&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。
東京から離れ、新たな拠点を探す。 写真と文:溝口実穂(〈菓子屋ここのつ茶寮〉主宰)#2August 17, 2026
下町で順調に進んでいた日々の雲行きが、ふと怪しくなった出来事がありました。コロナ禍より少し前の27か28歳だったときのこと。賃貸契約を結んでいた『下町茶寮』に立ち退きのお話があがったのです。
13年前に店を始めたときは、古い建物が多く残る浅草・鳥越の街並みに居心地のよさを感じて「ここにしよう! 」と決めました。しかし、年月とともに景色はずいぶんと様変わりし、古い建物は軒並み新築のマンションや建売住宅に。その波が、ついに自分にもやってきたのかと、寂しい気持ちでいっぱいになりました。
そして、どんなに愛情を注いだ場でも、お借りしている以上、いつかは終わりが来るんだと痛感しました。自分が初めて覚悟を持って決めた場所なのもあってか、思い入れがありすぎてなかなか受け入れられませんでした。あのときの感情は今でも鮮明に覚えています。
その後、大家さんと話し合うなかで私の生業を理解していただき、「もう少し使っていていいわよ」と言ってくださいました。こうして奇跡的に13年目を迎えております。本当に愛のある大家さんに恵まれました。ありがたい話です。
振り返ると、私は「今」に一生懸命になりすぎていて、未来への想像力が足りていなかったのだと思います。賃貸には必ず終わりがある。そのとき慌てないためにも、この先どう生きていくのか、30代をどう過ごすのかを逆算して考えよう。この出来事をきっかけに、未来の自分がやりたいことをイメージするようになりました。
これまで私は、信頼する農家さんから季節ごとの素晴らしい食材を分けていただき、自分なりにその素材を生かせるよう、そのときの最善を尽くして提案してきました。しかし、農家さんから「今回の台風は本当に大変だった」「今年の猛暑は厳しかった」という話を聞くたび、私はその苦労を分かったつもりになっているだけなのではないか、と感じるようになりました。
自然を相手に、思い通りにいかないことを経験し、自分で使う食材くらいは自分で作れるようになりたい! もっと大変と言われている事を自分自身で経験したい! と思ったのが、新たな拠点を探し始めた理由です。心の奥に穴が開きそうなほど自分に問いかけて、とことん向き合った末に見つけた答え。それでもどこか導かれたような、不思議な感覚もありました。
空気が綺麗なところで、田んぼを耕し、畑をつくりたい。いつでも様子が見られるよう、田畑は家のすぐそばに。少し人里から離れているけれど仲間が来やすい場所で、山羊や烏骨鶏と暮らす。
こんな望みが叶う物件なんてあるのだろうか。かなり難しい条件。見つかるまでなかなかに長い道のりになりましたが、願えば叶うと信じてやみませんでした。
〈菓子屋ここのつ茶寮〉主宰 溝口 実穂













































