真似をしたくなる、サンドイッチ
ソースの辛味がやみつきになる! 今すぐかじりつきたい、パリ『キューブ』の卵サンド。October 07, 2026
サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No68となる今回は、本誌No155に登場した『Curb』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

初めて食べたのは、8月のとても暑い日だった。
メニューに書かれた3つのサンドイッチの中から、スクランブルエッグサンドを選んだ。正直、珍しい。最初の訪問で、卵サンドを選ぶことは、私は滅多にしないと思う。なぜかというと、味が想像できる場合が多いから。初めて、で試したくなるのはたいてい「これ、どんな味だろう?」と思うものだ。この店『キューブ』のラインナップは3つともちょっとひねりのある組み合わせな感じがしたけれど、卵はふたひねりくらいあるように思った。
メニューには具材が書かれていて、卵サンドで気になったのは、赤ピーマンのピクルスとピーナッツだ。どちらも、スクランブルエッグに合わせるイメージが湧かない。となると、食べてみたい!

卵サンドで目を引いたのは、ピーマンの鮮やかな赤。
トマトよりもずっと鮮烈だ。ますます興味が膨らむ。かじりついてすぐに、パンが普通の“バン”でないことに気づいた。パリのサンドイッチ店で“バン/bun”とあった場合、それは“パン・ブリオッシェ/pain brioché”と呼ばれる卵とバター、砂糖の分量が少ないブリオッシュ生地で作られたものが一般的だ。いわゆる、ハンバーガーのバンズ。だから、噛んだら難なく噛み切れる。
ところが、こちらのパンは、少し伸びて、噛みちぎる必要があった。それに生地が白い。どこのパンだろう?と思いながら、全部の具材が一気に口に入るように頬張った。すると......あれ? 辛い。たしかに、シラチャーソース(タイ生まれの唐辛子とニンニクのソース)と書かれてはいたけれど、ここまでピリッと来るとは思わなかった。卵サンドで辛味に驚くなんて、想定外だ。

イメージの湧かない組み合わせだったのに、親しみの湧く、馴染みのある味だった。
火の入った具材はスクランブルエッグだけで、赤ピーマンと赤玉ねぎのピクルスはどちらもくたっとして口の中にやさしい触感ながら、歯触りはシャキシャキ。甘酸っぱさもしっかりで、これがスクランブルエッグに混ざっているチェダーチーズの塩気と呼応し、味の骨格を作っていた。そこに満遍なく、ピリッと辛味が加わり、食欲を刺激する。二口、三口と食べ進めるうちに、じわっと汗が出てきた。黄身と白身を撹拌しての卵料理って、ふわふわ、とろとろ、みたいなイメージがすぐに浮かぶけれど、こちらの卵サンドは、もっと活発な印象だ。元気が湧いてくる。
さて、辛味はどこから来ているのかと思ったら、ソースだった。パンの切り口に、豆乳で作った自家製マヨネーズとピーナッツバター、スリラチャソースを合わせたものが塗られており、これに唐辛子が入っているそう。他所では出合ったことのない卵サンドがすっかりクセになり、これは定期的に通いたくなるなぁと思った。

この感じだと、他のサンドイッチにも意外性が潜んでいるかもしれない! と2度目に行った時には、モッツァレラサンドを注文。予想的中で、鉄板でこんがり焼いたモッツァレラチーズを挟んだサンドイッチは、やっぱりこれまでに食べたことのないものだった。例えが難しいけれど、表面をこんがり焼いたはんぺんの硬さを4割増しくらいにしたような食感とでも言おうか。

粒々を残したヘーゼルナッツとバジルのペーストも、真似をしたくなるナッツ感で、最初は、卵サンドが圧勝だと思っていたのに、2度目にこのモッツァレラサンドを食べたとき、厚みを持ってスライスされたにんじんのピクルスの存在がまた絶妙なんだよなぁと感じて、じわじわと引き込まれている自分に気づいた。ちなみにパンは、10区にあるトルコのブーランジュリーから仕入れているそうです。
『Curb』

文筆家 川村 明子






































