓子店のリボンで束ねて大事にとってあったと読んだことがある。私は俄然その砂糖菓子店へ行きたいと考えたが(パリの砂糖菓子店だろうか!? あわよくばその菓子店のクッキー缶も手に入れたい!)さすがに店名までは書いていなかった。残念。
 ところで一体全体何なんだ、この文房具と菓子たちの蜜月関係は!? もしや私の食い意地のせい? 菓子に目を奪われているだけ? かようなわけで我がトラベルは菓子店へまで拡大中。ちなみに私はビックリマンチョコのウエハース部分まで嬉々としていけるタイプの人間です。もぐ。

文房具 トラベラー 小林エリカ 筆箱 ペンケース pencase
左/魅惑の定番〈資生堂パーラー〉花椿ビスケット缶に日本画絵の具を。右上/イタリア〈バルベーロ〉のトロンチーニ缶にはカッター、鋏。右下/乙女心鷲掴みのオーストリア〈デメル〉のスミレの砂糖漬け紙箱にはペン先を。
左/魅惑の定番〈資生堂パーラー〉花椿ビスケット缶に日本画絵の具を。右上/イタリア〈バルベーロ〉のトロンチーニ缶にはカッター、鋏。右下/乙女心鷲掴みのオーストリア〈デメル〉のスミレの砂糖漬け紙箱にはペン先を。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.16 2015年 4月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / October 26, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.14「鉛筆」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ えんぴつ 文房具 トラベラー

 鉛筆に金色の文字で自分の名前が刻まれているのを見るのが、子どもの頃好きだった。あぁ、これぞ私の鉛筆!って感じがするし、何しろ金の箔押しっていうのがまた高級感があるではないか。
 観光地の土産物店で大概見かけるのは鉛筆である。まあ、お値段も安いし、旅先から持ち帰るにも、オリジナルを作るにもお手頃よね、という感覚はどうやら万国共通らしい。ところでそもそも、三十過ぎた大人がそれほど鉛筆って使うものなのか!?という疑問はさておき、私はそれをどうしても手にせずにはいられない。はっきりいってダサイに分類されるようなデザインであっても、ほら、この街へ来た記念に……なんてポストカードを手にするノリで、ついついそれを握りしめ大量に購入してしまう。それを友人に意気揚々とプレゼントしたりするから、実は案外これって迷惑というもの!?と最近気づいたがやめられない。
 考えてみればしかしそれは、はじめて自分の名前が刻まれた鉛筆の想い出と結びつき、その旅先の光景までみんな自分のものにしたいという儚い夢なのやも知れぬ。

小林エリカ えんぴつ 文房具 トラベラー
上/精神分析の巨匠フロイトの語句“Aufarbeitung”(過去の消化/清算の意味)入り。中/画家クリムトが結成した新芸術団体ウィーン分離派“secession”のゴールド鉛筆。下/私も〈伊東屋〉に発注。お名入れ200円、謹賀新年!
上/精神分析の巨匠フロイトの語句“Aufarbeitung”(過去の消化/清算の意味)入り。中/画家クリムトが結成した新芸術団体ウィーン分離派“secession”のゴールド鉛筆。下/私も〈伊東屋〉に発注。お名入れ200円、謹賀新年!

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.15 2015年3月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / October 19, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.13「消しゴム」

小林エリカ 文房具トラベラー
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長らく消しゴムのことを愛せなかった。特に間違いを訂正するたびに発生するあの灰色の滓! やつらは私の失敗を(そしてその失敗を認めたということさえ)見せつけるような存在感でもって机の上に散らばってくる。これみよがしに。だから私はこれまで頑にやつらを遠ざけて暮らしてきた。
 何でもペンで描けばいいじゃない。パンが無ければお菓子を食べたらいいじゃない。しかし、マリー・アントワネットを気取ったところで、鉛筆の亜鉛色は好きなので手放したくはない。とはいえ、この世にUndoコマンドが存在するわけでなし。
 しぶしぶ鉛筆の線を消しゴムで擦ってみる。跡は完全には消えずに残る。覆水盆に返らず。
 しかし、私はある日唐突に気づいたのである。盆から溢れた水は、それはそれでまた美しい。寧ろその水がつける染み跡に魅せられるが如く、消しゴムが残す消し跡とその滓に、風流を見つけはじめた。
 いずれ黒ずみ消えて無くなる運命を持つ儚い存在。可愛すぎる消しゴムはもはや罪である。そして、この世は全て諸行無常。

消しゴムイラスト
左/神楽坂〈la kagu〉で猫発見。下/ドイツ・ベルリン〈クンスト・ヴェルケ現代美術館〉の隣の店で骨発見。右/渋谷PARCO〈CLASKA Gallery & Shop "DO"〉で開催された「kotoriten」展示にてまさかの(鳥)トリケシ発見。
左/神楽坂〈la kagu〉で猫発見。下/ドイツ・ベルリン〈クンスト・ヴェルケ現代美術館〉の隣の店で骨発見。右/渋谷PARCO〈CLASKA Gallery & Shop "DO"〉で開催された「kotoriten」展示にてまさかの(鳥)トリケシ発見。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.14 2015年2月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / October 12, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.12「付箋」

小林エリカ 文房具トラベラー
ポストイット 小林エリカ 文房具 トラベラー 付箋
ポストイット 小林エリカ 文房具 トラベラー 付箋

プラカードやシュプレヒコール、偉い人たちへの訴えのみならず、それぞれがそれぞれに向けたメッセージを思い思いに書き込んだ付箋を壁に貼るというのは、なんて素晴らしいアイディアなんだろう。ガザの少女はTwitterをして、ミャンマーの虐殺はUstreamで届けられ、FacebookやYouTubeでシリアの様子が拡散されるこの世界で、香港のカラフルな付箋もまた私の心を捉えて離さない。
 というわけで、今回はひそやかな私の支持も表して付箋をご紹介。
 貼ってはがせるという、ごく一時的に存在するためのみに作られた、いずれ不要になるべく希望を背負ったこの儚く小さな存在は、しかし、本のページの間に挟まれ、書類に添付され、パソコンのモニタ脇で、壁面で、唯一無二の輝きを放つ。
 物忘れの激しい我が身には欠かせない。
 ところで、どちらかといえば常にひっそり裏方気味の文房具というものの中で、誰かの目に触れるためにあるという希有な存在。その色や形選びに思わず力がこもるのは言うまでもない。

左/東京アートブックフェアで発見、BookMemoFusen。中/ハワイの文房具屋で発見したこちらウィットがきいてる「#ceomaterial」の他「words of wisdom」バージョンもあり。右/さすが紙の〈竹尾〉! 半透明。
左/東京アートブックフェアで発見、BookMemoFusen。中/ハワイの文房具屋で発見したこちらウィットがきいてる「#ceomaterial」の他「words of wisdom」バージョンもあり。右/さすが紙の〈竹尾〉! 半透明。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.13 2015年12月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / October 05, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.11「ペーパーバック」

小林エリカ 文房具トラベラー
paperbag

 高校時代、バイト代を一生懸命貯めて買った〈アニエスベー〉の店の紙袋を私は後生、大事に大事に畳んでしまってとっていた。そんな私は未だたゆまず紙袋を求め続け、ビニール袋よりも紙袋、革のバッグより紙袋派である。
 紙袋という存在が、果たして文房具というジャンル分けに適切かどうかはさておいて、紙製品ということでどうか我が紙袋愛をお許しいただきたい。
 文房具屋へ行って、紙袋欲しさに文房具を買うという本末転倒もしばしばおこる。それ故、たいした買い物してもないくせに紙袋だけ〈シャネル〉、みたいなメンタリティーもあながち否定できない。だって、紙袋だけでも充分可愛いのだもの。
 旅へ出れば、店の紙袋は当然、キャンディーやチョコレートの包み紙からコーヒーに添えられた砂糖の紙袋まで持って帰るという病に冒されていたが、昨今では砂糖の保存方法に困った挙げ句、現実的な紙袋に絞り込んだコレクションを続けている。
 遂には紙袋欲しさに旅に出る、という本末転倒の日がやってくるのも近かろう。

左上/千駄ヶ谷の〈パピエラボ〉。さすが上質、 3色揃えたい。左下/アルゼンチン土産の紙袋 が可愛すぎ。右/写真家・若木信吾さんの浜松 にある本屋〈BOOKS AND PRINTS〉は、お 父様・欣也さんによる一つずつの手書き!
左上/千駄ヶ谷の〈パピエラボ〉。さすが上質、 3色揃えたい。左下/アルゼンチン土産の紙袋 が可愛すぎ。右/写真家・若木信吾さんの浜松 にある本屋〈BOOKS AND PRINTS〉は、お 父様・欣也さんによる一つずつの手書き!

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.12 2014年12月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / September 28, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.10「色ペン」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具トラベラー 10   色ペン

 アムステルダムは赤と青、ホーチミンは赤とピンク、京都は緑と黄緑。旅には20色のカラーペンを必ず持って行く。それでスケッチをしてみると、どうしたわけかその街で何度も使う色というやつが存在することに気づく。時にそれが国旗の色だったりするが、かならずしもそうとも限らなくて、街にその色合いが溢れているというわけでもない。なので、どうしてこの色ペンばっかりをよく取り出すのだ?と考える段になって、ようやく私は私なりにその街の色というやつを発見することになる。
 水彩画や油絵なんかで完璧な再現を試みるのとは違って、景色を20色だけにわけてみるという作業はなかなか楽しい。雨が降ればペンは滲み、描きすぎればペンが擦れるのもまた良きかな。旅先の文房具屋で子ども向けの色ペンセットを買うのもまた違う配色セットを見つけられるのが好き。
 色とりどりのペンを手に、景色の色塗りをしながら口ずさみたいのはアルチュール・ランボー「母音」のソネット。「A は黒、E は白、I は赤、U は緑、O は青」
 この世界の色や如何に。

小林エリカ 文房具トラベラー 10   色ペン
小林エリカ 文房具トラベラー 10   色ペン

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.11 2014年11月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


8月31日から、『ユトレヒト』のオンラインにて。 / August 30, 2021 小林エリカさんが旅先で見つけたコレクションが手に入る貴重なイベントが開催。

文房具からアンティーク小物まで。ロゴ入りのスペシャルポーチ付き。

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『&Premium』本誌で連載されていた「文房具トラベラー」
にて、愛用の文房具愛を語ってくれていた作家、漫画家の小林エリカさん。そんな小林さんが、ヨーロッパやアジア、北欧など世界各国を旅して見つけた文房具やアンティーク小物のコレクションを、テーマに合わせてセットにして販売する特別なイベント「小林エリカ/机の上からはじまるMy Journey」が開催。明日8月31日(火)の12時から、『ユトレヒト』のオンラインにて、販売される(スタート時間になり次第、サイトが公開されます)
https://utrecht.jp/

十年あまり、世界を旅して見つけた文房具たち。いま、なかなか旅へ出かけられない中、文房具を通して遠い場所を感じてほしい。そして再び誰かのもとへまた旅をしてくれたら嬉しいという想いを込めて、コレクションの公開を決めた小林さん。イベントに寄せた「正直、手放すのがおしすぎて、何度も逡巡しましたが、それでもやっぱりこれらの愛しい品々は、私の引き出しの奥底にしまわれているよりは、だれかの机の上にのるほうが、ふさわしいでしょう」というコメントからも、どれだけ大切にしてきたかが伝わってくる。

旅の香りを感じる特別な文房具との出合い通じて、遠いあの場所へ想いを馳せるイベント。この機会をお見逃しなく。

 

EVENT INFORMATION

-小林エリカ/机の上からはじまるMy Journey

日時:2021年8月31日(火) 12:00〜
https://utrecht.jp/
*スタート時間になり次第、販売特設サイトのリンクが公開されます


&STATIONERY / August 26, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.09「金銀」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 金銀 文房具 トラベラー

 私には鴉の血が流れているのやもしれぬと思うほど、光物の魅力には抗いがたい。金銀キラキラがピカピカが好き。それが例え本物のダイヤモンドでなくたって構わない。私はとにかく輝くものが好きなのよ☆
 ひとくちに金や銀といえどもその差は無限大。ちょうどイヌイットが白の種類を事細かに見分けるように、私のような鴉人間は口うるさい。
 イソップ物語のガチョウが産む卵のような金色、古墳の中に眠る鏡のような銀色、野原一面に降り注ぐ太陽のような金色、海を泳ぐコハダの背中のような銀色、ほら、夜空を見あげたときの星の色みたいな、そんな色々が欲しいのよ。
 しかしながら、光を紙の上に定着させようというのは至難の業だ。輝きをペンやインクなんかの液体で再現しようというのがそもそも無謀というものである。とはいえ、それでもそんな我が果てしない欲望を叶えてくれる筋金入りの文房具たちがこの世には存在するのだ。その精鋭たちの放つ輝きを見るたびに、私はうっとりとその光に吸い込まれそうになる。

左/絵の具は〈吉祥〉の日本画材料顔料が好き。赤金もあり。中/友人から教えてもらったチェコ〈centropen〉の水性金銀ペンは発色も使い勝手も最強! 右/英国の〈WINSOR & NEWTON〉のインク壺シリーズの可愛さは無敵。小林エリカ フォルダ 文房具 トラベラー 金銀
左/絵の具は〈吉祥〉の日本画材料顔料が好き。赤金もあり。中/友人から教えてもらったチェコ〈centropen〉の水性金銀ペンは発色も使い勝手も最強! 右/英国の〈WINSOR & NEWTON〉のインク壺シリーズの可愛さは無敵。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.10 2014年10月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / August 19, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.08「フォルダ」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ フォルダ 文房具 トラベラー

 デスクトップに散らばった書類やファイルがボーンという音と共にフォルダの中へみるみる収まってゆく様は、快感以外の何ものでもない。偉大なMac、そのフォルダの中へは、いくらだって何だって入るのだ。実世界の片付けもこれほど容易だったらどれほどよかろうに、と考えていたある日、私に必要なのはフォルダであるということに気がついた。油断すると鞄の中にカオスが形成されてしまう我が習性、しかしほら、フォルダさえあれば、こんなにすっきり!
 しかし、いままで相対したことのなかったフォルダという存在が、なんとも可愛い、その上便利じゃないか、というのが問題であった。故に我が手元にフォルダは増殖、果たしてどこに何をしまったかが思い出せないという不測の事態が発生中。
 気づけば私のフォルダ好きは仮想空間の中でさえ増長して、もはやマトリョーシカ状の入れ子構造を形成しはじめている。
 我がフォルダ問題、依然解決してはいないが、いつか私自身の習性がアップデートされるはず、と新規フォルダに手を伸ばしては決まって頭を抱えることになる。

左/鮮やかなカラーが可愛いアメリカのOfficeMaxの品。レターサイズ対応の大もアリ。中/日本が誇る紙製品、間伐材保存袋、その名もPEACEKEEPER。右/デンマークのインテリアブランド〈HAY〉は、紙製品も要チェック。 小林エリカ フォルダ 文房具 トラベラー
左/鮮やかなカラーが可愛いアメリカのOfficeMaxの品。レターサイズ対応の大もアリ。中/日本が誇る紙製品、間伐材保存袋、その名もPEACEKEEPER。右/デンマークのインテリアブランド〈HAY〉は、紙製品も要チェック。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.9 2014年9月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / August 12, 2021 小林エリカの文房具トラベラー vol.07「学習帳/練習帳」

小林エリカ 文房具トラベラー
小林エリカ 文房具 トラベラー   学習帳 練習帳

 子ども向けの学習帳や練習帳に引かれたアルファベット書き取り用の三本線、淡い紫やブルーで引かれたグリッド。いくら大人になっても、ジャポニカ学習帳やツバメノートに思わずその目を奪われずにはいられないのは、きっと郷愁のせいだけではないはず。
 小学校時代の記憶をよみがえらせつつ、旅先のスーパーマーケットの子ども向けの売り場を覗けば、そこには3Dキャラクターやキラキラの表紙の帳面が幾つも並び、華やかなそれらを眺めるのもまた楽し。
 思い返せば、かつて学校での勉強が好きじゃなかったのは、強制配布された帳面が好みじゃなかった、という理由からなのではなかろうか。ちょうど遠足が嫌いだったのは、ダサイ体操服姿で街へ出かけなければならないのが屈辱的に思えた如く。子どもだからってなめてはいけない、媚びてもいけない、好みがあるんだ、敏感なのだ。
 いまになってようやくわかる。ほら、学習帳が可愛ければ、こんなにも思う存分学習できるわ、練習だってはかどるわ。帳面選びに余念が無い私、もはや三十六歳。

小林エリカ 文房具 トラベラー   学習帳 練習帳 左/香港の英語書き取り練習帳はクラシカル。裏面にはアルファベット一覧表も。右上/フランスはおなじみ、〈Clairefontaine〉のリングノート。方眼の微妙な色合いが◎。右下/アイスランドの子ども向け学習帳は渋くていいね。
左/香港の英語書き取り練習帳はクラシカル。裏面にはアルファベット一覧表も。右上/フランスはおなじみ、〈Clairefontaine〉のリングノート。方眼の微妙な色合いが◎。右下/アイスランドの子ども向け学習帳は渋くていいね。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.8 2014年8月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / August 05, 2021 ROSE小林エリカの文房具トラベラー vol.06「ペーパーフラワー」

小林エリカ 文房具トラベラー
rose ペーパーフラワー 小林エリカ 文房具

乙女になりたい。お花やレースやリボンにうっとりしたい。たとえキッチンの花瓶が長らく空っぽであろうとも、殺伐としたデスクが目の前に待ち構えていようとも、乙女心を満たしてくれるのは、ガートルード・スタインのポエムのみならず、文房具屋のラッピング用品売り場の片隅にひっそりと咲くペーパーフラワーである。
 ところでいったいこの針金製の極小の花は何と言う名で、何の用途のものなのか? チョコレートやお菓子の袋の口を結んだりするものであろうか? そもそもなぜ文房具屋に並んでいるのか? 果たしてGoogle検索したところで何とも判然としない代物ではあるが、薔薇を何本もあわせて超ミニサイズの花束を作るも良し、手紙と一緒に封筒に入れるも良し、プレゼントに結ぶも良し、と私は大層愛用している。しかしながら文房具としての実用度はペンや鉛筆どころかコンパスや分度器に比べてさえ遥かに低いのであるが、でもだからこそなおいっそう愛おしい。
 乙女とは、無為にも等しい贅沢を愛でることができる心持ち♡

ペーバーフラワー 小林エリカ 文房具 トラベラー 左/ベトナムの古びた文房具屋の片隅で発見した薔薇の花。中/エストニアの古都・タリンの文房具屋で売られていたのは金属製のシールタイプ。右/渋谷PARCOの〈POV STORE Bangkokシテン〉にて入手したタイの花。
左/ベトナムの古びた文房具屋の片隅で発見した薔薇の花。中/エストニアの古都・タリンの文房具屋で売られていたのは金属製のシールタイプ。右/渋谷PARCOの〈POV STORE Bangkokシテン〉にて入手したタイの花。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.7 2014年7月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / July 29, 2021 CUT小林エリカの文房具トラベラー vol.05「鋏 -はさみ-」

小林エリカ 文房具トラベラー
鋏 はさみ cut  小林エリカ文房具トラベラー

 料理人が包丁を研ぐのに抜かりがないように、鋏を使う人間たるもの一様に、日々その鋭さを保ち、紙に、石に、グー・チョキ・パーに、勝負に、挑むべきである。
 ……とはいえ旅先の骨董市で見つけた錆びた鋏に、祖母の家の引き出しに眠っていた花鋏に、その切れ味をも凌駕する可愛さを見いだし、魅了されてしまったときの悶絶ときたらない。しかし、切れない鋏は、鋏にあらず。
 というわけで、悩んだ挙げ句、大概は我が必殺技を駆使することになる。なんと普通の鋏ならアルミホイルを重ねて切るだけで、かなりシャープな切れ味になるのである。もちろん研ぎ師のところへ持ってゆくのも良かろうが、なにせ簡単なのがいい。せっせとアルミホイルを切りながら、光る鋏を見つめては、うっとり。
 磨けば光る、研げば切れる、鋏です。
 失敬、文房具にお洒落を突き詰めていたはずが、どうしたわけか私、いつの間にか重曹使って台所掃除的なテンション満載になっておりますが、愛には鋏には、なりふりなんて構っていられない。

上/オランダはアムステルダムの運河沿いの骨董品店で入手した品。中/パリの蚤の市の発掘品。友人からのプレゼント。下/刃物といえばやっぱりドイツでしょうの〈ヘンケルス〉。"可愛い”と"切れる”の夢の合体がここにあり!
上/オランダはアムステルダムの運河沿いの骨董品店で入手した品。中/パリの蚤の市の発掘品。友人からのプレゼント。下/刃物といえばやっぱりドイツでしょうの〈ヘンケルス〉。"可愛い”と"切れる”の夢の合体がここにあり!

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.6 2014年6月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / July 22, 2021 THIS IS A Ballpoint PEN小林エリカの文房具トラベラー vol.04「ボールペン」

小林エリカ 文房具トラベラー
文房具トラベラーボールペン小林エリカ

 旅先でボールペンを見つけることほど楽しいことはない。ベッドの枕元、電話の脇にメモパッドと一緒にひっそり置かれたそれが可愛いだけで俄然テンションが上がる。一時期アメリカの安モーテルのボールペンをコレクションしていたこともあったほど。日本の古き良き旅館なんかもイカしたオリジナルボールペンを備えていたりするから気が抜けない。観光地へ行けば土産物屋のご当地ボールペンコーナーは欠かさずチェック、スーパーで袋詰めになったオフィス用は意外と書きやすいのよ、と袋を握りしめ……。いやいや私書くことが仕事ですから、と言い訳を重ねてみても、我が文房具♡精神、一体全体どこから湧きあがり、どこへ向かうのか。宇宙空間でさえ縦横無尽に転がるペン先のボールのごとく、私にとっては極めて偉大な謎である。
 しかし、結局のところ、実際に使うボールペンは書いても消せる〈伊東屋〉のオリジナルフリクションボールえんぴつなのよね、な今日この頃。というわけで今回から大きな枠になった文房具トラベラー、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

上/「私はエスペラントで書きます」と書かれた品は、リトアニアのエスペラント(国際共通語)の世界大会で購入したもの。中と下/イギリス〈WHSmith〉のオフィス用ボールペン。駅などでダース売りされている品。
上/「私はエスペラントで書きます」と書かれた品は、リトアニアのエスペラント(国際共通語)の世界大会で購入したもの。中と下/イギリス〈WHSmith〉のオフィス用ボールペン。駅などでダース売りされている品。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、『&Premium』No.5 2014年5月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / July 15, 2021 Calendar Card小林エリカの文房具トラベラー vol.03「はじまりはカレンダー・カード」

小林エリカ 文房具トラベラー

文房具と呼んでよいかは不明だが、北京のマーケットで自分の生まれた年のカレンダー・カードを見つけた。そうだ、確かに昔、父の財布の中なんかにはいつもカレンダー・カード(恐らくどこかのお店かなにかで貰ったやつ)が入っていたものだ。いまやたとえiPhoneに入れたGoogleカレンダーが手放せなくとも、マーケットでは別である。ポルトガルでも、古いカレンダー・カードを手に入れた。カレンダーには可愛いものがつきものとは万国共通らしい。

ポルトガルで見つけた猫ちゃん1993。
ポルトガルで見つけた猫ちゃん1993。
北京で見つけた猫ちゃん1978。
北京で見つけた猫ちゃん1978。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、『&Premium』No.4 2014年4月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / July 08, 2021 Sketch Sketch Sketch.小林エリカの文房具トラベラー vol.02 「スケッチスケッチスケッチ。」

小林エリカ 文房具トラベラー

ちょうどスパイがポケットにピストルをしのばせるようにスケッチブックを持ちたいものだ。その機能性は勿論のこと、外見や肌触りが気に入らなければ気が乗らないし、バッグから取り出すときに格好もつけたい。値段が高けりゃいいってものでもない。たかがスケッチブック。されどスケッチブック。スケッチするとは、人生のある瞬間を共にすることであり、つまるところパートナー選びのごとく重要で……といくら書いても紙が足りない。

浮気心は〈Dressco〉と〈リトル・モア〉で。
浮気心は〈Dressco〉と〈リトル・モア〉で。
相棒は〈LIFE〉のバンクペーパー。
相棒は〈LIFE〉のバンクペーパー。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、『&Premium』No.3 2014年1月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


&STATIONERY / July 01, 2021 I ♥Lettering Template小林エリカの文房具トラベラー vol.01 「I ♥ レタリング・テンプレート」

小林エリカ 文房具トラベラー

数ある文房具の種類の中でも、レタリング・テンプレートほど愛しいものはない。アルファベット、数字、ひらがな、大小様々に並ぶ文字たち。好きが嵩じて〈kvina〉でかつてオリジナルのテンプレートを製作したこともあるほど。旅先では未だ見ぬ幻のテンプレートを探し出すのが我が最大の楽しみである。大概埃をかぶって店の隅に置かれているか、100円ショップ的な店や露店で投げ売りされているのであるが、それを掘り出し、文字をなぞる行為の嬉しさよ。

パリの文房具屋で入手、丸文字も可愛い。
パリの文房具屋で入手、丸文字も可愛い。
アメリカ・NYの1ドルショップで入手。
アメリカ・NYの1ドルショップで入手。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、『&Premium』No.2 2013年12月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


作家・マンガ家 小林 エリカ

シャーロック・ホームズ翻訳家の父と練馬区ヴィクトリア町育ちの四姉妹を描いた『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社)発売中。2021年夏、はじめての絵本『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店)が発売。

Latest Issue心を揺さぶる、アートの力。2022.06.20 — 880円