INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。

自然に近い茅葺き屋根での暮らし。富田晨さん、祐紀さん夫妻が住み継ぐ、築200年の日本家屋。August 24, 2026

自然に近い茅葺き屋根での暮らし。富田晨さん、富田祐紀さんが実践する豊かな暮らし。富田晨さん&祐紀さん夫妻が住むのは江戸末期に建てられた農家民家。今では希少な茅葺き屋根や土間、建具がそのまま残る。田の字型プランの母屋に納屋がついた、京都・美山の伝統的なつくり。
富田晨さん&祐紀さん夫妻が住むのは江戸末期に建てられた農家民家。今では希少な茅葺き屋根や土間、建具がそのまま残る。田の字型プランの母屋に納屋がついた、京都・美山の伝統的なつくり。

守(も)りをしながら、人の営みの本質を考えられる場所。

 京都市内から車で1時間強。美山エリアにある茅葺き屋根の日本家屋が、建築家の富田晨さんと陶芸家の祐紀さん夫妻の住まいだ。祐紀さんが茅葺き職人をしていたときに出合った物件で、家主がそのままの姿で借りてくれる人を探していると聞いて手を挙げ、7年前に借り受けた。

 築200年のこの地域の典型的な農家民家で、玄関を入ると土間。左手に風呂場、奥に進むと台所があり、土間を上がると4つの間が田の字型に並んでいる。風呂になっている場所はかつては馬小屋だったという。「家の一番いい場所が馬の居場所だったようです」と、祐紀さん。

自然に近い茅葺き屋根での暮らし。富田晨さん、富田祐紀さんが実践する豊かな暮らし。南側の庭に開く2間。年中開け放して風を通している。奥の部屋には床の間がある。ここで昼寝をするのが気持ちいいとのこと。座って軒先が少し見えるのが、茅葺き屋根の伝統的な寸法だという。 | 南側の庭に開く2間。年中開け放して風を通している。奥の部屋には床の間がある。ここで昼寝をするのが気持ちいいとのこと。座って軒先が少し見えるのが、茅葺き屋根の伝統的な寸法だという。
南側の庭に開く2間。年中開け放して風を通している。奥の部屋には床の間がある。ここで昼寝をするのが気持ちいいとのこと。座って軒先が少し見えるのが、茅葺き屋根の伝統的な寸法だという。
自然に近い茅葺き屋根での暮らし。富田晨さん、富田祐紀さんが実践する豊かな暮らし。 | 玄関を入ると土間になり、台所へと続く。土間はにがりが入っているところとモルタルを混ぜているところが混在。右手がかつて馬小屋だったところで、今は風呂場になっている。
玄関を入ると土間になり、台所へと続く。土間はにがりが入っているところとモルタルを混ぜているところが混在。右手がかつて馬小屋だったところで、今は風呂場になっている。
自然に近い茅葺き屋根での暮らし。富田晨さん、富田祐紀さんが実践する豊かな暮らし。 | 台所の一角。北向きだが光が柔らかく入り、日本家屋の陰影の美しさを実感できる。
台所の一角。北向きだが光が柔らかく入り、日本家屋の陰影の美しさを実感できる。

「古民家といっても今の時代に住みやすいよう改修されているところがほとんど。何も手が加えられていないのはとても珍しい。そこに実際に住めるのは幸せだと思います」と、祐紀さん。晨さんも「地面と近いんです。庭と地続きに家がある。自然や地面と同レベルにあるというのは、本来の人の営みに近いのだと思います」と言う。

 夏の暑い日でも深い軒が影を作り、風が通り抜ける。この風の流れも心地よさの一つだと晨さん。

「柱と梁だけの伝統構法で、壁がないため縦横無尽に風が抜けるんです。庭に向いた畳敷きの2間は、昼間は大体開け放しています。庭仕事した後に寝転ぶと最高に気持ちいいんです」

 また、茅葺きの特徴として夏でも家の中で火を焚くのだと晨さんが説明してくれた。

「どうしても湿気がこもってしまうので、一年中、火を焚きます。夏でも火をおこすと上昇気流で風が流れ、かえって涼しくなるんです」

 昔は囲炉裏がその役目を果たしていたが、今は土間に炉を作って炭で火をおこしている。さらに、茅葺きの良さには吸音効果もある。雨の日でもしっとりと静かで、軒下からしたたる雨音が他の家屋では体験できない情緒を生んでいる。また、茅(ススキ)自体が中空で空気の層があるため、冬でも断熱効果があり、暖かさをキープ。理論上、冬は屋根裏が一番暖かくなるので、ゆくゆくは冬の寝室を作る予定だ。

自然に近い茅葺き屋根での暮らし。富田晨さん、富田祐紀さんが実践する豊かな暮らし。 | 土間になっている台所。食器棚は自作した。タイルが張られたかまどは修理すれば使用可能。いずれは活用したいと考えている。
土間になっている台所。食器棚は自作した。タイルが張られたかまどは修理すれば使用可能。いずれは活用したいと考えている。
自然に近い茅葺き屋根での暮らし。富田晨さん、富田祐紀さんが実践する豊かな暮らし。 | 4間のうち2間には厚い杉板を敷いた。奥が寝室。手前は部屋の中央に本棚を置いて、左手を仕事場兼ダイニングスペースに、右手を廊下の役割も果たすクローゼットスペースに分けた。ハンガーラックも自作したもの。
4間のうち2間には厚い杉板を敷いた。奥が寝室。手前は部屋の中央に本棚を置いて、左手を仕事場兼ダイニングスペースに、右手を廊下の役割も果たすクローゼットスペースに分けた。ハンガーラックも自作したもの。
自然に近い茅葺き屋根での暮らし。富田晨さん、富田祐紀さんが実践する豊かな暮らし。 | 納屋は陶芸家である祐紀さんの工房に。いずれ窯も作りたいと思案中。
納屋は陶芸家である祐紀さんの工房に。いずれ窯も作りたいと思案中。
自然に近い茅葺き屋根での暮らし。富田晨さん、富田祐紀さんが実践する豊かな暮らし。 | 箪笥は祐紀さんが別の家から持ってきたもの。
箪笥は祐紀さんが別の家から持ってきたもの。
自然に近い茅葺き屋根での暮らし。富田晨さん、富田祐紀さんが実践する豊かな暮らし。茅葺き屋根を家の中から見たところ。平均15~20年で葺き替えるそう。茅となるススキは敷地内で乾燥させている。躯体自体は200年前から変わっていない。 | 茅葺き屋根を家の中から見たところ。平均15~20年で葺き替えるそう。茅となるススキは敷地内で乾燥させている。躯体自体は200年前から変わっていない。
茅葺き屋根を家の中から見たところ。平均15~20年で葺き替えるそう。茅となるススキは敷地内で乾燥させている。躯体自体は200年前から変わっていない。

 現在、晨さんは〈日々〉という屋号で建築設計を中心に仕事をしているが、この家に住み始めたことで、仕事の質も変わってきた。

「建築だけでなく、陶芸や衣など日々にまつわることをしていきたいと思っています。今、滋賀の山奥に住宅を作っているのですが、コンクリートで基礎を固めるのではなく、生態系を壊さない形で計画。それもこの家に住んだ影響ですね。地面に近いこと、人間以外のものと生活することなど、この家は僕のものづくりの根本にもなっています」

 また、祐紀さんは「家を〝守り〞する」という気持ちでいるという。200年前から受け継がれてきた家や環境の守りをしながら、自分たちが体感している心地よさを次へと伝えていく。それも、この家に住む意義であり、楽しみでもある。

自然に近い茅葺き屋根での暮らし。富田晨さん、富田祐紀さんが実践する豊かな暮らし。南側の庭は土手のようになっているので、周囲からの目線も気にならない。田の字型は、この地域の伝統的なつくり。冬は雪が積もるので屋根の勾配は比較的急になっている。
南側の庭は土手のようになっているので、周囲からの目線も気にならない。田の字型は、この地域の伝統的なつくり。冬は雪が積もるので屋根の勾配は比較的急になっている。
PROPERTY DETAILS ENOKIDO’S HOUSE
家族構成 夫婦、猫1匹 広さ 敷地572㎡(延べ床:母屋94㎡、納屋22㎡)
築年数 200年 居住年数 7年
PROFILE

富田 晨 建築家

富田祐紀 陶芸家

晨さんは大学院在学中にスイスの建築事務所で働き、帰国してここに。祐紀さんは茅葺き屋根工事の会社を経て、現在陶芸家として、日々ものづくりに励む。

富田 晨、富田祐紀

photo : Ayumi Yamamoto edit & text : Wakako Miyake

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